
~『最速GT-R物語』 史上最強のハコを作った男たち(双葉社・1996年)より
◆GT-Rとル・マン24時間レース
新型車(=市販車)の開発と、レーシングカーの製作とはまったく次元が異なるが、ニッサンが、この「R33GT-R」でル・マン24時間レースに1995年から参戦を開始したため、単行本化に際して、その初年度のリポートを付け加えることとした。(注1)
まず、ル・マンを走っているのは「GT-R」なのかという問題だが、ハード的には、R33のホワイトボディを使用し、それにカーボンなどで補強を行なった(これは96年仕様から)ものに、ニッサンのかつてのグループCカー用のサスペンション・コンポーネンツをフィッティングさせている。そして、市販GT-Rの特徴である独自の4WDシステムは用いていない。
こうして見ると、GT-Rをベースに、より単純化した方向に改造したレーシングカーということができる。1994年からはじまったル・マンの「GT」というレギュレーションは、市販車をベースにそれをモディファイしたものということになっており、その意味では、「NISMO・GT-R LM」はその規格に忠実である。
ただ、この「市販車」という定義が微妙で、ごく少量生産で1台1億円近くするクルマでも、売っているという意味では市販車であり、そこからレーシングカーに仕立てたものでも「GTカテゴリー」として立派にル・マンに出られる。あるいは、このル・マンのために、ほとんどプロトタイプとして市販のラインナップにはないミッドシップのレーシングカーを新たに作ってきても、それが市販の用意があり、公道を走れるライセンスナンバーが取得できれば「GTカー」になれる。
ぼくはつまり、マクラーレンF1GT-Rやポルシェ911GT1のことを言っているわけだが、いつの間にか「スカイラインGT-R」は、ル・マンで、こういうクルマと闘わなければならなくなっている。……とはいえ“ほんとうの市販車”かどうかというのを言い出すと、NISMO・GT-Rにしても、2WDのGT-Rというのは市販モデルには存在しないスペシャルで、ニッサンも同じようなことをやっているではないかということになるのだが。
ただ、95年のル・マン参戦の監督であった水野和敏氏の苦笑混じりの言葉を借りるなら、「鉄ボディと直列6気筒でル・マンを走ろうというのはウチだけ……」なのであり、ニッサンは、あくまでも「量産車・改」で、このレースに参戦してきた。
しかし、GTカテゴリー、つまり市販車・改によるレースというはずだった新しい「ル・マン24時間」は、上記のように、当初のニッサンの読みとはちょっと違うレベルに、この1年で急速に変化してしまった。(また細かいことだが、記録の本文中にあるピットとドライバーを結ぶテレメーター・システムは、96年からは禁止されている)そのため、スカイラインGT-Rにル・マンを走ってほしい、さらには勝ってほしいという「日本人の夢」は、96年の参戦2年目で、なかなかむずかしいところに来ている。
スポーツカーよりも速いハコ──。ぼく自身は、このテーマには大いに関心がある。しかし、このいわば60年代的な、そして日本人的な“ドリーム”は、少なくとも90年代のル・マンというレースの場では通用しそうもないことが見えてきた。今日の極めて「レーシーな」ル・マンGTカーの間では、スカイラインGT-Rは、いわば最速の“ロード・ゴーイング・セダン”でしかないという現実があるのだ。
◆これからのGT-R
スカイライン、そして、そのGT-R。この、日本のクルマとモータースポーツ状況の象徴ともいえる機種は、ついに90年代半ばに「ル・マン」にまで到達した。その感慨は深いものがあるが、そのゆえに、GT-Rの今後も大いに気になる。GT-Rというクルマのコンペティションとの関わり、それへのスタンスをどうするか、そして今後のポジショニングなど、課題となりそうなテーマは多い。
ぼく自身は、このようなサーキットでの実状を見ると、一方では必ずセダンでなければならないクルマ──つまりこれはスカイラインのことだが、そういうモデルはそろそろサーキットから解放してやりたいという気持ちがある。「乗用車・改」でレースをしなければならなかった時代はもう終わっており、またメーカーとしても、そんな窮屈なことをする必要はなくなっているはずだ。「スカG」は、美しい記憶ではあるが、それはやはり60~70年代のものであろう。
むしろ、スカイラインGT-Rがすっぱりとレースを捨てた時、めざしている「世界一のロード・ゴーイング・カー」への道が本格的に開けてくるのではないか。R33とそのGT-Rの物語を書き終えて、ぼくはいま、そんな感慨を持つ。
1996年11月
○注1
スカイラインGT-Rル・マン参戦の初年度については、本ブログには既に掲載済みです。
・「6月の季語は『ル・マン』、1995年にニッサンは……」 全4回
https://minkara.carview.co.jp/userid/2106389/blog/c919308/p8/
( 『最速GT-R物語』 了 )
Posted at 2014/12/31 15:09:22 | |
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90年代の書棚から 最速GT-R物語 | 日記