オールドスパゲティファクトリー川越店跡

本来は「グルメ・洋食」のカテゴリに入るスポットなのだが、このお店、残念ながら閉店してしまって今はない。
どんなお店だったのかは、現在でも営業しているお店のHP(参考URL)をご覧いただきたいが、かなりリーズナブルで美味しい。
アメリカ発祥の店とあって、お支払いもテーブル会計(ただし末期はレジ会計になった)。日本にいながら、ボリューム・サービス両面で本場アメリカ感覚を味わえる希少なお店だった。
特徴的なのは料理とサービスだけではない。
お店のフロア中心には、本物の電車が鎮座していた。
電車は埼玉から遠く離れた岐阜県の名古屋鉄道(=名鉄)美濃町線・岐阜市内線で活躍していた「モ522」。ボディだけのダルマ状態ながら、完全空調の店舗建屋内での保存ゆえ極めて良好なコンディションを維持。電車内にもテーブルが揃えられ、希望すれば電車内での食事も可能だった。
この「店内に電車」というスタイルもアメリカから持ち込まれたもので、古き良き時代のアメリカを象徴するアイテムとして、昔懐かしいトラムの車体(レプリカ含む)をフロア中央にレイアウトし、インテリアにすると同時に客席の仕切りとしても上手く活用。
日本の「オールドスパゲティファクトリー」店舗では川越店の他、名古屋店でも兄弟形式の電車「モ515」を置いている。
それにしても名古屋店はともかく、なぜ遥々川越まで名鉄電車が持ち込まれたのか。敷地すぐ隣を西武新宿線の線路が通っているのだから、ただ単に電車を置きたいなら西武に手当して貰えばよかったのではと思われるかもしれない。
どのような経緯と判断で名鉄電車の採用が決まったのかは、部外者には窺い知れないし今となっては調べる術もないが、私個人の分析としては「モ522」のキャラクターに因るものと考えている。
半円筒断面の単純な造形ながら流線型の前頭部に、4か所の戸袋窓は楕円形。電気品はイギリス製・脚回りはアメリカ製の部品を採用し、大正末期の製造当時としてはモダンかつハイテクな電車だった。
投入された線区も、都市部では併用軌道(道路上を自動車と一緒に走る、いわゆる路面電車)で市街地奥深く乗入れ、郊外では専用軌道を高速走行する形態で、アメリカの都市間電気鉄道「インターアーバン」に極めて似通っていた。
舶来の電気品と脚回りは、前に記した通り店内に置かれるに際し殆ど撤去されてしまっているが、その来歴に裏付けられた存在感はボディだけになっても十分で、アメリカ発祥の飲食店インテリアとして設置するに、これ以上の電車はなかったものと思う。
雨露とは無縁の建屋内で安住の地を得たかに思われた「モ522」だったが、「オールドスパゲティファクトリー川越店」の廃業・店舗解体に際し建屋内に置かれていたことが仇となって移設が侭ならなかったか、クラッシャーの露と消え廃材と一緒に処分されてしまった。
民間商業ベースでの保存の難しさが、残念な結果を招いた一例である。
跡地は分譲され、現在では個人住宅が密集している。
住所: 埼玉県川越市脇田新町6-3
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