
これは、おもしろい! アイデアとして最高だ。「最軽量」ゆえに「ターボ」。ついでに、ベース車がアルトということは「最廉価」という要素も加わる。ベースが廉価であれば、かなりのことをやったとしても、さして高価にはならないはず。実際にも、このターボRSに付けられたプライスタグの数字は130万円を超えていない(2WD)。
新型車として登場したアルトの基準車、それがあまりにも軽量に仕上がったために、社内で誰かが思いついたのか。それとも、今回のアルト・シリーズは、企画段階から「ハイパワー車」をラインナップに加えることがプランに入っていたか。そのあたりは定かではないが、とにかく、こうして実車ができあがった。
ちょっと驚くのは、このハイパワー車の外観がそんなに“コワモテ”ではないこと。……いや、こっちが勝手に期待してしまって、ものすごく派手なチューニングカーが出て来ると思い込みすぎた(笑)かもしれないが、とにかくこのRS、そんなにド派手な感じではない。
もちろん、ディスチャージ・タイプになって目(ヘッドランプ)の感じは若干キツくなり、フォグランプも装備され、バンパー部では黒いグリルが口を開けている。そして、サイドミラーは、ボディカラーが白でも黒でも、ミラーだけは赤色。(ボディが赤の場合は、そのまま赤)さらに、よく見るとルーフエンドにリヤ・スポイラーも付いているのだが、そんなディテールをまとめても、このクルマは、むしろ穏やかな佇まいであると、私には思える。
そして、この「穏やかさ」は走り出しても変わらず、ひとたびアクセルを踏み込めば、暴力的な加速で、ドライバーの背中を激しくシートに叩きつける……ようなクルマではない。またターボは、ある回転数に達した瞬間に、そこで驚くようなパワーをドカーン!と発する……わけでもない。
走行フィールを手短かに言うなら、トルクが豊かなエンジンを駆使して、低中速から自由自在にクルマを操ることができる、であろうか。これはもちろん、エンジンの排気量が660ccであることを忘れてしまう感覚で、その原因に過給器があることは確かなのだが、ただ、ターボがどういうことをもたらすかを常に気にしながら運転しなければならない……ようなクルマではない。(かつては、そういう軽ターボ車やターボ付きコンパクト車というのは少なくなかった)要するに、テイク・イット・イージー感覚で道を“コロがして”もいい。そういうターボ・モデルなのである。
あらためて、ちょっとスペックを確認してみると、このターボ・エンジンの最大トルク発生回転数は3000回転であった。この回転で“チカラ”的にはフル稼働している、あるいは、これ以上回してもトルクは同じ。エンジンとしてそういう設定で、なるほど、そういうことであれば“イージー・ドライビング”も可能だろうなと納得した次第。
そんなエンジンに呼応するように、乗り心地もドライバーに寛大だ。ブレーキを大径化することも含めて、パワーに対応して全体的に“締め上げてある”足なのだが、そうであっても、一般道を流していての余計なゴロゴロ感や突き上げ感はない。スポーティに走る時だけ持ちだして、ちょっと遊ぶ……というようなサスペンションではなく、硬めの乗り心地を愉しみつつ、日常的にも十分に使える。そんな足になっていると思う。
ターボ・エンジンと組み合わされるミッションは、最新アルトが装備した「AGS」(オート・ギヤ・シフト)が、チューニングを若干(クイック方向に)変えて、そのまま使われている。……というより、このRSはあくまでも「アルト・改」なのであり、アルトの2ペダル・ドライビングがそのまま流用されているということ。このモデルのために特別なMTを新設などしてしまったら、価格にも響いてくる。また、これならAT限定免許でも乗れるわけで、MTがあった方がいい説は私は採らない。
シフトチェンジは中央のセレクターのほか、パドル方式でも可能。ただ、このパドルシフトは、ステアリングを「9時15分」の位置に持っていないと、形状的にやりにくい。ハンドルを「10時10分」の位置で持つドライバーもいることであり(私のことだが)この形状については、もう少し工夫の余地はあるかもしれない。
そして、最後にひとつ欲をいえば、このクルマ、もう少し“ビョーキ”の部分があれば、もっとイイのに……ということだろうか。いや、アルトをこうやって「化けさせた」というだけで十分ビョーキだという説はありそうだが、何というか、ただ“キレイに速い”だけでなく、このクルマにしかない強烈な《何か》がある。そんなトンガリ部分があれば、さらにヨイのではないか。
そもそも、こういうクルマに注目するのは、私も含めて“ビョーキ部分”がある(笑)タイプのドライバーであり、そのへんの「交感」関係があるかどうか。現状では、このRS、ちょっと優等生に過ぎるという感はなきにしもあらず……。ただ、こうしたサムシングを盛り込むのは、もはやメーカーのジョブではなく、いわゆるチューニングの領域であるかもしれないのだが。
ともかく、愉しい“イタズラ”のおもしろいモデルが出た。アルトほど軽量である軽自動車はほかにないはずで、その点に気づいて、廉価はキープしつつ「スポーツ」の領域に打って出た。そのスピリットこそ“fun”である。アルト・ターボRSに、まずは拍手だ!
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New Car ジャーナル | 日記
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2015/03/25 14:57:51