夜中 夢を見た
普通だと その場は覚えているのだが 二度寝等を貪ると 忘却 もしくは うろ覚えである。
不思議なもので 今でも 記憶している
折角なので ここに 書き残す事にした。
夏 夕方 京都の実家
入道雲が 太陽を覆い隠すと 山からはヒグラシの声
親爺は ブル510SSSのキャブレーターの調子が悪い と エンジンフードを開いている
私は FJ-56の洗車を終え 日陰の部分からワックスを塗っている
垣根から覗き込む バーニーズ 散歩 行きたい?
お~い 煙草 1本くれや!
きついけど ええ香りやな~
その時 黒塗りの大きな霊柩車が一台 静かにやって来て ふたりの前で停まった
運転手は霊柩車から降り 私達には目を合わさず助手席のドアを開ける
助手席の男が降りて来た 淡いブルーの麻ジャケット サーモンピンクのボタンダウン
いやぁ~ 暑いですね 御子息さんと洗車ですか? ところで私の事 憶えておられますか?
あ~ あの時の! その節には家内共々 本当にお世話になりました!
お~い! おまえ ちょっと出て来いや あの時の霊柩車の運転手さん 来てはるで!
エプロンで手を拭きながら 母が出てきた 夕飯の支度をしていたのだろう
まあ! お久しぶりでございます。 あの時には何から何まで本当にありがとうございました
折角ですので 中に入って下さい 冷たいものでも用意しますので。
あ 気になさらないで下さい ちょっと近くまで来たものですから
まぁ そう 仰らずに どうぞどうぞ!
いえいえ 本当に結構です ありがとうございます 実は御子息の○○さんにお話しが・・・
あ そうですか。 でも 本当に こんな暑い外でよろしいんですか?
はい。 本当にお構いなく こちらこそ突然の失礼を許して下さい。
母は 家の中に戻った 二度と出て来ない 二度と逢えない事がわかった 夢の中
父は 愛犬の散歩に行った 二度と戻って来ない 二度と逢えない事がわかった 夢の中
助手席の初老の男と私は 玄関に通じる石階段に腰を下ろした。
グレーのスーツの運転手は 帽子を左脇に抱え 姿勢よく立ち 山を眺めている
あの時は 続けざまに御両親を亡くされ大変でしたね お掛けする言葉が見付かりませんでした
いえいえ あの時は 私もさすがに何が何だかわからず 悲しんでいる余裕が無い と云うか
そうですね そして 今は お元気ですか? お幸せですか?
まぁ ぼちぼち ってところでしょうか 私もこの歳なので そこそこガタは来てますがね
ところで 私に話し と云うのは どのような事でしょうか?
はい 実は・・ ここで 運転手が 書類が入っていると思しき封筒を持って来た
男が立ち上がり それを受け取った瞬間
長引く予感がしたので 家に入り 冷たいものを用意しようとした
家に入ると テーブルの上に 氷が入ったお茶が3つ用意されていた
コースターは 濡れていない 今 誰かが用意したのか
開け放たれた窓 風に揺れる レースのカーテン
3つのお茶を盆に乗せ玄関を出ると そこは京都の実家では無く現在の私の住居であった
いやぁ~ 良いところにお住まいですね 京都とは比べ物にならない 本当に涼しい!
あはは 何も無いですが 良いところなんです。 気に行ってるんですよ。
ところで このような事をお尋ねして良いのかわからないんですが 両親は元気ですか?
男は 運転手を見る
運転手は 軽く ほんの僅か 首を縦に振る 目元が優しい
はい お元気ですよ 本当に 毎日 あなたの自慢話をされてますよ
そうですか 自慢されるような者じゃないんですけどね でも 安心しました。
あ すみません 肝心の話しと云うのは どのような事でしょう?
そうでした もう一度 お尋ねしたいのですが 今 お幸せですか?
はい 自慢できる生き方では無いですが 僕ほど幸せな者は居ないと思ってます。
そうですか それを聞いて安心しました
端的に言います。 これからも続くであろうあなたの幸せを 分けて頂けませんか?
えっ? どう云う事ですか?
驚かないで下さい と申しましても無理がありますが 私共には貴方の寿命がわかるのです
は はぁ~ で 僕はいくつで死ぬのですか?
申し訳ありません 残念ながら それは お教え出来ません。
えっと 先程 僕の幸せを分けて欲しい と 仰いましたが 具体的にお願いします。
はい わかり易く言いますと 貴方の残された時間を買い取る と云う事です。
えっ! そんな事が出来るのですか? で 僕のその時間はどうなるのですか?
はい 様々な事情で 逃げ場も無く苦しんでいる多くの方々にプレゼントするのです。
例えば難病に苦しむ子供に3年間を与えれば その間に新薬が開発され完治したとか。。
はい その通りです 時間だけでは無く 出逢う事無く死を迎えるひとに出逢いも与えます。
なんとなく わかります。
様々な理由で追い込まれ 自殺を決断したひとにも有効な訳ですね?
はい そのとおりです。 如何でしょう? 契約書類を作ってみたのですが御覧になりますか?
ええ ちょっと 見せて下さい。
会話の部分は こんなに明瞭ではなかったと感じますが 夢の内容はこのようなもの
そして 実は 更に続くのですが 記憶がおぼろ と申しますか 何故か上手く書けんのです。
他の方の契約書類も見たのですが 5年単位の契約で 10年の方 20年の方も居られました
そして 私の契約書類を見ると・・・
上限が 10年 でした。
夢の中 ボールペンを手にしたところまでは 憶えています。。