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2016年02月01日

イーグル・トヨタ・マークⅢ 《1》

イーグル・トヨタ・マークⅢ 《1》 レーシングカーを、美学派と、武闘派というか実質派に分けるとすれば、今回のクルマはまぎれもなく後者であろう。ある角度からは単なる四角に見えてしまう、割り切ったデザイン。ここは何もないなら、ギュッと絞り込めばいいのに……と思ってしまうようなところでも、そのまま、ユッタリと空間のままにしてしまう大らかな(?)エンジニアリング。あるいは、エンジン部分へのエアが必要なら、空気が最も当たるフロントエンドから、長大なエアダクトでエンジンまで導いてしまおうというその発想。そして、恐ろしく広々としていて、狭苦しさがまったくないコクピット……。

レーシングカーについて、ぼくらが「カッコいいね!」と言う時、極限までムダが省いてあるとか、ギリギリに切り詰めてあるとか、メカニズムの要請から、こうしかならなかったところがいいねとか、しばしば、そういうところにシビレているが、このクルマばかりはどうも雰囲気が違う。

この一種の違和感の原因は、このクルマが「アメ車」だからであろうか。ヨーロッパから日本へというレーシングカー、あるいはレースについての考え方とは、ちょっと違ったところに成立しているクルマ──。たとえば、アメリカのレーシングカーは、バンクを駆け下りるデイトナのようなコースがあるかと思えば、ヨーロッパ的なワインディングのロードコース(クローズドなサーキット)、さらには市街地での公道レースまである。ところによっては、ひどくバンピーな(跳ねる)路面があり、バンクでは上下方向の「G」がかかる。これらのステージにそれぞれ対応するためには、さまざまな意味での余裕が必要なはず。何よりタフでなければならないし、セッティングの幅も広くなければなるまい。

このクルマの名は「イーグル」。「鷲」はアメリカの国鳥であり、いまF1タイヤの唯一のサプライヤーである米国グッドイヤーも、タイヤのサイドウォールに誇らしげに「イーグル」とペイントしてあるのは、ご承知の通り。このイーグルも、グッドイヤーのタイヤを付けているが、グッドイヤーとイーグルのスペルのうち、「R」と「L」を活かして、それを別の色に塗り分け、タイヤの右と左を示す記号にしているのはなかなかおシャレだ。

誇らしげといえば、このイーグルのコンストラクターで、このマシンで闘いつづけているチーム名が「AAR」なのだが、これはオール・アメリカン・レーサーズという堂々たる名前の略。そして、このAARのボスが、あのダン・ガーニーなのである。記録を残す選手と記憶に残るプレイヤーは違うとは、多くのスポーツで言われることだが、レーシングドライバー/ダン・ガーニーは、その温厚な人柄とともに、多くの人に記憶を残し続ける。

1950年代後半、「インディ500」のように、独自のレース史を持つアメリカの中にあって、西海岸を中心に、ヨーロッパのレースに目を向けている一連の人々がいた。彼らが後に「IMSA」という団体や今日のインディカー(1994年にホンダが参戦する)のスタイルを作るのだが、その中での最速のドライバーがダン・ガーニーだった。彼がどのくらい速かったかは、1959年のフェラーリF1チームがドライバーとして迎えたということでわかるのではないか。ダン・ガーニーは、F1フェラーリに乗った最初のアメリカ人ドライバーなのである。

そしてガーニーは、当時(1960年代前半)のF1シーンで天才の名をほしいままにした、ジム・クラークと同じレベルの速さを示した。だが、勝利にだけは見放されていた。ポールポジションを取ってもリタイヤしてしまうとか、最後尾スタートで抜きまくってもフィニッシュは3位だったとか。ダン・ガーニーはそんなレースを、クラークやグレアム・ヒル、スターリング・モスらと繰り広げていた。

ただし、ダン・ガーニーがF1でリザルトを残していないわけではない。1964年にはクーパー・クライマックスに乗り、フランスとメキシコで勝っている。そしてハイライトは1967年だ。この一年前から、AARは、F1が3リッター・エンジンに変更になったのに合わせて、「イーグル」という名のF1マシンを作っていた。エース・ドライバーは、もちろんダン・ガーニーである。

この年のガーニーは、まずアメリカの「インディ500」で予選2位を得た(決勝はリタイヤ)。そして6月のル・マン24時間レースでは、フォードGTに乗って優勝。この時のパートナーはA・J・フォイトだった。そして、その一週間後のスパ・フランコルシャン。今度はF1のベルギー・グランプリで、イーグルは優勝してしまう。これは“アメリカ車”にとってのF1での初勝利という歴史的快挙でもあった。

(つづく) ── data by dr. shinji hayashi

(「スコラ」誌 1992年 コンペティションカー・シリーズより加筆修整)
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Posted at 2016/02/01 11:56:17

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