2009年08月17日
○南アルプス単独縦走@赤石岳(3,120m)~悪沢岳3,140m-森林限界を越えて-
【7月31日(金)】
仕事を終え、大阪駅のロッカーに保管してある装備一式を拾って、新幹線で静岡へ向かう。
静岡駅からは、レンタカー(コルト)を借りて、畑薙第1ダム駐車場へクルマを走らせる。
0時半に、到着。
明日に備え、車中でしっかり寝る。
【8月1日(土)】
駐車場からは、東海フォレストの送迎バスで、椹島登山基地(1,100m)へ移動。
初日は、椹島登山基地⇒赤石小屋まで。
所要タイムは約5時間。
【8月2日(日)】
二日目は、ちょっと距離が伸びる。
赤石小屋⇒赤石岳⇒荒川三山⇒千枚岳⇒千枚小屋まで。
所要タイムは、約12時間。
【8月3日(月)】
三日目は、下るのみ。
千枚小屋⇒椹島登山基地まで。所要タイムは約5時間。
○装備
50-75リットルザックに、2泊3日分の食料・水に加え、悪天候及び遭難対策(ビバーク可)を
詰め込み、総重量は約20kg。
テン泊縦走しようかと思ったけど、悪天候を想定し、小屋素泊まり(食料と寝具なし)に決定。
単独行やから、装備以外にも、全てのリスクを自分自身で背負う必要がある。
当然、予備日を設定した登山計画書を提出し、山岳保険にも加入済み。
○リスク対策
出発する前、『一人じゃ危ないから、やめとき』って、周りから結構言われた。
山が危ない?
そんな事はない。
統計上では、2007年の交通事故の死者数が10万人当たりで4.5人やけど、去年の山岳事故での行
方不明者・死者数は281人。
登山人口は800万人から1,000万人とも言われているから、10万人当たりやと、n値を800万人として
も3.5人。
街でのリスクは交通事故だけじゃないから、統計的には、街で過ごす方が危険やし、一部の(山岳事
故などの)情報で、全体を判断する事自体が危険や。
語弊があるかもしれへんけど、危険な事はやめときって思うなら、まず免許を破ってクルマから降りれ
ばいい。
何をするにしても、常にリスクは伴うって事や。
特別、山が危険という事はない。

という事で、畑薙第1ダム駐車場にクルマを止める。
静岡駅から、約2時間半。
狭い道が延々と続き、しかもブラインドコーナーが多く走りにくかった。

畑薙第1ダム~椹島登山基地間を送迎をしてくれる、東海フォレストのバス。
駐車場から椹島までは、徒歩で4時間位掛けて行くか、このバスに乗るしか手段がない。
ただし、素泊りでも小屋に1泊以上しなければ、このバスに乗せてくれない。
駐車場から先は、東海パルプ(東海フォレストの親会社)の所有地やから、一般車両は通行させてくれない。
う~ん、何か納得いかへん部分もあるけど、他人の敷地内と言われればしょうがない。
ルールに従うしかない。

朝食のトウモロコシ。
実は、昨夜、静岡市内を少し抜けた所で山間部に入りコンビニ等がなくなり、一部の食材とタバコを買い損ねてもた。
その話を、たまたまバス乗り場にいた、椹島に物資を搬入してるドライバーのおっちゃんに話すと、クルマに積んでるトウモロコシをくれた。
山に登る前から、人に助けられてるやん。
見ず知らずの他人に、トウモロコシをくれるなんて、街では有り得へん。
おっちゃん、ありがとう。
美味かったわ~。

赤石岳登山口に到着。
道中は、舗装されていないジャリ道を、延々小一時間揺られる。乗り物に弱い人には辛いと思う。
ここが、今回の山行のスタート地点であり、ゴール地点や。
今日、こっから登る人は、4人グループが1組と、俺以外の単独行の1人の合計6人だけ。
今日は、赤石小屋が目的地。所要タイムは約5時間の予定。
標高差は、約1,400m。

途中、0/5(登山口)~5/5(赤石小屋)の6枚の目印があり、ペースを図りながら登る。
天候は、晴れ。
ここは、2枚目で1/5の地点。

3枚目、2/5の目印。
ここまで、急登じゃないけど、じっくり標高を稼ぐ感じで登る。

4枚目、3/5の目印。
下調べでは、ひたすら登り続けるような感じやったから、平坦な道に出ると嬉しい。

5枚目、3/5の目印。
徐々に、アルプスらしくなってきた。

赤石小屋まで30分の目印が。
もうちょいやと思って、休憩を取ってると、急激に天候が変化してきた。
やばそう。雲が黒い。
5分後、大粒の雨が降り出し、しかも雷が鳴り出した。
次の雷で距離を測ってみる。
ピカッ!!!
直接見えへんかったけど、光った瞬間からカウントを取ると、2秒後にドカン!!
音速は、約330m/秒やから、約700mのとこに落ちてる….
ヤバイってもんじゃない。動かれへん。
尾根じゃないけど、ちょっと開けた場所におるし、とりあえず高木から少し距離を置いて身を屈めて、鳴り止むまで30分位ジッとした。
次回から、荷物が一つ増える。
AMラジオ。
ラジオは、数十キロ離れたとこに落ちるカミナリを、ノイズで拾うからやっぱ持っておこう。

赤石小屋に到着。
ここに居るという事は、何とかカミナリから逃れられたってことや。
写真を撮る余裕なんかないから、恐怖の場面は記録には残ってない。記憶には残ってるけど。
散々リスク対策と吠えたけど、もっと近くに落ちれば、命はない。
しかも、標高2,000m以上の高所。近くに落ちる確率は、地上よりも高い。
ジッとしてる間、祈りました。落ちませんように。
ちなみに、これは素泊まり客用の別館。
今日は、このスペースに俺一人。
本館は結構ようけ客がおったから、かなりラッキーな環境や。

別館の外観。

本館の外観。
水を近くの沢からポンプを使って汲み上げてくれとうから、補給がし易くて有りがたい。

北アルプスの小屋に泊まった事がないからわからへんけど、北の小屋に比べると、南は設備・物資の面でイマイチらしいけど、水場があってビールが飲めれば後は別に何も要らない。
ここでは、買いそびれた食材の代用として、日清カップヌードル(ノーマルサイズで400円)とチョコレート(400円)とバッジ(500円)を購入。
パンも売ってたけど、割高なんは分かるけど、一個400円では手が出ない。
ビールは、350mlが600円、500mlが800円。小屋の物価としては、通常価格。
小屋までの荷揚げは、主にヘリを利用(昔は歩荷・強力が荷揚げをしてた)するから、物価高は避けられへん。
食事(乾燥米+乾燥具材、チキンラーメン)を済まし、この日は18時には眠りに付いた。

8月2日(日)午前4時45分 富士見平からご来光を拝む。
この日は、赤石小屋を3時30分に出発。ヘッドライトを付け、小1時間掛けて富士見平に到着。
天候は曇りやったけど、もしかしたら見れるかもと思い登って見た。
もしかしたらじゃなくて、ちゃんと見れた。
雲と雲海の限られた隙間から、太陽が昇ってきた。
俺以外は、誰もおれへん。ご来光を独り占めや。
これがあるから、山はやめられへん。

富士見平から赤石岳の方向を撮った。
ガスが掛かっとうけど、やっと高さを感じ取れるようになってきた。

虹が掛かる。
偶然ではなく、目まぐるしい気象変化の恩恵で、必然的にこういう景色に出会える。

赤石岳では、日本国内では最南端となるカール(圏谷:氷河の痕跡)を見ることが出来る。

ちょっと雲が切れてきたけど、なかなか晴れてくれへん。

富士見平から、約2時間登り続けて、やっと稜線に出る。
またガスがかかってきた。
気温は、10度を切るくらい。雨と少し風もあって、寒い。
ここで、重たいザックを置いて、山頂までピストンをする。

赤石岳(3,120m)の頂を踏む。
その場に居合わせた、男性4人組のグループと交代で写真を撮り合う。
ガスが濃いし、風雨で寒くて、5分とおられへんかった。

赤石岳の山頂は、天候が良ければ携帯が繋がる。
携帯は下に置いてきたザックの中やから、電波状況は確認出来ず。
山に入ったら、下りるまで携帯は特に触ることはない。
だから、もしも身近な人に不幸があっても、山を下りるまで訃報が俺に届く事はない。

しばらく稜線を歩き、大聖平に下り、荒れてない山肌をトラバース。
荒川小屋が見えてくる。

荒川小屋に到着。
しばらく休憩を取る。
小屋の中は、ストーブに火が付いている。
外で一服してると、今日で山に入って7日目の男性と出会う。
甲斐駒から光岳まで縦走中らしい。テント泊で、100リットルザックに装備がパンパンに入ってる。
持たせてもらったけど、30㎏以上はある。片手で持てる限界の重さや。
雪山はやらへんけど、毎年梅雨明け、会社を休んで1週間ほど山に入ってるらしい。
話が弾んできたところで、男性もタバコを吸ってたから、ちょっと申し出をしてみる。
『何本かタバコもらえませんか?』
街で買いそびれて、もうなくなりそうやったからや。
『いいですよ。ちょっと待って。』と、ザックの中の荷をひっくり返して、探してくれる。
タバコをケースで取り出した。
『ケースであげる。荷が軽くなるし。』
ええっ、ケースではもらう訳にいきません。と口では断りつつ、もらっちゃおかっと顔が緩んでもた。
ありがとうございます。
山では、初対面で見知らぬ同士の人が、助け合う。
山では、人の優しさをダイレクトに感じることがある。
山では、人間て一人では生きてないんや、誰かに助けてもらって生きてるんやと思える。
山では、生きていく上で大切なことを学ぶ事が出来る。
タバコが嬉しいんじゃなくて、気持ちが嬉しい。
名前も何も聞かなかったけど、お互いの無事と、また山で会いましょうと男の約束をした。

荒川小屋を出てしばらく登ると、お花畑がある。
写りが悪い上に、小さな花ばっかりで分かりにくいけど、花が一面に咲いている。
花は全く興味があらへんから、先を急ぐ。

荒川中岳(3,083m)の頂を踏む。
写真に撮って記録しているけど、あんま記憶に残ってない。
確か、中岳避難小屋の手前にあったはず。
ガスが濃く、単調な道が続いてたからあんま集中してへんかったかも。
そういう時が危ないから、要注意や。
危険な箇所では、注意を払い、集中するから意外と何も起きひんけど、単調な道の何でもない所で浮石に乗ったりして、大きく転んで怪我をする。
集中しっ放しは気力が持たへんけど、ある程度のテンションを保つ必要はある。
登山を作業と捉えれば、結構地道な作業が延々と続く。

中岳避難小屋に到着。
しばらく風雨にさらされたから、管理人に申し出て、中で休憩をさせてもらう。
避難小屋やから、中は狭い。寝泊り出来るようになってるけど、多分20人位が限度や。
小屋の中に居た登山客と話をしとったら、こんなお願いをされた。
『この先で、装備不十分な男性3人組を見かけたら、山を下りるように言って欲しい。3人共、疲労困ぱいしている。』
何て?そんな人おるん?と、以前は疑問を抱いとったけど、おるねん、そんな人。結構多い。
偉そうな事言われへんけど、装備・知識・経験が不十分なまま、高い山に登ってくる人が。
3人の内、1人は登山靴を履いてるらしいけど、他の2人はスニーカー。
雨カッパは、ペラペラのビニール。
ザックではなく、ショルダーバックで荷を持つ。
山に登りたい気持ちはわかるけど、厚着をして水に飛び込むようなもんや。
泳げる人でも溺れる。
結局、その3人組に会う事はなかった(下りたらしい)けど、怪我とかなくて良かったと思う。

雷鳥か?と思いきや、雷鳥って飛ばへんはずやし、何やろ?
後で、教えてもらったけど、これはイワヒバリって言う鳥で、高山帯、高木限界より標高の高いハイマツ林や岩場に生息するらしい。

2つ目の目的地、悪沢岳に到着。
呼び方は色々あるみたい。荒川東岳、東岳。
国内の山で6番目に高い。
百名山の一つ。
ちなみに、2位から14位までは次の通り。
2位 北岳 3,193m
3位 奥穂高岳 3,190m
4位 間ノ岳 3,189m
5位 槍ヶ岳 3,180m
6位 悪沢岳 3,141m
7位 赤石岳 3,120m
8位 涸沢岳 3,110m
9位 北穂高岳 3,106m
10位 大喰岳 3,101m
11位 前穂高岳 3,090m
12位 中岳 3,084m
13位 中岳(荒川中岳) 3,083m
14位 御嶽山 3,067m
2番目の北岳(3,193m)から、10番目の大喰岳(3,101m)まで標高差は100m以内。
ほぼ横並びや。
今回は、悪沢岳と7番目の赤石岳、トップテンから外れて13番目の荒川中岳(3,083m)の頂を踏んだ。
次回は、北岳と間ノ岳を1回の山行でクリアしたいと企んでいる。

千枚岳(2,880m)の頂を踏んで、あと20分程度で千枚小屋というところで、ハイマツが広がる場所に出る。
雨と風が激しくて、フードを深く被っとったから直前まで気づかへんかったけど、
雷鳥や!!!!
しかも、チビを4匹連れてる!!!!
慌ててカメラを取り出して写そうとするけど、防水仕様とちゃうからレンズが曇って綺麗に撮れへん。
天候悪いし、絶対見られへんわと思っとったけど、目の前で見れた。しかもチビ連れで。
これだけでも、雨と風と寒さに耐えながら登った甲斐があるわ。

確か雷鳥は、千枚岳の頂を下りたとこで見たはずやけど、撮影時間はこっちが後になってる。
記憶違いかもしれん。
まぁ、どっちにしても、今日の目的地の千枚小屋まであともうちょいや。

見えた。千枚小屋や。
実は、6月に従業員が営業開始の準備の為に入って、準備が終わり閉めて帰った後に、火が出て小屋が焼失した。
原因は不明。直接、従業員に聞いてみたけど、わかりませんとの返答。答えにくそうやったから、それ以上は聞かず。
仮設の受付と食堂を建てて、7月25日から営業は開始してる。
ここで泊まられへんと、周回スケジュールがちょっと厳しくなる。

翌日、千枚小屋からの御来光。
悪天候の中、2日共御来光が拝めたし、雷鳥は見れたし、ツイとうわ。

焼失前に千枚小屋があった場所。
綺麗に整地してあった。

仮設の、受付事務所と食堂。

さぁ、今日は山を下りて、温泉に入って神戸に帰るだけ。
って気を抜く訳にはいかへん。
捻挫などの怪我の8割は、下りで起きる。

駒鳥池。
看板を見落とした上に、池の存在にも気付かずにほぼ素通り。
写真を撮るくせがあるから1枚撮ったけど、後から見て、これが駒鳥池やったんやって感じ。
ただの水溜りにしか見えへん。

見晴台。
荒川三山をバックに1枚。
あ~あ、やっぱこういう晴れた日に登りたいわぁ。
予備日があるけど、帰りたいモードに入っとうから、登り返しはちょっと無理やし。

単独で山に這入ると、誰にも干渉されずに、自分の好きなように出来る。
歩くスペース、休憩のタイミング、写真撮ったり、食事のタイミング、何でも好き勝手に決められる。
これも、枝にカメラを固定し、タイマーをセットして、自分撮りをした。
っていうか、誰かと一緒やったら簡単に撮れるやん...。

最後の吊橋。
これを渡れば、もう少しで椹島登山基地や。

下山終了。
あぁ、はよ風呂に入りたい。
金曜日の夜も入られへんかったから、3日間風呂に入ってへん。
悪天候のおかげで、汗だくにならへんかったけど、さっぱりしたい。

椹島登山基地に到着。
こんな登山基地、見たことない。
広くて綺麗やわぁ。

改めて、
南アルプス国立公園 登山基地 『椹島』
赤石岳や荒川三山を含め、この辺一帯は、東海パルプ㈱の社有林になる。

なんか、ごっついエエ雰囲気やん。
めっさ晴れとうし、気持ちイイ。

『ようこそ。椹島へ!』って迎えてくれた。

Rest House 『椹(sawara)』

Rest House 『椹(sawara)』の内部。
めちゃめちゃお洒落やん。
一発で気に入った。

外には、広大なテントサイトが広がる。

ちょっと贅沢やけど、ここに茶をシバきに来るだけでもエエかもしれん。

外観。
こんな山奥やのに、金かけてるわぁ。

テントサイトから1枚。

隣接の水の広場。
ここも最高。
俺以外に誰もおれへんかったから、更に最高!!

こういうとこで、1日ボケーっとするんもエエかも。

水の広場に脇には、清流が流れてる。
ホンマ、ここロケーションが最高やん。
温泉に入る前に、パンツ一丁になって、清流で汗を流した。
めちゃめちゃ冷たかったけど、めちゃめちゃ気持ち良かった。

Rest House 『椹(sawara)』の、メニュー。
エエっ!!街の喫茶店と値段が変わらへんやん!!
こんなんで、経営が成り立つん?
と思ったんで、店員に聞いてみた。
店員 『こんな山奥まで来て頂いた方への感謝の気持ちです。儲けようとは思ってません。』
夏場だけの期間アルバイトのおばちゃんやったけど、ええこと言うやん。
清流で水浴びして遊んどったから、時間がなくなってお茶出来ひんかったんが悔やまれるわ。
クルマやなかったら、グイッと生ビールをいきたかってんけどなぁ。
グラスも中ジョッキが置いてあったし。

赤石温泉『白樺荘』
畑薙第1ダムの駐車場から、15分くらいのとこにある。
温泉で汗を流すと、山行終了って感じ。
Posted at 2009/08/17 23:53:31 | |
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