
2014年9月に、12年ぶりの新型となったトヨタのプロボックス/サクシード。このモデルには、初代が登場した時(2002年)から注目していたが、二代目では、自身が持つ「テーマ」をさらに明確化して究める、そんなモデルチェンジが行なわれたようだ。
そして、その開発時に行なわれたというカスタマー調査と手法がいかにもトヨタ的(このモデルにはダイハツも深く絡んでいるが)というか、超・現場主義で興味深いものだった。その調査から生まれたであろう、開発陣によるさまざまな判断。また、リサーチの結果をもとにしての新型の改良など、とにかくこのクルマは、いろいろとおもしろいのだ。
時間の流れとしては、まずリサーチがあり、そこからのコンセプト作りになったはずなので、まずは二代目開発にあたって、開発陣がどんな調査をしたかを見てみる。聞けば、それは徹底した“聞き込み”であったようだ。通り一遍のアンケートとかグループ・インタビューといったことでなく(これらももちろん行なっただろうが)エンジニアが実際に「現場」へ出向いて、直接に聞き取りをする。この場合の「現場」とは、プロボックス/サクシードの「車中」である。
ほとんどが社用車や営業車として使われるであろうこのモデルだが、その実態はどうなのか。誰かそれを確認したのか? おそらく、こんな根源的なギモンがフッと生じ、そこから、実際にどう使われているのかを、開発エンジニアの目で見るということになったのだろう。そして、どんな“取材”が最も効果的かということから、丸一日、カスタマーのクルマに同乗するアイデアが出て来た。
ただ、トヨタ的なモノの考え方では、これはそんなにフシギではないのかもしれない。知る範囲でいえば、たとえばクラウンの開発にあたって、「クラウンのお客様」とはいったいどんな方々なのか。これを探るため、開発陣がクラウン・カスタマーの居宅に行き、面談しながら「客像」を体感して行く。そういうことを当然のようにやってきたのがこのメーカーだからである。
登場した二代目「プロ/サク」(社内ではこう呼ばれているらしい)は、フルチェンジされた新型であるにもかかわらず、Aピラーから後方の車体には、ほとんど手が加えられていない。この部分での変更点はテールランプの細部のみであり、こういうこと(無変更)が自信を持ってできたというのは、やはり“聞き込み”リサーチがあったからだと思う。荷室には問題はない、ここは変えないでくれ──こういうカスタマーの声が多かったのだ、おそらく。
そのほか、クルマ全体のレイアウト、車体のフォルム、そしてヒップポイント(HP=着座位置=前席座面の地上からの高さ)の「585ミリ」なども、新型でありながら変更されていない。新型開発に際して、何をして、何をしないか。この点がおそろしく明確なのがこの二代目なのだが、それはやはり、現場での聞き取り調査の故であると思う。
一日、カスタマーと同行していれば、カスタマーはリラックスするだろうし、そんな時間の中で、エンジニアはカスタマーの等身大のコメントが聞ける。ちょっとした彼らの呟きが改良のヒントになったこともあっただろう。かしこまってインタビューなどされると、どうしても人は構えるものだ。そして、何かイイコトを言おうとして、肩に無用の力が入る。また、メーカーへの無意識の“媚び”も混じってしまうかもしれない。しかし、エンジニアの方が彼らの仕事の場に出向くという格好なら、主役はカスタマーであり、彼らのフィールドでの本音も聞けることになる。
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何を変えなかったかは前述したので、ここからは、新型では何が変わったか、追加されたかを見ていくことにする。新型「プロ/サク」には、そうしたユーザー取材から生まれたと思える装備がいっぱいなのである。
まずは、ビジネスとしてクルマを使うドライバーは、手ぶらではクルマに乗らないという発見だ。彼らはほぼ例外なく、ビジネスバッグを携えている。そうであれば、その置き場があるべきだろう。また、納入先との打ち合わせに使う書類も運ぶから、それをきちんと収める場所もほしい。
もちろん、今日のビジネスにスマホや携帯電話は必須であり、それ専用の置き場所があるべきで、その充電にも万全を期したいところだ。さらに、さまざまな仕事やその準備をするために、車内にはしっかりした“デスク”がほしい。また、運転する際には上着は脱ぎたいので、ハンガーでそれを掛けておくためのフックも要る
そして、車内での飲食も、外回りの営業ではおそらく仕事のうちである。昼になっていちいち食堂に入るより、コンビニなら駐車スペースは基本的にあるし、そこで弁当でも買って車内で済ませれば、時間の節約になる。その場合、さっきの“デスク”は、ダイニング・テーブルとしても使える。飲み物にしても、クルマで一日動き回るのであれば、1リットル入りの紙パックをドーンと置いておく方が、はるかに面倒が少ない。
まあ、こうして書き続けるとキリがないのだが、新型プロ/サクのインテリアには、こうした“働く乗用車”としての機能と装備がいっぱいである。クルマを使って仕事をするという場合に、こうなっていればいい、あれがあれば便利だろうな……といった願望が、さまざまな装備や工夫によって、ほとんど充たされているのではないかと思う。
(つづく)
Posted at 2014/10/14 17:26:28 | |
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New Car ジャーナル | 日記