クルマに限らず、商品のデザイン(形)なんて物はアートとは違うので
「売れてナンボ」な訳です。
造形的に優れてるとかそんなのは二の次。
そういう意味で新型シエンタのデザインは大変優れたものだと言えます。
結果オーライ的に良いデザインなのです。
ぼくは常日頃、日本の自動車業界でデザインの仕事に従事している人は
発注者(企業上層部)の意向を粛々と形にしてて偉いな、とちょっと思っておったのです。
なのでデザイナーはだまってニコニコして会社からお給料もらってたらええと
思うのです。
んでもなんかえらく饒舌に語っちゃってくれるわけですよ これが。
シエンタのデザインのキーワードは「一筆書き」だそうです。
ん?
一筆書きとはひとつの形を切れ目のない線で描ききる事。
ふむ。。
まークルマの線を全部一筆書きすることなんて不可能なので、そんな「一筆書きになって
ないやん」とか意地悪なツッコミは致しません。
んでもそうならば、基本どんな造形物でもラインの繋がりや流れを考えて作るもの。
あえてトピックとして言わんとあかんことですかね?
↓はシエンタのサイドビューです。
どう一筆書きなのかわかります?
こういう事だそうです。
Aピラーの付け根からドアの上端のラインを通ってリアドアの終点でおりかえして下へ向かい、
前方にもどって跳ね上がる。
ここには「一筆書き」と表現していいラインが見えますね。
でもですよ。
バンパーからルーフへのライン、後輪タイヤハウス横の樹脂パーツなんて
一筆書きとなんか関係あります?????
なんだったら樹脂パーツはドアの一筆書きラインを分断しております。
なんでわざわざ盛って来るのか。
答えはこれです。
シエンタを初めて見た時にまずギョッとさせられるディテール、ヘッドライトから
フォグに伸びた黒の線。
最近ヘッドライトから逸脱した線をアクセントで使うというのが流行のような気もします。
(そういう意味では先日のメガーヌも意味合いは同じですね)
これは歩行者保護の為にボンネットが高くなったことによって、でっかくなった顔が
間延びしてしまうのを視覚的に何とかしようという各社のチャレンジやと思います。
最も分かりやすい例がコペンローブですね。
別にそれはそれでええのですよ。
でも、そのディテールを発注される前に、もっと大前提の発注があったと思われます。
「こんな顔にして」
で 結果これ
さてデザイナーは悩みました。
「サイドビューこんなラインにしたいけど、アクアの顔と合わないよな。。」
「あ そうや サイドのこのラインを一筆書きということにして。。」
「それをテーマ的にやってみましたってことにして。。」
「ライトの端から黒い線でぴゅ〜ってフォグまで繋げて。。」
「おお んじゃ最近の流行だからつけろって言われてるサイドの樹脂パーツも。。」
「唐突な感じのヘッドライトの形のリフレインにすれば馴染むかもだし。。」
「なんか考えてやったっぽく見えない?????」
なーんて考えたかどうか知りまへんよ??
でも一筆書きのイメージで、なんて言われた日にゃこんな妄想もしちまうってもんです。
それにどーも「一筆書き」の定義が定まっていない様子。
デザイン説明の動画では

こんな感じで一筆書きだよって言うのですなぁ
いやもし言うならばですよ

こうでしょ こう
もちろん動画作った人間は別部署でしょう。
んでも監修しないんですかね。
こんなVまで作っていかに「一筆書き」なのかを力説するわけですよ。
こんなええ加減な仕事でええのかえ?
彼らが一筆書きと主張するヘッドライトから伸びた黒い線を見た時、
瞬時にぼくはある強烈なトラウマを思い出しました。
幼稚園のときに瓶に紙粘土を付けてなにか造形し着彩するという課題があったのですな。
まー自分で言うのもなんですが、今は凡人のぼくもご幼少の砌にはちょっとした
天才でしてねw
絵も褒められましたが何より粘土が大好きで今思い出してもとても幼稚園児が
作る様なレベルでないものを誰とも遊ばずに家で1人で延々と作ってたのです。
そんなガキなので、その課題に対して他の皆は単に粘土を貼付けてそこに花の絵なんか
書いたりしてるなか、よしカッパの顔にしてやろうと考えた訳です。
さてベースは粘土で出来た。
次は色を塗らんとあかん。
カッパの皿は元からの黄色い瓶のフタ。
その廻りに濃い緑のギザギザ、顔は薄い緑に塗って。。
目とくちばしは瓶のフタに合わせた黄色にしましょ。
まここまでは良かったのです。
少年mは「黒目描いたろ」と思ったのですな。
普通に黒の絵の具で左の黒目を入れ、さー右の黒目を入れたら完成。
油断したのかなんかわかりません。
筆に付けた絵の具の量が多かった。
右の黒目を入れた瞬間、その黒は黒い涙となってカッパのほほを伝ったのです。
ぎゃっ と思いましたね。
拭いてもダメなのはわかっています。
ここまで緻密に作った来たのに何たるミス。
壊したくなりましたがそういうわけにもいかないので。。。
少年mは考えました。
頬の半ばまで垂れた黒い涙。これを活かそうやないか と
まず黒目を大きくして黄色い部分が分断されている印象を最小限に止める。
そして目とくちばしを広範囲で縁取るカブキのような黒い縁取りにして
誤摩化したのです。
今こうやって書いていても胸が痛くなります。
なんたる付け焼き刃な誤魔化し。
でも皮肉なことに非常にアバンギャルドな出来映えとなったカッパの花瓶は
えらく褒められました。
本来は黄色いフタをカッパの皿に見立てたアイデアを評価してほしかったのに。。
「フタ閉めたら皿になるねんでっ」って自慢したかったのに。。
CMに登場したシエンタはその時のカッパと同じ色をしていました。
そしてぼくのカッパのように黒い涙を流してました。
それは意図された線ではなく誤魔化しの黒い線。
少年mが犯した誤魔化しと同じ誤魔化しの黒い涙。
街には結構な数のシエンタがすでに走っています。
唐突な感じのライト形状のお陰でスリムに見えるフロントマスク。
不思議で新鮮なフォルムです。
今最も目で追ってしまうトヨタ車かもしれません。
資本主義社会における大変すぐれたプロダクトデザイン。
でもぼくにとっては黒い涙のカッパなのです。