血気盛んだった父

父は歳の割に地味臭いの嫌い、カッコいいものを好んだ

ワタシがジェミニクーペからカムリセダンに変えた時

父・・・「これより、前の黄色いクルマの方がカッコ良かったのになー」

ワタシ・・・「子供が二人いるんだから、セダンの方が便利なんだよ」


父は理不尽なことがあると、すぐに怒りモードに突入した

母・・・「この間、市バスにクラクション鳴らされたら、交差点でクルマ停めてバスの運転手に
　　　　怒鳴り込みに行ったんだよ、もう！」

父・・・「歩行者を前にして停まったら、あのクソ運転手が鳴らしやがったんだぞ、我慢できるか！」

蕎麦屋に行って、待たされた挙句に自分よりも後に来た客が先に蕎麦が渡されるのを見て

父・・・「おい！皆んな帰るぞ」

店員・・・「お客さん、ちょっと・・・」

父・・・「いい加減にしろよ、店主を呼んでこい！」


母が亡くなってから急に老け込んでしまい、性格が丸くなっていった

店員さんには「ありがとう」と笑顔を欠かさず、ワタシ達家族にも「感謝」の言葉を欠かさず

喧嘩もせず、ニコニコ一人暮らしを続けた


一緒に暮らそうと進言しても「一人が気楽でイイ、お前の嫁の世話にはならん」と拒んだ

ご近所の気心の合う一人暮らしのご婦人と付き合うようになって、元気が出たようだった

そのご婦人と父が老いた身を互いに気配い、毎日電話で連絡を取り合っていた

ご婦人に父のことを「よろしくお願いします」と頼んだら「こっちが助けてもらってるから感謝してるわ」


そのご婦人が４日の昼、電話に出ない父を不審に思って駆けつけた時には、既に心肺停止だった

ワタシは２日に父のもとを訪れ、飯を一緒に食べ、オリンピック開催候補地やらの話をしたのが

最後になった

あまりにあっけない幕切れに祭壇を前に座っていても実感が湧いてこない　


夜、後片付けをして自宅に戻る時、いつも言われていた「運転には、注意しろよ！」という言葉が

扉越しに聞こえたような気がした