バッテリーは(短時間ならば)大電流を流す能力があるのに、バッテリー同士をつないでも大電流が流れないのは何故なのか、考察してみます。
(1)電気は流すのではなく、流れるもの(まずは基本的な話)
よく、電気は流すものだと考える人がいますが、実際には電位差(電場)があるから電気(電子)が流れるのであって、電気というのは能動主体ではなく、あくまで受動的に流れるものです。
※電位差を与える事で流す、とも言えるが。
特にカーマニアの場合、例えば充電器で電流値を設定できるものがあるためか、電気は能動的に流せる(電流の大小を自由に変えられる)と言う人がいますが、あれは電位差を調整して流れる量を制限しているに過ぎません。
※この流れる量は、オームの法則V=RIから解るように、基本的には電圧と抵抗の大きさによって決まる。
ところでバッテリーの場合、放電時の起電力と電池電圧の関係はV=E-rIで示されますが、これは仮想の内部抵抗rを用いた概念的な式であり、現実的には、
・取り出す電流が増えると、過電圧(内部抵抗)が増えるので電池電圧は下がる。
・一定の電流でも放電が進むと、同様に過電圧が増えるので電池電圧は下がる。
事になります。
つまり、電池の内部抵抗は、実際に化学反応が起きたときの動的な抵抗であり、その時の電流値や放電率によって変動しますし、また放電時と充電時でも抵抗値は異なります。
一方で、CCAテスター等で測っている内部抵抗は、放電も充電もしていない時の静的な内部抵抗(≒オーミック抵抗)の事なのです。
※「バッテリー同士を繋ぐとショートしたのと同じ」と言っている人は、恐らくここが理解できていない。
で、ここからはその内部抵抗の話になるのですが、その前に「内部抵抗って何?」という方は、こちらを先にどうぞ。
↓
バッテリーの内部抵抗を測る!
https://minkara.carview.co.jp/summary/15856/
(2)放電時と充電時の根本的な違い
さて、バッテリー同士を繋いだ場合、流れる電流は負荷(受入)側の内部抵抗次第という事を理解したうえで、実際に放電する時と充電する時のバッテリーの内部抵抗の違いを考えてみますが、以前にも触れた通り、バッテリーの放電反応は発熱反応で、充電反応は吸熱反応になります。
化学反応には吸熱反応と発熱反応がありますが、基質(反応物)よりも生成物の方がエネルギーが低い場合を発熱反応、基質よりも生成物の方がエネルギーが高い場合を吸熱反応と呼びます。

(画像は「薬学まとめました」より引用)
つまり、充電反応を起こすには、それだけ多くの活性化エネルギー(ここでは電気エネルギー)が必要になる訳です。
※充電反応に必要な活性化エネルギー>放電反応に必要な活性化エネルギー
自然界では物質はエネルギーの低い状態を好むので、放電反応は不可逆反応であり、系の外から仕事(電気エネルギー)を与える事で、無理やり逆反応である充電反応を起こしているのです。
一方、放電が進んだ状態においては、電導パスの減少によりオーミック抵抗も大きくなっていますが、同時に電解液の比重(=硫酸の割合)が低くなっているため、拡散抵抗も大きくなっています。
※H+もSO42-も少ない(なお、水は殆ど電離しておらず、極性分子として振る舞う)
そのため、充電時においては、内部抵抗の3要素(反応抵抗、オーミック抵抗と拡散抵抗)の全てが、放電時より高い状態にあります。
※これが放電時と充電時の根本的な違い。
(3)充電した時の内部抵抗はどう変わる
次に、実際にバッテリーに充電する場合を考えてみますが、外部電源により両極に電圧を掛けると、
①電気二重層の充電
②活物質とイオン間の電子授受(化学反応)
③電解液中のイオンの拡散
が順番に起きます。
①の段階では、電圧が印加された事で正極にSO42-が、一方で負極にH+が引き寄せられます。
※電気二重層キャパシタの原理。
次に、この時に印加された電圧(電力)により反応エネルギーを得て、②の化学反応が進みますが、電導パスが少ないために電子の受け払いが制限されるので、化学反応も思ったほど進みません。
また、この時③のイオンの拡散がスムーズに進まないと、せっかく電子の受け払いが出来ても、やはり化学反応のスピードは抑制されます。
要するに、大きな電流は流れようにも流れられない訳です。
※放電が進んだバッテリーでエンジンが掛けられないのも、同様にオーミック抵抗と拡散抵抗が大きいため。
(4)充電末期にはどうなるか
ところで、充電末期にはバッテリー自体の電圧が上がることで、(定電圧で充電していれば)電位差は縮まっていくので、流れる電流も減ります。
この時、拡散抵抗とオーミック抵抗は充電初期に比べ小さくなっていますが、一方で極板に付着していた硫酸鉛が減少するために、本来の化学反応が進まなくなり、結果として流れた電気は水の電気分解に使われますが、元々バッテリーの電極に使われる鉛や二酸化鉛は、水素過電圧や酸素過電圧(注)が高いので、より多くの反応エネルギーが必要になります。
※その結果、同じ電位差に換算しても流れる電流は減ることになる。
実際に、以前50%放電したバッテリーを補充電した際には、充電初期には1.3Vの電位差で9.5Aが流れましたが、末期には0.61Vの電位差で1Aしか流れませんでした。
※充電初期と末期の内部抵抗をオームの法則に従い計算すると、約137mΩと約610mΩになる。
以上のように、バッテリーを充電する場合の実際の内部抵抗はかなり高い値になるので、バッテリー同士を直接つないでも大電流が流れる事はありません。
(注)
化学用語での過電圧とは、電気化学反応において熱力学的に求められる反応の理論電位(平衡電極電位)と、実際に反応が進行するときの電極電位の差のこと。
※実際にある程度の速さで反応を進行させる(ある程度の電流を得る)には、過電圧分だけ電極電位をさらに上げる必要がある。
水と酸素の酸化還元反応は、電極電位が+1.23Vとなるところで平衡となるので、水に約1.23Vの電圧をかけると理論上は水が電気分解される(バッテリー自身の電圧で電気分解が起きる)が、現実にそうならないのは、鉛は水素過電圧が高く、二酸化鉛は酸素過電圧が高いため、理論上より高い電圧を掛けないと水素や酸素は発生しないため。
Posted at 2026/08/05 16:27:31 |
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