
エンジンオイルって何を選べば良いかよく分からないですよねぇ。組成はメーカーの社外秘なので完全にブラックボックス・・・
化学合成油というのも実態が分からず意味がないですしね。エステルベースと言っても実際にエステルがどの程度配合されているのかも分からない・・・。
APIではベースオイルに使用されるオイルのうち単体ではベースストック、ベースストックを混合して添加剤を入れる前の状態をベースオイルと呼んでいるようです。APIの分類は下記の通り。
Group Ⅰ ニュートラルオイル
Group Ⅱ HIVI (High Viscsity Index)
Group Ⅲ VHVI (Very High Viscosity Index),
XHVI (eXtra High Viscosity Index)
Group Ⅳ PAO (Polyalphaolefin)
Group Ⅴ Group Ⅰ〜Ⅳ以外、エステルやAN (Alkyrated Naphthalen)が含まれる
APIは粘度指数等を元に下記の通り定義されています。
Group Ⅱ 以上のベースオイルの比較についてKING INDUSTRYの資料では下記の通りと記載されています。ちなみにKR SeriesとはKING INDUSTRYにおけるANの商標です。
(KING INDUSTRY KR Seriesの商品説明書より抜粋)
う〜む興味深い。
以下は個人的な見解です。
Group Ⅰ
硫黄等も含まれており原油の産地に性能が左右される。不純物が多く油膜が均一でない。シールへの攻撃性は少ない。
Group Ⅱ
HIVIは水素化精製油のうち粘度が低めのもの。それ故にVII(粘度指数向上剤)が多めに必要。しかし、HIVIはコストが低いオイルなので敢えて良質な(酸化安定性の強い)VIIは使用されないでしょう。製品として出てくるオイルの性能は推して知るべしですね。
Group Ⅲ
VHVIはより高粘度の水素化精製油。HIVIより高温・高圧で処理されます。Group Ⅲ+やGroup Ⅲ++と呼ばれるより高粘度のものも含まれます。XHVIという天然ガス由来のベースオイル(GTL : Gass to Liquid)もその一つです。ShellのHELIXやWako'sのプロステージS等のベースオイルですね。
特徴としては比較的コストが低く、粒子も均一で油膜の性能が良い。PAOやエステルと比較すると粘度指数や酸化安定性はやや劣るもののまずまず。粘度指数がやや低い分、製品化のためにはVIIは多めになる傾向。全体としてはコストとのバランスが取れていて、PAOやエステル、ANを配合することで総合性能はアップできるので性能と価格のバランスが良い。
Group Ⅳ
(ExxonMobile Chemical, Group Ⅳ Basestocks Polyalphaolefinsより)
PAOのことです。一言にPAOといっても種類によって粘度が様々です。Exxon Mobile の製品でも粘度別に数種類が製造されています。
(ExxonMobile Chemical, Group Ⅳ Basestocks Polyalphaolefinsより)
また、メタセロン触媒により製造された余分な付属基が少ないmPAO (metallocene PolyAlphaOlefin) も含まれています。mPAOは通常のPAOと比較して分子が揃っておりより高性能。また、より高粘度です(kV: kinetic Viscosity @100℃ 150〜1000)。
(ExxonMobile Chemical, Group Ⅳ Basestocks Polyalphaolefinsより)
PAOの特徴は加水分解されず、熱酸化安定性に優れていること。kV @100℃における粘度が同じであれば、Group Ⅲと比較して低温でも粘度が下がりにくい。用途に合わせて様々な粘度が用意されており、VIIを減らせること。また、高粘度の製品はVII的に使用できます。せん断安定性も良く、摩擦係数も高めなためカムシャフト等の線状に潤滑する際に油膜が破断されにくく、金属の摩耗を防ぐ力が強いです。一方で潤滑性能を上げるためにFM剤(Friction Modifier)を使用する必要があります。
欠点は添加剤との相性があるこど、シールを収縮させる傾向にあること、そして価格。お値段を無視すれば理想的なベースストックではないかと。
Group Ⅴ
主に使用されるのはエステルとAN。ANに関してはどちらかというと添加剤的に使用されることが多いので別の記事で。
エステルについてもDiester, PolyOl Estler (POE), Phosphate Esterなどがあります。
Diester, POE共に特性は似ており、耐熱性が良く、良好な潤滑性能、強い熱酸化安定性、高いVI(特にPOEは高VI)、極性があり油性に加えて電気的に金属に吸着します。これにより良好な油膜を形成します。
欠点は加水分解されることにより劣化すること、価格が高いこと。古くからジェットエンジンの潤滑に使用されています。
エンジンオイルでの使用に関してはも特に雨天など湿度の高い日にも使用する場合には劣化が進行するものと思われます。
Phosphate Esterはより高温にも耐えられる特徴があり、タービンオイルやコンプレッサーオイルに使用されています。エンジンオイルへの使用はほとんど無い様です。
と、つらつら書いてみましたが性能ではPAO, Esterは良好ですが加水分解されない分PAOの方が長期的には良さそうです。VHVIは価格と性能のバランスが優れており、EsterやPAOを配合することでより性能を上げることが出来るので日常仕様で比較的高性能なものを求める場合には良さそうです。
よくあるノンポリマー処方はmPAOをVII的に使用しているものと思われます。エンジンオイルのタレはVIIの劣化が主な原因であるため理に適っています。VIIも高性能なものは熱酸化安定性の良いものもあるようですので一概にノンポリマー処方が正義というわけではないようです。
個人的にはうちのメガーヌは日常使用でサーキット等も行かないので、VHVIに良質なVIIが使用されているもの、これに好みでEster等やFM剤等の添加剤を入れて仕上げるのが良さそうです。レースや極限性能を求める場合にはPAOやEsterがおすすめですが、PAOは加水分解されない分、日常使用もする場合にはやや有利。PAOベースにEsterを配合して油膜の強化をして長期使用するのが良さそうですな。
あとオイルを選ぶ際にはメガーヌは直噴ターボなのでAPI SN-PLUSかつ純正elf evolution 900 SXRの粘度であるkV@40℃ 90 , kV@100℃ 14.7を基準に選ぶのが良いと思います。
(SN-PLUSはSN規格の基準に追加してLSPI(Low Speed Pre Ignition)/低速異常燃焼(低速早期爆発)対策を行っているオイルです。洗浄成分に含まれるCa系添加剤がLSPIの原因になるため、これを代替のものに置き換えているオイルになるので重要です。)
次はANが調べてみて面白いので記事にしようと思っています。
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2020/01/18 17:41:33