
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
軽自動車はまだ「やること」があったのだ、と教えてくれたのが、ホンダの新作トゥデイである。
というのは、昨今のニュー軽は、ミニカにせよミラ/クォーレにせよ、ある寸法の範囲内では進化し尽くしたように見えていたからだ。1.5ボックスよりもさらに前部のエンジンを収めるハコは小さくされ、いわば1.2~1.3ボックスへ。その分、全長に占める室内長は広がり、車高も高くして居住空間の利用率を向上させる。ルーフはいさぎよく、垂直に近い線で断ち切って、ほんとに四角いハコの形にする。
この後できることといえば、法規を無視するか、キャブオーバー型のワンボックスにするかぐらいしかないんじゃないか……と、某社の軽・開発スタッフは冗談まじりに洩らしていたほどで、われわれもそう思いかけていたのだである。
しかし、ウーム……まだ手口はあったのだ。
ホンダ・トゥデイにおける卓抜なるアイデア──それはエンジンを寝かせてしまったことである。オールアルミ製の2気筒エンジンは、当然横置きでFFだが、これを水平にマウントした。ただ、このままでは、エンジンは低くなっても、前後方向に長くなるだけ。しからば、その主たる出っ張りであるデフ部分をエンジンの下側に入れちまったらどうか? というわけなのである。いわば“二階建て構造”のパワートレーンで、これがトゥデイの短い短いハナの部分に詰まっている。
さらにこのマウント方式は、他の要素とも有機的に関わり合って、トゥデイのアイデンティティを形成する。
まずサスペンションと連携して、車体のほんとの四隅にホイールを配置したいという夢を可能にした。並みのクルマよりも前進したデフが、前輪をさらに前方へ押しやってくれたのだ。
また、ボンネット髙が低くなったので、ウェストラインも下げられる。フロントウインドーも低くできたから、シートの位置、つまりアイポイントも下げてよい。全高1315㎜と、外見は低姿勢ながら、室内はまったく狭くならないというわけ。
もうひとつおまけに、シリンダーが前後方向に水平になっているので、「エンジンの加振力と駆動反力を分散支持する慣性主軸式エンジンマウントを採用」できて、この点は確かに、メーカーの言うように、室内に振動が来ない。(軽らしくない!)
らしくないといえば、以上の結果として実現したロング・ホイールベースもそうだ。トゥデイの軸距、2330㎜。これは、1200ccのシティよりも110㎜長い。スターレットとマーチのそれは2300㎜であり、新型ミラ/クォーレは2250㎜なのである。
室内へのホイールハウスの進入がない軽。ドライバーズシートをいっぱいに下げると、足がペダルに届かなくなる軽。左向きのかたちで運転しなくてもよい、ハンドル&ペダルがオフセットしていない軽……。パワートレーン搭載法における“コロンブスの卵”的なホンダのアタマの柔らかさは、軽自動車というものを、文字通りの意味で「拡げた」といえる。軽の新しい規範である。
31馬力のエンジンは、ターボなんかはないので目覚ましくはないけど、十分走るし、何よりしっとりした乗り心地が、ここでも軽らしくなくて良い。コーナリングを外から見ると結構ロールしているのだが、ドライバーにはそれと感じられないことも付記しておく。
非対称グリルの大半を占める黄色いナンバープレートがひどく無粋で目立ってしまうのが残念だが、これはもちろん、メーカーのせいではない。まずはお試しあれ。
(1985/10/16)
○単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
トゥデイ(85年9月~ )
◆軽自動車マーケットに再参入したホンダの採った方法は、この世界に「スタイリッシュ」という概念を導入したことだった。実用性はそれなりに確保しつつも、もっとかわいくなれるはず……というもので、まずこのような造型が決められ、それに合わせて、パワートレーンが作られた(本当である)。大いに感心はしたが、2気筒エンジンはやっぱり非力でマイナーチェンジで3気筒へと強化されて、現在に至っている。デザインだけで言えば、この当時の丸型ヘッドランプの方が、現行型の顔よりはるかにキュートだ。
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80年代こんなコラムを | 日記
Posted at
2014/01/31 09:08:12