2016年09月22日
ボルトとナットの不思議な関係。
「ネジは、円筒や円錐の面に沿って螺旋(らせん)状の溝を設けた固着具。主として別個の部材の締結に用いられるが、回転運動と直線運動との変換などにも用いられる。
ボルトのように外表面にネジ山がある雄ネジとナットのように内表面にネジ山のある雌ネジがある。雄ネジと雌ネジの組み合わせで使用されるが、後者がなく木材や薄い金属などの部材に穴を開けながら締結するものもあり木ネジと呼ばれる。」と、ウィキには記載されている。薄い金属という表記があるから、この木ネジにはタッピングネジも含まれると解釈できる。
ネジとボルトの違いは?といえば、「頭が違うから使う工具が違う」ということだが、太さで言うと、通例、M5かM6辺りから頭が六角形になっている物や六角形の孔があるもの(キャップボルト)が一般的になり、長さも豊富だ。キャップボルトは、六角レンチという工具を使う。ネジはねじ回しを使うから、締結力は弱くなる。小さなネジ孔でも、強固に締結する場合はボルトを使う。
絞めたり緩めたりするときは、必ず、きちんと合った工具を使わないと、ケガをしたり、ボルトやナットの角をダメにしてしまう(「ナメテしまう」と表現する)。これが、いい加減な場合が多く、オーバーホールなどの時、角がナメテいて緩めるのに往生する。最悪、タガネで割ってしまうこともある。
M4以下でも六角形の頭をしたものはあるが、使用目的は限定的だ。M4以下のボルトが豊富に揃っているのは模型屋さんだったりする。
一方で、機械の電源部のように、大きな電流が流れている箇所の端子などは不用意にスパナを使うと短絡の危険があるから、M6かM8、電流値によってはM10のネジを使っている実例はある。巨大なネジ回しが要るが、スパナを使うよりは安全だ。
ネジやボルトには、それぞれの場所に呼び名がある。

一方、雄ネジと雌ネジの関係は(dとDとp以外のアルファベットは、この際、無視して結構)

ちょっと、ややこしい絵だが、M8とかM10と呼んでいる部分は〈d又はD〉と書かれている部分。dはナットまたはネジ孔の方、Dはネジやボルトの太さの方だ。ネジやボルトとナットをセットで買う場合は、dとDが同じなのは当然だが、p(ピッチ)が揃っていないと締まらない。ネジ孔にはめるネジやナットを買う場合は、pを事前に調べて、合ったものを買う。同じ太さでも「並目」とかピッチの細かい「細目」があるので、要注意だ。M8とかM10の数字は公称で、dやDを直にノギスで測っても、若干違う。ナットは少々大きく、ネジやボルトは少々細い。
さて、雄ネジの斜面と雌ネジの斜面は角度が同じで、イラストのように接触しているのが前提となっている。
ところが、雄ネジの斜面と雌ネジの斜面が接触しているのなら、例えばハブボルトにハブナット(特に袋ナット)をねじ込んでいくとき、締めていくと、斜面の接触面積は徐々に増えて段々摩擦が大きくなるから、指で回すのが徐々に重くなるはずだ。ところが、ネジ山が潰れていない限り、ホイールに当たるまで、ほぼ同じ重さで回っていく。
不思議じゃねえ?
これには種があって、雄ネジの側は首下からネジ先まで、ピッチ(p)や山の高さが均一ではない。ネジの切り方が微妙に変わっているのだと。そうしないと、ネジやボルトを使う作業の能率が低下する。切り方と表現したが、ネジやボルトに螺旋を入れる時に、そうなってしまうという説もある。
つまり、斜面同士が密着して「ネジやボルトが効く」のは首下からの数山と座面と部材との摩擦だ。摩擦力を確保するためにスプリングワッシャで突っ張ったり、平面を広くして摩擦を稼ぐために平ワッシャを使う。
だから、1回転か2回転緩めて摩擦力が下がると、段々緩んで最後は外れてしまうか、負荷のかかり方によっては折れてしまう。
じゃあ、緩まない締め方は、というと「無いと答えるのが無難」。ボルトやネジは緩んで当たり前というのが前提だ。緩みの有る無しにかかわらず、定期的に増し締めする。
が、絶対緩んでもらっては困る箇所もあるし、複数のボルトやネジを使っている所は、締付け力にバラツキがあると、部材の固定が不均一になる。
「これなら締付け力もバラツキが無く均一で、緩むことは、まず無い」という締め方は、塑性域角度法(塑性回転角法ともいう)だ。
材料に加えた力を取り除くと元の形状に戻る範囲を「弾性域」、力を取り除いても元に戻らない範囲が塑性域だ。普通、材料は弾性域で使うが、塑性域変形を前提とするという場合もある。プレスが一例だ。金型をバチャンと締めて放したら板に戻った、というのでは話にならないから。
塑性域角度法は、ザックリ言えばボルトが延びて変形するまで締めることだ。普通のボルトでやったのでは、先に頭がちぎれてしまう。特殊な材料で作られたボルトを、塑性域変形するまで締める。事前にボルトが塑性変形するトルクを測定しておいて、そのトルクで締める。あるいは、首下が部材に密着してから更に何度回せば塑性変形するかを測定しておいて、その角度までレンチを締める。
この方法で締めれば、締付け力も均一で、緩むこともない。好例は、エンジンのシリンダーヘッドとシリンダーブロックを締結するボルトの締付けだ。シリンダーヘッドとシリンダーブロックの合わさる面を完全な平面で仕上げることが出来れば、ガスケットが省略できる。量産エンジンでは、ガスケットを入れておいた方が無難、ということで入っている。し、液体ガスケットを使う場合も。
が、締付け力が均一なら、各シリンダーの圧縮や膨張までも均一になり、シリンダーヘッドとシリンダーブロックが暴れることもないから不要な振動も出ず、静かになる。
ただし、締めた時にボルトは塑性変形するのだから、ボルトを緩めてもボルトの長さは元に戻らない。再利用できないのだ。ボルトの部品番号の近くに×印が付いている。
締め付ける部品と部品の間に、弾性体、例えばゴムブッシュがある場合は使えないが、固体同士を塑性域角度法で締めれば、本来の性能を発揮するのに有効だ。不要なガタも出ない。
一般車ではコストが掛かるからやらないが、モータースポーツの世界では、あちこちが塑性域締めだ。でないと、持ち応えないからだ。
何事にも例外はある。これを称して例外と言えば怒られるだろうが、例えばガス管の先端に切ってあるネジや、グリスニップルのネジ部分だ。ネジ全体がテーパー状になっている。管用テーパーネジという。相手側の雌ネジもテーパーになっていて、締めれば締めるほど締まって、ガスが漏れない。ガスに限らず、気体や流体を扱う部分のねじは管用テーパーになっている場合が多い。
しっかりしたパッキンを入れることができる(例えば、エンジンのオイルパンのドレンボルト)なら、一般的な平行ネジでもいい。
どちらかと言えば裏方のボルトやネジにも、たまには目を向けると新しい発見や気付きがあるもんだ。
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パーツ | クルマ
Posted at
2016/09/23 08:39:30
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