
今回の行ってきたも、前回同様にメカについてのssの登場人物が美術展の内容を説明する形式で、ルノワール展とヴェネチアアカデミア美術館展を解説します。
登場人物
藤澤透 愛車DC5
遠野桜、藤澤透の彼女
佐倉和人 愛車RX-8
佐倉さやか、佐倉和人の妹
宇佐美のどか、MPTFの宇佐美和彦、美樹子夫妻の娘
荻村瑞希 愛車FD2RR
野島大樹 愛車FD2
上記の登場人物で話しを始めます。
7月24日(日) 六本木 国立新美術館内 0950時
ルノワール展の開場時間を待つ列の中に藤澤透と彼女の遠野桜がおり、遠野桜が藤澤透の絵の知識を訊きたくなり口を開く。
「そう言えば、何で印象派が誕生したのか知っているのかな?藤澤君」
「今更、訊くかい」藤澤透は、そう軽口で返答するが内心では『来るべきものが来たかと』そう思うと同時に少し考えた後に答える。
「確か、印象派が誕生した切っ掛けは技術の進歩と当時の19世紀ヨーロッパ美術界の風潮に、ある人物達が、絡んでいた筈」
「技術の進歩は、鉄道網の発達とチューブ入り絵の具の事でしょう、鉄道網が発達した事により画家達は遠くまで苦労しないで行ける様になって、チューブ入り絵の具が誕生した事で室内のアトリエでじっくりと描かれていた絵が屋外で描ける様になったのよね。それじゃ絡んできた人達って?」そう返答してきた遠野桜に藤澤透は、教えられた事を思い出して答えた。
「うん、これを細かく言うと大変何だけど大雑把に言うとルネサンスに始まり、その後、新古典主義、ロマン主義、ロココ、写実主義と来て19世紀に入ると『やっぱりルネサンス期の絵画様式が一番』という風潮が生まれたが、それに対して反旗というか、最初の一石を投じたのがイギリスのラファエル前派運動だった」
「ラファエル前派、ハント、ミレイそれからロセッティが中心になった運動の事よね。自然を忠実にを合言葉にして精緻かつ正確な描写したのよね」
「そう、最もラファエル前派運動は僅か数年程で終息してしまうが、次にフランスで屋外の風景、季節ごとに変わり行く自然の風景、光、影、風などを描くスタイルが流行し、サロンに出展されるが当時のフランスサロンのトップ、ウィリアム・ブグローはこれらの絵画様式に理解を示すことなく、己が信じ描いた絵を基準にした為、出展された作品は先ず落選させられたが、落選させられた画家達、モネ、ドガ、セザンヌそして、ルノワール等が自分達の描いた絵の展覧会を開催する運びになるが」
「大失敗に終わったのよね。それで印象派の呼び名の元になったのがクロード・モネが出展した『印象 日の出』と掛けて印象派と呼ぶようになり、笑い者にされたけど、それらの嘲笑すらも糧にして精力的に創作活動をしたのよね。そして今ではその後の時の展覧会の事を第1回印象派展と呼ばれる様になり、その後第9回まで開催されたのよね」
「そう、そして今から観ようとしている。ルノワールは変な言い方だけど、影ですら光として表現しているからな」
「そうね。ルノワールの言葉に『絵とは好ましく、楽しく、綺麗なもの、そう綺麗なものでなければいけない』という名言を残しているから」そう遠野桜は答えながら、藤澤透が結構知っているのに少し驚きながら、内心でこう考える『藤澤君、ちょっとは勉強しているからルノワール展観るのは楽しみだけど、無理してるかな?』そこまで考えると列がゆっくりと動き出した。どうやら入場が始まり、動く列を歩きながら遠野桜は藤澤透に楽しい口調で言う。
「じゃ、藤澤君ルノワール展の会場内でルノワールの作品を観ながら楽しく過ごしましょう」
「ええ、喜んで」そう藤澤透は笑顔で返答するが内心では冷や汗が止まらい中でこう思っていた『今のところは大丈夫か、後は教えられた事をどれだけ実践できるかだ。荻村さん、野島さん感謝しますよ』そこまで思うと会場内に遠野桜と一緒に入場する。
同日 MPTF店内 1230時
「藤澤君、大丈夫ですかね?」野島大樹はそう言い終えると麦茶の入ったコップを口に運び、一口飲む。
「大丈夫だと信じようや、野島君」そう荻村瑞希は野島大樹に返答すると此方も麦茶を一口飲む。因みに2人は走行会に備えて、各種オイル交換とブレーキチェックの為に来ていた。
「そうですよね。信じるしかないですけど、ただ促成教育の詰め込み方式で教えましたから何処かでボロが出る可能性が無くもないんで…」
「それは、藤澤君の記憶力と彼女次第だよ。それに運が良ければ守護天使いや、達に会えるよ」
「守護天使達?あっ、そうか、そう言えば確か今日行ってますよね」
「そうだ出会えれば、問題ない筈だが、うち1人は微妙だがな」
「微妙ですか。藤澤君の運と守護天使達の加護を信じますか、一応開き直りの台詞も教えてますけど」
「それを言わない事を祈ろうじゃないか」そう言い終えると2人ともコップに入った麦茶を飲み干した。
国立新美術館1F カフェテリア 1310時
ルノワール展を観終えた、藤澤透と遠野桜はカフェテリアでアイスコーヒーとサンドイッチの昼飯を食べながら、ルノワール展の感想を話していた。
「藤澤君は、どれが良かった?」遠野桜からの問い掛けに藤澤透はルノワール展のパンフレットを広げ答える。
「う~ん、印象に残ったのは『陽光のなかの裸婦』、背景は一見すると荒々しいタッチで描かれているけど、色の使い方、近似色を巧みに使って描かれていて、裸婦の描きかたも精細かつ大胆に表現しているから見惚れてしまったし、後は風景画かも良かったが、やはりダンス三部作の二つ『都会のダンス』と『田舎のダンス』、それから『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』が最高に良いね」
「何で良かったのかな?」イタズラっぽい笑みを浮かべながら遠野桜は訊いてくるが、それに対して藤澤透は事前に教えられていたポイントを思い出しながら答える。
「二つ揃って見比べると共通しているのが二つの作品を描いた。ルノワールがモデルを務めていて『都会のダンス』は悲恋を『田舎のダンス』は幸福を感じてしまう、どうしてそう感じたのかと言うと」
「言うと?」
「結果を知っているから言えるけど、ルノワールと結婚して妻になるのが『田舎のダンス』のモデルを務めたアリーヌ・シャルゴで、妻となるべき女性と踊っているルノワールの表情とアリーヌの何処か垢抜けない立ち振舞いとドレスだが、陽気で幸福感溢れるタッチで描かれている一方『都会のダンス』は一見すると恋人同士が優雅かつ華麗に踊っている様に見えるが、目に映える程の白のドレスを着た。モデルのシュザンヌ・ヴァラドンの横顔の瞳は何処か悲し気に見えてしまい、おまけにヴァラドンの横顔に隠れるているルノワールの表情が見えないのが余計に悲恋的な描写になっているし、おまけに描かれた年が問題だ」
「それ、言ってあげる。1883年に描かれた『都会のダンス』のモデルになったヴァラドンは男の子を出産しているのよね。この男の子が後のモーリス・ユトリロと言いたいんでしょう?それからユトリロの父親候補が一杯居すぎて一説によるとルノワールも父親候補だったとか、結局形だけの父親はミゲル・ユトリロになったんでしょう藤澤君?」
「うっ、先に言われた。差し詰め銀英伝に例えるならスーン・スールズカリッターか、オスカー・フォン・ロイエンタールかな」
「銀英伝?」遠野桜が興味深い表情で訊いてきたので、慌てて藤澤透は話しを戻した。
「それから『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』は素晴らしいとしか言い様がない、木立の木洩れ日の光、光に照される中、影ですらも光として表現し、楽団が弾く音楽も聴こえてきそうな中で、男女のペアが楽しく活き活きと踊る様を圧倒的な表現力であらわしている。実際ルノワールは『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』を描くにあたり何枚ものスケッチを描き、制作したという」藤澤透の返答に笑みを浮かべながら遠野桜は、補足の説明をする。
「後、それから『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』衣装にも興味深い事実があるわ、男性達は一応既製服が当時にも存在したけど、女性達の場合はドレスを自分の手で作るハンドメイドなのよね。当時ドレスを買うとしたらオートクチュールの高級品で一部の女性位しか買えなかったから、自分達で作っていたのよ」
「 へー、そうだったんですか」
「そうなの、私も藤澤君が今言った作品は良いと思ったけど、風景画だと『草原の坂道』は、ウェットインウェットの技法で一瞬の光と影、人物達を表して、室内画の『ピアノを弾く少女たち』はピアノを此から弾こうとする姉妹の一瞬を物の見事に表し、その7年後に同じ姉妹を描いた『ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティール・ルロル』は姉妹が楽しそうにピアノを弾いている場面を表しているわ、観ていると本当に楽しくて、ピアノの軽やかな音色が聴こえてきそうよ」
「そうですね。今言った作品も一見すると典型的な室内画の様に見えますけど、ルノワールの手に掛かると光が溢れる色彩を表していますね」
「そうね、藤澤君がさっき言った様に影ですらも光として表現しているわね。そしてルノワールは晩年非道いリウマチを患いながらも、傑作『浴女たち』を制作していて『浴女たち』を描いた時のルノワールはリウマチが悪化して絵筆を録に握る事が出来ない中で、絵筆を手に括り付けて描き、更にイーゼルも滑車を利用して描きたい場所に動かす様に工夫した描いたから画家の執念、ううん、ルノワールの魂を強く感じたわ」そこまで言うと、遠野桜はアイスコーヒーを軽く飲むと時間を確認すると言う「ヴェネチアの水上の迷宮都市の講演会まで、まだ時間が有るからルネサンスの事をどれくらい知っているのか教えてくれないかな?藤澤君?」笑顔で言った。遠野桜のその発言に藤澤透は焦った。
『不味い、ルネサンスの内容はうろ覚えだ、どんな内容だったか』内心で焦りながら兎に角、口を開こうとした時に後ろから声が掛かった。
「あれ、藤澤さんですか?」その聞き覚えのある声を聞き、後ろを向くと見覚えの有る面子がおり、その面子を見た藤澤透は『地獄に仏とは、こう言う事を指すのか』という事を思いながら返答する。
同日 国立新美術館2F 1600時
ヴェネチア水上の迷宮都市の講演会を聴き終えた〈5人〉は、そのままヴェネチアルネサンス展に入場し、入場して直ぐの場所の壁に飾られている。1枚の絵の前に立つと〈5人〉の1人遠野桜が口を開く。
「此がヴェネチアルネサンスの開祖と呼ばれるジョヴァンニ・ベッリーニ作の『聖母子』別名『赤い智天使の聖母』ね。板に描かれた油彩画とは思えないわ。普通、板に油彩で描くと何処かしら硬い感じがするんだけど、此は板に描かれた硬い感じが厳かな雰囲気を醸し出すのと同時に、キャンバスに描かれた様な柔らかい感じも同時に表現して、硬軟両面を併せて描かれているわね」そこまで言うと、遠野桜は『赤い智天使の聖母』をじっくり観ていると有ることを思い出すと口を開く。
「ジョヴァンニ・ベッリーニに師事した有名な画家知っている?」その発言を聞くと〈5人〉中の1人佐倉さやかが答えた。
「以前、教わりました。今回のヴェネチアルネサンス展には出展されてませんけど、ジョルジョーネですね。ベッリーニに師事するとたちまち、その才能を開花して天才ぶりを発揮して若くして自分の工房を持ち多数の作品を手掛けましたが、何故か作品数はフェルメール以上に少なく、鑑定家の間でも19点から4点迄と意見が割れています。どうしてそんなに数に開きが有るかというと、1つはジョルジョーネがペストに罹り32~3才で亡くなってしまった事、もう1つはジョルジョーネに師事した弟子であると同時に助手だった。ティツィアーノがジョルジョーネを残した未完成の品を手掛けて制作した事です。実際、ジョルジョーネとティツィアーノの作品は見極めるのが非常に困難です」その返答を聞いた。遠野桜は感心した様な声を上げる。
「そこまで知っている人は、早々居ないわよ」
「教えてくれた人達も、良かったんで」佐倉さやかが、そう返答しながらも壁に飾られている絵を観ていると、或る絵、2枚の絵の前で止まった。
「あれ?この絵、受胎告知の題名なのに、聖母マリアしか描いてないわよ。のどか」そう言って、アントニオ・デ・サリバ作とマレスカルコ作の『受胎告知の聖母』を指した。
「言われてみれば、普通なら大天使ガブリエルが描く所なのに、描いてない所を考えると、聖母マリアを1人の人間として表現したかったんじゃないのかな?あ、でも当時の教会の権力を考えると、そんな表現するのはちょっと考えにくいかも?」
「いいえ、そんな事はないわと思うわ、そんな見方もアリね。成る程、1人の人間としと、いえ母として表現か…」宇佐美のどかが、佐倉さやかにそう言い返したのを聞いた。遠野桜は1人納得した声で呟く中で、佐倉和人は1枚の絵の前に立ち、隣に立っている。藤澤透に小声で尋ねる。
「藤澤さん、この絵『聖母マリアのエリサベト訪問』を描いた画家の名前がヴィットーレ・カルパッチョと言うけど、まさか、料理のカルパッチョの語源に成ったとは、言わないで下さいよ。もし本当だとしたら最高のジョークですよ。ジョーク」
「和人君、残念ながらその通りで。荻村さんが教えてくれたんだが、名前を付けられた説は2つ合って1つは画家のカルパッチョが生の薄切り牛肉にパルミジャーノチーズをかけたのを好んで食べたという説と、もう1つはカルパッチョの絵を観て料理人が閃いて店に出したら好評だったんで、敬意を表してカルパッチョと名付けたと言われているからな」
「ジョークで言ったのが、本当だったとは、予想の斜め上を行ったぞ、オイ」そんな事を小声で会話していた。2人に「兄貴と藤澤さん、次行きますよ」佐倉さやかが声を掛けると会話を一旦中断して、先行する3人の所に向かい合流し飾ってある絵の前で遠野桜、佐倉さやか、宇佐美のどかが会話をするのを聞きながら、絵を観ているが1枚の絵の前に来たときに、遠野桜は藤澤透に尋ねる。
「藤澤君、この絵の元の話し知っている?」そう言って藤澤透は遠野桜が指した絵のタイトルを確認し、何か言おうとしたら佐倉和人が先に言う。
「タイトルは『嬰児虐殺』だと、随分物騒なタイトルだな」佐倉和人がそう言ったのを聞くと、荻村瑞希と野島大樹に教えられた事を完全に思い出して答える。
「新約聖書のマタイの福音書の1節、ヘロデ王の蛮行を描いてます。イエス・キリストが誕生した時に、占い師からベツレヘムの地にユダヤの王が生まれ出たという予言を聞いたヘロデ王は、将来自分の王位が簒奪される事を恐れた為にベツレヘムの地の2才以下の子供は全て皆殺しにする命令を出しましたが、生まれたはがりのキリストとその一家は神のお告げを事前に受け間一髪でエジプトに逃れましたが、ベツレヘムの地では王命によって2才以下の幼子達の大量虐殺が起こりました。この絵はそれを表している。因みに命令を出したヘロデ王は、非常に猜疑心が強く、妻、妻の弟、そして2人の息子まで処刑ないし暗殺を命じ殺害した」
「げっ、藤澤さん今日はどうしたんですか?まるで荻村さんや野島さん店長みたいだ」佐倉和人が思わず、そう言ってしまい。それを耳にした遠野桜が意地悪そうな笑みを浮かべると藤澤透に尋ねる。
「それじゃ、藤澤君、新約聖書を知っているなら旧約聖書も知っているわよね?教えてくれないかな?ルネサンスには欠かせない内容よ」その発言に藤澤透は固まり、どう返答するか迷った瞬間に佐倉さやかと宇佐美のどかが助け船を出してフォローし始めた。
「ルネサンスの絵画様式というかモデルは主に、聖書、旧約聖書と新約聖書の話しをベースにしていて、旧約聖書では神が7日で世界を作り、最初の人間アダムとイブを作り、蛇に唆され禁断の果実を食べたアダムとイブは神々の怒りを買いエデンの園から追放され、その後アダムとイブは息子を達を作りますけど、カインとアベルの人殺しの話しや、増長した人間達が天まで届くバベルの塔を作るのを怒った神が、それまで統一言語だった言葉を別々にしたりとか、有名なノアの箱船と大洪水の話が記載されていて」
「新約聖書は、マタイ、ルカ、ヨハネ、マルコの4つの福音書が載っていますが、4つの福音書大元の話しはイエス・キリストの誕生からゴルゴタの丘で十字架に掛けられて死亡してから3日後に復活するまでの事を書いてますけど、細かい部分では違いがあります。さっき藤澤さんがおっしゃた、ヘロデ王の話しはマタイの福音書には記載されていますが、残りの福音書には記載されていません」佐倉さやかと宇佐美のどかの発言を聞いた藤澤透はパンフレットを広げ、それに付け加える様に言う。
「後はギリシア神話もベースにした作品も作られていて、このパンフレットを見ると、最後の方に『プロセルピナの略奪』という作品も有りますよ。確か、豊穣の女神ケレスの娘プロセルピナの美しさに惚れた冥王ハーデースがケレスの目を盗んでプロセルピナを拐った結果、母親のケレスは嘆き悲しみその影響で地上はそれまでの暖かな気候が一転して、全てが凍り付く気候になり、この事態を重く見た。ゼウス等は冥王ハーデースを説得してプロセルピナを地上に戻す様に了承させるが、ハーデースは地上に戻るプロセルピナにザクロを12粒与えて、プロセルピナは3粒食べてしまった結果」
「3ヶ月の間は冥界で過ごす様になり、それが冬の誕生になり同時に四季も誕生した神話ね。それじゃ1つ質問するけど今日の藤澤君、何て言うか少し違う気がするんだけど、どうしてかな?前に『若冲展』を観たときは、凄いとか、素晴らしい、綺麗な絵としか言えなかったのにね。誰に教わったのかな?」その質問に再度フォローの発言をしようとした。佐倉さやかと宇佐美のどかが口を開く前に藤澤透は、観念した声で言う。
「やっぱり、付け焼き刃だとボロが出たな。そうです。前回の『若冲展』の時は、月並みの感想しか言えず格好悪かったんで、知り合いの人達に詰め込み式で教えて貰いました。そして、もしボロが出たら『男は女の前では、特に惚れた女の前では何時でも見栄を張れと』こう言えと」その返答に遠野桜は、ほんの僅かな間、目を閉じて考えると、素敵な笑顔で藤澤透に答える。
「藤澤君そういう台詞は、自分で考えて言うものだけど参ったわ、何時もの藤澤君で居れば良いのに、無理な背伸び何か似合わないけど、でも今日の藤澤君は格好良かったわよ」その発言を聞いた佐倉さやかと宇佐美のどかは、思わず、場所を弁えて、音の出ない拍手を、佐倉和人は口笛を吹く仕草をし、そして、その返答に藤澤透は一瞬どう反応したら良いか判らなくなり、そんな藤澤透の右腕を引っ張りながら遠野桜は歩き始め、やがて1枚のそう1枚の大きな絵の前で立ち止まると藤澤透に尋ねる。
「藤澤君、この絵を観てどんな感想かな?教えられた事を忘れて藤澤君の思ったままで言ってね」そう言われた藤澤透は、教えられた事を忘れてその絵を観てると、一言述べた。
「凄いとしか言い様がない」
「そうね。私も写真とかなら観たけど、実物を前にしたら凄いとしか言えないわ」遠野桜が言うと藤澤透と一緒に、その絵を眺めていると合流した。佐倉和人、さやか、宇佐美のどかもその絵を前にして暫し言葉を失い。やがて佐倉和人が感想を言う。
「なんて絵だ。観ていると思わず跪きそうになる」
「兄貴、本当にそう。キリスト教徒で無くても、その場で跪いて神に祈りの言葉を捧げたくなりそう」
「さやかちゃん本当にそうだね。圧倒的な迫力と表現力で観るものに畏敬の念を与えてると同時に敬虔な気持ちにもさせてくれるね、ティツィアーノ・ヴェチェッリオの晩年の傑作『受胎告知』物の本の話しだと、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも、ティツィアーノの作品には惜しみ無い称賛を与えて、フェルメールは色彩の魔術師と呼ばれているけど、ティツィアーノは色の錬金術師と呼ばれる程に色の使い方、作り方、調合方法の仕方はルネサンス期に活躍した画家達の中でも文句なしの、トップクラスです」
「否定しないわ、まさか日本で此が観られるとは思わなかったわ」遠野桜がそう言うと『受胎告知』をじっくり観賞し、藤澤透も『受胎告知』を観ながら荻村瑞希が『それから藤澤君、ティツィアーノ作の『受胎告知』は観ると言葉を失う程に素晴らしい名画だよ。感想は思ったまま言っても良いよ、それほどまでに素晴らしい名画だ』言った事を思い出し、それが事実だと思いしりながら、観賞していると遠野桜が藤澤透の腕を組ながら再度、尋ねる。
「藤澤君、ううん、透どう凄いでしょう」
「ああ、何度も言いたくなるくらい凄いです」そう畏敬の念を込めて言い返すと、改めてティツィアーノの『受胎告知』を眺めた。
ルノワール展 8月22日迄
ヴェネチアルネサンス展 10月10日迄
上記2展、六本木国立新美術館で開催中なので、気になった方、もしくはこのssを読んで興味を持った方は、観てください。