ネット(ようつべ)で、「日本車とドイツ車のボディ剛性の違いは、(道路事情等に合わせて)高速コーナリング性能を重視するかしないか、つまりは設計思想の違いだ」と結論付けている方がいました。
その方は、クラッシュセーフティに関する動画を多数上げている人でしたが、日本車とドイツ車のクラッシュセーフティの違いについても、「事故でボディがちぎれる事はまずないので、剛性で考える」として、事故に遭った時のボディの潰れ方についても、強度ではなく剛性で説明していました。
※確かに強度試験は通常引張でやるけど、引張だからちぎれるのであって、圧縮すれば当然潰れますが・・・破断=ちぎれる(ちぎれない限り破断じゃない)と誤解している?
さて、とりあえずその話は置いておくとして、剛性についての基本的な話は前回までに書いた通りですが、では、構造体であるボディ剛性はどのように考えればいいのでしょうか?
以下は、日本製鉄技報 第412号(2019年)からの抜粋です。
↓全文はこちら
剛性評価技術に基づく剛性向上と軽量化の両立
https://www.nipponsteel.com/tech/report/pdf/412-15.pdf
【構造体の剛性の特徴】
『車体やシャシ部品は,閉断面を持つ梁状部品と開断面のパネル状部品を有する。よって,車体が所定の拘束の下で荷重入力を受けて弾性変形する際,閉断面梁の変形と平板の変形の両方が生じる。
平板の変形を分類すると,曲げ,伸び(圧縮),および,せん断(ねじり)となる。閉断面梁全体の変形も同様に,曲げ,伸び(圧縮),および,ねじりであるが,閉断面を構成する板の変形形態として見ると,伸び(圧縮),および,せん断に限られる。
平板の伸び(圧縮),せん断,および,曲げ荷重に対する剛性は,それぞれ,ヤング率Eと板厚tの積,せん断弾性率Gと板厚の積,および,ヤング率と板厚の3乗t^3の積に比例する(図1)』

図1(上記の論文より引用)
つまり、ボディのような構造体といえど、各パーツに分割して考えれば良いのです。
なお、剛性がなぜ板厚に比例するのかですが、例えば前回書いたように、曲げ剛性=ヤング率×断面二次モーメントですが、板厚は(同一形状の場合)断面二次モーメントの数値に直接影響を与えるからです。
※曲げ剛性が板厚の3乗に比例するのは、長方形の断面二次モーメントがI=b×h^3/12であるため。
【車体軽量化と剛性確保の両立には、構造変更が必須】
『したがって,材料の弾性係数が一定であるとすると,車体全体の剛性は板厚の1から3乗に比例するものと考えられる。換言すると,特定の荷重を受ける構造体の剛性は,板曲げ変形する領域が多ければ板厚の3乗に近く,少なければ板厚の1乗に近い相関を示す。
一方で,車体重量は,材料の密度が一定であるとすると板厚に比例する。このことは,軽量化のために板厚を減じた場合,構造変更を伴わないのであれば,重量低下率よりも剛性低下率の方が大きくなる可能性を示している。
薄手ハイテン材の適用のためには,板曲げ変形を抑制し,板厚の1乗に近い相関を持つ構造が必要となる。』
ハイテン鋼は(引張)強度は大きいので、薄くても普通鋼と同等の強度を得られますが、ヤング率等の弾性係数は普通鋼と殆ど変わらないので、薄い分だけ(同一構造であれば)剛性の値は小さくなります。
論文中の『板厚の1乗に近い相関を持つ構造が必要』は何を言っているかというと、上図1の通り、平板(に限らず棒など全てがそうですが)は引張や圧縮には強いが、曲げには弱い性質があるため、トラス構造にするなどして、応力を引張と圧縮だけにするなど、構造自体を変更して板厚減少の影響を抑える必要がある、という意味です。
※以降は省略しますが、興味のある方はぜひ全文をお読みになってください。
【最後に】
さて、表題の「日本車とドイツ車のボディ剛性と強度」の違いですが、ここまで読んで、答えがお解りになったでしょうか?
ハイテン鋼を採用するのはもちろん軽量化(環境保全)のためで、今や世界中のメーカーがしのぎを削っていますが、日本車がドイツ車より採用に積極的なのは、日本製鉄をはじめとする取引先から、高品質なハイテン鋼(例えばJFEスチールのユニハイテンなど)が安定的かつ安価で手に入るという事情もあるかと思います。
※事実、ガラス板厚(特にフロントガラス)に関しては、総じて欧州車の方が薄板化が進んでいる。
しかし、薄いハイテン鋼を多用すると、普通鋼を用いる場合に比べ強度は同等に保たれますが、剛性はどうしても小さくなるので、構造を工夫したり、必要な個所では板厚を確保したりといった設計努力で、剛性確保に努めているのです(論文を見ても解かる通り、実際には軽量化を進めた新型車の方が剛性も大きくなっている)
そもそもコンピューター(CAE)じゃあるまいし、走った時のフィーリングからボディ剛性だけを取り出して評価するのはどだい無理なので、実際に多くの人が「ボディ剛性」だとして評価しているのは、多くはサスペンションやタイヤ、ステアリング等の味付けの違いからくる車全体のフィーリングであって、それこそが設計思想の違いでしょう。
※パーツごとの剛性には設計思想の違いも出るだろうが、ボディ全体の曲げ剛性、ねじり剛性自体は(ホワイトボディで数値評価すれば)日本車もドイツ車も殆ど違いはないと思う。
P.S.
【雑学】自動車用ガラスの厚さ
https://minkara.carview.co.jp/userid/2036415/blog/48030885/
Posted at 2026/03/30 12:45:56 |
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