先月、アメリカに出張した際に垣間見た現在のアメリカのクルマ事情を私見としてまとめてみた。
アメリカではまだまだ4ドアセダンが多く車社会を考えると健全に思える。次いで2ドアクーペ、SUV、そしてピックアップ・トラックが目立つ。日本のようにミニバン一辺倒等は大きく違う。
ガソリンが1ガロン当たり3ドルに近づき、ここに来てコンパクトカーが売れている。アメリカでのコンパクトカーとは日本のようなマーチやヴィッツとは異なりカローラクラスを指す。だが幅広い道路や駐車場では、カローラも小さく見える。一方でフルサイズカーがすっかり姿を見せなくなってしまったのは少々淋しいところだ。
最近では韓国のヒュンダイやキアが勢力を伸ばしポツポツと見ることができるが、やはりトヨタやホンダが多い。また、VWやメルセデス、BMWといった欧州車も少なくない。
ヒュンダイでは10年間ものアフターサービスを保証している。そこが人気の秘訣なのかもしれないが、多くの自動車業界人はヒュンダイの経営に疑問を抱いているようだった。下手をすると北米市場から撤退するリスクがある、らしい。

カナダ国境近くは雪が多いこともあってスバルの人気が高い。レガシーやインプレッサもチラホラ見ることができた。インプレッサは2.5リッター・ターボカーを発見した。内外装は日本のものと大きく違わない。が、シートはバケットタイプではなかった。アメリカ人はタイトなシートが嫌いなのだろう。アメリカでもインプレッサは「やんちゃなクルマ」として人気があるようだ。

マンハッタンではフォードのリンカーンを数多く見ることができた。リンカーンは黒塗りが多く、どれも見事に磨きぬかれ高級車を演出しているかのようだった。一方のキャディラックは人気が薄くGMの深刻さが窺い知れる。GMはバカでかいSUVに多く見られたが、全体的に意気消沈である。デトロイトの街が寒々しく感じたのは錯覚か。

新車もそこそこ走っているが、相当に古い車もサビを落としながら走っている。一方でギンギラギンに改造した車も白昼堂々と走っているのはアメリカそのもの。聞けばポリスに止められたことはないと言う。重要保安部品がしっかりしていれば、改造申請は要らないとのこと。実にうらやましい限りである。この手のクルマは西海岸に多く見られるらしい。
州によってはフロントのナンバープレートが必要ないのもある。ナンバープレートは基本的に自分で購入した後に登録申請することになっており、非常に凝ったものまである。
車検は州によって必要ない場合もあるが、大体が15~20ドルくらいで簡単に終わらせるらしい。基本的にブレーキ、各照明、エンジンがかかるなどといった簡単なもので、排ガス検査のような細かいことはないらしい。日本の場合は定期的かつ強制的に税金をふんだくるシステムになっているが・・・
アメリカを代表するスポーツカーにはサリーンとフォードGTが挙げられるだろう。両者とも大排気量エンジンをミッドシップに搭載するエキゾチックなスポーツカーである。共にサリーンの工場で生産されている点では大いに興味深いところ。とにかくこの2台は抜群に格好いい。

今回はフォードGTをテストコースで運転する機会があった。試乗したフォードGTはナンバーが付けられ、役員が通勤に使っている車である。
5400ccのV8DOHCエンジンはスーパーチャージャーで武装され550馬力、69キロのトルクを搾り出している。車重は公表されていないがおよそ1300キロ前後といわれ極めて軽量である。
恐るべきパワー・ウェイト・レシオ、トルク・ウェイト・レシオ!
足回りは前後ダブルウィッシュボーンにイーグルF1のぶっ太いタイヤと「本物」のブレンボブレーキで固められ、エンジンルームにはロールゲージで補強されていた。

ドアはルーフまで回り込み、車の乗り降りには頭をぶつけないように注意しなければならない。着座位置は極めて低く、運転席から手を伸ばすと地面に触れることができる。まるでレーシングカー。
エンジン音は乾いた低音に高周波が混じり獰猛そのもの。エンジンは6500回転からレッドのトルク型であることが理解できる。回して引っ張るのではなくトルクに乗せるという感じだろう。スピードメーターはインパネ中央にオフセットして設けられ220マイル以上の超高速域を刻んでいた。
やや思いクラッチを踏みつけてギアを1速に入れる。シフト・ストロークはやや多め。カラカラと数枚のクラッチブレードの唸りが聞こえる。巨大なトルクを受け止めるための強化クラッチに思える。クラッチのストロークは極めて少なく危うくエンストさせるところだった。
ややアクセルを開けながらクラッチミート、後ろから蹴飛ばされるような加速が始まる。慌てて3000回転で2速に放り込むもタイヤが鳴る。とにかく2000回転でもトルクの塊がクルマを前に前に押出す。僅かな時間の試乗だったが4速までしか入れることができなかった。ブレーキの利きは秀逸だ。本物のブレンボはやっぱり凄い。国産車に採用される住友製ブレンボとは大違い。どんな速度域からも思うように止まれる。その減速Gが強烈。スポーツカーはこうでなくては。

ワインディングロードを走ったわけではないのでハンドリングについては分からない。ただしクイックステアによって手首を動かすだけでノーズが回り込む感じだ。60マイルまでの速度ならばロールさえしない。直進安定性は抜群だが、乗り心地は決して快適ではなかった。アメリカの道路ってとにかく状態が悪いので、こいつで長距離ツーリングは覚悟が必要だ。フォードGT、まさに公道を走るレーシングカーそのものである。

閑話休題。スーパーに行って自動車用品などを覗いてきた。バッテリーやタイヤ、ワックスなど日本の用品店とさして変わらない。大きく違うのは安いということ。写真のオイルなどはどれも1ドルから2ドルちょっと、モービル1の高級品でさえ1リットル5ドルという安さだ。
どうして日本に来るとバカ高くなるのか理解に苦しむ。流通段階でのマージン取り過ぎか。バッテリーでも人気の銘柄は12ドルくらい。これならば毎年交換してもいいか。
クルマのリセールバリュー、つまり下取りや手放すときの価値についてアメリカ人は相当に気にするようだ。レクサスやトヨタ、ホンダはリセールバリューも高いが韓国車は総崩れ、まだブランドが確立していないのか分からないが相当に安い。GMも人気がない。話を聞くと壊れるからだという。品質の課題は決して解決されていないように思える。
中古車はアメリカでも絶大な人気がある。アメリカにおける勤労者の平均年収は2万5千ドルといわている。その彼らが新車を持つことは並大抵ではない。いきおい価格のこなれた中古を長期クレジットで購入となるわけだ。新車を購入できる層は都市部を中心に限られている。価格が2万ドルを超えるとなかなか手が出せないのが現状だ。
車が発明されて100年余りの今日、世界中で高性能なクルマが走り回っている。
これからのクルマに求められるものは何だろうか。環境や高燃費、安全性はもはや当たり前になっている。快適性や運動性能も高められてきた。自動自律型のクルマも実験され未来を見据えている。将来は運転手の要らない車が走るかもしれない。無事故・無違反で目的地まですべてオートマチック。所詮クルマとは人と荷物を載せて目的地まで移動するための道具なのだから。
でもやっぱり自分が運転して楽しいと思うクルマが一番。それが電気だろうと水素だろうと。
そんな車がなくなったら潔く免許証を返すことにする。あ、その時にはもう免許なんていう次元の話じゃないかもしれないね。
Posted at 2006/07/24 18:46:58 | |
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