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イイね!
2016年08月31日

映画『おもひでぽろぽろ』の「スバルR-2」が絶妙だ! 《6》

郊外の道を行くスバル。蔵王に向かって道が登りになり、遅い軽自動車は“ペースカー”状態になって、スバルの後方にはクルマの列ができてしまった。路肩の駐車スペースを見つけたトシオは、すばやくクルマをそこに寄せ、後続車を追い越させる。サンキュー!というクラクション。クルマについてのリアリティ(よくあること)を、この映画は何気なく挟んでくる。

蔵王に着いて、眺めのいいカフェ。小さなテーブルで向かい合って、トシオはコーヒー、タエ子はコーラを飲んでいた。ここでトシオは、いきなり訊いた。「タエ子さん、なして結婚しないんですか?」

向かい合った若い男女の間での「結婚」という言葉、さらには、未婚の理由の問いかけ。図々しい、非礼な!……という見方はもちろんできるが、この時のトシオは、ただ率直なだけだったのではないか。トシオはタエ子を「恋して」はいないが、しかし、去年、稲刈りの後の酒盛りには参加したし、今回、早朝に駅に迎えに行けと言われても断わらなかった。トシオがタエ子に「興味がある」ことは明らかで、タエ子が未婚であることも、既に本家から聞いて知っていたはずだ。

自分の身の回り(山形)では、女は「適齢期」になれば周りが放っておかないし、だいたいみんな“片づく”というか嫁に行く。でも東京では、そのあたりは事情が違うのか。さらには、“東京の女”タエ子に彼氏はいるのか。そして、いないから結婚してないのか、いや、いるのに“まだ”なのか?

誰もが訊きたい質問(Q)その1というか、ともかくトシオが気になることのイチバンをひと言にしたのが、「タエ子さん、なして……」だったのだろう。この時のトシオにとっては、この質問を「しない」ことの方がずっと不自然だった。そしてタエ子にとっては、これは想定内の「Q」で、だから嫌がることもなく即答でアンサーした。「えっ? あ、結婚しないとおかしい?」「いまは仕事をする女性が増えてるでしょ。私の友だちでも、結婚してない人の方が多いくらいよ」

そして蔵王でのタエ子には、そんな「いま」のことより、もっとほかに話したいテーマがあったようだ。
「ねえ、トシオさん。小学校の時、分数の割り算、すぐできた?」
「は?」
「分子と分母ひっくりかえして掛けるって、教わった通りにスンナリできた?」

「小学5年生の自分」を山形に連れて来てしまったタエ子は、ナオコには「エナメルバッグ~父に頬を打たれた事件」を語ったが、同じようにして、ここではトシオに新たな“告白”をしようとしている。

ただしトシオは、そんな小学生の頃のことなど憶えていなかった。
「いいわねえ。憶えてないのは、スンナリできたからよ」
タエ子は続ける。
「分数の割り算がスンナリできた人は、その後の人生もスンナリ行くらしいのよ」
「は?」
言われたトシオは、さらにわからない(笑)。

「リエちゃんというおっとりした子がいてね。算数ぜんぜん得意じゃなかったけど、素直に、分子と分母ひっくりかえして100点!」
「その子は素直にスクスク育って、いまはもうお母さん。二人の子持ちよ」
「私はダメだったのよねえ……。アタマ悪いくせに、こだわるタチなのよね」

……1966年、岡島家の茶の間。小学生のタエ子は、分数の割り算の問題が「25点」だった。その答案を見ている母に、タエ子は懸命にイイワケする。
「あのね、このテストの前ね、図工だったの。 でもって、吹き絵をやったの」
「画用紙に絵の具を垂らしてね、フーって吹いて模様つくっていくの」
「フーって吹くでしょ、フーって」
「あたま、痛くなっちゃったのよね。フーってたくさん吹いたから」

なかなか可愛いシーンだが、母は冷たい。「それで、このお点なの?」「間違ったところの正しいお答え、わかってるの?」「ヤエ子姉ちゃんに、教えてもらっときなさいよ」

しかし、その答案を見たヤエ子(次姉)は驚愕し、大騒ぎで二階から駆け下りて、母に訴えた。「お母さん! なっ、なによこれ。どっ、どうしてなの!」「タエ子、アタマどうかしちゃったんじゃないの!」

「教えてやってって、言ってるでしょ」
「だって普通にやってれば、こんな点、取るわけないわよ」
「だから、普通じゃないの。タエ子は」
二階から降りてきたタエ子にも、このやり取りが聞こえてしまう。顔を見合わせる母と次姉ヤエ子。

“高二の秀才”であるヤエ子は、タエ子が「わからない」ことがわからない……というか想像ができない。
「分母と分子をひっくりかえして、掛けりゃいいだけじゃないの。学校で、そう教わったでしょ」
言いながら、答案用紙に、正しい解き方の式を書いていくヤエ子。

しかし、この時のタエ子が欲していたのは、算数としての答えや、こうすれば答えが出せるというノウハウではなかったであろう。「分数で分数を割る」ということの概念というか意味というか、さらには哲学というのか──。その種の説明を、数学の公式によってではなく、文系の少女であるタエ子にもわかるように、言葉や目に見える図解によって知りたかった。

「分数を分数で割るってどういうこと?」
小学5年生のタエ子は、呟くように言いながら、高二の姉の前で、“自分のための絵”を描いていく。円を3分割して、まず3分の2を設定する。
「3分の2個のリンゴを、4分の1で割るっていうのは、3分の2個のリンゴを4人で分けると、ひとり何個かってことでしょ?」

……私も算数ができないので(笑)、このような「絵」によるタエ子の解釈というかアプローチが、数学的に正しいのかどうかはわからない。ただ“高二の秀才”であるヤエ子はすぐに否定したから、この図解はきっと間違っているのだろう。

“普通人”で秀才である姉のヤエ子は、あくまで自分のフィールドでタエ子に教えようとする。
「とにかく! リンゴにこだわるから わかんないのよ」「掛け算はそのまま、割り算はひっくり返すって、覚えればいいの!」

(つづく)

◆今回の名セリフ

* 「小学校の時、分数の割り算、すぐできた?」(タエ子)

* 「分数の割り算がスンナリできた人は、その後の人生もスンナリ行くらしいのよ」(タエ子)

* 「分数を分数で割るってどういうこと?」(タエ子)
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Posted at 2016/08/31 20:54:20

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