サイエンスドーム八王子(旧・八王子市こども科学館)
八王子市の運営による子ども向け体験施設。
国内最高水準の解像度を誇るプラネタリウムや、投影ドームを用いたシアター上映など、置きっ放し飾りっぱなしに陥りがちな公営博物館の展示とは一線を画し、コンテンツの充実に余念がないようだ。
屋外展示の目玉は、なんと言っても営団地下鉄(現東京メトロ)500系652号車。今見ても斬新な、赤い外板にステンレス切抜きのサインカーヴが絡むデザインの車体はとてもよく目立つ。
この電車は、もともとこの場所に飾られていたわけではない。
丸ノ内線での役目を終えてから、最初に持ち込まれたのはサイエンスドーム八王子から南東方向に8km、野猿街道を下った多摩ニュータウン内にある京王堀之内駅前。
ここから程近い長池公園内に、旧四谷見附橋が移築・保存されていた縁で、営団地下鉄創設50周年事業の一環として当時の住宅・都市整備公団に寄贈(無償譲渡)されたのだ。
駅前の「長池街づくり館」の広場に置かれたが、ゆくゆくは長池公園内に移設し、毎日のように近くを通っていた四谷見附橋とともに余生を送ることになっていたようだ。
赤坂離宮(現・迎賓館)と装飾の様式を合わせ格調高く作られたアーチ橋と、東京の戦後復興・高度経済成長を支えた赤い電車の取り合わせは絶妙。加えて、四谷見附橋は米・カーネギー社製の鋼材を、丸ノ内線の電車は同じく米・ウエスチングハウス社製の制御装置を三菱電機がライセンス生産したものを使用しており、第二次世界大戦を挟んだ日米関係史や、日本の産業発展史の「生き証人」でもある。
これ以上ない安住の地を得られたかに思えたが、この計画は残念ながら実現しなかった。
スペース的に問題があるわけではなく、最終的には現在の場所まで移動しているので、移設費用を工面できなかったわけでもない。公園のコンセプトに合致しなかったのだろうか。
当初の計画を破棄したからといって、譲り受けた電車を勝手には処分できない。無償譲渡の条件として、公的に活用し一般に公開することが義務付けられていたため、第三者への売却や解体廃棄は許されない。そんな経緯もあって、現在の場所に保存された。
保存場所が二転三転したという意味では、流転の電車となってしまった652号だが、多くの同僚は更なる流転を経験している。90両の500系を含む丸ノ内線の電車110両が売却された先は、なんと地球の裏側アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスの地下鉄。ボディのサイズやホームの高さが合わないため、車体の両側にステップを延長し、台車の取付け部分を改造して床面高さを上げたことで若干腰高で不恰好なスタイルとなってしまったが、塗色やサインカーヴの装飾はそのままで走っている。
日本ではより高性能・省エネルギーの電車(現在活躍する02系)導入によりお払い箱となってしまったが、電車としての寿命はまだ尽きておらず、老朽化で故障の多かった彼の地の地下鉄の経営改善に大きな貢献をしたそうだ。
八王子市は、かつて生糸の生産・輸出で栄えた街である。
八王子に集積された生糸は、現在横浜線が走るルートで横浜港に運ばれて海外へ輸出、貴重な外貨獲得源となっていた。
市内に地下鉄があるわけでもなく、丸ノ内線の電車がここに保存されていることに違和感を感じる向きも多いとは思うが、国際貿易で発展した都市に、外国からの技術で生産され今なお国際的に活躍する電車を保存するのは、あながち的を外れていないのでは、と考えるのは私だけだろうか。
住所: 八王子市大横町9-13
電話 : 042-624-3311
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