
もうひとつの「SUV」だが、これも手短かに説明するのはけっこうむずかしい。まず辞書的には、これは「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」の略語であり、最初の「S」は「スペース」ではない。
モデルでいうと(2004年時点)、日本メーカーではホンダCR-V、スバルのフォレスター、またわが国でいうクロカン系(パジェロなど)もこれに含まれるはず。さらにややこしいことでは、近年はこのSUVにセダン(乗用車)の要素を加えた「クロスオーバーSUV」というジャンルが、アメリカでは出現している。たとえばトヨタのハリアー(日本名、海外ではレクサスRX300)は、もはや単なるSUVではなく、クロスオーバーであると位置づけられているようだ。
ではアメリカで、なぜ、このような用語が生まれたか。これにはアメリカ的なクルマの「分類」がその根底にある。アメリカ市場の場合、セダンやステーションワゴン、あるいはクーペといった「乗用車」系ではないタイプ。それらのクルマのすべてを、まずは「トラック」系として分類する……らしいのだ。
そして、そうした「トラック」系の中で、変化や進化が生まれる。たとえばチェロキーのような、普段の乗用ユースにも十分使えて、走りも鈍重ではないというタイプ。それらがミニバンと期を同じくして、アメリカのマーケットで注目され、そういった新タイプ車を日常的に使用する人々が増えた。
こうして1990年代の半ば頃から、大きな分類では「トラック」系に属するものの、その中で、乗用車としての十分な快適性や「ユーティリティ」を持つ新ジャンル・ビークルがマーケットの一角を占め始めた。そしてそれらは例外なく、トラックに較べるとはるかに「スポーティ」に走った。そこから、そうした軽快な“乗用トラック”を呼び慣わす名称として、以上の形容句を全部つないだ「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」(=SUV)という用語が生まれた……というのが私の解釈である。
「トラック」系のはずなのに、しかし、異様にスポーツ・ライクに走れる! こうした米人ドライバーの驚きから、この“新種”は評価された。ゆえに「スポーツ・ユーティリティ……」ということなのだ。
アメリカ映画を見ていると、農家などで所有しているクルマはピックアップ車一台だといったシーンに出くわすことがある。こういう人々にとっては、乗り物(ビークル)とは「トラック系」を意味しているはず。その種のクルマだけを乗り継いできたユーザーが、チェロキーを動かしてみた。あれ、これは全然違うぜ!……ということ。人々の間にそうした感覚の共有があったから、「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」という表現も浸透したのだろう。
対して、私たち日本人の場合は、「クルマ」といえば、まず最初に「乗用車系」を連想するのではないか。そして、そういう環境の中でチェロキーやハリアーを見れば、最近は「乗用車」が新展開して、オフにも行けそうな多用途車がいっぱい出て来たなと感じる。その時に、そんな“新種”をアメリカでは「SUV」と称している……と言われれば、「なるほど、スペース・ユーティリティってことだな?」と直感した。これはムリのない誤用であったな、とも思う。
さて、「歌は世につれ、世は歌につれ」は、音楽があまりにも細分化されてしまったためムカシ話になってしまったが、自動車とそのマーケットは、まだ「世につれて」さまざまな新種が登場する状況だ。「ミニバン」も「SUV」も、人とクルマの関係性と、人がクルマに求めるものが変わったことから生じた新ジャンルといえる。
ただ、歴史をさかのぼれば、これら二つのジャンルは、それぞれ「商用ワゴン」と「クロスカントリー車」をそのルーツとしているはず。そして1980年代あたりから、これらのジャンルのモデルが乗用車として「転用」され始め、1990年代に入ると、とくにアメリカと日本で、その「転用」がいっそう日常化した。マーケットとカスタマーは、メーカーの思惑や歴史とは無関係に、商用ワゴンやクロカン車を乗用車として使った。
そうなればメーカーとも、そんな「転用」を前提にしての、そして「その次」もニラんでのクルマ作りになる。そんなに「非・乗用車」系の乗り物がほしいなら、そしてそれを日常的に使うなら、そのための新車を作ってあげましょうということ。クルマ世界の20世紀が「セダンとクーペ」の時代であったとすれば、その21世紀は「バンとSUV」の時代──。この大雑把な分類と解析は、たぶんハズレではない。
(了)
(2004年5月、web「Poplar Beach」掲載文より加筆修整)
Posted at 2016/06/11 09:40:28 | |
トラックバック(0) |
00年代こんなコラムを | 日記