(続き)
(3)導体抵抗が減ると何が変わるか?
中学だか高校だかの物理で、V=I✕Rと学びましたが、「同じ電圧であれば、抵抗が減ると電流が増える」ことになります。
オルタネーターの調整電圧は基本的に一定を保つようになっているので(※1)、導体抵抗が減れば電流が増える訳ですが、そうなると電気が余るため、結果として電圧が上がり、オルタネーターは電圧を下げようと発電量を減らします。
つまり、フィールド電流を抑える事ができるので、その分エンジンの駆動力に対する抵抗が減るので、燃費の向上とパワーロスを抑える事ができます。
一方、その他の負荷については、導体抵抗の減少により電圧降下が抑えられるため、わかり易い例でいうとヘッドライトが明るくなったりします(※2)
(4)結論:上記(3)の理論上の効果は、実際に得られるのか?
まあ、ここからが一番肝心なのですが、まず施工前後で電位差(記憶によるとヘボメカニック・・・じゃなかったオートメカニック誌の記事では0.02Vとかの僅差)が出たとしても、それは測定誤差(テスターピンの接触抵抗)の範囲内です。
そもそも僅かな導体抵抗を減らす事よりも、電圧を上げたほうが効果があるはずですが、実際には電圧が多少上下しても、今時の電装品には、少なくとも体感できるほどの影響はありません(※3)
また、導体抵抗についても、導線内部の抵抗よりも、実は接点などの接触抵抗のほうが大きいんです(※4)
そんな訳で、仮に電気の流れに沿って正しく(?)アーシングしたところで、
実際には何の効果も得られません。
【それでもまだ納得できない方へ】
そんなアーシングですが、当初は「効果がある」の一点張りだったのですが、普及するに従って効果がないと言う人が増えたので、苦し紛れに「昨今の新車だと純正アース線もしっかりしたものが付いているし、劣化もないので効果が感じられないかもしれないが、古い車だと確実に効果がある」などという主張に変遷していきました。
確かに古い車だと純正アースが劣化して、見た目が黒くなっていたりするのでそう感じるかもしれませんが、あれは表面が酸化しただけの話で(酸化膜は薄い)、断面積で言ったら無視できるレベルなので、抵抗は変わりません(※5)
ちなみに、より線(のうちの何本か)が断線しているかを、抵抗を測って判断することは現実的には難しいそうです。
・芯線切れを電気的検査(抵抗値測定)で判定することは難しい
参考URL)https://www.naccorporation.com/learning-center/electrical-knowledge/3281
また、接触抵抗についても、中古車のハーネスを回収してコネクターの抵抗を調べた所、特に問題となるような劣化はなかったそうです。
・端子抵抗の平均値、最大値とも高くなるが、その値はいずれも信頼性が問題となる値ではなかった。
参考URL)https://sei.co.jp/technology/tr/bn187/pdf/sei10851.pdf
以上から、「新車では効果は感じられないが、古い車なら効果が感じられる」というのも嘘です(もっとも、端子が錆びちゃってるような旧車になると話は別です。但し、その場合はアーシングではなくレストアと呼びます)
【結論】
という訳で、そもそもの理論の出発点である「電気の流れ」からして間違っているので、
実際の効果の方も、やはり予想通りだった・・・
というのが、アーシングを科学した結論です。

↑有名な?DIYラボでも、電気の流れについて間違った説明をしている。この調子では他の記事の信憑性も低いだろうから、オートメカニックと同様に、DIYラボはDIYの参考にしない方が良いと思う(画像はDIYラボより引用)
(5)最後に
ちなみに、以前に別なブログでも書きましたが・・・
アーシング以外にもチューニングヒューズなどのように、導電性の向上を謳っている商品では必ず「アクセルレスポンスの向上」をメリットに挙げていますが、導電性の問題以前に、気筒内への空気の流入速度(アクセルを踏んでから約1/10秒のタイムラグ)を改善しない限り、アクセルレスポンスを上げることは不可能です。
なぜなら、電気の伝わる速さ≒光速、つまり1秒間で地球を7周半出来るので(現実には導体抵抗があるからもう少し遅く4~5周位としても、それでもレベルが違う)
中には、「量子力学的に電子を動すので効率的で速い動きになる」などと怪しげで意味不明な説明をしている商品もありますが、それがたとえ1秒で6~7周出来る速さになったとして、何か意味があるのでしょうか?
【結論】導電性云々を謳う商品は、全てオカルトです。
(文系で騙される人は仕方がないですが、理系だと結構恥ずかしいと思う・・・)
注釈
※1
ちなみに、充電制御以前でも、概ね90年代以降の車に搭載されていた「バッテリー電圧センシングタイプ(三菱。デンソーだとM型ICレギュレータがこれに相当)」のオルタネーターは、レギュレーターのケース温度が上がると、調整電圧を0.5Vほど下げるようになっていた。
※2
当時はHIDが出始めの頃で(最初に標準化したのは、記憶が正しければ三菱ふそうの大型で90年代半ばぐらい、乗用車だと20系セルシオ後期だったはず)、圧倒的にハロゲンが主流だったので、電圧が上がれば明るくなった(エンジン停止時=バッテリー電圧時よりも、アイドル時=オルタネーター電圧時のほうがいくらか明るくはなった)
※3
某メーカーが謳う銅純度99.99%のアーシングケーブルを、ボディ全体から見たらごく一部でしかない場所に部分的に用いたところで、全体の導体抵抗の差は、接触抵抗との相殺分も考慮すればほぼ無視できるレベルでしょうが、13.5Vを14.0Vにすれば、それだけで約3.7%の改善が見込める。
一方、バッテリー電圧センシングタイプのオルタネーターで調整電圧が0.5V程度下がった時に、加速が悪くなったとか、ライトが暗くなったとかの不具合が出たという話は聞いたことがないので、逆に電圧を3.7%改善したところで、実際は何も体感できない(ましてや、今時の充電制御車なら1.5Vぐらい下げるので、当然そういう不具合が多く寄せられるはずだが・・・)
なお、銅純度99.99%のアーシングケーブルって何だか凄そうですが、これは無酸素銅(4N)と呼ばれるもので、スピーカーケーブルやRCAケーブルなどでも使われている一般的な素材ですから、騙されてはいけません。
※4
こういう商品の場合、「これは効きそうだ」という視覚効果がまず重要だが、接触抵抗改善では外観上のチューニング効果が得られないので、基本的に流行らないうえ、せいぜい「ウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパー接点復活剤」なる商品(わからない人はドラえもんで検索)を数千円で売るのが限度なので、大した商売になりません。
ちなみに当時は、車種別専用アーシングキットと銘打って、中身は導線を切り貼りしただけなのに数万円もする商品が、量販店だけでなくディーラーなどでも販売されていましたが、あのホットイナズマも、過去にディーラーがオリジナルブランドで販売していたようです(三菱のROAR HESシステムとか、他にもスバル用品㈱でも扱っていたらしい←ディーラーも商売なので、売れれば何でも扱う)
※5
アーシングする人の中に「電気は表面を流れる性質がある」と蘊蓄を垂れる人がいましたが、それは表皮効果といって交流の話で、車のような直流の場合は導体断面をほぼ均一に流れます(交流でも周波数が低い場合は、表皮効果の影響は少ない)
オカルトチューンにハマる人は、何も知らない文系の人よりも、中途半端に知識のある理系の人の方が、むしろ自分の知識を過信してヤケドする傾向にあるようです(ちなみに陰謀論や疑似科学にハマりやすい人は、(1)確証バイアスに陥っている、(2)懐疑的な思考をほとんど行わない、(3)
妙な自信にあふれている、だそうです)
Posted at 2024/05/04 08:51:38 |
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