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家村浩明のブログ一覧

2014年10月14日 イイね!

FFから4WDへ。シャレードが示した4駆の日常性

FFから4WDへ。シャレードが示した4駆の日常性§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

いま、FFすなわち前輪駆動ではないクルマを探すことは、とくに小さいクラスでは困難である。そのくらいに、FF当たり前という時代であるが、この今日メジャーである「横置きFF」というのは、ほんの30年前に「発明」されたものに過ぎず(注1)、出始めの頃には、特有のクセがあるだの、果ては「危ない!」とまで言われたものであった。

1959年のアレック・イシゴニスによる「ミニ」から、はやと言うべきか既にというべきか、これだけの歴史が経った今日、「FFだから……」というケア(不安?)やスペシャル性(差別化かな)は、きれいさっぱりと皆無になりました。いま誰も、心構えなんぞをしてからFF車に乗ったりはしない。また、そうしなければならないようなFFモデルは存在し得ない。

その結果、室内有効スペースの広さ、深いトランクの獲得、直進性・安定性の高さ等々、FF化によるメリットだけをわれわれは享受できる。そのような状況になっております。

4WDというシステムも、やはり、FFと同じような“成長”の過程を示して後に、同レベルの達成を成すのであろう。ややコスト高につくことと、2輪駆動でもクルマは十分に走るから、2WDがマイナーになってしまうことは多分ないだろうが、4WDによるクセとか違和感、それを意識しつつのコーナリングといった余計な特質は、おそらくなくなるのだ。

すでに、ブルーバード・アテーサとかミラージュ4ドアなどで、4駆と気づかせぬ4WDが実現されている。またギャランは、高出力エンジンのアウトプットを4輪で受けることによる速さと凄さを見せつけた。

センターデフ(+ビスカス・カップリング)を持つ、完全なフルタイムの4輪駆動は、ハイパワー車と高性能車だけのものであり、なかなか「下」までは降りまい……。センターデフの代わりにビスカス・カップリングを使うという巧みな方法もあることだし、コストの問題もあるし……。

こう踏んでいたのだが、どっこい、ダイハツにやられた! シャレードの1300EFI版に加わった4WDは、94psの出力とは言え、むしろ“生活4駆”としての性格を与えられているクルマで、さらに「大衆車」クラスでもあるのだが、あっさりと、センターデフ/ビスカスの4WDが載ってしまった。123万円(東京・3ドアTXF)は安い。「決して、たんと儲けようという値段ではない……つもりです」と開発陣、同感である。

そして、“生活4駆”として、誰でも普通のクルマ(2WD)から乗り換えて、何らかの注釈が要らないドライビング感覚とハンドリング。これも出色! 雪や泥は知らない。試乗したのは、舗装のワインディング・ロード。

「こういうところで、もし何か(4WDであることによる)イヤな面が出たということなら、それは失敗だと思ってます」(シャシー設計部駆動担当・北浦照雄氏)。その通りであろう。その苦手種目を、シャレードは見事にクリアした。「失敗」に終わってはいないと評価する。

まだ、同車2WDと比べるなら、ややノイズレベルが高いかと思われるが、この音の件は現在の4WD車の多くが抱えている問題で、ひとり「大衆車」シャレードのみのマイナス点ではない。

(1988/03/15)

○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
シャレード1300EFI・4WD(88年2月~  )
◆4WD乗用車は、安心感と“ひろがり”のイメージはある。これで少しくらい雪に降られても大丈夫、いろんなところへ突入していっても走り続けられる……。一方で、どうしても出て来る騒音や燃費の悪化を、日常的に抱え込む必要が果たしてあるのか、2WDでいいじゃないか? このようにも評せる。いっそ「速さの4WD」にまで跳んでしまうという手はあるが、しかしそれは「生活」からも離れてしまう。4駆に関して、ぼくはいまでも揺れている……。

○注1:前輪を駆動するという方策は、歴史を探れば、クルマ史のごく初期から存在したようだ。また、シトロエンの「トラクシオン・アヴァン」(前輪駆動の意)である「7CV」は1934年に登場していて、第二次大戦後も「11CV」として生き残り、販売的にも成功した前輪駆動車となった。ただ、このシトロエンは「縦置き」エンジン。ここで、今日メジャーとなったとしているのは、モーリス/オースチンの「ミニ」に始まる、エンジンを「横置き」にしたタイプのことである。

○2014年のための注釈的メモ
80年代後半は、各社が「新メカとしての4WD」にトライした時代だったと思う。そしてこのコラムで見るように、乗用車としてその日常化をめざしたモデルもあったが、結局、4WDというか「全輪駆動」(AWD=オール・ホイール・ドライブ)タイプを「普通の人が普通に使う時代」は来なかった。

その理由はいくつか考えられるが、ひとつはやはり燃費であろう。4WDは部品点数が多くなり、車重の増加を招き、この点が燃費に影響する。とくに90年代末になってハイブリッド・システムが出現し、省燃費の競争が激化すると、4輪駆動はメカニズムとしてそれに対応できなくなった。さらには、クルマは2WDで十分に走れるとして、二輪駆動が成熟したことも大きかったはずだ。

ただし、冬期に雪上走行を余儀なくされる地域では、今日でも「乗用4WD」が求められ、各社がこのニーズに対応した“生活4駆”を各モデルにバージョンとして加えている。
Posted at 2014/10/14 13:04:06 | コメント(0) | トラックバック(0) | 80年代こんなコラムを | 日記
2014年10月09日 イイね!

ヨーロッパの「ソフト」のみを買う、いすゞジェミニのミックス作戦

ヨーロッパの「ソフト」のみを買う、いすゞジェミニのミックス作戦§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

おそらく、ロータス・エンジニアリングはかなり張り切ったに違いないと思う。それまでにも、ピアッツァ(米国名:インパルス)で「ハンドリング・バイ・ロータス」仕様を作っていたし、今回のクルマには既にして、西独のチューナー(イルムシャー)によるスポーティ版が存在する。いすゞが、それをロータスに知らせなかったはずはない。

思えば、我がISUZUも、なかなか味なコンペを仕組むものである。「ヨーロッパ」を使いこなしている? こういう見方は十分に可能なので、同時に、欧州の自動車人たちにとっても、ニッポン製のすぐれたハードを材料にして何かやるということは魅力的な仕事である──そのようなレベルを、われわれの日本車は既に獲得しているのだとも言えよう。

突然に余談だけれども、F1のあのアラン・プロストは、87年に使ったエンジンよりも速くて好燃費のエンジンを、自分の属するチームが獲得できなかったら、チームを出て独立するつもりだったといわれる。結果として、彼がいるマクラーレンは、87年のTAGポルシェに代えて、“常勝”のホンダ・エンジンを搭載できることになり、現役最多勝のF1レーサー、アラン・プロストは88年以降もマクラーレンに乗る。

この種の例はほかにいくつもありますが、ともかく、ジェミニに話を戻す。いすゞジェミニZZハンドリング・バイ・ロータスである。

要するにジェミニを、ロータス・エンジニアリングに渡す。いすゞとブリヂストン・タイヤのメンバーが加わり、足まわりに関するチューニングを6ヵ月にわたって行ないセットアップする。その間のテスト走行距離、5万マイル(8万キロ)。テストしたダンパー(カヤバ製)120種。テストしたBSタイヤ、20種。スタビライザーのコンビネーション、14種……。

シャシー、サスペンション、ステアリング系の総合チューニング──ロータスの言う「ライド・アンド・ハンドリングのマジック」を施されたクルマが、こうして生まれた。

いすゞは、このクルマのために1・6リッターのDOHC(ノンターボ)ユニットを新開発。レッドゾーン表示とは異なり、実は8000回転(!)まで回せるエンジンを、ロータスにプレゼントした。

……ということで、張り切ったロータスが作りあげた足がどういうことになったかというと、これが超・本格のスポーツカーになってしまった。「スポーツカー」という表現が曖昧なら、とにかく速く走る抜くことだけに留意して、きわめて高度な水準で固められた足だ……と言い換えてもいい。

日本で売るバージョンであり、当然、日本国内でもテストをして最終決定した足まわりだと、ロータスは言うが、率直に言って、これはニッポンに合わない! 

(まっすぐな高速道路以外で)時速100キロで走れるところは、この国にはないんだなんて野暮なことは言わないけれど、たとえばワインディング路にしても、そのコーナー(のR)は小さく、当然、その通過速度も低い。さらには信号も多く、ストップ・アンド・ゴーばかりを強いられるのが、わがニッポンである。中速コーナーなんて言うから、その(通過)速度を訊いてみると、「140㎞/hだ」という数値が出て来る、たとえば西ドイツなんかとは、どだい走行条件が異なるのだ。

もし、欧州風の本格的なスポーティ・サスペンションの「味」は欲しいけれど、あまたある彼の地のスポーツカーや、たとえばルノー・サンクGTターボを、クルマ全体のユニットとして買うのは、いささか高価に過ぎる──。このような意見を持っていた賢明な走り屋諸氏にとっては、ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータスは注目のバージョンであるかもしれない。その野性味溢れるシャープな「走り」の切れ味は、意を決して、また敢然として、味わうに値するものである。そして、このようなバラエティをジェミニ・シリーズに加えることを決したいすゞの勇気も、拍手とともに迎えてよいものであろう。

だが、ジェミニを、日常車としてグダグダと足として使いつつ、たまさかの日曜日に郊外のワインディング路などで、その高度にセッティングされたハンドリングの具合を独り楽しむ……といったような向きには、このジェミニ/ロータスは、あまりにシビアなのではないか? このように評価せざるを得ない。

むしろぼくは、マツダの「アンフィニ」の例もあるし、チューンド・バイ・ISUZUの方に興味がある。それをこそ世に問うべきであり、また、そういう時代であるとも思う。「イルムシャー」にしても「ロータス」にしても、要するにこれ、欧州コンプレックスの商品化ではないのか!?

(1988/03/29)

○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
ジェミニZZ/ハンドリング・バイ・ロータス(88年3月~  )
◆スポーツFF同士で比べるとすると、これだったら、たとえばCR-Xの方がずっといいなあ!……というのが、試乗会でジェミニ/ロータスに乗ってみての率直な印象だった。小さなRのコーナーを、アクセルを踏んで行っても曲がれるという点では、日本製FFスポーツ車の方がずっと「fun」であり、またデリカシーに富むと実感した。もっともこれ、「欧州」とか「ロータス」といった問題ではなく、ジェミニというクルマ自体(シャシー)にその因があるのかもしれないのだが。
Posted at 2014/10/09 14:39:23 | コメント(0) | トラックバック(0) | 80年代こんなコラムを | 日記
2014年10月07日 イイね!

エンジン作りの迅速サービス、ホンダ・ウェイ──トゥデイ変身!

エンジン作りの迅速サービス、ホンダ・ウェイ──トゥデイ変身!§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

ニュー・トゥデイの内容豊富なマイナーチェンジは、ホンダというメーカーのフレキシビリティと、エンジン製作陣の恐るべき“クイック・サービス”ぶりが発揮された好例だろう。この作り手のパワーについては、もう素直に認めざるを得ないんじゃないかと、感心しつつ、そう思う。

ホンダのデザイナーっていうのは、かなり自由な線を引いても、それをハード屋さんの方が可能にしてくれるから、いいですねえ! ──こう、同社のデザイン・スタッフのひとりに言ったら、彼は一瞬だけ複雑な表情を見せた後でニコッとし、「そう、ですね」と応じた後で、次のように付け加えた。「でも、エンジン屋だけじゃないですよ。スタッフ全員で、こうしよう、こういうクルマに作ろうとしてやってるんで……」

……というわけで、デザイナーだけがワガママを通してるんじゃないそうだが、でも他社の場合、ニューモデルの造型に関して、まず使用するエンジンが決定していて、それにデザインを合わせなければならないという事例は少なくないと聞く。つまり、手持ちのハードが絶対的に優先されるクルマの作り方をすることが多いのだ。だが、ホンダは違う。

そもそもトゥデイというクルマは、ごく短いハナ先と広いキャビン、長いルーフという、居住性の方向に極端にツメた造型でスタートしている。そのような、どこにエンジンがあるの?……というカタチを可能にするために、水平2気筒、エンジンの下にデフを配するという“二階建て”パワーユニットとしてデビューした。

その時点で、エンジンルームは既にギリギリであり、大胆ながらまとまりのあるデザインの見事さはともかく、他車に対してのパワー的な物足りなさは、このデザインを許容する限り、やむを得ないのではなかろうか。……と、そういうクルマであったわけです。(注1)

そいつが、ボディワークはそのままに、ニュー・エンジンを積んで来た。それも、3気筒。ついでに3速AT、得意のPGM-FIまでも一緒に。これがまた、見事にボンネットの中に収まっているんですねえ!

「軽」のパワーウォーズには参加しないと言いつつも、4バルブ(1カムシャフト)×3の12バルブ・エンジンで、もうトロさはカケラもない。足まわりも負けていず、バランスの取れたいい走りをする。室内も、より落ち着いて、オトナである。

軽自動車いえども遅くてはイカン!という日本的ニーズに対してはハードで応え、軽自動車であるからケバくてもいい(?)という一部のニーズには、HONDAとしてピシャリと拒否する。ニュー・トゥデイは、そんな「軽」でありましょう。さて、ゴーカなセルボと、そしてこのトゥデイと──。女性たちは果たして、どちらを選ぶのか?

(1988/03/22)

○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
トゥデイ(88年2月~  )
◆「あ、※※が来た!」と車名でいわれるのではなく、「あ、ホンダが来た!」と言われたい。こういう意見を、ぼくはホンダのデザイナーから聞いた。なるほど、メーカーとしての「ID」であろう、それを決めたいのであろう。ところで、欧州メーカーが、ひと目でそれとわかる「ID」の主張を“大・中・小”みたいな感じでやると、むしろ歓迎(称賛)されるのに、日本のホンダや、あるいはトヨタがそれをやると、「金太郎飴」だというような不満と非難の声が上がることが多いのは、何故なのだろうか? 

○注1:このコラム集でも、トゥデイは登場時に採り上げています。「80年代こんなコラムを」のカテゴリーをご参照ください。
 https://minkara.carview.co.jp/userid/2106389/blog/c919223/p11/
Posted at 2014/10/07 12:25:13 | コメント(0) | トラックバック(0) | 80年代こんなコラムを | 日記
2014年10月03日 イイね!

【雑誌】キラー・ブラックとブラッド・レッド

【雑誌】キラー・ブラックとブラッド・レッドいま、ちょっとおもしろい雑誌が出ています。「レーシング・オン」誌の473号で、特集テーマは「ADVAN」。80~00年代のモータースポーツ・シーンで独自のポジションを築いた、あの「アドバン」です。

表紙を飾るクルマは「東名サニー」、このマシンが活躍した伝説のカテゴリーである富士の「マイナー・ツーリング」レースにも多くのページが割かれています。そして、アドバンに関わった多くのドライバーも誌面に登場。さらに、メーカー(横浜ゴム)側からの証言が貴重です。

私もアドバンの歴史についての一文を寄せています。下記はその一部です。


この「アドバン・ブランド」を告知して、マーケットに認知させるためにヨコハマが採った行動は、ちょっと想像を超えたものだった。「アドバン」という名とカラーリングのクルマが、コンペティション・シーンを走りはじめたのである。

それはまず、1978年の富士スピードウェイで始まった。当時の“通好み”のカテゴリーだったマイナー・ツーリングカー・レースに、黒を基調に、赤を印象的に絡ませた“アドバン・サニー”が出現したのだ。



たとえばトップ・カテゴリーのF3000、あるいは富士グラチャンで、この「アドバン・カラー」はみな、応援しがいのあるチームでもあった。いまの言葉でいう“キャラの立つ”ドライバーが操縦し、決して遅くはないけど、でも、なかなか勝てないという微妙な位置にいた。惜しい! 悔しいなあ、よし、また来るぞ! そして、そうやって応援していると、年に一度か二度、そんなファンの期待に応えて、和田孝夫が勝利して見せる。


書店に行かれた際にでも、お手にとっていただければ幸いです。
Posted at 2014/10/03 10:17:10 | コメント(0) | トラックバック(0) | モータースポーツ | 日記
2014年10月02日 イイね!

「軽」における過給装置の新展開。ミラ・ターボのトルクアップ

「軽」における過給装置の新展開。ミラ・ターボのトルクアップ§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

べつにターボとは限らないけれども、何らかの過給装置を、扱いやすさとか太いトルク獲得のために、つまり「実用性」の向上のために用いる手があるんじゃないか。とくに軽自動車のように、エンジンのキャパシティが限られていて、パワーを「回転」によって絞り出すことが多い場合、低・中速域での「力」を過給によって稼ぐことができれば、たとえば発進はラクになり、頻繁なギヤ・シフトからも解放されることにならないか。

なぜなら、軽自動車とは、女性層やビギナー向けということになっているようだが、ハード的に考察すると実は違うからだ。多かれ少なかれ高回転型に設定された小さなエンジンからパワーを的確に取り出すには、かなり大胆な右足の踏み込みと、同時にデリケートな左足のクラッチ・ワークを必要とする。(MTの場合)

要するに、むしろ巧い人こそが、軽自動車を(他車並みに)速く走らせることができるのであり、“教習所運転”から最も遠いところにあるカテゴリーのクルマのひとつが「軽」なのだ。(教習所は、近頃、ディーゼル車を多用している。アイドリングでクラッチをつないでも発進していくようなエンジンを教習車に用いている)

──であるから、ターボなどによって、モリモリ/グイグイ走りのクルマに「軽」を変えてあげることは、全国の軽ユーザーにとって大いなる福音となるはず……というのが私見であった。「550cc+ターボ」(注1)という考え方ではなく、1.2~1.3リッター級の扱いやすいエンジンを作るつもりで、「軽」のターボ版を構想する。そういう提案である。

もっとも、自動車工学的には、ターボで低・中速域をパワー&トルク・アップすることこそ、実はむずかしいのであるそうだが(排気での過給だから、構造的にはその通りか)、そのへんの困難さをうかがわせない軽自動車用のパワーユニットができあがった。ミラ・ターボの「TR-XX EFI」と「フルタイム4WD EFI」という2機種に搭載されたエンジンがそれである。

その名のように、これまでのインタークーラー付きターボに、新たにEFIを装着して58ps(プラス8psとなった)としたものだが、そのチューニングは、マキシマム・パワーもさることながら、「下」での「力」を増すことの方に意が払われている。チョークもオートチョークとなり、実用度もさらに向上した。パワー的に言って、十分以上に速い「軽」ではあるけれど、普通車と同じようなシフトポイントと走行感覚を持つ「軽」であることの方を報告したい。そう、ずいぶんとズボラ運転が可能な「軽」なのだ。

次なるこのエンジンの使い途は、スポーティな「XX」といった特殊バージョンにではなく、それこそ女性層が買いそうな「普通の軽」への展開であると見た。この層では、価格の競争がシビアになるという側面があるので、こんなにカネのかかったエンジンを載せたんじゃ勝負にならないかもしれないが、でも、「軽」の可能性を大きく拡げるパワーユニットではあろう。

「軽」の世界は、触れるたびに、いつも何かが“大きく”なる。ウォッチャーとして、こんなにおもしろいカテゴリーはないと、あらためて宣言したい。

(1987/12/08)

○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
ミラ・ターボTR-XX EFI/フルタイム4WD EFI(87年10月~  )
◆普通車と同じような感覚で乗れる軽自動車。これは「軽」の90年代におけるテーマとなると思う。「同じ」とは、ハンドルの重さ、アクセルワーク、空調などである。なぜなら、モータリゼーション草創期のように、「軽」にしか乗らないというような人はもういないからだ。特殊であってはならない、小さくてもいいけど──。これが、これからの「軽」を活かす。税制などその特権は大いに活用すべきだが、甘えは不可。このことを、すべての軽自動車に提言する。

○注1 
550cc+ターボ:80年代の軽自動車は、そのエンジン排気量が550ccだった。1990年から、それが660ccに引き上げられて今日に至っている。

○2014年のための注釈的メモ
上記の排気量の件もそうだが、これはかなり「80年代後半」という時代を感じさせるコラムではある。たとえば、軽自動車の試乗記がMT車をベースに書かれていることが、そのひとつ。今日のスタンダードといえる「CVT」は、まだ一社(スバル)が試験的に(?)採用しただけだった。

また、当時の「軽」のターボは、そのほとんどがひたすら出力志向だった。その時代を経て、後年にターボを扱いやすさのために使うと、スズキがワゴンRに「Mターボ」(マイルド・ターボ)を設定。これはNA(自然吸気=ターボなし)と高出力ターボの中間という仕様だったが、ただ今日ではもうラインナップから消えている。

その理由は、「軽」のエンジンがターボ付きもターボなしも、どちらも低・中速域での扱いやすさ重視の設計になったからであろう。1990年に排気量がプラス110ccの「660」になったことは、「軽」のエンジンの発想と作り方を変えたのだ。また時代の変化もあった。90年代半ば以降、軽自動車は“競走の具”から、日常生活を豊かにするためのものとなっていた。そして、新パッケージングの提案も含めて、そんな時代と見事にシンクロしたのがワゴンR(93年)だったと思う。
Posted at 2014/10/02 16:21:27 | コメント(0) | トラックバック(0) | 80年代こんなコラムを | 日記
スペシャルブログ 自動車評論家&著名人の本音

プロフィール

「【 20世紀 J-Car select 】vol.14 スカイラインGT S-54 http://cvw.jp/b/2106389/39179052/
何シテル?   01/15 10:59
家村浩明です、どうぞよろしく。 クルマとその世界への関心から、いろいろ文章を書いてきました。 「クルマは多面体の鏡である」なんて、最初の本の前書きに...
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