
ここ1か月くらいで、この3種類のコミックを読んでました。
「虹色のトロツキー」が8巻、「王道の狗」が4巻、「戦空の魂」が12+3巻です(^^ゞ
トロツキーとか、王道とか覇道とかって言葉、今の人には馴染みがないかも知れませんね。
安彦良和氏はご存知の方も多いと思いますが、虫プロやオフィス・アカデミー、サンライズに所属され、「ヤマト」の絵コンテ、「ガンダム」のキャラクターデザインなどを担当されています。
以前、少し書きましたが、ふとしたきっかけで「
虹色のトロツキー」を手に取り、すごく面白かったので、あとがきにあった著者お勧めの「
王道の狗」も続けて読んでしまいました。
「虹色のトロツキー」は、元日本陸軍将校&満鉄職員の父とモンゴル人の母を持つ主人公が、満州国の建国大学に強制的に編入させられるところから始まります。
関東軍の暴走&謀略によって作られた満州国ですが、曲がりなりにも当時のスローガン、五族協和(日本人、朝鮮族、漢族、満族、蒙古族)を信じていた人は多かったり、やはりの、憲兵や特務機関の横暴と、それに対する抗日戦線や必ずしも一枚岩ではない馬賊が描かれていて興味深いです。
主要な登場人物として、大連特務機関長であった
安江大佐がいますが、ハルビン特務機関長であった
樋口少将と共に満州にユダヤ人を受け入れたり、上海の租界に欧州から逃れてくるユダヤ人を受け入れようと尽力された方です。
実在された人物で、ご子息が巻末に解説も書いていらっしゃいます。
分け隔てなく接する方だったそうで、ご子息も大連の官舎の近所に住む中国の人たちと親しくされていたそうです。
終戦当時は予備役だったのですが、なぜかソ連軍に逮捕されて収容所で病死と、不遇な亡くなられかたをされていますが、樋口少将と共にイスラエル建国功労者として表彰されています。
当然、同盟国のこのような動きを快く思わないドイツは、「ワルシャワの虐殺者」と呼ばれたヨーゼフ・マイジンガーSS大佐をドイツ大使館付警察武官として送り込んで、
1.廃船にユダヤ人を詰め込み、東シナ海上で撃沈する
2.岩塩鉱で強制労働に従事させる
3.収容所を建設し、ユダヤ人を収容して生体実験の材料とする
を日本に迫ったそうですが、
「猶太人対策要綱」を国策としていた日本はこれに従わなかったんだそうです。
(詳しくは「
河豚計画」)
僕もこの辺り、虹色のトロツキーを読んで初めて知ったんですが、普通知られているのは、「日本のシンドラー」杉原千畝が、個人的義侠心から政府の意向に反して大量のビザをユダヤ人に発行した、と言う事ですが、実際には日本政府自体がそのような方針だったのです。
また、杉原千畝も政府の方針に反したから外務省を首になったように伝えられていますが、それも全くの誤りだそうです。
この辺り、当時の日本を軍国主義として悪玉に仕立てる上で情報を収取選択しているように感じられます。
その他、赤系ロシア人と白系ロシア人の対立とか、中国における民族問題とかも描かれていて、色々感じる事が多かったです。
物語は色んな実在人物なども登場しながら、中国の東北や上海を舞台に進むのですが、最後の舞台となるのがノモンハン事変です。
中国との争いをソ連に向けさせようとする意向で、関東軍参謀辻政信が事変を拡大させたと描かれています。
実際には泥沼の日中戦争を終わらせる事が出来ないまま、より広い太平洋で世界中を相手に戦争を始めてしまった訳ですが…(昭和天皇の杉山陸相に対する叱責の言葉)
主人公は満州軍の軍官学校の教員として、生徒と共にノモンハンの最前線に送られ、満州国軍(蒙古部隊)として日本軍と共にソ連軍と戦う事になります。
ノモンハン事変について書かれた軍記はこれまでいくつか読んだ事がありますが、満州国軍の立場から描かれたものは初めてだったので、とても新鮮でしたね。
元々、ノモンハンの草原などただの遊牧地帯で、目印も何もないような広い場所で誰も国境など意識する事のなかったような土地ですが、そんなところで、誰かの企みや意地や拘りのために、大勢の若者が無為に血を流すことになった虚しさを感じます。
物語は作者も言っているように、ここで突然と感じさせるような終わり方をしますが、確かにこのペースで太平洋戦争につながるようなストーリーにすると、作者の精力の相当な部分を消耗したでしょう。
それくらい、綿密な取材をされていると感じました。
尖閣諸島とか、最近も韓朝など、国境紛争が絶えませんが、寸土を争うために数千、数万の命が奪われる事が本当に正しいのか、国益に叶うのか、真摯に考えた方が良いと思います。
狂ったようにナショナリズムを煽る人達は、誰かに踊らされていないか、と。
「王道の狗」ですが、こちらは自由民権運動盛んな明治中~末期の日本が舞台になります。
ちょうど坂の上の雲と同じ時代ですかね。
北海道の監獄に繋がれていた主人公が石狩道路建設の労役作業中に脱獄するところから物語が始まります。
これまで知識としてアイヌ問題は知っていましたが、物語としてアイヌに対する和人の蔑視を読むと、今は同化して気付かなくなっただけで、日本にも民族問題があったのだと気付かされます。
琉球だってそうだし、元々征夷大将軍ってのは、北夷を征伐するための大和朝廷の将軍だった訳ですからね。
また、教科書では自由民権運動とは、日本における民主主義の萌芽のように説明されますが、実際には6、70年代の学生運動のように口では立派な事を言っていても行動が伴っていないトップがいたと、この「王道の狗」では描写されたりしています。
日本はアヘン戦争後の中国の有様を見て、開国&富国強兵の道を歩んだ訳ですが、それまでの長い東アジアの歴史で、中国や朝鮮とはほとんど戦争もなく兄弟付き合いをしてきており、当初は共に国を開いて、共に欧米ロシアに負けないようにしていくつもりだったんですね。
そのような気概を持った、金玉均や孫文と言った人々を支援していたのですが、華夷思想から抜けられない守旧派から守らなかったり、日本自身が帝国主義に毒されて対華二十一ヶ条の要求を出したり、と言った歴史を描いています。
最後は「虹色のトロツキー」とは違って、映画「明日に向かって撃て」を彷彿とさせる、含みのある終わり方になっています。
「戦空の魂」は少し毛色が違いますが、一話読み切り型の、太平洋戦争中の航空戦を舞台にしたストーリーです。
各話毎に色んな飛行機(戦闘機、爆撃機、攻撃機、偵察機、研究機などなど)が中心になっています。
人物の描写は少し甘いんですが、飛行機のデッサンがカッコいいので、一気に読んでしまいました。
どうも戦記物コミックにはメカのデッサンがイマイチ(と言うか基本的デッサンがなってない)のが多いので…。
こちらも基本的には、特攻など大勢の人が亡くなっていく戦闘の虚しさを描いた作品です。
近代は学校の歴史では通り一遍の部分しかあまり教えない時代と思いますが、まだまだ興味深い色んな発見がありますね。