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彼岸花の咲く季節になりましたね。そのむかし、田んぼのあぜに咲く真っ赤な花をヒントに小説を書いたことを思い出しました。ちょっと怖いお話なので、そのつもりでお読み下さい。


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すっかり涼しくなった初秋の日、彼女と私は県北の野池へ出かけた。もちろん、バスフィッシングに。彼女は夏の間の、私の手ほどきのおかげで、すっかりバスに夢中である。最初は渋っていたくせに、40センチオーバーを釣ってからというもの、自分から強引に誘ってくるしまつ。まったく、女ってやつは。

「今日も釣れるといいわね。そうそう、今日のおべんと、期待しててね。」

行きの車中から、すっかり上機嫌だ。昨日ショップで新しいルアーを買ったらしく、自慢げに見せびらかしている。ま、好きな趣味を一緒に楽しめるんだから、本当は喜ばなきゃいけないはずなのに、なぜだろう？私は適当にあいづちを打ちながら、カーラジオのゴキゲンな音楽に耳を傾けていた。

「…それでは、ここでニュースをお知らせします。先週から行方不明となっている、○○町の少女の行方は、依然として手がかりがつかめず…」

それまで鼻歌を歌っていた彼女が、急に黙り込んだのち、つぶやいた。

「最近、怖いニュースが多いわね。そういえば、この近所でしょ？事件のあった場所って。」

「ああ、被害者の血痕と着衣が残っていたハイウェイも、この先だったかな。」

急に不安になったらしく、彼女はそわそわし始めた。

「ねぇ、もっと別の場所にしない？なんだか私、怖くて…。」

「なんだよ、もっと沢山釣れるところがいいって言ってたの、誰だよ。今さらそんな事、言ってもしょうがないよ。」

そう、近所の野池では飽き足らなくなった彼女が、もっと別の場所に行こうと言い出したのだ。雑誌の記事を見て「ここがいい。」と決めたのも彼女だった。

ほどなく、２人を乗せた車は釣り場に着いた。すっかり色づいて、たわわに実った稲穂の水田に囲まれた野池は、誰もいなくて静かだった。

「ラッキー、貸し切りだぞ。」

さっそくタックルを用意して、２人はあぜ道を歩いていった。道ばたには沢山の彼岸花が咲いている。無意識に足早に歩く私の後ろから、急に彼女がこう言った。

「ねぇ、彼岸花って別名『死人花』（しびとばな）っていうの、知ってる？お墓のそばで、死人の血を吸うから、あんなに赤いんだって。」

私は振り向きもせず、答えた。

「ばーか、そんなの迷信だよ。早くこないと置いてくぞ。」

水際にも、たくさんの彼岸花が咲いていた。私はさっきまでの話を忘れることに決め、彼女にクランクベイトを結んでやり、自分のラインにもミノーを結んだ。

水面では、小魚が跳ねていた。どうやら、早くも秋の爆釣が期待できそうだ。良さそうなポイントめがけてキャストして、トゥイッチ。リーリングして、またキャスト、バスよ来い来い…。熱中している私の耳に、ふいに彼女の声が飛び込んだ。

「ねぇ！大きいのがかかったわよ、来て！」

ちくしょう、また先を越されたな。舌打ちして、私は声のする方へと向かった。

ほほぅ、なかなかいいサイズみたいじゃないか。彼女のロッドが満月のように弧を描いている。

「あれー？なんだか魚と違うみたい。何かひっかかってるわ。」

それは魚ではなかった。木の枝？それにしては大きすぎる。長い髪の毛のようなもの…。


やがて、水面から上がってきたものを見た彼女の絶叫が、静かな山里にこだました。

　（完）

※ニフティサーブの釣り系フォーラムに投稿、後に自分のＨＰに掲載したものから転載しました。