
* ラウムが“新・乗用車”で、プレマシーがミニバンで、そしてフォレスターがクロスオーバーSUVだった──。これはひとつの正解と思うが、ただ、00年代の初頭で重要なのは、ジャンル分けよりも、こうしたさまざまなタイプのクルマを多くの人が日常的に使い始めたことだ。
* クルマはやっぱりセダンである! あるいは、クーペやハードトップって、やっぱりカッコいいよね! こうした「やっぱり」が主導するクルマ選びではなく、「あ、いま乗りたいのはコレなんで」「SUVっていうんですか、こういうの?」「ウーン、カテとか知らないし(笑)ただ、いいなって」……。カスタマーのそれぞれが、こうした自分の感覚でクルマを選ぶようになった。
* ジャンルとかカテゴリーをどこかで気にするクルマ選びは、つまりは「規範」と一緒にクルマを見ているということ。しかし、そうやって“外側”からクルマにアプローチするのではなく、もっとシンプルに、自身の“内側”から、感覚のみを大事にしてクルマ世界に向かうスタンスである。
* 自分が乗るクルマを決める際に重要なのは、自身の“内なる声”だけ。結果として、選んだそのクルマがどんなカテゴリーに属しているかは問題ではない。ましてや、隣家のガレージには何があるかなんてことも気にならない。
* 80年代半ばの「RVブーム」の中身は、こういうことだったのではないかと思う。ジャンルやカテゴリーにもともと関心がないから、逆に、どんなタイプのクルマにも乗れた。クルマ世界の全般を広く見渡して、「自分」にとって「いいもの」を、カスタマーが選んだ。
* こうした流れとともに、日本マーケットでは「乗用車」という言葉が死語になっていく。80年代後半から、その気配はあったのだが、それが90年代以降にハッキリしてきたと思う。問題なのはただひとつ、カスタマーがそのクルマを「乗用」に使うと判断するかどうか──。
* 仮に「乗用車」に対応する語を「商用車」とすると、この語もまた同時に、どうでもいい言葉になっていったであろう。カスタマーにとっては、自分がそれを選んで乗った時点で、それが「乗用」するクルマになるからだ。その選択には、他者(メーカー)は介入できない。
* クルマを作る側は、ワゴンだとかワンボックスだとか、また使途としてはオフローダーであるとかマルチパーパス車であるとか。そうしたテーマは意識せざるを得ないのだろうが、買い手側・乗り手側にとっては、それはあずかり知らぬこと。
* このようにして「商用車」という言葉を無意味にした、もしくは「乗用」と「商用」の区別を無にして、さらに商業的にも成功した最初のモデルが、あのアルト(1979年)だったのではないか。
* こうしてジャンルやカテゴリーに囚われず、クロカン、ワンボックス、ワゴン&バンといった「乗用車以外」のクルマを、カスタマーの側が「乗用」(常用)のために次々と「転用」していく。
* そんな“オキテ破り”が日本マーケットにおける「RVブーム」の正体で、その「転用時代」に、意外性とともに“スター”となったのがオフローダーのパジェロだっただろう。
* 事態(転用の時代)がここまで来て、メーカー側もようやく、それに対応し始める。ジャンルに囚われずに、日本国内のカスタマーは「クルマ」を買ってくれる。それなら、作る側も“脱カテゴリー”で「乗用車」を企画しようということである。
* そして90年代半ば、そんな“脱カテゴリー”コンセプトから三つのヒット作が生まれた。エスティマとオデッセイ、そしてワゴンRだ。
* この三つが期せずして、車型で分類すれば、みな「ミニバン」だったという、その理由はよくわからない。まあ、ひとつ理由を探せば、「ミニバン型」はSUVやクロスオーバーよりも、日本の「日常性」に溶け込みやすかったということだろうか。
* こうしたバン型やワゴン型は、カタチとしてはそれまでにも見慣れていた。その種のものでありながら、でも、ちょっと新しいテイストが加わっている。それが、これらの三機種だと受け取られたのではないか。
* 対して「オフ系」の匂いがどうしても残るSUVやクロスオーバーは、「街」では、いわば異分子となる。だからこそ乗りたい!というポジティブ派は別として、セダンなどの「既存」から乗り換える際には、それが越えなければならない壁となる。
* そんな中で、ワゴンRという「提案」に最も衝撃を受けたのがトヨタだったと思う。ワゴンRについて、これは軽自動車で別ジャンルだとは考えなかったし、また、ワゴンやミニバンという「ジャンル内」での提案でしかない……とも考えなかった。
* 私見も混じるが、「ヒップポイント」(HP)という「開発用語」を発見したのは、むしろトヨタだったのではないか。ワゴンRの新しさや、その「良さ」を研究していくうちに、人間工学とユニバーサル・デザインという視点が出て来て、そして「椅子」そのものに目線が行ったのだ。
* クルマの椅子、その座面を地表から「600ミリ』(プラス)の位置に設定すると、クルマも変わるし、クルマと人の関係も変わる。このコンセプトは「乗用車」を新しくすることができる! こうして、ラウムとプリウスをその嚆矢とする、「HP600」系の新種のビークル(乗用車)が続々と生まれることになった。(注1)
* 「HP600」モデル特集の《2》でタイトルフォトとした「乗降性」を示すイラストは、カローラ・スパシオのカタログに載っていたもの。00年代の前半、HPを「600」ミリ(以上)としたトヨタ車のカタログには、このイラストが必ずどこかに載っていた。
○注1:ラウムの場合、2003年に二代目を発表時に公開された「ユニバーサルデザイン・ガイドブック 実践編」によれば、二代目は「ヒップポイントを適正な範囲内で」アジャストしていた。「HPは600ミリ」という原則は踏まえつつ、クルマのキャラクターやポジショニングから、「より小柄な女性の方にも楽に乗降できるように」初代よりも20ミリ下げたという。つまり、二代目ラウムのHPは「580ミリ」である。
(つづく)
Posted at 2015/07/23 09:53:21 | |
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茶房SD談話室 | 日記