
忘れもしない あの夏
俺は家を出た
親も捨て
家も捨てて
独り
飛び出した
28歳の夏だった
当時 既に現在の仕事の資格は有してた
しかし
それよりもっと大切なものが俺にはあった
それは何なのか?
「生きる」ということを模索してたんだよ
今だからわかる
家を飛び出した俺には
行くあても無かった
独り パチンコ屋でなけなしの2万円を賭けてスロットマシーンを打ち続けた
すると
隣に座っていた中年男性が俺に声をかけてきた
「無闇矢鱈と打つのは素人だ それでは勝てんさ よーく他人が打ってる目を読むんだ そうすれば出る台が見えてくるよ」
その男は確かに次々と台を替わってる
一カ所でいつまでも打つのではなく
誰かが打ち込んで離れたら必ずその台の目を見に行き そして元の席に戻って来る
そういうことなのか!
その夜
パチンコ屋を出る時に男がこう言った
「明日も来いよ 待ってるぞ」
俺は生半可に返事をし
その場を去った
そしてパチンコ屋で儲けた2千円と2万円を握りしめ歩いた
気がつくと
お城が見える公園を歩いてた
そのままベンチに横になり
知らぬ間に
眠った
蚊に刺され痒みで目が覚めたのがお昼前
すると その公園の住人らしきホームレスが俺に声をかけてきた
「お兄さん若いのに何でこんな所で寝てるんだい?よかったら家に入りな!」
家?どこに??
その視線の先には 段ボールを積み重ねただけのゴミの塊
しかし そのホームレスの笑顔に引き込まれ
家と呼んだその中にお邪魔した
すると!!
「おいおい! こんな家でも玄関ってものがあるんだよ! そっちは台所じゃね〜か! 玄関はあっちだよ!」
なにを怒ってるのか意味不明だったが
その指差す方から上がらせて貰った
そして延々と俺に説教が始まった
「若いのに こんな所で寝てたら駄目だよ 夢を持ちなよ! もうここで寝泊まりするなよ」
行き場を失った俺は
また昨日行ったパチンコ屋へ入った
案の定
昨日のあの男が居る
「おはようございます」
俺がそう言うと
「挨拶はいいからお前は俺の弟子になれ」
男はぶっきらぼうにそう返した
その日
徹底して数百種類あるリーチ目を教えてくれた
そしてその夜
男に誘われて一緒に飲みに行った
何で俺にそんなに親切にしてくれるのか気になり男に聞いた
「何故いきなり僕なんかに大事なパターンを教えてくれたんですか? 何で僕にそんなに親切に?」
・・・
・・・
暫くの沈黙の後
男は酒の勢いもあり重い口を開いた
「実は俺は家を出てるんだ おそらく捜索願を家内は出してるだろう お前は俺と同じ匂いがしたんだ
何かに迷い 何かから逃れようとしてるのが気にかかったんだ お前の・・・」
そこで男は話を止めた
男の目には涙が溜ってた・・・
それを見た俺も
こみ上げてくる悲しみと不安で涙が一杯溜った
それから数日間
ビジネスホテルに泊まってはパチンコ生活をしてたある日
男がこう言った
「俺・・・家に帰ろうと思うんだ・・・お前に色んな話をしたら帰りたくなった 良かったら一緒について来てくれないか?」
俺は一つ返事で「うん」とだけ言った
次の日
俺たち2人は列車に乗って隣の県境まで行った
男は「あの丘の上にあるのが俺の家なんだ」と指差した
不安そうな顔をしながら男は言った
「もし俺が帰って 家内が許してくれなかったら また一緒にパチンコやろうな お前は良い奴だ きっと幸せになる お前は必ず誰かが導いてくれるよ」
それが彼の最後の言葉だった
俺はずっと 彼が家に戻るまでの姿を目で追った
そして
彼は家の中に入り 数分後
もう一度外へ出てきて
俺に向かって大きく手を振った
想い起こせば
色んなことがあった
あの日 俺が家を出て「一人前になるまでは もう家には帰らない」
そう決めてから・・・
でも必ず誰かが俺を導いてくれた
苦しい時に必ず手を差し伸べてくれた
そしてここまで歩いて来れたんだよ
公園で寝てた俺が・・・フェラーリに・・・
あのZEROの何も無かったことを思えば
全てを失うことなんてどうってことない
全部失ったとしても
0なんだ
けっしてマイナスになるわけじゃない
おそらくこの気持ちが
俺をここまで引っ張ってくれた
元々なんにもないホームレスの俺
この先どんなことが起ころうとも
俺は俺らしく生き
いつかは
ラ・フェラーリだ!!!
Posted at 2014/03/07 15:11:00 | |
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