
「寂しい」だけではなく、新プリウスでは「これはいいよな!」と思えることがいくつかある。そのひとつは搭載バッテリーで、ニッケル水素タイプのバッテリーを2010年代の新型車に積んでいることだ。
1990年代後半、初代プリウスの時点では、クルマに積める二次電池といえば、このタイプしかなかった。リチウムイオン電池自体は既に登場し、携帯電話などに用いられていたが、その用途が自動車用にまで拡大されるのは、00年代も後期になってからのこと。その頃、トヨタ以外のハイブリッド車が待ってましたとばかりにこの新型電池を積んだ。
多くの場合、ほぼ同じ用途のパーツでその新タイプが登場すると、あたかも生物が脱皮するかのように旧タイプは消えていく(消される)のが常だが、しかし、リチウムイオンが登場後も、トヨタはニッケル水素電池を捨てなかった。それぞれの電池で、それぞれに“いいところ”がある。これが開発陣のコメントであり、たとえば寒冷地仕様のクルマを作ろうとすると、ニッケル水素電池の方がずっと適しているという。
最新のプリウス・シリーズでは、搭載される電池に二つのタイプがある。この「堅実さ」を私は支持する。ここには、ハイブリッド・システムを他社に先駆けて開発してきたメーカーの歴史と自負も窺える。つまり、キャリアに裏付けされた自信。私たちだけはこの部品の良さを知っている、そんな地に足のついた姿勢だ。
開発陣に、シリーズ中での二つの電池の作り分け/使い分けを訊くと、リチウムイオン・タイプは軽量なので、他の装備品をいろいろ付けても車両重量が増えない利点がある。対して、ニッケル水素仕様を積む仕様は、装備的にはシンプルにしてある。……なるほどね! 堅実かつベーシック仕様としてのニッケル水素電池。こういうグレードには大いに興味ありだ。……というわけで、二仕様の電池は4代目プリウスの注目ポイントのひとつ。
そして、新プリウスの「これはいいよな!」ポイント、その二。それはスタイリングである。個人的には高いHPのクルマとしてまとめなかったことは残念だが、トヨタはある時点で、「セダン系」は“高姿勢”にはしないことを決めたと思う。その決定を経て、2010年代中葉のセダンやハッチバックはどうするか。その答えのひとつが、この最新プリウスの造形なのであろう。
このスタイリングは、もう「 * ボックス」というようには分類できない。また、ボンネットやフェンダーといったボディ用語も、もはや出番を失ったようだ。彼らのいう「ワンモーション」造形だが、この新プリウスはその中でも“突き抜けた”レベルにあると思う。
また「世界」を見ても、量販をめざすクラスとタイプのクルマで、ここまでデザイン的な主張が強いモデルというのも稀ではないだろうか。このプリウスに較べるなら、VWゴルフもポロも、こと造形面では、ある保守性という“垣根”の中から一歩も出ていないカタチに思える。そんなバリアーをぶち壊した、トヨタとプリウスの大胆さがいい。
そしてこのクルマの場合、たとえば乗降性といった性能が、スタイルのアピールの中に“溺れて”しまっていることもない。シート座面(HP=ヒップポイント)こそ、個人的には低いとは思うが、しかし、一見寝過ぎのようなAピラーでも、乗り降りでそれが一種のストレスになることもない。また、運転席からの景色(視界)にしても、Aピラーは何の邪魔にもならない。
まあ、普通の人々が日常的に使うのに、こんなにスタイリッシュなクルマを用意する必要があるのか?……という見方はあるかもしれないが、だからこそ、いい意味で前衛的でありたいとした新プリウスには拍手を贈りたい。
そしてスタイリングでもそうだが、この新型プリウスは「ヨーロッパ」が求めるものを一度確認した上で、シャシー性能、また静粛性や快適性で、彼らにそれらを“おつり”を付けて戻した。そんな気がしてならない。
「文化戦争」としての宣戦布告こそしなかったし、また、プロパガンダ的なこともほとんどしていないプリウスとトヨタだが、その技術陣による最新のアウトプットである「4代目」は、その「戦争」においても、まったく負けていないことを示した。残念とか寂しいとか、そんな一ライターの“嘆き節”を超えての、それがハードウェア的な現実なのである。
(了)
Posted at 2016/01/01 23:20:58 | |
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New Car ジャーナル | 日記