2014年05月20日
「 見張り塔からずっと 」 歌詞の意味とその魅力
「見張り塔からずっと」(All Along the Watchtower)という曲があります。もともとはボブ・ディランが作った曲ですが、ジミ・ヘンドリックスがこれをカバーしてから有名になり、その後、いろいろな人がこの曲をカバーしてきました。2004年のイギリスでの「ベスト・カヴァー・ソングTOP50」では1位になったそうです。
ボブディランの原曲は、3つの和音を繰り返しながら、ボブ・ディランが語るように歌う、非常にシンプルで地味、そして渋い曲です。
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この曲をジミ・ヘンドリックスは、シンコペーションを多用したスリリングでドラマチックなハードロックに仕上げました。まるでエレキギターのソロが曲のサビのようになっている点も斬新です。
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ジミヘンをリスペクトしていたエリック・クラプトンも、クリントン大統領の目の前で(笑)、この曲のカバーを演奏しています。
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この曲がなぜ人気があるのか、日本人だとピンと来ない人が多いのではないかと思います。もちろんエレキギターが主役となっている、ジミヘンのアレンジも素晴らしいのですが、人気の理由は歌詞にもあるのではないかと思います。
この曲の歌詞は、旧約聖書の「イザヤ書(21:6-9)」をもとにしており、そこにはバビロニア帝国の崩壊を予言している部分があります。そんな大昔の話を歌にしてもしょうがありませんから、これは何かの暗喩になります。バビロニアは当時の世界強国であり、「黙示録」にも触れられているように、その都市バビロンは、退廃と堕落の象徴です。となるとこの歌詞は、現代の世界強国の堕落と商業主義を批判したものだと考えられます。
詩を見ていきます。
「ここを抜け出す道があるはずだ」
道化師が泥棒にそう言った
「あまりにも混乱していて休むこともできない
実業家達は俺のワインを飲み、
農民は俺の土地を耕す
彼らの誰一人として、
ワインや土地の価値について知らない」
「そんなに興奮しなくてもいい」
泥棒が やさしく言った
「我々の周りにも、人生は冗談に過ぎないと
感じている奴が沢山いるじゃないか
でもお前や俺は、もうそういった事を卒業したんだ
そしてこれは、俺たちの宿命じゃない
だからもうウソを話すのはやめようじゃないか
もう夜も更けてきた」
見張塔から王子達が
ずっと外を見張っていた
その間、女達や裸足の召使い達が
出たり入ったりしていた
遠くのほうでヤマネコがうなり声をあげた
馬に乗った二人が近づいてくる
そして風が吼え始めた
「道化師(ピエロ)」は、自身を自嘲した姿でしょう。彼は音楽産業のために、大衆を酔わせ現実から目をそらさせる為の音楽を作る役目を負っています。「ここを抜け出す道があるはずだ」という言葉から、自身のもがきが感じられます。
「泥棒」は「道化師」の友達で、世の中の仕組みを理解している仲間です。商業主義に仕え、現実の不正を知りながらも、巧みにカネを稼いでいる人達です。「人生は冗談に過ぎない」というのが、彼らの悟りを示しています。
体制を批判しても何も変わらない、ならば、もう大衆に語るのは止めて、せめて仲間内だけでも本当の事を語ろうというのが、「ウソを話すのはやめようじゃないか」という言葉から分かります。さらに「もう夜も更けてきた」という言葉から、既にもう手遅れの状態であり、帝国の崩壊も間近だということを暗示しています。
3つめの歌詞では、突然、場面が変わります。見張り塔はもともと、帝国の崩壊を監視するものですが、ここでは、まるで、帝国そのものを表しているようにも見えます。王子達は、裸足の召し使いや女で象徴される大衆が、何も知らずに駆け回る姿を下に見ながら、冷静に聡く世界を見つめる存在です。
しかし、帝国の崩壊を告げる2人の使者が現れ、不気味な「ヤマネコのうなり」声に加えて、「風が吼え始め」たのが聞こえ、帝国の崩壊を暗示しながら、終わります。
どれひとつ反体制的な言葉を使っていないにも関わらず、体制を批判しているという巧みさ、それがミュージシャンや聞き手の心を捉えるこの曲の大きな魅力になっていると思います。
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Posted at
2014/05/20 18:18:58
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