
フィリピン料理は、中国やかつての宗主国であるスペインの食文化の影響を受けている[1]。他の東南アジア諸国では様々な王朝の宮廷の料理人が洗練された料理を作り出していたが、統一国家が形成されていなかったフィリピンに「宮廷料理」は存在しない[2]。スペイン統治下のフィリピンではカトリックの布教を背景とする同化政策が進行し、テーブルと椅子で食事を摂る食習慣、カトリックの行事で出される特別な食事、調理技術などがフィリピンの食文化に導入された[3]。支配階級であるスペイン人の食文化はフィリピン人のエリート層に受け入れられ、他方で交易のためにフィリピンを訪れた中国人の食文化は庶民の家庭で受け入れられていく[4]。19世紀はフィリピン人の食文化に大きな変化が起こった時期と考えられており、フィリピン化されたスペイン料理と中国料理が一般家庭に普及していった[3]。19世紀末から第二次世界大戦後までフィリピンを統治したアメリカの食文化は、スペイン、中国ほどの影響は及ぼさなかった[5]。アメリカの影響を受けて、マヨネーズで和えたジャガイモと鶏肉のサラダ、豆料理がフィリピンでも食べられるようになる[5]。また、第二次世界大戦後にはアメリカからファストフードがもたらされた[6]。アメリカからもたらされたものの一つにケチャップがあり、フィリピンではバナナを赤く着色したバナナケチャップも作られている[7]。
スペインからフィリピンにラードやオリーブオイルを使って炒める料理法がもたらされ、フィリピン料理に脂肪とコレステロールが多く含まれる一因にスペインからの影響が挙げられている[8]。複数の地域にまたがって食べられている国民食ともいえる料理にはスペイン風の名前が付けられており、ほとんどがスペイン統治時代に成立した料理である[9]。スペイン料理のコシードに酷似する牛肉、鶏肉、野菜などをニンニク入りのソースで煮込んだプチェーロはフィリピンを代表する料理の一つに数えられ、庶民の味覚として親しまれている[10]。しかし、スペイン風の名前が付いたフィリピン料理の多くは、調理方法や素材がスペイン料理と大きく異なっている[11]。「アサド」はスペイン語では「ロースト」を意味し、セゴビア名物の豚の丸焼き「コチニーリョ・アサド」などの料理が知られているが、フィリピンでの「アサド」は中国系移民が伝えた叉焼を意味している[12]。フィリピン料理の一つであるアドボは野菜、魚介類などの様々な食材を醤油と酢で煮込み、ニンニクで風味を付けた料理であるが、スペイン料理に「アドボ」という名前の料理は無く、漬け汁を意味する言葉「adobar」に由来する[12]。チョリソー・デ・ビルバオは様々なフィリピン料理に使われる油分の多いソーセージだが、スペインのビルバオで同じ種類のソーセージは作られていない[13]。
スペイン料理と同じく、フィリピン化された中国由来の料理も多い[3]。スペイン人の来航以前から中国から料理、料理法を輸入していたフィリピン料理には使用する野菜、米食の位置付けなどで中国料理と共通する点が多いが、それらのフィリピン料理が中国料理に連なるとは言い難い[14]。スペイン統治時代、レストランでは客であるスペイン人のために中国料理にスペイン風の名前が付けられ、フィリピン風のアレンジを経て現在はフィリピン料理として親しまれている[15]。フィリピン料理にはパンシット・カントンという具の多い焼きそばがあるが、広東料理にパンシット・カントンに相当する料理は無い[1]。フィリピン料理には丸い中華鍋が使われるが、中国風の短時間の炒め方はあまり行われない[8]。
外国からの影響を一切受けていない、「純粋な」フィリピン料理を挙げることは難しい[16]。16世紀の航海者フェルディナンド・マゼランの航海に同行したアントニオ・ピガフェッタはパラワン島で米を調理した料理でもてなされたことを記録し、マゼラン一行が食べた料理はスマン、カラマイ、クチンタの名前で後の時代でも親しまれている[16]。牛のテール肉(あるいは胃袋)を煮込んでピーナッツソースで味付けしたカレカレ(カリカリ)は純フィリピン料理の1つに数えられるが、欧米の食文化に憧れる一部のフィリピン人はカレカレを蔑視している[16]。伝統的にフィリピンでは手食(Kamayan)が行われていたが、スプーンとフォークを使った食事が一般的になっている[6]。フィリピンには出来立ての熱い料理をすぐに食べる習慣は無く、全ての料理は冷ました後に食べられている[11][12]。大皿に盛られた料理を各人が自分の小皿にとって食べるフィリピン料理の形式は、かつての共食儀礼の名残だと言われている[6]。皿に盛られた副菜のほとんどは一口大に切り分けられているため、皿にとった料理をナイフで切る必要はない[17]。
Posted at 2016/08/24 10:16:13 | |
トラックバック(0) | 日記