(困ったことがあれば気軽にお問い合わせ下さい、普通のサラリーマンですので売り込みとかはご心配無くw)
996及び997前期のエンジンはM96系・M97系と呼ばれるエンジンになります🏎️💨
ポルシェが空冷から水冷になり、従来の玄人なポルシェユーザから、女性などのユーザも取り込め、一気に市場拡大を実現した素晴らしいエンジンです👯♀️✨
(この辺りは
コチラのブログに詳細を記載しています)
ただ、ポルシェにとって初の水冷ということもあり、このブログをご覧の皆様もご存知の様々なトラブルを抱えています🚨
【代表的トラブル】
主なトラブルは、
1:IMS(インターミディエイトシャフト)ベアリング損耗💥
2:4-5-6番シリンダーの掻き傷💅
3:エンジンブロック亀裂からクーラント/オイル混ざりによるブロー💨
この3点です❸
特に一番は印象強いと思いますが、ポルシェジャパンがサービスキャンペーン対象にしているので、正規輸入ならIMSベアリング起因でのエンジンブローは補償されます😮💨
(996.1についてはベアリングの種類が異なり、対象外、またそもそもIMSベアリングが問題での事故報告は件数として多くありません)
二番三番はあまり認識ないケースもあるかも知れません🤔
今回はこちらを重点に原因を探ります🕵️
長くなりますが、もしお付き合い頂ける方はどうぞよろしくお願いします🙇♂️🙇♂️🙇♂️
■ プロローグ📄
ポルシェ911が空冷から水冷へと舵を切った1998年、996型は伝統と革新の狭間で大きな構造的転換点を迎えた。
新開発されたM96型水冷エンジンは、コンパクトな設計、コスト効率、そして軽量化を追求したが、その一方で4-5-6番シリンダー側に集中して発生する「ボアスコア」(シリンダー内壁の引っ掻き傷)問題という、後年まで尾を引く構造的課題を抱えることとなった。
なお、結論からお伝えるなら、
↑ボアスコア発生度高↑
・3.8L:997.1 Carrera S / Carrera 4S
・3.6L:997.1 Carrera / Carrera4 / 996.2 Carrera / Carrera4 / Carrera4S
・3.4L:996.1 Carrera / Carrera4
↓ボアスコア発生度低↓
という状況。
要するに排気量の少ない方が、「ボアスコア」の発生が少ない。
■ 問題の焦点:4-5-6番バンクへの偏ったダメージ💥
996前期(M96/01 3.4L)、後期(M96/03 3.6L)、さらに997前期(M97/01 3.6L/M97/21 3.8L)まで、一貫して問題の大半はエンジン右側=4-5-6番シリンダーバンクに集中して報告されている。
この局所的な摩耗・焼き付きは、偶発的な個体差ではなく、エンジンそのものの構造設計に起因する冷却・潤滑不全が本質的な原因である。
なお、この「ボアスコア」の発生は主に下死点(ピストンが一番下ったところ)で発生する割合が非常に高い。
何をお伝えしたいかというと、プラグホールからスコープで覗いた程度では、傷の有無は確認出来ない、ということだ。
▶︎ 原因①:一体鋳造ブロックによる冷却水流量の偏り(クローズド/オープンデッキ構造)
•M96/M97エンジンは、軽量でコスト効率の高いアルミ合金LOKASIL(あるいは類似のHYPEREUTECTIC合金)ブロックを採用。
•冷却設計の制約から、右側バンク(4‑5‑6番側)は冷却水の流量が制限されやすく、局所的なオーバーヒートが起きやすいという構造的弱点有り。
•そのため、右側バンクは温度上昇が著しく、シリンダーの熱膨張と潤滑油膜の維持が困難傾向が出る、結果「ボアスコア」に繋がる。
•また、シリンダー壁が薄く、温度変化によるクラック発生のリスクもある、これはオイルとクーラントが混ざることを招き、エンジンをブローさせる。
※見るからに薄いクーラントの通り道、排気量増大に伴い、外形を変えずストロークを伸ばしたため下死点の冷却不足が特に顕著※
※通り道が薄いだけでなく、シリンダー壁も薄く剛性の低さが伺える※
▶︎ 原因②:クランクシャフトからのオイルスプレーが遮蔽される構造による潤滑不全
•M96/M97では、クランクシャフトから回転によって飛び散るオイルによってピストン裏面やシリンダー壁を潤滑する方式だが、ブロック内部の補強リブや遮蔽構造が、右側バンクへの油膜供給を阻害。
•結果的に、4‑5‑6番側では潤滑不良によるピストンスカートとシリンダー壁の接触機会が増加し、引っ掻き傷(スコアリング)を誘発。
※M96/M97はエンジン回転が車体後方から見て反時計周り、クランクシャフトに巻き上げられたオイルは、そのブロックの構造で意図せず妨げられる形に※
▶︎ 原因③:ピストンに貼られたセラミックシートの脱落とセラミック粒子による傷害
•M96後期以降およびM97系エンジンでは、ピストンスカート部に「セラミックシート」が接着される。理由はオイル切れ時でも、ピストンとシリンダーがスムーズに動作できるようにするため。
•しかし、これは熱膨張係数が異なるアルミとセラミックの複合構造のため、冷却不足と摩耗の組合せにより、そのセラミックシートが剥がれ落ちることがあると報告有り。
•一旦脱落したセラミックの硬質粒子は、シリンダー壁とピストンの間を行き来しながら硬度差によってこすり傷を付けることで、局所的なボアスコアをさらに悪化させる報告が多数有り。
•この現象は、肝心の4‑5‑6番側で冷却と潤滑の弱さが最も顕著な領域で起こりやすく、セラミックが摩耗保護にならず、むしろダメージを助長する。
※ピストン横にあるグレーの箇所、これがセラミックシートだ※
■ M97/21でも構造的限界は克服されず
997.1カレラSなどに搭載されたM97/21型 3.8Lエンジンでも、基本設計はM96系の延長線上にあり、ボアは拡大され(99mm)、冷却負荷と油膜管理の難度はむしろ増している。
このため、M97/21でも4-5-6番シリンダーに偏ったスコアリング事例は散見され、完全な解決には至っていない。
なお、これらの問題はM97/70(GT3/RS系)やメッツガー系エンジンでは発生していないことから、設計思想そのものの違いが明確に表れている。
(メツガー系はエンジンブロック自体が全く異なる、詳細は私の
こちらのブログを参照下さい)
■ 総括:構造が生んだ“設計の宿命”
・冷却不足(構造)
→右側バンクで冷却水流量が限られ、高温局所化しやすい
・オイル潤滑偏り
→クランクからのオイルスプレーが遮られ、右側への油膜供給が不十分
・セラミックコーティング剥離
→コーティング剥落による硬質粒子がシリンダー壁と往復摩擦し傷を生む
これら三つの要因が重なることで、4‑5‑6番シリンダーへのスコアリングは
“偶然”ではなく、構造的かつ必然的な設計由来の障害として読み解ける。
996前期(3.4L)から996後期(3.6L)、さらに997前期(3.6/3.8L)へと進化したM96/M97エンジン群は、排気量や信頼性の改善が図られた一方で、構造に根ざす冷却不均衡と潤滑偏在、そしてセラミックシートの脆弱性という三重の構造的弱点を抱え、特に右側バンク=4‑5‑6番シリンダーに集中したボアスコアとして顕在化し、最終的には信頼性・耐久性の低下と言う代償問題が、年数を重ねるごとに浮き彫りになっている。
その症状は、
決して過激なサーキット走行時に限らず、日常的な高回転域の使用や渋滞中の油温上昇など、一般的な使用条件下でも発症する可能性がある。
ポルシェにとって、水冷化は技術革新であると同時に、“耐久性と信頼性の試練”でもあった。
それは、911という名車が歩んだ過渡期における、静かなる代償とも言えるのではないか。
======== ↑ 以上 本題 ↑ ========
以上、長文失礼しました🤣