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2020年01月04日

i-ACTIV AWD(2021/05/05更新)

【開発思想】
 マツダのi-ACTIV AWDは,必要なときに必要なトルクを瞬時に後輪にかけることでAWD機構を軽量化し,燃費性能も高めるという思想を持って開発されているアクディブオンデマンド型の電子制御AWDである.意のままの走りを実現するために,Gベクタリングシステム・プラスと協調している.また,トラクション・コントロール・システムと協調することで弱いブレーキLSDを実現している.CX-8ではFFに比べて60kg重量が増加する.

【進化】
 i-ACTIV AWDは2012年のマツダCX-5から搭載されている機構であり,開発から何年も経つがその後の具体的な進化をカスタマーは知るすべがない.このAWD機構は

・フェイズ4・・・降雪地域や中間降雪地域でFFに比べて燃費を良くする
・フェイズ5・・・非降雪地域においてもFFに比べて燃費を良くする

ことを目標に開発がされているようである.自身が所有しているAWD機構がどのフェイズに相当するものなのか分からないというのは何とも歯がゆいものであるが,私が保有している2018年年次改良モデルのCX-8は広報等から鑑みればフェイズ4には達していないものと思われる.

【機構の概要】
 AWD機構は次の通りである.エンジンが生み出した駆動力はトランスミッションによって変速され,フロントディファレンシャルギアに接続されるパワーテイクオフ(PTO)ユニットによって取り出され,プロペラシャフトを介してリアディファレンシャルギアとほぼ一体になった電子制御アクティブトルクコントロールカップリングユニットまで伝達される.このユニット内には湿式多板クラッチが内蔵されており,このクラッチをフリーにすると100:0のFF状態,完全圧着すると50:50の直結AWD状態となり,コントロールモジュールによって制御される.圧着された後は駆動力がリアデフに伝わり,最終的に後輪を回転させるに至る.フロントデフやリアデフには作動制限(LSD)は組み込まれておらず,片輪のトルク抜けについてはトラクション・アシストコントロール(TRC)の制御に使われているブレーキシステムを使って対応する.これは簡易型のLSDやブレーキLSDと呼ばれることがある.i-ACTIVE AWDはオンロードでの走行性能に特化した弱いブレーキLSDであり,例えば車輪が浮いた状態では空転を止められるだけのブレーキ制御を行うことができない.2019年年次改良モデルのCX-8はトラクション・アシスト・コントロール機能が追加され,機能を有効・無効にするスイッチが備え付けられており,車速が35km/h程度まで機能するようである.この機能は車輪が浮いた状態での空転を止めるだけのブレーキ制御能力があり,対角スタックからも脱する能力を有する言わば緊急脱出機構である.またこの機能が有効の場合,前後輪の駆動力配分は50:50になるようである.

ではなぜ,i-ACTIV AWD機構にトラクション・アシスト・コントロール機能を内包しないのかというと2つの理由があると考えられる.

・強力なブレーキ作動を通常のシステムの中で動作させることによる走行安定性を損なう恐れ
・i-ACTIV AWDには常時,50:50の走行を行う能力がない

 i-ACTIV AWDの思想からすれば,後者の理由が大きいと言えよう.なぜならば,このAWDは燃費性能も謳っており,そのためにPTO,カップリングユニット,リアデフなどは軽自動車並に軽量化されているため,発熱量が多く,一定の高負荷条件を満たすと保護機構が働き,AWD機能を停止するようになっている.必要なときに必要なトルクが後輪に発生すれば良いため,徹底的な軽量化が行われている.これは利点でもあり欠点でもある.安全のマージンを切り詰めるという考え方もできるわけで,マツダが想定していない走行シーンがないとも言えない.必要なときに瞬時に後輪にトルクを発生させるために,常時,一定のトルクが後輪にかかっているだけでなく,毎秒200回のセンシングが行われている.実際のトルク制御の時間間隔は不明である.AWDの代名詞であるAudiのクワトロは1000分の数秒でトルク配分の変更を行っているようであり,センシング時間間隔=トルク配分の変更の時間間隔だとすると,Audiと同程度である.

【すべりの予兆の検知】
 それでは「必要なとき」とは何時で,どのように検出しているのだろうか?27種類のセンサー信号が使用され,1秒間に200回という高頻度にドライバーの意図,路面状況,走行状況が推定されている.そして,人間がすべりを認知する前に,すべりの予兆を検知して,瞬時に後輪に必要なだけのトルクを伝達する.

ドライバーの意図
1.アクセルペダル位置(発進・加速意図)
2.ステアリング角度(旋回意図)
3.ブレーキ液圧(制動意図)
4.ギアポジション(発進意図)

路面状況
5.前後ワイパー(降雨、降雪)
6.外気温度(路面付近の温度)
7.ステアリングトルク・パワステモーター電流(ステアリング操作時の路面摩擦反力)
8.前後加速度(登坂路面勾配)

走行状況
9.4輪車速度(4車輪のスリップ量やその予兆)
10.エンジン駆動力(前輪駆動力)
11.4WDカップリング指令トルク(後輪駆動力)
12.スリップ量

コントロールモジュールは様々な角度から走行状況を分析して,必要最低限の司令をカップリング機構に発する.

【雑多】
 AWDは滑りそうな路面での発進時にトルクを四輪に分散することで,スムーズな発進をサポートする.また,弱いブレーキLSDをもつi-ACTIV AWDは走行中にタイヤが1本滑っても,残り3本のタイヤにトラクションがかかることで,危険を回避できる可能性が高まる(何本まで滑っていい?).一方で,停止時には2WDでもAWDでも関係なく4輪にフットブレーキがかかるため,AWDが重い分,慣性の法則によりその制動距離が長くなる.しかし,制動距離が長くなることと雪道で滑ることは異なる.通常,タイヤと路面との単位接地面積あたりの荷重が大きいほど,タイヤは滑りにくい?.ある方が調べたところによると,225/65/R17のスタッドレスタイヤを履かせたCX-5はノア4WDやカローラ4WDよりもその荷重が小さく,ワゴンR4WD,アウトバック,フォレスターよりもその荷重が大きいことを示した.すなわち,CX-5はノアやカローラと比べてグリップ力がなく,ワゴンR,アウトバック,フォレスターよりもグリップ力があると言える?.グレードにもよるがCX-8とCX-5はタイヤのサイズが同じであることから,CX-8はCX-5と比べてよりグリップ力が優れていることになる(制動距離は別の話)ホントか?.さらに,i-ACTIV AWDはエンジンブレーキが4輪にかかる.4輪にエンジンブレーキがかからないAWDもあるため注意が必要である.CX-8の最低地上高は200mmのため,雪道の走破性も優れている.

 i-ACTIV AWDは路面の摩擦係数を推定している.低μでかつアクセルを空けてドライバーが進みたいと判断したときには積極的に後輪にトルクを配分する.youtubeでi-ACTIV AWD機構を有するマツダ車の素晴らしさ,物足りなさがアピールされている.マツダの想定していない状況に置かれた場合に摩擦係数の推定が適切に行われているだろうか?そして,その動画の状況が実際の走行シーンにあてはまるか考えながら,動画を拝聴した方がよさそうだ.走行シーンを選ばない良いAWD車がほしいということであれば,i-ACTIV AWDは候補から外れてくるだろう.例えば,常時から積極的に後輪にも駆動力を配分しているAudiのクワトロ(ハルデックスカップリングを除く)やSUBARUのAWD(ACT-4を除く)がある.

 i-ACTIV AWDはGベクタリングコントロースシステム・プラス(GVC-plus)と協調する.GVCはドライバーのハンドル操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させることで,これまで別々に制御されていた横方向と前後方向の加速度(G)を統合的にコントロールし、4輪への接地荷重を最適化してスムーズで効率的な車両挙動を実現する世界初の制御技術である.ドライバーは直線でもカーブでも,車線に沿って走るためにハンドルを操作している.しかし,路面の凹凸やうねりなど外乱の影響によって想定した走行ラインに対してズレが生じるため,ドライバーは常にハンドルの修正操作を行っている.GVC は微小なハンドル操作の応答性も向上させるため,この修正操作の量や頻度を格段に減らしてくれる.そのためドライバーは思った通りのラインに沿って走ることができ,クルマとの一体感が増して運転への自信が高まる.GVC-plusは新たにブレーキによる車両姿勢安定化制御(直接ヨーモーメント制御)を加え,旋回中のハンドル戻し操作に応じて外輪をわずかに制動し,車両を直進状態へ戻すための復元モーメントを与えることで安定性を向上させた.危険回避能力を高めるとともに,高速走行時の車線変更や,雪道など滑りやすい路面環境においても,人間にとって制御しやすく,より安心感の高い動きを実現する.
 i-ACTIV AWDとGVC-plusの協調をカーブの走行で考える.ターンイン時にはGVC-plusによって前輪に荷重を移動させステアリングの応答特性を向上させる.その後,旋回に応じて後輪のトルク配分を増加させ,安定したコーナリングを実現する.ターンアウト時は前輪へトルク配分を戻すことで安定性を向上させる.

 今後のi-ACTIV AWDの進化は,フェイズ4やフェイズ5にむかっているのだろうから,

・センシングの高頻度化
・機構の軽量化
・センシング情報からの最適なトルク配分性能の向上(ようはコントロールモジュールの進化)

を行っていくほかない.1/200秒ごとにセンシングを行っているということは,1回のセンシングを行っている間に車速が40km/hで0.06m,車速が100km/hで0.14 m進む.高速道路を走行していれば結構進んでいるので,センシング頻度をさらに向上させていく余地はあるように思う.仮に400Hzにすれば,車速が100km/hで0.07 m進むことになる.センシングの高頻度化はその分,雑音もたくさん拾うであろうから,雑音の除去もしっかりと行わなければいけない.さらに,センシングの頻度が上がれば,カップリングユニットの負担もその分増大することになり,長期疲労を起こしかねないから,機構の軽量化と相反するかもしれない.トルク配分の最適化についても,安全マージンを削いでいく作業になりかねないので,ほどほどにしてほしいと思う.i-ACTIV AWDは「安心・安全」,「意のままの走り」,「実用燃費」を謳っているが,まずは安全・安心を最優先に考えて開発を続けていってほしいと思う.

 i-ACTIV AWDのアピールポイントは,雪道の上りでステアリングを切って発進しても乾燥路面のように発進することだそうだ.

 次期,ラージプラットフォームはFR化するようであるが,i-ACTIV AWDの思想を引き継ぎながらAWD機構の開発を続けるのだろうか?スモールプラットフォームとラージプラットフォーム2種類でまったく思想のことなるAWD機構に仕上がるのか楽しみである.FR化はAWD機構だけでなく様々な機構を改良しなければならないはずであるから,マツダにとっては大きな投資が必要であろうし,初期型のFRを購入する客層は,真のマツダファンと言えそうだ.

【ハルデックスカップリング】
 第4世代はカップリングに電子制御式多板クラッチを用いている点でマツダのi-ACTIV AWDと同様の機構である.さらに,前後の駆動力配分が最大で50:50というのも同様である.しかしながら,第5世代は0:100を実現しており,その点においてマツダは分が悪い.i-ACTIV AWDはジェイテクト製であるはずですが,今後は如何に!!

【次世代i-ACTIV AWD】
 Matsuda3やCX-30に搭載された次世代i-ACTIV AWDと旧i-ACTIV-AWDの違い

・どちらもFFベース
・垂直荷重が高い方が高いグリップ力を発揮できるため、車両の前後方向の加重移動をドライバーの操作(ブレーキ、ステアリング、アクセル)やGセンサーの情報(減速、旋回、加速)などから推定し、前後輪の荷重がかかった方へ積極的にトルク配分する。
・オフロード・トラクション・アシストの採用。AWDシステムとTCSの協調は従来からあったが、この機能の作動時は対角輪のスリップやスタック状況をモニターして悪路で地面から浮いて空転する輪にたいしては従来よりも強いTCSブレーキを介入させることで、接地輪の駆動力の抜けを防ぐ。
・従前はパワーコントロールモジュール(PCM)からCAN送信される情報を基に、AWD専用ECUにおいてAWDトルクを演算していたが、AWD専用ECUとPCMに組み込み、応答速度の向上を図った。GVCと共通の車両運動モデルを用いた新たな統合制御システムを開発した。
・AWD制御ロジックの進化
 ①加減速、旋回時の4輪の接地荷重演算
 ②4輪の接地荷重に応じて、タイヤのグリップ性能を最大化するようにAWDトルクを最適化する演算
 ③GVC協調旋回制御ロジックの進化




引用文献

i-ACTIV AWDの弱点とアクセラ(みんカラの先輩)
https://minkara.carview.co.jp/userid/2688116/blog/39871748/

Car Watch
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1226441.html

4WD全般の解説
https://mobilecafe.tokyo/4WDSystem.html

Audiのクワトロ
https://car-me.jp/articles/2567

ハルデックスカップリング
https://bestcarweb.jp/news/entame/1886

自動車技術会
https://www.jsae.or.jp/auto_tech/docu/auto_tech2017_05.pdf

(適宜追記!!)














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何シテル?   04/13 19:49
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