前回の「フォードOHV V8エンジンの系譜 ~もう一つのスモールブロック クリーブランド~」の続きです。
前回は335シリーズのクリーブランドV8について書きましたが、今回はもう一つの335シリーズであるMブロックについて書いてみたいと思います。
フォードOHV V8エンジンの年表
1950年代の終盤に登場したミディアムブロックのFEエンジンは、1970年までに時代遅れになりつつあり、最大排気量428cu.in.の第2世代FEエンジンは前々回紹介したビッグブロックの385シリーズV8で置き換える目途が立ちましたが、残る390cu.in.以下の第1世代FEエンジンについても置き換えを進める必要がありました。
このため、フォードは351Cの発売から約1年後の1970年秋、351Cのストロークを1in.伸ばし排気量を400cu.in.に拡大した400エンジンをリリースし、フォード・ギャラクシー、LTDやマーキュリー・モントレー、マーキス等に搭載して販売を開始しました。
1971年 フォード・LTD・カントリー スクエア ワゴンに搭載されたフォード400エンジン
フォード400エンジンを搭載する1971年 フォード・LTD カントリー スクエア ワゴン
スモールブロックとしては最大級の排気量を持つこのエンジンは、フォードV8の中で最長のストローク(4in.)を持ち、351クリーブランドに比較しブロックのデッキ高が1.091in.拡大されています(これは302ウィンザーから351ウィンザーを生み出したのと同様の手法です)。
351クリーブランド(右)と400エンジン(左)のブロック高の違い
400エンジンは351Cより大きなメインベアリングを持ちますが、2バレルキャブレター、鋳鉄製インテークマニホールド及び小型の吸排気ポートを持つ2Vシリンダーヘッドのみが組み合わされ、ハイパフォーマンスバージョンが登場することはありませんでした。
また、400エンジンは従来のビッグブロックエンジンとの互換を企図して設計され、(同じ335シリーズエンジンファミリーである351Cとは異なり)385ファミリーで使用される大きなベルハウジングボルトパターンを持つことにより、より高いトルク容量のC6トランスミッションとの組み合わせが可能です(初期の400エンジンにはスモールブロックとビッグブロック両方のパターンを持つデュアルベルハウジングボルトパターンもありました)。
351クリーブランド(左)と400エンジン(右)のベルハウジングボルトパターンの違い
1974年まで、フォードは351Cと400という2種類の異なるブロック高を持つ335シリーズV8エンジンを製造してきましたが、この年を最後に351Cの生産を打ち切り、翌1975年モデルからは、400と共通のブロックに、ストロークを短縮したクランクシャフトを組み合わせた新たな351エンジンに置き換えました(400と共通のデッキ高とビッグブロックのベルハウジングボルトパターンを持つ点が351Cとは異なります)。
新しい351エンジンは、それまでのクリーブランド・キャスティングセンターに加え、ミシガン・キャスティングセンターでも鋳造され、現在では351Mと呼ばれています。その名称"M"の由来については、400-V8からストロークを短縮したため"Modified"の略であるという説や、351Mの生産を開始したミシガン・キャスティングセンターのキャスティング・マークを指すという説、"M"は正式な意味を持たず、351Cや351Wと区別するためのフォードの呼称にすぎないという説等があります。また、これとあわせて400を400Mと呼ぶ例がありますが、400 V8は351M登場以前から存在しており単に400と呼ぶのが正しい呼称です(351Mと400を総称してM-ブロックと呼ばれています)。
Mブロックのキャスティング・マーク(上:クリーブランド鋳造工場、左下:ディアボーン鋳造工場、右下:ミシガン鋳造工場)
M-ブロックは、それ以前のフォードV8エンジンとは異なり、当時、排ガス対策として一般的だった排ガス再循環(EGR)と二次空気導入システム(AIR)をヘッド及びインテークマニホールドに組み込んだ設計となっていました。
排ガス再循環(EGR)については、ヘッド内のエキゾーストポートからインテークマニホールド接合部に連絡するEGR用の内部配管が設けられており、インテークマニホールド側の内部配管を経て、外付けの配管なしで排ガスをキャブレター下部のスペーサー(アダプター)を通じEGRバルブに供給します。
また、二次空気導入システム(AIR)についても、エアポンプから供給される二次エアはインテークマニホールド右側前方のチェックバルブより注入され、インテークマニホールド内部の二次エア流路を経由して左右バンクのヘッド内配管を通り、外部配管無しでエキゾーストポートに噴射されます。
これらの構造は、1970年代の原始的な第一世代の排出ガス対策においては、エンジン回りの複雑な外付け配管を省略することができ、非常に合理的な設計でした。
Mブロック インテークマニホールド(①二次エア注入ポート ②EGR供給ポート ③オートチョークへの排ガス供給ポート)
Mブロック ヘッドのインテーク側
しかし、1980年代初頭には、早くも混合気のフィードバック制御を備える電子制御システムを用いた新世代の排出ガス対策が主流となります。
これらのシステムは、エキゾーストマニホールドに設置したO2センサにより、排気ガス中の残留酸素濃度を計測して燃料噴射量を決定するため、二次エア注入ポイントはO2センサが取り付けられるエキゾーストマニホールドよりも下流に配置する必要があります。シリンダーヘッド内の排気ポートに二次エアが噴射される335シリーズエンジンではO2センサを用いたフィードバック空燃比制御システムへ容易には適応することができませんでした。
また、1970年代後半には年々厳しくなるCAFE規制により車両の小型化が急速に進行しており、1980年までに中型のV8はほとんどすべてのフォード製乗用車のオプションリストから消えていました。
1980年以降、唯一のフルサイズシャシーとして残ったパンサー・プラットフォームでは302cu.in.を超えるエンジンが選択できましたが、これらのニーズは新しい排ガス対策により柔軟に対応できる351Wで満たされることになります。
Mブロックの歴史における究極の残酷な皮肉は、それが第一世代の排出ガス制御システムに非常によく適合していたことであり、予想を遥かに超える速度で進歩する環境に追従できなかった恐竜のような存在でした。
1979年 コンチネンタル・マークVに搭載された乗用車最後の335シリーズ 400エンジン
こうして、335シリーズV8エンジンは、1979年を最後に乗用車のラインナップから消滅した後、トラックには引き続き搭載されていましたが、それも順次351ウインザーに置き換えられることとなり、1982年、F250HDとF350に搭載されたのを最後に誕生から僅か12年の歴史に幕を下ろしました。
最後の335シリーズエンジンを搭載する1982年 フォード・F-350
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6回にわたりフォードのOHV V8エンジンの歴史について書いてきましたが、このテーマは今回で終了です。最初は大まかな流れについて書くつもりだったんですが、自分の車に積まれている335シリーズだけ、やたら細かくなってしまいました。下手くそで読みづらい文章にもかかわらず、最後まで読んでいただいた方々には大変感謝いたします。どうもありがとうございました。
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フォード OHV V8エンジン | クルマ
Posted at
2019/09/01 21:01:45