運転操作。
よく「自分のこれって正しいの?」「正しい操作って何?」ということが気になると思います。
今日日はインターネットだのなんだのと便利なものがあるわけで,
ちょちょいとワードを入れて検索すれば答えが出そうな気がしてしまいますが,
……みんな言うことマチマチなんよね~。
これは運転操作だけでなくチューニングパーツの類でも同様のことが言えますが。
しかも見てると「もうちょっと頭使ってみたら?」と思う意見があるのも確か。
あまり理論的・メカニズム的な面から考えている人は少ない気がします。
というわけで,そんなよくある疑問に(聞かれてないけど)答えてみるシリーズ。
今後ペダル操作なんかについても書いてみようかと思っていますが,まずはステアリング操作から。
正しいステアリング操作ってなんだろう?
ここではステアリングの動かし方に絞り,持ち方は問わないことにする。
正直なんだっていいからだ。
(ちなみに私は,大きく切ったり確実に保持しなければならない状況以外,片手操作である)
ステアリング操作には,流派が実にたくさんある。
しかも名前が安定していないので,相手によっては意図が伝わらないこともある。
なので,ここでは以下のように呼称することにする。
予備動作は,ステアリングを切る前に持ち替えがあるかないか,
初期動作は,アウト側の手を押し上げる押し手,イン側の手を引き下ろす引き手のどちらか,
守備範囲は,手が何時から何時まで動くかを表す。
伝わらなかったら,書いてあるプロドライバーの名前で検索してください。
①クロスハンドル
・予備動作:なし
・初期動作:押し手
いわゆる教習所式。誰もが一度はやっただろう,そして多分もっともメジャーだろうスタイル。
ステアリングの上半分で両手が交差して行ったり来たりする。
②GTスタイル
・予備動作:なし
・初期動作:押し手&引き手
9:15で握った位置から一切手を離さない,F1・GT・カートなどのイメージ。
180度以上の舵角は取れないため,基本的にモータースポーツ専用。
すべての運転がこれだけで完結できないので分類するか迷ったが,
後々の説明のために必要な気がしたので挙げておく。
③中谷スタイル
・予備動作:旋回方向の手を12時へ
・初期動作:引き手
中谷明彦氏が常々推奨している操作方法。
曲がりたい方向の手を12時位置に持って行き,引き下ろす(反対の手は鏡面対称で滑り下ろす)。
更に切りたすときは滑り下ろした反対の手で下から押し上げる。以降繰り返し。
ちなみに戻しはSAT(セルフアライニングトルク)を積極利用する。
左右の手がステアリングの半分ずつを受け持つため,上体が左右にブレにくい。
中谷明彦ファン以外にはイマイチ浸透してない気がする。
④織戸スタイル
・予備動作:なし
・初期動作:押し手
織戸学氏がビデオで実践していた方法。
120度くらいの舵角まで押し手のみで切り込み,足りなければもう一方の手で引き下ろす。
押し手基本であること,持ち替える軸が中央でないこと以外は中谷スタイルと同様。
D1ドライバーゆえに生み出されたと思われる点がいくつかある。
⑤山野式ハンドル
・予備動作:押し手を引き手の対角位置へ/引き手を押し手の隣へ
・初期動作:押し手/引き手
山野哲也氏がブリヂストンのサイトで紹介していた方法。
初期動作は引き手・押し手両方あるが,どちらの場合も予備動作を取る。
そして予備動作分の距離を切り終えたらGTスタイルに移行するイメージ。
かなりの距離を持ち替えずに切れるメリットが有る。
とまぁ,プロレーサーの操作法メインでもこれだけ出てきた。
一般的に教習所等で禁止され,ユーザーの中でも否定派の多い送りハンドルだが,
こうしてみるとプロドライバーではむしろ使用している人が多い。
そして,その送りハンドルの中でも更に流派が分かれる。
で,同じプロレーサーでも,黒澤琢也選手の場合は「持ち替えは厳禁」と言っている。
しかも,特に中谷さんだが,意外と上記の通りの操作をしていない時も多い。
普通にGTスタイルでかっ飛ばしている動画がたまに見られるのだ。
わ け が わ か ら な い よ
と言いたくなるのはごもっともだ。
喧々囂々になるのも当然だろう。
しかし,結論を言ってしまえば,どれが正解でどれが間違っているということはないのだ。
所詮この手の質問は,視野の狭い人たちの水掛け論でしかない。
「(自分が好きな)プロドライバーの○○がこう言っていた」
「いやいや××さんは,こっちのほうが正しいって言ってた」
↑だいたい○○と××の選手のカテゴリーはF1とジムカーナくらい違う。
そう,上記の各スタイルは,各人が自分のカテゴリーにおける正解を話しているにすぎない。
要は「モータースポーツ内での話」である。
そもそも山野選手のスタイルを引用してきた元記事を読めば分かることだが,
山野選手は同じページでクロスハンドルも紹介し,「状況に応じて使い分けろ」と言っている。
複数カテゴリーに参戦し結果を残している山野選手のこの言葉が,今回の結論だろう。
ただ,それで終わってはこのコーナーを書いた意味がない。
「適宜使い分けろ」の丸投げではなく,使い分けの指針を示してこそ意味がある。
まず①のクロスハンドル
これは短時間でステアリングを大量に回さなければならない状況に最適である。
ジムカーナのスラローム,突然リアがブレイクした時のカウンターなどが好例だ。
もっとも,訓練していなければこんな使い方はできないわけだが,
実際クロスハンドルを教わる教習所ではチンタラ切りしか教えてくれない。
逆に,街中である程度速度が出ている時の旋回にはクロスハンドルはお勧めできない。
体軸がブレやすく視界が定まらないため,歩行者などをロストする可能性がある。
(とはいえちゃんとした運転姿勢を取っていればよほどないことだが)
このスタイルは私は殆ど使わない。車庫入れ時に中谷スタイルの中にたまに混じるくらい。
腕を交差しているとなんか頭がこんがらがってくるのだ。
次に②のGTスタイル
実際のところ,街中・サーキットとも大概のコーナーは180度以内の舵角で曲がれる。
ステアリングに近めの運転姿勢を取っていれば上体がブレることもないだろう。
問題は「180度以内で曲がれるか否かの見極め」である。
曲がれると思って入って曲がれなかった場合,このスタイルでは持ち替えが困難だ。
ゆえに「基本はこれ,ただ曲がれなそうな場合は別のスタイルで行く」という心構えが必要。
ちなみに私はステア操作の6~7割くらいはこれで済ませている。
道幅の中で180度で曲がれるラインを考えれば意外とこんなもんである。
③の中谷スタイル
モータースポーツにのめり込んでいくとハマるのがこのスタイル。
サンデー草レーサーぐらいのレベルには中谷さんはカリスマ的人気がある。
キャーナカヤサーン
意外とあらゆるシチュエーションに対応できそうに思えてしまうのがこのスタイルのミソで,
やってみると思っていたより上体が安定しないのもこのスタイルのミソ。
このスタイルの難点は,ステアリングに重みがなくステアリングインフォメーションが乏しいと操作難度が上がること。
片手で引き下げる動作は余計な力がこもりやすく,ステア量・速度過大ということになりやすい(んで上体がブレる)。
あと,SATが少なくステアリングの戻りが悪い場合も要注意。戻しに独自策が要る。
私もFTO時代はもっぱらこのスタイルだったが,A05A乗り換え以降はあまり使わないようにしている。
ステアリングの軽さとインフォメーションは慣れたが,戻りの悪さが……。
とはいえ,体に染み付いてしまっているうえクロスハンドルよりは使いやすいので,使用頻度は高め。
上記のような難点のないクルマに乗っている人は練習の価値あり。確かにこれだけで事が足りてくる。
④の織戸スタイル
これも中谷スタイルと同様,戻りの悪い車では注意が必要。
ただこのスタイルの利点は,180度以内の舵角なら握りっぱなしで旋回できること。
中谷スタイルは舵角によらず切って戻すまでに持ち替えがいるが,これは180度以内なら不要。
以前から中谷スタイルとケースバイケースで使い分けいたような気が今になればする。
使用頻度も中谷スタイルと同じく,不便さを感じつつも相変わらず普通に使っている。
どうも左旋回がこっち,右旋回が中谷スタイルになってる気がしなくもない。
⑤の山野スタイル
これの引き手バージョンは,モータースポーツをやる人なら試してほしい。
12時に引き手を持っていく→3時or9時まで引き下げる→
一瞬止める→GTスタイルで切りたす。
これは谷口信輝選手のステアリングの切り込み方を聞いてから考えた二段階ステアで,
1段目で荷重を移し,2段目でスリップアングルをつけるとスムースに曲がれるという教えを元にしたものだ。
旋回時間の長いコーナーや高速コーナーなどで威力を発揮する。
とはいえ,モータースポーツ以外でこのやり方をする必然性は特にない。
走り屋以外は覚える必要もないだろう。
ただ,旋回中の操縦性は抜群にいいことは付け加えておく。
とまぁだいたいこんなところでいかがだろうか。
上記の通り,私の場合は自覚があるだけでも4スタイルを状況によって使い分けている。
別にコレを正解として布教する気は毛頭ない。
肝心なのは「必要舵角」と「上体の支えやすさ」をコーナーなり交差点なりに応じて予め判断することだ。
その上で最適なステアリング操作方法を実行すること。
以上を意識すれば,きっと運転がスムーズになるはず。
今日はこんなところで。
暑い!!