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先日の「眼力(めぢから)」に続く、長/駄文ブログ第二弾です。暇で暇で仕方ない人のみお付き合い下さい。
今回はクルマのデザイントレンドについてです。私は専門的なデザインを学んだことは無いですし、審美眼に自信があるわけではないので、今回のブログも「思い込みの激しい奴の回顧録」程度に思って、広い心で読んでいただければ、と思います。
なお、古~い1時代のクルマデザインを振り返るには、トヨタ博物館(https://www.toyota.co.jp/Museum/)の写真データがとても充実していて使いやすいので画像リンクさせてもらってます。
さあ、長/駄文を読む心の準備はできましたか?
◆古い時代のクルマデザインの変遷(1900~1960年代の俯瞰)
まだ、CADもインターネットもなかった時代のクルマデザインのトレンドの移り変わりは非常にのんびりしていたのではないかと思います。流石にリアルタイムでは体験していないので、本当のところはどうだったのかはわかりませんが、ざっと10年単位くらいで1960年代くらいまでの変化は把握できるように思います。
以下、ざっと眺めてみることにします。
【1900年代】
キャデラック モデルA (1902年 アメリカ)
タイヤ・ホイールやライト(アルコールランプ?)や椅子の単体ではデザイン性を感じるものの、全体としては
「座席にタイヤが付いただけ」のような形です。パッケージングとしては見るべきものが無い印象を受けます。
ちなみにこの時代はライト兄弟が人類初の動力飛行に成功しているそうです(1903年)。
【1910年代】
ロールスロイス 40/50HP シルバーゴースト (1910年 イギリス)
「純粋な移動手段」だった自動車の差別化の視点が「豪華さ」になり始めた時代です。が、
板金技術がイマイチ陳腐だったので全体としてはペキペキした「板状」のもので構成されるシンプルなデザインだった様です。
ちなみにこの時代に第一次世界大戦が始まってます(1914年)。
【1920年代】
フォード モデルA (1928年 アメリカ)
板金技術がそれまでの10年に比べて飛躍的に向上し、随所に「曲面」が使われ始めています。
パッケージングとしてのデザイン性が感じられるようになってきました。
ちなみにこの時代、日本においては大正から昭和へ移った時代(1923年)で、関東大震災もこの頃(1926年)です。
【1930年代】
フォルクスワーゲン 38 (1938年 ドイツ)
それまで別体だった
ボディとルーフが一体化し、「塊感」のあるパッケージングとなり始めました。やっと現代(ヒュンダイじゃなくてゲンダイですよ)の自動車デザインとの共通項が出てきた感じです。
ちなみにこの時代は、このVWの生い立ちに深く関係するドイツのナチス党が政権を獲得した時代です(1933年)。
【閑話休題】
1920~30年代の大流行/流線型デザイン
レイモンド・ローウィや
ノーマン・ベル・ゲデスに代表されるデザイナーによって流線型デザインが1920~30年代に世界中で大流行しました。流線型デザインは、もともと力学的研究から発見、設計されたものですが、この直感的に人々に「速さ」を期待させる斬新な形状の世間への訴求力は凄まじかった様で、速度が要求される飛行機、船、鉄道、自動車、などにおいて流線型デザインは多く採用されたようです。

博物館等の展示品でも、この時代のものは「あ、1930年前後のものだな」とわかってしまう程広く受け入れられたデザインだったと思います。それまであまり意識されていなかった「インドストリアルデザイン」に流線型を基調とするアールデコスタイルが多く適用されたことがきっかけで、一般生活における「デザイン」が「トレンド」として大量消費され、流行と陳腐化を繰り返すようになったとする説もあります。
ドライエ 135 & 175

この写真のクルマは、フランス高級車メーカ「ドライエ」が1935年~1954年に製造していた135シリーズ、または戦後に排気量を拡大した175シリーズをベースにした自動車だそうです。この時代の流線型デザインのクルマについてはhttp://dailynewsagency.com/2014/09/28/streamlined-rides-from-the-age-msy/等に詳しく紹介されているので、興味があれば参照願います。
さて、話を元に戻して・・・
【1940年代】
チシタリア 202クーペ (1947年 イタリア)
この時代になると、自動車のパッケージングとしてかなり洗練されてきます。それまでのクルマデザインは、ボディとタイヤハウスが別体であるようなイメージだったのですが、この時代から
「フラッシュサイドデザイン(フェンダーとボディの一体化デザイン)」が登場してきます。現代の自動車に共通するまとまり感があります。ちなみにこの時代は太平洋戦争勃発(1941年)、第二次世界大戦終戦(1945年)という混乱の時代でした。が、チシタリアのデザインからは40年代の暗さが感じ取れないのが良いですね。
【1950年代】
ポルシェ 356 クーペ (1951年 ドイツ)
1940年代に始まった
「フラッシュサイドデザイン」は更に進化し、併せて
「低ボンネット化」も進みました。よく見るとガラスの曲面化技術が板金の曲面化技術に追いついていなくて、ガラス面だけがペキペキしています。が、その違和感を目立たないようにまとめているデザインには感心させられます。
ちなみにこの時代は日本のTV放送がスタートし、映画ゴジラが公開されたそうです(1954年)。
【1960年代】
フォード マスタング (1964年 アメリカ)
低ボンネットは更に進化して
フラットデッキ化し、基本的に現代のクルマの形状になっています。
ちなみにこの時代はビートルズが来日し、ウルトラマンシリーズ放送が開始した時代だそうです(1966年)。まだ私がぎりぎり実体験していない時代です(笑)。
そして今、最新(2016年)のクルマデザインはフロント、キャビン、リアがワンモーション化して、3ボックス形状と言われるセダンであっても、各ボックスの境界線はかなり曖昧になってきてますね。各ボックス部位の詳細を見ても、フロントグリルがボンネットやフロントサイドにまわり込んだりしてます。そのうちクルマは球体のような形状になってしまうのでしょうか(笑)。とても心配です。
さて、1900年から1960年代までのデザイントレンドの変化がなんとなくわかったような気になってきたので、今度は視点を変えてもう少し詳細に見てみることにします。
デザイントレンドの長期的な変化は、全車種を俯瞰的に見るより、定点観測的に1つの車種に絞って見たほうがわかりやすい気がします。どのような車種ならそれが可能でしょうか?・・・もうこれは「ザ・日本車」とも呼べる(私が勝手に呼んでいるだけですが)トヨタクラウンを置いて他には無いと思われます。
以下、トヨタクラウン視点でデザイントレンドの変遷を振り返ってみますので、暇な方は(笑)もう少しお付き合い下さい。
◆トヨタクラウンに見るカーデザイントレンドの変遷
服飾で言うと、スーツの構成は基本的に普遍でも、時代によってラペルの幅、肩幅、ウエストの絞り、着丈等が変化して行きます。クルマのデザインも同様で、
基本構成は変わらなくても、時代によって少しずつトレンドが変化しています。長く作られているモデルを定点観察していくと時代によるトレンドを追うことができると思ってます。コンサバデザインの代表、トヨタクラウンを見ていくことでデザイントレンドの変遷が把握でき(る気がし)ます。
1955年

キャビンにタイヤが付いて、そのタイヤを覆うフェンダーが後付けされたようなクラシカルなデザインです。
世界的には既に前述の「フラッシュサイド化」が始まっていましたが、当時の日本車は、まだそのトレンドに乗り切れていなかったのか、クラウンとしてトレンドに安易に乗りたくなかったのか、正確にはわかりませんが、客観的には
「(国際的には)垢抜けていない」デザインに思えます。
1962年
世界に10年遅れてフラッシュサイド化、フラットボンネット化を達成したようです。でもこれは「遅れ」ではなく、コンサバなクラウンとしてはやむを得なかったことかもしれません。ショルダー部かウエスト部かわからない微妙な位置に存在感をアピールしまくっている金属製モールがあります。当時の板金技術を駆使したメリハリある形状になっていて、なかなか格好良いです。
1967年

直線基調でわかりやすい3ボックス構成のデザインです。悪く言えば「味気の無いデザイン」ですが、コンサバなクラウンとしては、間違いのない無難な形とも言えます。
ショルダー部に明確なプレスラインがフロントからリヤエンドまでまっすぐに伸びていて、真面目でフォーマルな印象を受けます。
1971年

これまでの直線基調の反動でしょうか、このモデルは一気に
曲線基調になってしまいました。一体、どうしちゃったんでしょうか。当時、日本車に海外デザイナーの流麗なデザインが採用され始め、曲線デザインがcoolと思われ始めた時代だったためでしょうか。しかし、コンサバデザインを支持する層が多かったと思われるクラウンユーザーからは、「クジラクラウン」と呼ばれ、そっぽを向かれてしまったようです。
今なら、これはこれで個性的で良いデザインと思えるのですが、当時は「妙な形」と思われたのかもしれません。
1974年

前回の「クジラクラウン」の失敗がよほど痛かったのか、
再び直線基調の「無難なデザイン」「安心のクラウン」に回帰したようです。ある意味、クラウンのコンサバ性はここで完全に確定したのかもしれません。
1979年

クラウン(王冠)だけに、これぞ「王道」のデザインという感じになってきました。
角目シールドビーム、ド直線のウエストモールでガチガチの3ボックスデザインです。
黒いウエストモールもかなり目立ちます。もう絶対に間違いのない落ち着いた冠婚葬祭向け「クラウンスタイル」です。
1983年

当時のトヨタ車のデザインの全てがここに集約されています。写真のクラウンは黒ですが、後に伝説となる(笑)
スーパーホワイトのボディカラーが採用されたのはこのモデルからです。
樹脂製のCピラー、幅広ウエストモール、今までは金属製のバンパーだったのですが、
大型カラードウレタンバンパーになり、
フロントデザインが一体化し始めました。
1987年
複雑な曲面プレスによる流面形、3ナンバー専用ワイド【ボデー】、ウエストモール同系色化薄化。技術もデザインも世界トップの水準で、輸入車から学ぶことはもうほとんど残っていないのでは、と思えたバブル期、Japan as No.1の日本車を象徴する佇まいのクラウンです。
1991年
窓枠を廃止し、
派手目の装飾を抑えてスポーティデザインにして若返りを図るも、スポーティというよりチープなイメージに見えてしまい、クジラクラウン以来の二度目の失敗となった悲劇のクラウン(と、個人的には思ってます)。控えめですが、3ナンバーボデー(笑)の採用で、ショルダー部の張り出し感が出てきました。
ショートデッキスタイルのなかなかまとまったデザインと思えるのですが、当時の感覚では装飾を抑制しすぎたのかもしれません。やむを得ずマイナーチェンジで日本的ゴージャスでコンサバなエクステリアに先祖返りしました。
余談ですが、この時のクラウンは全体的に初代セルシオに非常によく似ていました。決して素性の悪いデザインではなかったと思うのですが・・・・
ちなみに、これが初代セルシオ
↓
1995年

前回の失敗の反省か、また
直線基調に戻ってしまいました。しかしながら、
ショルダー部のくっきりしたプレスラインを廃して張り出し感のある曲面造形を持たせ、シンプルなデザインになってきています。わざとらしい豪華さではなく、実直で真面目で違いのないコンサバ感が表現されています。しかし、ド直線の古典的なウエストラインはまだまだ健在です。
1999年
ショルダーの張り出し形状がやや上方に移動し、
ボンネットからリアエンドまでの連続性が生まれ始めました。
フロントグリルが前方に押し出され、その反対にヘッドライトが後方にスラントして、躍動感が強調され始め、次のモデルの「ゼロクラウン」の布石となったように思います。直線基調デザインの完成形だと思います。
2003年

ゼロクラウンです。
世界的なデザインの潮流を取り込んで一気にモダンでスポーティなデザインになりました。若返り三度目の正直です。
ショルダーの張り出しを強調して、当時のボルボから始まった明確な「ショルダー部」を形成しています。
握るタイプのドアノブをショルダーライン上に乗せ、ノブの異物感も回避し、洗練された印象を受けます。
ヘッドライトも躍動感あるマルチリフレクタです。このフロントデザインは後にメルセデスのCクラス(2011年 W204後期型)に影響を与えたのではないかと個人的には思ってます。あ、個人の感想ですよ!
これがメルセデス・ベンツCクラス W204後期型(2011年)
↓
2008年

ゼロクラウンのキープコンセプトモデルです。この時も当時の世界的なデザイントレンドに乗せました。そして、
長年採用してきたウエストモールをついに廃止しました。ウエストモールを廃止するだけでこんなにモダンな印象になるんですね。
ボトム部の躍動感ある複雑曲面プレスも採用されて洗練度が増しました。
2012年

更に世界的なトレンドに乗り、
LEDのアイライン、超大型のフロントグリルとフロントサイドエアインテークの組み合わせのデザインが採用されました。もはやクラウンは「無難なデザイン」ではなく、世界的なデザイントレンドを採用するファッション性の高いセダンになった様に思います。少なくとも「無難さ」で選ぶクルマでは無くなりましたよね。シンプルでありながら躍動感も併せ持つワールドワイドに通用する良いデザインだと思います。
さて、どうでしょう。クラウンを見ているだけで、デザイントレンドの変遷がわかったような気になりませんでしたか?
疲れたので、とりあえず今日のところはこの辺で・・・。
最後までお付き合いありがとうございました。
後編は近年のトレンドについて感じることを書いてみようかと思ってます。