
重荷に喘ぎながらも、ようやく、森林限界を越えた。しばらく姿を隠していた本峰が忽然としてあらわれ、 流れる綿雲の影が頂きを霞めては通りすぎてゆく。この残雪地帯の一幅の絵巻に、しばし、呆然として仰ぎ見とれるばかりだ。
さすがに、 米どころ魚沼の里を潤す本邦有数の豪雪の山。 残雪の豊富なことは、その峰の陽春初夏の、かがやきからも見てとれる。
しかし、残雪おびただしく残る山肌でありながら、 なおも谷のブロック雪崩れを豪快に轟かせ落とし日ごとに夜ごとに雪どけが進む荒々しい地肌の面積を増やしているのだろう。
そこには、泥臭い、土臭い、しかし、何故かしら、なつかしい春山の悦びに満ち満ちた風光がある。 雪、 藪灌木、 荒々しい地肌、 雪崩れの跡といった日本的な山の風土の良さを確かに感じとるのも人気のアルプスや有名独立峰火山とは違った、 いかにも越後の春山らしい人けない静謐さがあるからだ。そういった陽春の山の価値観、山岳観を一度得てしまうと、もう他の山は自然として、山岳
として、その対象としての価値を見出せなくなるとまで言わしめる越後豪雪地帯の山。しかし、その味わいを知る人は、ごくごく少数派だ。だからこそ、静かな山を好む玄人向きの山かもしれない。
『 越後の山を知らずして山を語ることなかれ 』 とは、山の大先輩の言葉だった。 歳を重ねるごとにその意味の本質がわかってきたような気がする。
降り注ぐ強烈な紫外線、登高なかばの灌木と残雪の地帯。日焼け止めをタップリ塗り直し、仰ぐほどに気だるい老体を鞭打って、いざ行こう、あの雪嶺の高みへ。
バチン! 「 痛えええ~!」 残雪がゆるみ、 雪に伏していた藪が跳ね上がり、わが顔面を直撃した。
「ったくよぉ!これだから・・・越後の山は嫌いだぁ!」(自爆)
笑っていた友は、今度は、空洞になった残雪をスッポリ踏み抜き「コンニャロ~!」と雄叫び。(猛爆)
こんな調子では・・・頂上直下の滑落が心配になる珍道中というものだ(苦笑)
Posted at 2010/05/14 18:24:19 | |
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