YouTubeでイニシャルDを観た翌日の夜、わたしは国道を北へ走っていた。
国道に側溝がないので、やる気満々だった「溝落とし」ができずイラついていた。
制限速度は60km/h。
わたしはアクセルを踏み込み速度を上げていく。
50km/hを超えたとき、「50km/h突破!」とひとりで叫んでしまった。
つい大きな声が出ちまったぜ。
関東最速といわれるわたしの横をさっきからいろんな車がびゅんびゅん追い抜いていく。
たぶん80km/hは出てるだろう。
でもああいうやつらはいいのだ。
たとえば君の年収が500万円で同期のヤツが700万円だったら「ちくしょー!負けた!」って思うだろうが、無職の男が銀行強盗して1億円もってても「負けた」なんて思わないでしょ?
犯罪者と比べてもしかたがない。
まっとうな仕事で、決められたルールの中で勝負しなければ意味がない。
つまり60km/h以上で走る犯罪者と競っても意味はないのだ。
わたしのWISHのスピードメーターが限界速度の60km/hに達した。
ルールの中で、もうわたしの右に出る者は誰もいないのだ。
そのときだった!
ふいに前方に白いプリウスが入ってきた。
な、なに!
まさかわたしに勝負を挑む気なのか?
プリウスの後ろにはもみじのマークがついていた。
あのマークはなんだろう。
どこかで見たような気が、、、
そ、そうか!
あれは群馬県のもみじ峠のチームのマークにちがいない。
もみじ峠の下り最速はこのプリウスだったのかっ
ふっふっふ。
ひさしぶりに本気にさせてくれる相手が見つかった。
40km/hでぴったりとプリウスの後ろにつけ、アクセルを踏み込み、急加速して右車線に躍り出た。
45km/h、、50km/h、、、そろそろWISHのエンジンが悲鳴を上げ始めている。
しかしこの勝負、断じて負けるわけにはいかないのだ。
プリウスもぴったりと同じ速度につけてきた。
「さすがはチームもみじ峠。やるじゃないか。さすがにこれだけの速度になると前のタイヤがたれてきやがる、、」
後方からはこのバトルに興奮した走り屋達がさかんにパッシングしたりクラクションを鳴らしてわたしを応援している。
ちっ!シフトノブを握る左手が汗ですべりやがる!
(まあDレンジから動かさないので滑ってもいいわけだが・・)
2台は60km/hの前人未到のルールの限界点でその速度を保ったまま並走し続けたが、ふいにプリウスは国道沿いの山岡屋に入っていった。
そのときヤツの顔がちらりと見えた。
70歳くらいの男女が笑顔で何かをしゃべっている。
ついにこの極限の緊張に耐えられなくなり戦線を離脱した負け惜しみの笑いなのだろう。
もみじ峠の老いたる白い獅子よ。
あんたの走りも最高だったぜ。
けっしてわたしのほうが勝ったとは思ってない。
峠で再会する日を楽しみにしてるわ!
左車線に入って通常の速度に落とした。
右車線からはものすごい勢いで何台もの車が走り抜けていく。
その全員が「ありがとう!いいバトルを見せてもらったぜ!」というお礼のけたたましいクラクションをわたしに鳴らして行く。
見たこともないバトルに興奮のあまり、追い越しざまにわたしを見るその顔は、みんな怒ってるような表情にさえ見える。
さて、プリウスの老夫婦は山岡屋へ入るとラーメンを2つ注文していた。
白い獅子は奥さんのためにチャーシューを追加した。
そうだ、今日は彼らの結婚50年の金婚式のお祝いなのだった。
「あなた、さっきの黒いWISHのお嬢さん、ものすごい走り方だったわね。ついにあなたが負けるんじゃないかと思ったわ。」
「ふっふっふ。はっはっは。わーはっは。お嬢さんだと? あの女はお嬢さんなんかじゃねえ!前に国道20号で見かけたことがある!」
「ええ!じゃ、じゃあ、あのお嬢さんはまさか、、」
「そうさ!甲州街道の黒い女豹だ!」
「黒い・・女豹・・・」
「京子。いや府中街道のお京!おまえのセリカハイブリッドをもってしてもどうしても勝てなかった相手だよ」
「おまえさん、その名前はよしとくれよ。もう50年も昔の話じゃないか。50年前のあの日、夜明けのコンビニであんたのモンスターZに出会ってから、あたいは女になったのよ。こんなすごいクルマが公道を走ってるのかと驚いたわ」
「Zか。なつかしいな。俺のZはそんじょそこらのZとはわけのちがうZだった。そこらへんのフェアレディが震えあがるようなけたたましいエキゾーストサウンド!
その名もダイハツフェローZ!」
「そうね。わけがちがったワケあり中古車だったわね」
一方歴史に残るバトルを終えたrisaSpecはコンビニで缶コーヒーを買っていた。
駐車場へ戻るとWISHを何台ものパトカーが取り囲んでいた。
「これ、あんたのクルマ?」
「そうですけど、、、何かありましたか?」
「じゃあやっぱり!あなたが黒い女豹、risaSpec様ですか?」
「あ、うん。まあ昔の話よ」
「今は警官ですが。俺たちはみんな元走り屋で、あなたの走りに憧れてたんす!よかったらサインしてもらえませんか?」
「うん、まあサインくらいならいいけど?」
「やった!ここにお願いします!」
「risaさん!俺もサインしてもらっていいですか? あと、できれば指紋フェチなんで名前の横に拇印を押してもらえるとうれしいです。あ、くるーっと回すように」
「うん。君、名前は? 翔平くんへ、とか書かなくていい?」
「あ、それは書かなくていいです!」
「あのーrisaさん、すごくあつかましいんですが、俺は赤い紙にサインいただけますか?」
「うん、べつにいいよ。青でも赤でも」
「やったああ! おいおまえもこの機会だから赤い紙にたくさん書いてもらえ」
「あれ?この紙はなに? 2万円とか3万円とか。小切手かなんか?」
「あ!それはサインをいただいたささやかなお礼です」
「いいよいいよ。こんな何万円も」
「いえ!それでは俺たち走り屋の気持ちがおさまりません!どうか受け取ってください!」
「そーなの? なんだかわるいね」
そうして黒い女豹は走り去って行ったのだった。
んーもういい?
書いてるうちにめっちゃ本題からそれてしまったわ。
「risaSpec深夜の道の駅へ行く」というのを書きたかったのに。
それはまた次回。
ちなみにわたしは毎日が楽しい。
<いちおー念のため、risaSpecはゴールド免許です>
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2022/09/08 13:50:07