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2016年09月26日 イイね!

映画『おもひでぽろぽろ』とスバルR-2 ~ あとがき的なメモ 《2》

「ラブ・ストーリー」という前提でこの映画を見ると、実は、この映画には「恋している」人物が一人も登場しないので、逆にわかりにくくなってしまうように思う。まあ、本家のばあちゃんが見破っていたように、トシオはタエ子に「惚れちゃってる」かもしれないが、しかし彼は、自分ではそのことを認めていない。またタエ子にしても、トシオとの触れ合いで、自分がいろいろ変化したことは知っても、それが「恋」だとは思っていない。

ただ、人が(自分以外の)誰かと接触して、その結果、もし、その人のトラウマが消えたのだとしたら、これは大変なことである。物語の後日談として、タエ子がいったん東京に戻り、とくに「アベ君」の件で、自分がずっと抱えてきて、しかし処理できなかった「過去」の記憶(トラウマ)が、もう辛いものではなくなっている。そして、それがトシオによってもたらされたことに気づく。

その時、タエ子にとってのトシオが、“好きになった人”以上のかけがえのない存在であることがわかって、タエ子は以後の生活を、トシオとともに山形で過ごすと決めるのではないか。ある人が他者に対して、「恋愛以上」の関係になっていく。これはラブ・ストーリーを超えた、そんな人生のパートナーとの出会いを描く映画でもあった。

さり気ないが、「もう、5年生の私は連れて来ないから」とは、あなたのおかげで、私のトラウマは消えたのです……というものすごい「告白」だ。人としての歓び、そういう他者に出会えた嬉しさの言葉でもある。そして、こんな人には滅多に出会えないとわかったタエ子は、多少の紆余曲折はあっても、いずれトシオと結婚するだろう。

        *  

それにしても、繰り返しではあるが、この映画の「スバルR-2」は絶妙だ。このスバルと同時期、1960年代後半から1970年代に登場したモデルを並べてみても、キャスティングとして、「スバルR-2」以上にこの映画に似合うクルマは見当たらない。

たとえば、ホンダN360、ホンダZ、スズキのフロンテ、ダイハツ・フェローなど。これらはみな、他車に対する「敵愾心」を剥き出しにした格好をしていて、スバルのようなホノボノ感に乏しい。有機農業に秘かに意欲を燃やす青年の持ち物とは違う感じだ。

その意味ではホンダ・ライフ(1971年)はまあまあだが、ただ、このクルマに1983年まで、ずっとこだわって乗ってるかとなると、ちょっと「?」も付く。……かと言ってステップ・バンでは、今度は乗り手が素直な人に見えず(笑)、自称・百姓のトシオのクルマには相応しくない。

初代(1966年)のサニー1000、そのセダンなら? ……うん、これはいいかもしれないね。ただ、サニーだとちょっとスポーティすぎて、トシオが「気に入ってるんです」ということの意味が、走り屋とかカー・マニア的な方向に振れてしまう感はあるが。

じゃあ思いきって、スバル・サンバーでは……というと、これは「農事車」としてリアルに過ぎるのではないか。このクルマなら、どこの農家でも壊れるまで乗るだろうから、トシオが「気に入っている」理由がわかりにくいし、1983年まで使い続けている彼の「こだわり」も観客には伝わらない。

……というわけで、トシオの愛車は、やっぱり「スバルR-2」以外にないということになるのだが、しかし! よくぞまあ、このクルマをキャスティングしたもの。スタジオ・ジブリの「クルマを見る目」に、改めて脱帽だ。

そしてもうひとつ、この映画は「実写」ではないことを活かし、ゆえにクルマを巧みに小道具として使っている。つまり、アニメーション(絵)なので、クルマを自由に「抽象化」できる。これまでアニメ映画を見てこなかった「実写派」として、これは大発見だった。

アニメは、普通の映画と違って、実車を画面で映すわけではない。そこから、この映画がやったように、フロント・ノーズ部分のバッジを取り去って、R-2を「さらにR-2らしくする」こともできるのだ。実車のフルコピーを画面に出したくなかったという、単にそれだけのことだったかもしれないが、でも、これは映画的にも充分効果があった。

映画の中で、「クルマ」をとても巧く使った。そういう作品として、『刑事ジョン・ブック/目撃者』(注1)のフォルクスワーゲン・ワゴン(タイプ3)と、この『おもひでぽろぽろ』のスバルR-2は、私にとっての双璧である。

(了)

○注1:映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』については、本ブログで「最も醜い自動車」として採り上げています。URLは下記です。
 https://minkara.carview.co.jp/userid/2106389/blog/c919227/p8/
Posted at 2016/09/26 05:21:32 | コメント(0) | トラックバック(0) | クルマから映画を見る | 日記
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