先日、表題に絡んで一悶着ありました。
大変な目に遭いまいたよホント…
では、まずクランクケースブリーザー(以下ブリーザー)とは何ぞや、という方のために、ざっと解説をば。
平たく言えば、空気がクランクケース内と外界を出入り出来るようにするために設けられた開口部です。
大抵はケース上部からホースニップルが生えており、ホースによってインテークと接続されているか、そのまま開放されています。
このブリーザーの代表的な働きとして、機械要素の運動や温度変化によって発生するケース内の圧力変化を抑えるというものがあります。
密度の高い物質の中では物体の運動は阻害されますので、機械要素も出来るだけ低い圧力の中で動かした方がスムーズに動くというわけです。
また、ケース内に漂っているオイルミストは高温で酸化されたり水分を取り込んだ劣化オイルです。
そういった機械要素にとって有害な物質を外部に放出する事で、機械要素の寿命を延ばす働きもあります。
本題に入ります。
バイク、特にミニバイクは様々なアフターパーツに恵まれています。
そのアフターパーツの中に、ブリーザーの取り出し口を増設するためのものもあります。
通常は最初からケースにあるブリーザーのみで事足りるのですが、高回転を多用したりすると圧を逃しきれなくなったり、オイルが吹き出してくる場合があります。
また、先述の通り、低圧環境の方が機械要素の動きは良くなります。
ブリーザーを増設する事で、ケース内を大気圧に近づける事が可能になるというわけです。
自分のマシンも例外ではなく、タペットキャップと交換するタイプの取り出し口を着けて、ノーマル系統は殺していました。
そして、事件は起こったのです。
抱きつきです、お恥ずかしい限り。
何故ブリーザーと抱きつきが関係があるのか…原因はオイル不足でした。
エンジン内にパーツが落ちたり、異物が侵入したりといった事は一切ありません。
何らかの原因で急激にオイルが減ってしまった…原因は一つしか考えられないのです。
ブリーザーの増設を行ってから暫くして、ある疑問を検証するために設計を変更しました。
「ホースの長さで抜けは変わるのか」というものです。
接続はこのような具合です。
ブリーザー→ホース(約300mm)→オイルキャッチタンク→ホース(約200mm)→フィルター
これを
ブリーザー→ホース(約200mm)→オイルキャッチタンク→ホース(約50mm)→フィルター
このようにしました。
効果はすぐに現れました、期待を裏切る形で…
200km程度走行して、ふとオイルキャッチタンクを覗くとゲージが黄土色。
何事かと思ってドレーンを緩めた瞬間、白濁したオイルが噴出…
1Lあるタンクの2/3程度までオイルが溜まっていました。
取り回しを変えても状況は変わらず、むしろ悪化しているようでした。
最終的には、50km程度でおよそ500ml程度のオイルが溜まるようになっていました。
そして件の抱きつき、レイアウトそのものを見直そうと思っていた矢先の事です。
この大量のオイル流出が、単なるオイルミストの滞留によるものでない事は明白でした。
壁面を伝うオイルがクランクケース内の気体の脈動によってポンプの要領で押し出されていた事が原因です。
レシプロの吸排気管と同じく、ホースが長ければ長いほど脈動を吸収する力が大きくなるので、今回の場合は当然の結果と言えるでしょう。
再び、ノーマル系統も生かして長めに取り回したところ、嘘のように改善しました。
タペットブリーザー→ホース8Φ(約200mm)→変換ニップル→ホース9Φ(約300mm)→三叉
ノーマルブリーザー→ホース6Φ(約300mm)→変換ニップル→ホース9Φ(約300mm)→三叉
三叉→ホース8Φ(約200mm)→オイルキャッチタンク→ホース(約300mm)→フィルター
ニップルは内部で大きく広がっていてオイルトラップの役目を果たすため、効率よくオイルとガスを分離できます。
壁面を伝ってきたオイルはそのまま落下してクランクケースに戻るという寸法。
以上のように、バイクや車というものは安易に手を出すと危険な箇所ばかりです。
先の先まで読む力を養わないと泣きを見る事になるかもしれませんね、自分もまだまだです。
【5月9日追記】
オイル大量噴出が再度発生。
発生条件を精査した結果、原因はオーバークールによるピストンのクリアランス過大だった模様。
オイルクーラーをカバーした上で、オイルの粘度を5w-40から15w-50に変更して様子見。
ピストンの膨張率に合った粘度特性を持つオイルを使用しなければトラブルを招くという事例か。
【5月14日追記】
相変わらず油温が70~90℃近辺をウロウロして上手く暖まらない。
全く改善しないのでオイルクーラー撤去、以前はここまで冷えなかったので恐らくレイアウトの問題。
オイルクーラー取出ブラケットをビッグフィンカバーに交換した上で、若干濃かった燃調を再度調整して、点火時期も進み気味にしておいた。
その上で、ストップアンドゴーに次いで全開、という動作を繰り返し行なった。
エンジンが熱を持ちやすくなる要因ばかりであるが、油温が110℃を超える事はなく、空冷エンジンとしては適正な範囲に納まる事を確認した。
勿論、オイルの噴出も嘘のように収まり、100km程度走ってもキャッチタンクはほぼ空のままであった。
中間は力強いが高回転は伸びづらいという、ハイコンプピストンらしい特性が戻ってきた。
カムの特性を考慮しても真っ当な出力特性だと言えるので、問題はこれでほぼ解消と見て良さそうだ。
しかしながら、暖機運転をしっかりしないと首振りするので油断ならないところである。
【2016年4月7日 追記】
現状は以下の通り。
・クランクケース上方にあるノーマルのニップルは破損のため使用不可
・タペットキャップ、クラッチカバーにφ8ホース用ニップルを増設、隔壁はなし
・リターン系統のある小型のオイルセパレーターを新たに設置(キジマ 106-0092)
・リターン、開放系統にワンウェイバルブを取付(キジマ 105-15003)
画像がないので文字で説明します。
[タペットキャップ]
↓
[セパレーター]→[ワンウェイバルブ]→[キャッチタンク]→[大気開放]
↓
[ワンウェイバルブ]
↓
[クラッチカバー]
前回の追記時点から更なる試行錯誤を重ね、このような状態となりました。
クランクケースからの取り出しはバックプレッシャーの低減に有効であろうと思ったのですが、クラッチ交換してからというものオイルの吹き出しが予想以上に増えてしまい断念しました。
取り出しはタペットキャップからとし、クラッチカバーへはリターンさせるだけに留めました。
結果としては上々で、オイルの減りも殆どなくなりました。
設置したワンウェイバルブですが、ダイヤフラムにバイトン(フッ素系ゴム)を使用したポリプロピレン製の小型のものです。
本来は燃料タンクのベンチレーションチューブ用となっており、耐熱性に関しては期待できそうもなかったため、熱の掛からない設置方法を検討する必要がありました。
装着してから1万キロ程度使用しましたが、特段問題は発生していません。
冬場、気温が-10℃近い時でも凍結せずに上手く動作しています。
よく見掛けるものにアルミボディのボールタイプのものがありますが、凍結した場合の害を考慮すると良くないように思います。
凍結しても僅かながら流路が確保できれば温まって解けますので、ダイヤフラムタイプのワンウェイバルブを横向きにして使うのが良いと個人的には考えます。
【2019年4月19日 追記】
長らくクラッチカバーに8mmのニップルを増設し、オイルリターンのあるセパレーターを接続して運用していましたが、水分が全く抜けていかず、各部品の潤滑に悪影響を及ぼしている疑いが出てきました。
よって、ノーマルのニップルに対してレデューサーバルブを設置するのみとし、増設ニップルは全て撤去しました。
今のところ、7000〜10000rpmを常用するような使い方をしても懸念材料であったカウンターシャフトオイルシールの抜け等は発生しておりませんので、しばらくこれで様子を見ようと思います。
キャッチタンクにはオイルと水が分離したものが溜まっており、明らかに以前よりも水分の排出がスムーズになりました。
エンジン内部のラビリンスが狙い通りの仕事をしていることが分かります。
ニップルを増設する場合、外部にオイルセパレータを設置する事は好ましくないと言い切っても良いでしょう。
しっかりと温まるエンジン内部でオイルを分離できるような構造が求められるため、オイルの寿命を考慮した設計は相当に難しいと思われます。
よって、広く採用されているようなノーマルニップル近傍への増設が最も容易で確実であると言えるでしょう。
【2020年6月13日 追記】
記事のPV数を見たところ過去の記事がかなり伸びているようですので、現在の私見について述べさせて頂きます。
以前に追記を行った時点より構成は変更していませんが、以降もブリーザーの動作は良好なようです。
加えて、オイルの寿命が明らかに伸びた事が実感できました。
やはり、水分の混入がオイルの潤滑力を相当に損ねている事が分かります。
ホースがフレーム内部を通過するようレイアウトした結果、キャッチタンクに到達するまで冷却される事もないため、オイルミストは殆どそのまま抜け、水分だけがキャッチタンクに滞留するといった状態に落ち着きました。
やはり、エンジン内部かそのすぐ近傍、熱の掛かる箇所にラビリンスを設け、配管は極力冷却しないように引き回す、といったレイアウトが最適解であると確信できました。
ブリーザーを増設する際の参考にしていただければ幸いです。