
教習車以外でこれを運転することになるとは、夢にも思わなかった。
なおかつ、タクシー、営業車としてではなく、自家用車として乗ってみた感想。
検なしなので、仮ナンバーで試走した印象を。
同じ車なので、随所でコンフォート教習車と比較しているけれど、自分自身の趣味が当時と変わりつつあるのと、教習車だった故に他車との公正な比較ができていない所もあるせいか、結構印象が違う所が多い。
・見た目
まぁほとんどの日本人は、これを見て「タクシー」と思うはず・・・
それを抜きにすると、古典的プロポーションの日本的セダンそのもの。見ていてとても安心感がある。以前までは「安っぽいクラウン」と思っていたけれど、よく見ると、時代に流されない凛とした佇まいは、とても個性的。安っぽい感じが少ないのは、黒塗り、メッキフェンダーミラー、カラードバンパーの仕様だからかも。
・運転席
ドアを開けると、一面ビニールの世界(笑)
旧車っぽいというかビニール臭い、独特な香りが漂う。教習車もこんな匂いだったことを思い出す(笑)
布もクラッシュパッドもない室内は、質実剛健そのもの。
大きなアナログ時計がタコグラフの代わりに付いている計器盤といい、手回しの窓といい、廉価グレードマニアにはたまらない???
とはいっても、造り、立て付けはすごくしっかりしていて、昔のトヨタの良さが息づいている。
ウィンカーレバー先端のハザードスイッチとか、明るいマップランプ・・・じゃなくて日報灯とか、スイッチ類はどれをとっても使いやすい!
シートはかなり柔らかく、着座位置は高め。ロングボデーのお陰で、コンフォート(教習車)より広い。なおかつ、トヨタらしくなくステアリング位置が近くて、扱いやすい。意外と運転手思いな造りに感心。
でも・・・ビニールシートはこの季節、とっても寒い・・・夏は強烈に暑いんじゃないか・・・?
シートの出来とかは非常に評価が難しい。このフワフワ感は味としては最高だけど、サポートは皆無だし、体が揺すられる。
でも、ここもまたトヨタらしくない部分で、ドラポジがすごく良かったりするから、遠乗りも疲れにくいかも。アクセルは吊りペダルのタイプだけど、しっかりしたフットレストがあって良い。
教習車も同じようなシートだったけど、もう少し硬かった気がする。教習車のときは、背中が蒸れる上に腰が痛くなって嫌だったなあ。
・室内
立ったピラー、高めのルーフと着座位置もあって、室内は広々。やっぱり後席が特等席。なんというか、ドンガラ感がいい。
足元の張り出しも少なく、セダンの見本のようなパッケージング。
でも欲を言えば、後席足元はもう少し狭くて良いから、シート座面を大きくして欲しいね。
この車で一番冷遇された席は助手席。運転席に比べてスライド量が少なく、足元は狭い。そのぶん、左後席は助手席を一番後ろにしても余裕の空間。
なおかつ、シートの座り心地が運転席とかなり違う。運転席はスプリングの入ったフワフワのシートなのに対し、助手席はウレタンパッドだけの感じ。
・運転してみて
LPGエンジンは、ガソリンエンジンともディーゼルエンジンとも違う、始動の儀式が必要。
スターターの音とか、昔のトヨタ車っぽい。
ハンドルはめちゃくちゃ軽く、切れ角も大きい。しかも、抜群の視界、見切りの良い車体と相まって、狭い場所での扱い勝手は最高。
ブレーキは独特な利きで、制動力こそ十分だけど癖がある。トラックっぽい。タクシー向けとして、耐久性最重視の硬いパッド、ライニングを使っているせいかもしれない。確かに、ホイールが妙にきれいで、ダストが極めて少ないように思える。
・走り
非力さを覚悟していたが、意外と走る・・・4気筒は軽快な感触。なおかつ、3Yエンジンはかなりの低速型。回らないけど、回さなくても実用トルクがしっかり出る感じで街乗りには十二分。でもキックダウンしてフル加速してみると・・・やっぱり非力。タクシーの運ちゃんはかなり踏んでるんだなあ、としみじみ実感。
低回転型のエンジンなので、回さずに走れば極めて静か。
4気筒ならではの利点もあり、フロントが軽いので、思いの外ハンドリングも小気味良い。
トヨタらしく、ATはとても滑らか。ただ、下のギヤで引っ張りすぎる感じもする。
OHV、カウンタフローの鼓動はとっても味がある。ミキサー式のLPGゆえ、キャブ車と似たような音。
・乗り心地
強烈にフワフワ。まさにタクシーの乗り心地?
現状、インチアップされていて195/65R15(BSスニーカー、社外アルミホイール)を履いているが、硬い感じは一切なし。ロール、ノーズダイブは大きい。リジッドのリアサスも、このゆるーいフワフワ感に貢献してる。
車酔いしやすい人にはキツいだろうなあ。エンジンサウンドとあわせて、旧車のような感触が味わい深い!
・少しいじってみて
燃料タンクの検査に出すのと、車検取得の準備として、少しバラしてみた。
メンテナンス性は抜群に良いし、細部まで無駄なく合理的、かつ耐久性抜群の丁寧な造り。下手なことで壊れそうにない。
トランクを見ても、タクシー専用車なだけあって、LPGボンベがきれいに納まり、場所をとらないように配慮されている。
ガス系統は、もし漏れても室内に充満することのないように、二重三重の厳重なシールドがなされている。これは他のLPG車も同じなんだろうけど。
・比較1
コンフォート教習車 デラックス(3S-FE、MT)
そういえばコンフォートって乗ったことあるなあ、と思いきや、かなり印象が違う。最大の違いはエンジンとホイールベース。
3S-FEのほうがパワフルだったけど、音は3Yのほうが静かな気がする。3YはOHVなので、当然ながら、ハイメカツインカムの独特なノイズは聞こえてこない。
ホイールベースが10cm長いのも、乗り心地と運転席の広さに効いてる感じがする。
ステアリングの径と太さが違うのも、印象が違う原因かも。位置ももう少し遠かったような。
ブレーキは教習車のほうが効いた。これもタクシー向け設計???
・比較2
ルーチェ4HT V6-2000リミテッド(AT)
車体寸法、排気量が互角なので一応。
クラコンに乗ってからルーチェに乗ると、着座位置の低さ、どっしりしたハンドリング、足の硬さ、包み込まれるようなシートに、まるでスポーツカーのような錯覚を受けてしまう。
この2台が、かなり違う考え方で生まれたクルマであることがよくわかる。善悪、良否の問題ではない。
狙いこそ違えど、両者共、その狙いを高次元に達成できているのは間違いない。
ただ、現行車に近いというか、今風な乗り味なのはルーチェの方。逆に言えば、ルーチェすら硬い足に感じるくらいクラコンはソフト。乗り心地としては、ぶわんぶわんに揺すられ、サポートもまるでないシートのクラコンよりずっと快適だったりする。
一言で括ると、クラコンは「ソフト」、ルーチェは「フラット」な乗り心地だと思った。
・総評
当初「運転席は奴隷の席」「名ばかりの安物クラウン」と、この車にはかなり悪い印象を抱いていたんだけど、乗ってみて、結構、良い意味で裏切られた。
なかなかどうして、真面目な造り、質実剛健な使い勝手、そして味のある走りと抜群の信頼性。
トヨタの良心が息づく名車だと思った。
・・・でもはっきり言って、エンジンや乗り心地、ビニール張りの室内は完全にマニア向けです(笑