2007年08月10日
ECU書き換えを大々的に謳わない理由
OpenECU系のツールをネタにしだしてから,ページビューが突然跳ね上がりました.
OpenECUの大きな特徴の一つである「純正ECU書き換え」への興味は多くの人が持つと思います.
しかし,ここで少しシラケるようなことを書いておく必要があると感じています.
OpenECUが提供するソフトウェアを使うと,純正ECUの内容を書き換えることができます.できないことが,できるようなる.素晴らしいことです.
一方で,純正ECUの書き換えには,リスクがあります.
OpenECU用のケーブルを売っている(特に日本の)業者の中には,このリスクを言わないか,言ったとしても過小評価しています.
純正ECUの記憶媒体には,フラッシュメモリという素子が使われています.OpenECUではこのフラッシュメモリを書き換えるわけです.一般にフラッシュROMなどとも書くのですが,敢えてフラッシュメモリと書きました.
ROMというと,ファミコンのカセットのように,10年経っても内容が消えないような印象を持たせます.しかし,そうではないのです.フラッシュメモリは,書き換えができる反面,何度も書き換えると,内容を保持できなくなるという特性を持っています.書き込みを繰り返して劣化すると,記録した内容を正しく読み取れなくなります.
ECUのようなデジタルの世界では,何と記録したかではなく,何と読まれたかで動作が決定します.例えば,ブーストのマップで1.0としたものが2.0と読まれたらどうなるでしょうか.言うまでもありませんね.ブローです.
では,どれくらい書き換えても平気なのでしょうか.
例えば,ある年式のランエボで使われていたフラッシュメモリの書き換え回数の保証値は100回です.100回ですよ.たかが100回の中で,各種設定を決める自信,あなたにありますか?
私にはありません.理想的な空燃比を追求しようと思ったら,プロだって100回以内に決めるなんて無理でしょう.
クルマの世界で使う素子は,普通の民生品よりも過酷な状況で使うことを前提としています.高い信頼性も要求されます.ですので,フラッシュメモリの書き換え回数も,民生品よりも少なめに見積もっています.「だから1000回書込んでも実際は平気」なんてしたり顔で言う人もいます.しかし,それは製造品質が偶然高かったからに過ぎません.言い換えれば,運が良いだけです.「180km/hで高速を走っても事故なんて起きない」と言っているのと大差ありません.
自動車のチューニングには,原理がわからないオカルト的なものがたくさんあります.そういった胡散臭いチューニングがあっても,上手いことやっていてくれるのがECUという側面もあります.多くの人が知っている通り,ECUには自己学習機能があります.ちょっとくらい変なことをしても,善きにはからってくれますし,あんまり酷い場合には,CHECK ENGINEを表示したり,セーフモードに入たりと,様々な手段でエンジンや我々を護ってくれます.
ECUに手を入れることで,これらの保護を自ら捨てるかもしれないということも考えておく必要があります.
自動車メーカのエンジン開発において,ECUの開発段階では,隔離された試験室にエンジンを置き,技術者は絶対に近づきません.爆発するかもしれないからです.エンジンについて知り尽くしたプロでさえ…もしくはプロだからこそ…慎重に慎重を重ねて弄るのがECUという代物です.
私は,こういった現実をソフトウェアの側面から見つめています.(そう,私の本職は組込みシステム系のエンジニアです.)
だから,私は,ECUを書き換えられるケーブルを作って売っても「これはロギング用のケーブルである」と言っています.そして,ECUの書き換えを,基本的には推奨しません.「ECUの書き換えツール」として売るのは簡単ですし,より高い値段がつくことも知っていますが.
繰り返しになりますけれど,アフターパーツ業界は,知識の絶対的な不足から,もしくは売らんがためという欲から,リスクを過小評価するところがあります.売る側の責任は大きいですが,買う側にも要求される知識というものはあります.
使う側としても,そのリスクを正しく理解してもらいたいと切に願っています.
と,シラケるようなことを書き並べましたが,いくつかのことに気をつければ,ECUの書き換えを安全に行うことができるとも思っています.(相変わらず推奨する気はありませんが)
その私的ガイドラインは,いつか書きます.今日は長文が過ぎました.
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OpenECUのリスク | 日記
Posted at
2007/08/10 20:04:15
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