
スノーボードに夢中だった頃書いた小説です。
もうだいぶ前になりますか・・・。
その頃はいつもハーフパイプに入って
遊んでいました(*´ω`*)
一応ロードスターを登場させていますが、
スノーボード(特にハーフパイプ)を知らないと
なんだかわからないと思います(;^ω^)
その時はスルーで(笑)
画像はネットで拾いました。
長いっす(^o^;)(笑)
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ダブル飛ぶより大切なもの
今日も大雪だ。
まったく、雪が降るのは嬉しいけど大雪は困る。
ゲレンデで滑りながら帰りのことを心配していた。
俺の車は四輪駆動じゃないからだ。
仕方ない、早めに上がることにするか。
駐車場に行ってみると、俺の愛車は完全に雪に
埋もれていた。こりゃ、掘り出すのも一苦労だ。
心配だったのは幌がつぶれてないかってこと。
少しずつ雪を払っていく。丸みを帯びた可愛らしい
ボディが出てきた。幌は大丈夫だったようだ。
どうにか愛車を掘り出してエンジンをかける。
2シーターなので荷物を置く場所が無くて大変だが、
どうにか工夫して押し込む。慣れたものだ。
ボードは助手席にギリギリどうにか収まるのだ。
さて、宿に帰るとするか。クラッチとアクセルをを
軽く踏み、ゆっくりと前に出ようとする。
少しだけ動いたが、だんだんタイヤが空回りする
ようになってしまった。駄目だ。まったく動かない。
焦れば焦るほど深みにはまって行く。まいったな。
運良く知り合いも何人か帰るところだった。
「おい、りょう、どうしたんだ?動けないのか?」
「おー、スタックしちゃったよ…。」
「そんな車で滑りに来てるからだよ。」
「そりゃそうだけど。悪いけど押してくれる?」
「いいよー、困った時はお互い様だ。」
「悪いねぇ。」
どうにか走り出すことができた。
俺は”そんな車”と言われてちょっとムカついたが、
表には出すことは無かった。
普通に考えたら、2シーターのオープンスポーツで
滑りに通うなんておかしなことだからね。
でも、これが俺のやり方。人がなんと言おうと
俺のやり方はは変えない。
だいたい効率ばっかり考えて動いてたら、人生なんて
つまらないもんだよ。
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俺はここ何年か冬になると山に篭っている。パイプが好きなので
どうしても毎日入りたいのだ。スノーリゾートにアパートを
借りてのんきに篭り暮らししてる。
毎日滑れるのって幸せだよ、ほんと。
やっぱりパイプは最高だ。最近は安定してダブルくらいは飛べる
ようになってきた。ちょっとしたコツをつかんだんだ。
最近はオートマティックに飛んじまうので誰かに聞かれても
説明するのは難しい。適当にもっともらしいことを答えておく。
俺のパイプでのルーティーンはだいたい決まっている。
フロントサイドからドロップインし、1発目のバックサイドは
馬鹿高くぶっ飛んでトゥィーク。腰が痛くなるくらいひねるのが
ポイント。
2発目のフロントはインディーノーズボーン。思いっきり
蹴り上げてやればスタイリッシュに決まる。
3発目のバックサイドは、これまた思いきりぶっ飛んで
ビッグマック。頭を早く入れ過ぎないのがポイント。
テリエみたいにボーンアウトするのが好き。「なんであんなこと
できるの?」って聞かれるけどできちまうんだな。
4発目はロデオ540°これもなんだかできちまった。
フラットスピンの540°よりなんだか簡単だった。
5発目は900°軸ずれ。スイッチでランディングするのが
嫌で回してたらできた。
あとはハンドプラントでお茶を濁す。
俺は横っ飛び気味なので、そんなにヒット数は多くないのだ。
スイッチも嫌いなんだ。面倒くさいと思う。
いつものように同じルーティーンでぶっ飛んでいた。
「イェーィ!!」と声がかかる。何度聞いても気持ちがいいね。
もっと高く飛びたくなってくる。たまにはフリーランもするが
基本的にはパイプのみ。
リフトに乗って回るのでハイクはほとんどしない。
楽できるならそのほうがいいと思う。
パイプを滑り終えリフトの方に向かおうとしたら、誰かが
俺のウェアの背中を引っ張った。誰だ?と思って見てみたら、
たまにこのパイプで見かける女の子だった。
「ねぇ、すごいじゃん。高いよ~、いつ見ても。
あたしもさー、パイプ好きなんだよね。
でさ、名前なんていうの?」
急に話しかけてきやがった。正直なんだこいつ、と思った。
でも無視する訳にいかないんでとりあえず答えた。
「りょうだよ。」ぶっきらぼうにね。
「あたしは、ゆかだよ。よろしくぅ!!」
やつはやたら元気に言い放った。
これが俺とゆかの出会いだった。
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また今日も、ちょっと寝坊気味に滑りに出かける。
いい天気なのでロードスターの幌を開けて冷え切った
空気の中を走る。ウェアを着てヒーターを全開にして
いれば、そんなには寒くないしなかなか気持ちいい。
助手席の板は風でぶるぶる震えていてかわいそうだが
ちょっと我慢してもらおう。
平日なのでやたら空いている駐車場に車を停め、
ゲレンデに向かって歩いていく。この時間がなんと
なく好きだ。いいことばかりしか考えていない。
また気持ち良く飛べるって信じてるから。
とぼとぼと雪道を歩いていると、後から俺を呼ぶ
やつがいる。
「りょう!遅いじゃん!!」うるさいゆかだ。
「おはよう。早く滑りに行こう。」
「あたしもさっき来たんだけどさ。
りょうってロードスターで滑りに来てるの?
珍しいね。今度乗せてよ。絶対乗せてよ!!」
俺はロードスターの事をゆかに気にかけてもらって、
なんだか嬉しかった。いいやつじゃん、と思った。
「おう、乗せてやるよ。でも普段は助手席は
スノーボードが乗っててお前の乗るとこはないよ。」
俺は嬉しかったけどそれを見せるのが嫌で、笑いながら
ちょっと嫌味っぽく答えた。
「なんか板を載せるラックみたいのは無いのかなぁ。
私が買ってあげる。」
「いいよ、そんなことしてくれなくても。」
「だって助手席に乗りたいんだもん。」
俺は返事せずパイプに向かった。
今日の滑りも好調だ。高さは相変わらず安定しているし、
得意のマックもきっちりメイクできた。最高だね。
気分のいいところで、パイプの下で一休みしていた。
「ねぇ、りょう。」また、ゆかが来た。
「なに?」
「一緒にプロを目指そうよ!」
「なんだよ、唐突に。」
「りょうの余裕でダブル飛べる高さと、超男前な
マックがあれば絶対にプロになれると思うんだ。
りょうがプロになるためなら、あたしなんでもする。
だから一緒にがんばろうよ。ね!!」
「お、お前なぁ。」
「それで、お願いがあるの。あたしにもマック
教えて。お願い!!」
俺は返事せず、リフトに向かった。
「りょう!!」ゆかが追いかけてきた。
「しょうがねぇなぁ。なんだよ。」
「話し聞いてよ~!!」
・・・お前が一生懸命なのは分かったよ。でも、俺にも
考える時間をくれ。俺は必死なゆかの顔を見ながら思った。
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「おいゆか、マックはあとで教えてあげるよ。
そうだなぁ、ベーシックエアーでオーバー(ヘッド)
飛べるようになったらだな。」
「え~?!オーバー?飛べるわけないじゃん。」
「そんなんじゃ駄目だ。諦めろ。」
「わかったよ~、がんばるから絶対にマック
教えてね!よろしくぅ!」
俺はだんだんゆかの策にはまって、よく話すようになっていた。
ゆかは以外と根性があって、どんどんうまくなっていった。
リップは完全に抜けきり、このパイプに入ってる女の子の
中じゃ1番高く飛ぶようになった。
そして、なによりも負けず嫌いだった。
ある日、パイプを滑り終えたゆかがディガー小屋の下で
うずくまっていたので心配になって見に行った。
ゆかは泣いていた。
「どうした?怪我でもしたか?どこか痛いのか?」
「そうじゃないよ、悔しいんだ。どうしても思った
ように飛べなくて悔しいんだよ!ちくしょう!!」
「いや、きれいに飛べてるよ。心配するな。
今はたまたまパイプの段差に引っかかって失敗
しただけだ。だいじょうぶ。」
俺はゆかの髪をなでて、ハンカチで頬の涙を拭いてあげた。
「いくぞ。」
「うん。」
その頃から、俺は少しゆかを大切な存在に思うように
なってきた。いい加減そうに見えて、実はとっても
真面目で一生懸命なゆか。そんなところがいいなと
思った。良く見ると、まつげが長くて可愛い目をして
いるんだ。
ゆかは俺の篭り部屋に住むことになった。俺が借りていた
アパートは意外と広くて使ってない部屋もあったので、
そこをゆかに使ってもらうことにした。
もちろん家賃は割り勘だ。俺もだいぶ楽になる。
「りょう!夕飯は何がいい?」
「あ~、何でもいいよ、簡単なもんで。」
「カレー好きだよね?」
「うん、いいかも~!」
「じゃ、作ってあげる!!」
こんな話をパイプの下でもするようになった。
ゆかは見かけによらず料理が得意で、しかもとても
楽しそうだった。俺は自分で料理を作ることは
無くなった。食費はもちろん割り勘だし、片付けは
俺の仕事に決まったけどね。
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「りょう!!起きてよ!!」
「なに?」
「見て見て!!」
俺は寝坊してゆかに起こされた。なにかを持ってきたらしい。
よくみるとそれは、ロードスターのトランクに着けるキャリア
だった。なかなか良く出来たものだ。
「あれ?いつの間に手に入れたんだ?これ?」
「この前山を降りたときに注文してきたんだよ。
さっき宅配便で届いたの。」
「じゃ、せっかくだから着けてみるか!」
「うん!」
アパートを出てすぐに停めてあるロードスターにキャリアを
着けに行く。路面は凍っていて、油断すると転んでしまう。
「簡単に着くもんだなぁ。いいじゃん。」
「やった~、これでやっと助手席に乗れる~!!」
「じゃ、今日はロードスターで滑りに行こうか。」
「ホント?!うれしいうれしい!うれしい!」
最近はゆかの軽自動車の四駆で滑りに行っていた。
そのほうがガス代が浮くからね。篭り生活は厳しいのだ。
はじめてロードスターのキャリアにスノーボードを
つけてみる。まるで太いリアウィングのようで愛らしい。
「出発するぞ~。」
「うれしいな、うれしいな。」
「また言ってるよ。」
俺は笑いながら言った。
今日は晴れている。俺は迷うことなく幌を下ろした。
真っ白い道の上をロードスターは走り出す。
「気持ちいいね~!」
「だろ~!」
「ねぇねぇ、こんなに気持ちいいんだったら、
できるだけロードスターで滑りに行く日を多く
しようよ。軽でなんか行くのもったいないよ。」
「お~、そうしようか。もしスタックしたら押して
くれよな。ゆかは力持ちだろ~。」
「ひどーい。でもがんばるよ!」
途中のコンビニでおにぎりを買い、楽しく話しながら
スキー場の駐車場に着いた。
パイプまで2人でとぼとぼ歩いていく。今日は遅かったので
もう人が集まっていた。
「おいりょう、寝坊か?」
「おはよ。そう、寝坊した。」
「ゆかちゃん、こいつ最近たるんでないか?」
「あたしがたるませてるのかねぇ?」
みんな大笑いだった。
また気持ち良くぶっ飛ぶことが出来た。
いつものように「イェーイ!!」と声が掛かる。
ゆかのエアーの高さも女の子とは思えないくらいに
なっていた。そろそろマックを教えてあげるか。
ふと見ると、ゆかは女の子に声をかけられていた。
「どうしてそんなに高く飛べるんですか?」
「すごいです。プロの人ですか?」
こんな質問をされていて、ゆかはうれしそうだった。
「ゆか、マックの練習するか?」
「えっ!?ホント?いいの?」
「うん。もうオーバー近く飛べてるからね。」
「やったー!やったー!」
「おいおい、泣くなよ。」
ゆかは泣いていた。彼女なりに良くがんばってたからね。
「りょう、大好き!!」
「なんだ、また急に…。」
「りょうに会えなかったら、パイプでオーバー飛ぶなんて
できなかったと思うんだ。だからりょうに感謝!!」
「じゃ、またうまい餃子でも食わせてくれ。」
「わかったよ、今日はあたしがおごるよ!」
俺はゆかに感謝なんかされることなんかしてない。
あいつにはパイプで飛ぶ才能があっただけだ。
その才能を引き出す手伝いが、少しでもできて俺も
うれしかった。
「ちょっと雪の上でマックのイメトレしよう。
いきなりパイプに入って縦回転は無理だからな。」
「うん。」
そうやって1つ1つ、マックをメイクするコツを
ゆかに教えた。頭を入れるタイミング、ミュートしに
行くタイミング。
ゆかは真剣な表情で俺の説明を聞き、実践していった。
「りょう!!」
「なに?」
「あたし、もうパイプでマックの練習するよ。
つうか出来そうな気がするんだよね~。」
「だいじょうぶか?」
「いける!絶対いける!」
ゆかがあんまりにも自信たっぷりなので、少しは不安も
あったけどパイプに行くことにした。
まず俺が手本をしめす。いつもはギリギリまで待って
なるべく高い位置で縦に回っているが、それでは手本に
しづらいのであまり飛ばずにマックをメイクした。
俺はパイプの下から手を上げて、ゆかにパイプに入る
ように合図を送った。
ゆかはいつものようにスピードを出してフロントから
ドロップインした。安定したボトムのライディング。
「え?」
俺は次の瞬間、信じられないことを目にした。
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ゆかはあっさりと、1発目からマックを完璧にメイクしてしまった。
しかもオーバー近く飛びながら。驚いたことに次のバックサイドでも
またその次のバックサイドでも連続してマックをメイクした。
「ゆ、ゆか!!す、すげーな!!」
俺は感激して、パイプの下まで下りてきたゆかとガッチリ握手した。
「マックなんか簡単だね~!」ゆかが笑いながら言った。
「なぁ、ゆか、俺の彼女になれ!」
「え?もう、そうだと思ってたよ・・・。」
ゆかは、また泣いていた。
「これで、りょうと2人でプロになれるかな?」
「おう、なれるよ!」
ゆかが人目もはばからず抱き着いてきた。
「おいおい!」
「だって~!!」
「ひゅ~ひゅ~!」
仲間が冷やかす声が聞こえた。
そのシーズンの関東大会で俺は3位にゆかは2位になり、全国大会に
コマを進めた。俺はどちらかというと本番に弱く、散々な結果に
終わった。1発目のトゥイークで飛びすぎてランディングを失敗し
マックはリップに引っかかった。悔いの残る大会になった。
ゆかは安定した高さと完璧なマックを武器に見事3位に入賞。
俺より先にプロ資格を手に入れてしまった。
正直言って俺は悔しかった。でも、その何倍も嬉しかった。
「プロ資格ゲット、おめでとう!!」
「ありがとう!りょうのおかげだよ!」
「いや、おまえに才能があったからだよ。俺の力じゃない。」
その日の夜、コンビニで買ったワインとチーズでささやかな
お祝いをした。ひさしぶりの酒にかなり酔ってしまい、知らない
うちに寝ていて気がつくと朝だった。
「おい、ゆか起きろ!」
「あたし、プロになれたの夢かなぁ。」
「残念だね~、夢だよ。」
俺は意地悪そうに笑いながら言った。
プロになったゆかは、俺から見ても眩しい存在になってきた。
どんどん輝きを増していった。ダイヤモンドの原石が磨かれて
美しくなっていくように。
春を迎え日本はシーズンオフを迎える。楽しかった思い出に浸り
ながら、ゆかと少しだけスノーボードと離れた生活をしてみた。
今の季節はオープンスポーツで走るには一番いい季節だ。
桜吹雪の舞う中、オープンにしたロードスターを走らせる。
「きれいだね~。」
「そうだろ~!」
キャビンに迷い込んだひとひらの花びらが、ゆかの髪と
たわむれていた。
そんなつかの間のオフを楽しんだ後、俺とゆかはフッドへと
旅立った。ゆかにはもちろんだが、俺にもメジャーなスノーボード
ブランドのスポンサーがいくつかついて、雪の上に立ちつづける
ことができるようになった。大会で勝ってブランドイメージを
アップし、スノーキッズ達に影響力を発揮するのが条件だが。
ゆかの女性ながらビッグでスムーズでスタイリッシュな
ライディングを海外メディアも放っておくはずが無く、
”テリエのような日本のオンナノコライダー”としてスノーボード
雑誌を飾った。フィルミングのオファーもあったようだが、ゆかは
「まだ早い」と断ってしまったようだ。
月日はあっという間に過ぎ去り日本でも初雪の声を聞き、気の早い
スキー場はオープンしはじめた。
ゆかはプロとしてはじめて迎えるシーズンに、少し緊張気味に
俺に抱負を語った。
「勝ちにいくよ。必ず勝つ。優勝しなきゃ意味が無い。」
「いいぞ、ゆか。その気持ちを忘れるな。
ゆかなら必ず勝てる。自分を信じて進むだけだ。」
「りょう、あたしをずっと見守っててね。」
俺はギュッとゆかを抱きしめた。
「ずっとそばにいるよ。じいさんとばあさんになっても
一緒に滑りつづけよう。」
「約束だよ!!ゆびきりげんまんしよう!」
「でさ。」
「なに?」
「りょうも早くプロになってね!あたしさぁ、プロライダーの
カップルってのに憧れてんだよね。」
「約束するよ。」
ゆかはプロ1戦目のIAT CUPでいきなり優勝。そして
2戦目のNIPPON OPENでも日本人最高位の3位を
記録した。これだけで名実ともに日本の女性トップライダーの
仲間入りを果たした。少しあいつが遠くに行ってしまった
ような気がした。俺はといえば、相変わらず本番に弱く
結果が出せずにいた。スポンサーからははっぱをかけられて
ばかりだった。
ひさしぶりに家でゆかとのんびりすごす機会があった。
最近はお互い忙しくて、すれ違うことも多かった。
「ゆか、すげーじゃん!いきなりランキング1位
狙えるじゃん。つうかもう決まったようなもんだな。」
「いや~、まだわかんないよ~。何が起こるか
わからないからね。でも守りの滑りはしないよ。
そんなんで勝ってもあたしは納得できないからね。」
俺は頼もしさすらゆかに感じ始めていた。
そして3戦目のJAPAN OPEN。
俺はショップのイベントやらなにやらいろいろあって、
応援しに行くことは出来なかった。心配しながら良い
結果を待っていた。
3時のおやつをショップのスタッフと和気あいあいと
口にしていたとき、急を告げるように携帯の着メロが
鳴り響いた。
「もしもし。」
「りょうくん?」
「はい、そうです。あ、ゆかのお母さん?」
「ゆかが、ゆかが・・・・。」
「え?!ゆかがどうしたんですか?」
「大会で頭を打って、意識不明になって病院に
運ばれたのよ・・・・。」
「え?・・・・・・・・・・・。」
俺は気が動転し、言葉が出なかった。
「りょうくん、急いで病院に来られる?
ゆかがずっとあなたの名前を呼んでるのよ・・・。」
「はい!行きます!」
俺はすぐにロードスターに乗りこみ、ゆかの待つ病院に
向かった。ロードスターよ、早く俺をゆかのとこに
連れていってくれ。アクセルを踏む足にも力が入った。
どのくらい時間がたったのだろう。気がつくと病院の
前にいた。看護婦さんにゆかが入院している病室を聞き、
全速力で走っていった。
面会謝絶の札が掛かった扉を軽くノックする。
「りょうです。」
両親に会釈する。
「よく来てくれたね。」
そこには変わり果てたゆかの姿があった。どう見ても
顔色が普通ではなかった。かなり深刻な状態なのが
聞かなくても分かった。
「りょう~、りょう~。」
微かな声でゆかが俺を呼んでいる。
「ゆか、俺だよ。りょうだよ。」
俺はゆかの手を思いきり握り締めた。
大会当日のパイプは、前日雨が降ったこともありカリカリに
凍結していたそうだ。そこでもゆかは思いきり突っ込んでいき、
他の選手を高さでも技の難易度でも圧倒した。
しかし、本選の3本目、ビッグマックにトライしたゆかは
空中でバランスを崩し、運悪く頭がリップにヒットして
しまったのだ・・・。
しかも、そこまでの2本で最高得点をたたき出し、
3本目は流しても優勝だったのに、思いきりビッグマックを
メイクしにいったらしい。ゆからしいのだが・・・。
3時間後、ゆかは天に召されていった・・・。
ゆかはあっさりと、俺の前からいなくなってしまった。
あのとっても明るかったゆかの笑顔にはもう会えない。
しばらくは俺の目から涙が止まることは無かった。
「ごめんなさい。俺がゆかにマックなんか教えなければ
ゆかは死なないで済んだんです。ごめんなさい。」
俺は両親の前で土下座した。
「りょうくん、あやまるのはやめて。
ゆかはあなたに会えて、ほんととっても嬉しそうだった。
毎日のように電話が掛かってきたわよ。
あなたの話しばっかりしてた。幸せいっぱいって感じで。」
ゆかのお母さんは俺を起こしながらそう言った。
お父さんは俺の肩を抱き、うなずいていた。
「ゆかは君がプロになることを、心の底から
望んでいたよ。だからりょうくんにはゆかの分まで
がんばって、プロになって活躍して欲しいんだ。」
「私達も自分の息子だと思って、あなたのことを
応援するから。」
「男だったらもう泣くな。」
「はい。」
でも、俺は涙が止まらなかった。
皮肉にも、ゆかの訃報とともにハーフパイプランキング1位の
ニュースが流れることになった。
ゆかがいなくなった冬は終わった。
あわただしくキャンプを乗りきり、また万全のシーズンを
迎えた。もう会えないけど、ゆかはいつも俺の心の中にいる。
ゆかが後押ししてくれるのか、大会で失敗する確率は
低くなった。でも、まだ上位に食い込むことは出来なかった。
緊張してエアーの高さが出ないのだ。
今シーズンも全日本に出場することができた。ゆかがプロ資格を
手に入れた思い出の大会だ。
俺はそれまでの緊張が嘘のようにリラックスできて、すべての
エアー、マック、900°を完璧にこなし、全日本の頂点に立った。
「やった~!ゆか!見てるか!約束守ったぞ!俺はプロ資格を
手に入れたぞ!」ゆかの笑顔が青く澄んだ空の向こう側に
見えた気がした。おめでとうって言ってくれた気がした。
俺がパイプでダブル飛ぶより大切なものは、ゆかの存在と
ゆかと過ごした貴重な時間だ。
<PRO TOUR RESULT>
2003/2004シーズン
RYO JSBA HALFPIPE LANKING 1位
2004/2005シーズン
RYO ISF HALFPIPE LANKING 15位
RYO JSBA HALFPIPE LANKING 1位
2005/2006シーズン
RYO ISF HALFPIPE LANKING 1位
RYO JSBA HALFPIPE LANKING 1位
(ショウン・ホワイトと1位を争い、最終的に日本人として
はじめて世界の頂点に立つ)
GO BIG STYLE!!