
CX-60のボディ制振をもう少し検討するにあたってのアップ兼備忘録その①です。
一般的にロールバーを各所に追加してボディ剛性を上げたクルマなどでは、アスファルト走行前提ならばバネレートを上げたり足回りを固くしてる事も多いんでしょうけど、サーキットやジムカーナ、ダート等でのタイム短縮などが目的である一方、乗り心地などは優先度が低くなっていたでしょうし、ノーマルボディの軽さと剛性のままで、外力の対応と両立するのが難しいという事が以前の常識だっかのかもです。
でも最近の車は標準状態でも、構造的には高剛性なモノコック化が更に進化したり、溶接や接着の技術向上も加わりつつ、あちこちにハイテン鋼などを使って軽量なまま剛性を上げてバランスを取ってる様です。
恐らくロールバーやブレース類を追加しなくても、それなりの剛性も軽さも得やすいと思われます。
小生も自車Soixanteのリヤとフロントにロアアームバーを入れることで、ハンドリングのスムーズ感や精度が高まり、FR感も得ましたが、本来外力が入って捻れたり歪んだりたわんでいたロアアームの近辺が硬くてなってしまった分、受けた外力はサスやタイヤに逃げていると感じます。
そのせいかサスの動きがよく分かるようにもなり、一方でバンプがあるコーナーでトルクを立ち上げた時などにはタイヤが横に滑り易くなっていると感じます。メリットとデメリットとで悲喜こもごも。
車体全体が総動員して揺れや外力に対応していたものが、更に分業制を強いたことで部位毎の専門家に余計に仕事をお任せにしてしまったのでしょうか。
この様な分業から恐らく何かががアオリを食らってるはず…
話しは変わりますが、昔の勤め先に2CVで通勤してる人がいました。夕方車で帰る姿を窓から見下ろしていてたら、駐車場内の低速の90度の曲がり角ですら、そのまま倒れるんじゃないかと言う程の盛大なロールをかましつつ、その後は何事もなかったかの様に颯爽と立ち去って行く姿に、あまりに愛おしく思わず抱きしめたくなりました。
ネコ足と言うより…葉っぱから落ちそうで落ちないカタツムリでしょうか。それくらい粘りでは負けてません。
スキーやバイクだって曲がる時はエッジで踏ん張りながら上体はリーンアウトしたりしますし、クルマだってこれが本来の姿なのかも知れません。
負荷を全身で受け止めつつも、固めるところ、曲げるところ、たわむところを分ける意味はありそうです。無理すると腰を痛めそうですけど。
はたまた話は変わりますが、これも自転車のパーツメーカーでSuntourという会社があって(今は台湾系資本)、操作感は剛性感ありカッチリしてて精度も高い分アソビが少なく、操作する方もシビアに精度を求められた一方、Shimanoはそれほどカッチリして無いけど精緻な操作が求められず、多少ズボラな操作でもそれなりに柔軟に誤魔化しつつ?適切な落とし所に落とす、とか言う話を聞いた事があります。相当昔の話です。
一概に何がいいとは言えませんが、遊びやマージンを許容する事は全体としてのしなやかさや融通性に繋がっている気もします。
おおらかな家族や間借り人が住むギシガシした昭和な木造住宅と、個人同士がバラバラと住む鉄骨マンションくらい違うんでしょうか。
クルマのボディも部位毎の協業と分業のバランスの塊と化しているので、素性が分からないことも多く、一箇所に手をいれると他の部位が聞いてねえよと言ってバランスが崩れるかもしれません。
小生も自車で前後サススプリングの制振やらスピーカーの調整など、全く改造とは言えない軽微な弄り程度の遊びをして何度かバランス崩れを味わって来ました。よって個々の部位単位に手を入れるのはシビアで大変そうな感じはします。
前置きが長くなりました。翻ってCX-60のボディです。
取り敢えず以下のサイトで構造を眺めて見ました。
ボディショップレポートウェブ を参照させて頂いてます。
https://bsrweb.jp/article/001538
眺めて読んでて飽きません。
論理は分かりませんけど。
何とFサスの取り付け部がアルミダイキャストです。(マツダ技報 No.39のP79の図面にも。)
軽量ながら相当硬そうです。このサスマウント部分の複雑さや補強の造りは、BMWのSUVやジャガーの一部、ロールスロイスのファントムなど高級車に似たリブ構造と同様に見えます。
それ以外にも各所に張力(剛性)の違うハイテン鋼などが巡らされていて、個別の場所でその役割を果たしていると思われます。
この中でハイテン鋼としての一般的な基準剛性ではない箇所がどうやらフロント部にあり、その一つがエンジンルーム上部奥のストラットブレース(正しくはサスマウントブレースでしょうか)と、Aピラーの左右基点を繋ぐバルクヘッドの付近です。
ここは恐らく剛性に手を抜いたのではなく、クラッシャブルゾーンの中で柔剛のメリハリを付けたりバランスを取ることで、乗員を保護する目的があるものと考えられますし、特にフロントエンジンルーム内は様々な張力の鋼材が複雑に構成されているようです。
このストラットブレースやバルクヘッド部分などの様に、ハイテン鋼でないものは変形しやすく、ゆえに破断しにくいようなので、乗員保護には適切なのでしょう。
全身ガチガチに固めすぎると、事故の衝撃を乗員が直接そのまま被り、かえって危険ですし、リヤ周りもハイテン鋼では無い箇所があって、これも追突時の衝撃軽減策と思われます。
個別最適にも見間違えそうな全体最適でしょうかね。
柔剛のバランスを取りながら全体で分業して衝突時の安全性を確保していることもあってか、各国の実車テスト、いわゆるユーロNCAPでも5スター、北米のNHTSAでも5スター(こっちはCX-70とかCX-90ですね)、日本のJNCAPでも星5つを獲得しているものと思われます。
いずれにしてもこのハイテン鋼でないブレースやバルクヘッド部分は、エンジンルーム周辺の他の部位と比較すると剛性を敢えて少なくしてるはずなので、他の高剛性部分から来る振動やよじれの受け止め(=しわ寄せ?)も多いんじゃないかと推測されます。
しかもフロントの中でも相当に硬度と張力が高いサスマウントのアルミダイキャストや、Aピラーとも繋がっています。
このアルミダイキャストのサスタワー、ここをほぼ直線のタワーバーなるもので繋いだら剛性はやはり上がるのでしょうけど、左右の柔剛のバランスや衝突緩衝への影響や如何に?
あるいはブレースがすでにタワーバーの役目を一部果たしてるのであればタワーバーを更に追加する効果や如何に?(フロントはダブルウィッシュボーンですし)
そこは何とも分かりませんが、BMW(よってスープラも)や他のスポーツカーなどでも純正仕様では左右のサスタワーを直線で結ぶバーでなく、ブレースとしてボディフレームを繋げるようになっている事例があります。衝撃緩和と剛性保持、制振、軽量化などを両立させているのでしょう。
ストラットタワーバーにも同様に左右分割でボディに接合するものもあり、最近はバイクの一部などもエンジンブロックをフレームの一部に使ってたり。あちこち繋ぐことでのメリットが何らかあるのではと推測されます。
さてこのCX-60のブレースさん、おそらくボディを伝わるであろう振動の集約点になって密かにタワミやヨジレをいなしているはず。
どうやら建物を含めた構造物の一部にも低降伏点鋼を採用すると地震などへの制振効果があるらしいのです。
剛性の高い部材に挟まれているこのお方は、きっとあちこちの硬い部位から振動をかき集めてるでしょうから、いわゆるねじれ振動、たわみ振動、曲げ振動とかのアレコレが溜まってるはず。そしてそれらはブレースやバルクヘッドを伝播してダッシュボードやステアリングに振動や音を伝えているのかも…
剛からの震えを柔が受け止め耐え忍んでいるなら、その肩こり?を多少ほぐしたいところ。タワミやヨジレならば正面から食い止めるより、緩やかに吸いとったほうが良さそうに感じます。
以前フロント路面からの衝撃を受けるダブルウィッシュボーンのアッパーアームなどに、エラストマーやラバーを施し、サスマウントのボルトには制振ワッシャーを入れたり、スプリング本体をエラストマーで制振するなど、一連の対応の結果ゴツゴツの振動がかなり軽減してかなりカイテキになりましたが、これらはサスマウントから下の部分だけの施策であって、今までボディ本体の制振は全く頭になかったのです。よって今回新たなお試しです。
それにしてもこのブレース、短か過ぎます。どこをどうすれば良いのか?と見ていると、断面はコの字型をしていますが、サスマウントの近くは上側の面が固定ボルト2箇所に向かって下方向に丸く窪んでおり、この形で剛性を上げてサスマウントのアルミダイキャストの剛性とある程度は渡りあってる感じ。これもなかなか凄い造形です。
それがキャビン方向に向かっては凹みがなくなり、コの字型に戻ります。そこは軽く叩くと響きまます。ボルト近くは響きません。
この響きのよいどこかにボディのストレスが集まるポイントが隠れてて、震えながら制振を待ってる…かも。
ただ今度ばかりは素数ポイントを探したり、ゴムハンマーで小突いても有効なスイートスポットが分からないような気がします。
部品が短いので取り敢えず全体を何かで制振してみたら、と悪魔が囁きますが、屁理屈でもいいのでかましてみたいと思います。
鋼板の形ごとの剛性を調べると、ブレース断面のコの字型部分は溝形鋼と同じものであり、その他は建物の柱や梁などの断面形状でよく目にするH型以外にも、T型(CT)、L型、I型、Z型などがある様子。
この内ブレースの形状の溝形鋼というものは施工性が良く曲げ強度が強いと。(背中を合わせるとH型に化けそう)
またコの字型構造は90度に折れ曲がる角に主に負荷がかかりやすいらしく。
そこを補強するには構造物のように炭素繊維系のFRPをガチガチに巻き付けて補強する技もあるようですが、このブレースは鎖骨じゃなくって、僧帽筋のようなものだと勝手にみなしているので、衝撃吸収効果を邪魔せず、もみほぐしたいのです。が、どうすりゃいい?
もしタワミやヨジレが静電気帯電を生み物性を硬化するならば除電もありと思いますが、素材がスチールであり、全く帯電しない訳では無いでしょうけど、導電性ですし、また高速摺動しているものと直接触れて無いので摩擦帯電もほぼなさそう、よって除電の効果は微妙な気がします。
でもってブレースは構造物の一部としてもそれなりの剛性もあるため、低周波の振動が大きいと思われ、いわゆる構造物のレイリー減衰とかアルファ減衰なんてものを狙うべきでしょうか。そうであれば90度の角を固めるのではなく、なるべく流体に近いもので平面を制振したほうがやはり良さそう。
それはつまり弾性の高いもので振動やタワミを熱エネルギーに変換するという、よくある施策になります。
そもそもエンジンマウントさえ流体の液封マウントが仕込んであるとマツダ技報に記載してあるので、ガチガチにしないほうが良さそうです。
ならばバルクヘッドとの接合ボルト部に弾性のある制振ワッシャーを入れる策、他にはブレース等をやはり弾力のあるもので制振する策、現実的でないけど更にダンパーを入れる策、などがありそうです。
ここからは直感のみですが、相手が鋼板構造物であれば、柔らか過ぎても低周波振動のパワーで浮き上がったりして振動を制しきれない気もしますし、硬すぎても意味がないので、適度な重量、弾性、硬度を持った素材が効果ありそうです。
何が良いか…例えば震度7の耐久性を標榜する少し硬めの振動吸収シート、スポーツシューズのソールに使われるソルボセイン、鉛制振シート、デッドニング用のレアルシルトとかレジェトレックス類、大型スピーカー・洗濯機・エアコン室外機のゴム台座、などに期待が持てます。
Google Geminiに聞いてみると、上記以外には粘弾性樹脂、シリコーンシーラント、磁性ゴム層なども制振材として出てきます。屋外(エンジンルーム内)の使用前提なので耐熱、耐候、耐油なども欲しいところ。
そんな夢の様な素材が安価に転がってるわけ無いか。と思って探したら候補になりそうなものが転がってました。
まず一つはハネナイト、または構造物の制振に使えるシロダンプという製品。
低周波も含めた吸振効果が凄いらしく、よって鋼板の制振効果が期待できます。スピーカー等のインシュレーターとしても利用されてる様子。シロダンプは多少高価です。
ただハネナイトは効果を出す温度範囲が狭い様です。
その他にはセキスイのカルムーンシート、金属層と制振樹脂層からなるもので、固体伝播性の振動抑制を目的とし、鉄道、船舶、空調、鉄階段に使われてるとのこと。
これ、同じセキスイのレアルシルトの前身であり構造も似てますが、レアルシルトが車両のデッドニングに価値を求めたのに対し、カルムーンシートは鉄道や船、建材などヘビーなものの制振材となっています。さぞ重厚なものかと思ったら薄さ1.3mmくらいの樹脂+金属シート。単品使用ではなく複層にすることでも低周波制振が狙えそうです。
更にこれ以外には鉄道のレール下で制振する磁性制振ゴムもよさそう。JR総合技術研究所が論文を出してますが、N極S極を交互に並べて振動体に磁力吸着させ、その上をケイ酸カルシウムで覆う仕様です。
はたまた別のFPダンパーという製品もあり、こっちは磁性ゴム層の上にブチルゴム層、銅板を載せて鉄橋を制振します。
この辺なら類似したものをネオジム磁石、ブチルテープやエラストマー、金属板、アルミテープなどでも作れそうな感じ。
取り敢えずサクッとできそうなものを何品かを試して見ます。
制振や静音化って、これまで何種かトライしてきたところ、一発で全てが片付くスイートスポットがある訳ではなく、あらゆる箇所に適材適所を当てはめる事で効果が出ると考えているので、美味しい合わせ技も考えながら、なにか出来るといいなと⋯
知らず知らずにアレコレと積み重ねていってます。
https://minkara.carview.co.jp/userid/2853619/blog/48325771/