
ミラージュ A153A(1978)
1970年代の前半、日本での「前輪駆動」(FF)は「稀少」という価値観も伴った新メカニズムだった。「FF」というのはフロントエンジン/フロントホイール駆動を意味する和製英語で、外国語に強いクルマ・メディアからは、正しく「FWD」(フロントホイール・ドライブ)と言うべきだという主張もあったが。
当時、クルマ作りの基本となっていたのは後輪駆動システム。エンジンが前部にあれば、フロントエンジン/リヤ駆動で「FR」。車体後部にエンジンが搭載されている場合は、リヤエンジン/リヤ駆動で「RR」と呼んでいた。「RR」は、駆動系が後部にまとまって“省スペース”であるため、欧州では小型車に好んで採用され、軽自動車の多くも、この時代は(例外を除いて)ほとんどが「RR」方式だった。
そして三菱は、いわば、後輪駆動にこだわったメーカーだった。最初の小型車「500」はRRであり、そしてコルト以後の普通乗用車はFR。また、1962年にミニカで参入した軽乗用車でも、他社の多くがRRだったのに対して、三菱は独りFRで軽自動車を作った。(ミニカがFF化されるのは1984年の5代目からのこと)
そんな三菱だったが、1970年代の後半に「コンパクト・ハッチバック」という新ジャンルに参入する際には、さすがに潮流には逆らえず、その頃ではもう稀少ではなくなっていた「FF」レイアウトで新型コンパクト・ハッチを作った。……というわけで、このミラージュは三菱車で最初のFF乗用車なのだ。
全長に対してトレッドが広く見え(実際にも広かった)、それまでの“クルマは細長い”という既成概念を脱した全体の造形と、がっしりした台形デザインは、ひと皮剥けた新鮮なコンパクト車という印象。デビュー前年のモーターショーでお披露目されてスタイリングが注目され、1978年にマーケットに登場するや、女性層の人気も得てミラージュはヒット作となる。
(ホリデーオートBG 2000年3月より加筆修整)
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2016/09/02 05:41:13