旅の二日目。
1月2日(火)
「ホテルルートイン 清水インター」
この日、私の体に異変が生じる。
左肩が痛くて腕があがらないのだ。
上着に袖を通そうとするだけで激痛がはしる。
着替えもままならない体で、
私はこの先旅をつづけねばならなかった。
* * * * *
由比パーキング(上り)。

これでもか、というほど標識がフレームに入りたがる。
やはり由比パーキングは(下り)にかぎる。
ちょっと飛びますが、
ふもとっぱら。
牧草地で車を撮りたくて、千円払ってキャンプ場に堂々入場。

なにか思ってたのとちがっ!
もっとこう、スタイリッシュに・・・。
車を空前絶後の土ぼこりまみれにしただけにおわる。
「道の駅 朝霧高原」
「おいしいー。いつものんでるのとちがうわー」
みやげ物売り場で牛乳片手にみな口々にいうので、
(そ、そんなにうまいのか?)
と思い、270円はらってのんでみるが、
(ふつう)
もっと、ハイジがヤギの乳を直でのんでるような、そんなしぼりたての味を期待してたが、すみません、私の願望のベクトルがなにもかも間違ってるようです。
午後1時40分 精進湖に到着。

この時点で、今夜の宿はまだ決まっていない。
精進湖をえらんだのには理由がある。
湖のまえに少ないながらも宿があるからだ。
前日の薩た峠につどう四人で、
「富士山を朝夕撮るにはどの湖に行けばいいか」
を、ケンケンガクガクの議論のすえ、オイサンの
「湖のまえのホテルに泊まれば、写真撮影がラク」
という言葉につられて精進湖にやってきた。
ところが今回、私は宿の交渉に失敗することになる。
あらかじめ教えられたそのホテル。
フロントで呼ばわると、年輩の女性があらわれる。ここの女中らしいが、普段着である。
部屋はあるかたずねると、奥に引っ込むでなく、私のわきをすり抜けてパタパタと廊下をいく。
やがて戻って、
「一万二千円でよければ」
よければってなんだ。
よろしくなければ、ディスカウントに応じると受け取っていいんだな。
「お正月ですので」
繁忙期ねだんだといいたいらしい。
繁忙期というが、客が宿泊してるようすがぜんぜんしない。ホテル内はしーんと静まりかえっている。本当にこのホテルに客はいるのか?
女中は、値段については交渉の余地があることをほのめかす。
あとで考えると、なぜこの女中がこんなことを言い出したかは謎が残る。
が、私は(さもあろう)と信じていた。女中がまたパタパタ廊下をいく。それを今度は私はついていった。
女中が小部屋に入る。女の声がした。
なかに女主人、いや女将がいるのか。
それにしても、こうして客がきているのに接客しようともせず、うらでコソコソやっているここの女将はなんなのだ。
おまえは女帝か。
壁がうすいので、中の会話がつつぬけである。
「~なら断って」
というしわがれた、うるさげな女将の声。
断る?断るだと!?どこの客商売にそんな選択肢があるというのだ。
本気でここのホテルはそんなことをいうのか。宿はキャパシティを埋めてこそナンボの世界だろう。
いっておくが、私はべつに不埒を働いてるわけではない。値段の交渉がしたいだけだ。
それを断るとは、客の話もきかずに失礼ではないか。
観光名所にアグラをかいた、典型的な殿様商売。
観光地独特の腐敗臭を嗅がされた気分になった。
女中がでてきて、
「やはりさっきのお値段じゃないと」
とこたえ、つづけざまに女将の口伝えのように、
「これでも平日より安いそうです」
「なにを馬鹿な」
さすがの私も腹にすえかねた。
今さっき、繁忙期ねだんだと言ったばかりではないか。繁忙期で高いのに、平日より安い。どの口でこのような矛盾をほざくか。ひとを虚仮(こけ)にするのもいい加減にしてもらいたい。
もういい。こんな痴れた宿、こちらから願い下げだ。
宿なんてここでなくとも、さがせばいくらでもあるのだ。
* * * * *
表にでたあと、電話でちゃちゃっと甲府市内に一夜の宿を得た。
(さて、どうしたものか)
陽が傾くまで、まだたっぷり2時間はあるのだ。

とりあえず、みんカラをたっぷり時間をかけて閲覧しよう。みなさんの年始だよりがドシドシ上がっているのだ。
車も洗いたい。ふもとっぱらでついた土ほこりがまるで火山灰のように車体に積もっている。これをなんとかせねば、アルファ乗りの沽券にかかわる。
それにしても、「ほうとう」とコーヒーしかないような喫茶店だが、ほんとうにそれしかない。

めずらしく甘いものが食べたかったが、こういうときにかぎって何もおいてなかった。
* * * * *
午後4時。いよいよスタンバイに入る。
湖の真正面に陣取る。三脚をすえ、泰然とかまえる。まわりもどんどん人が増えてくる。キャンプ場に車を乗り入れ、車内からながめる人も。
寒々とした湖岸にシャッター音だけが響き渡る。
精進湖は標高800m。
気温-0.5℃。
凍えるくらい寒い。
風が湖面をしきりに波立たせる。
* * * *
この寒さでひとつはっきりわかったことがある。
あまりの寒さで、カメラの操作ができない。
指先がかじかんで、というレベルではない。
頭で考えても、実行できない。体がうごこうとしない。
そもそも、何も頭がはたらかない。
個人の資質にもよるだろうが、つくづく私は「南極観測隊員」にはなれないなと思った。
体力も根性もそなわってないのだ。
ただ、毎年富士山をおとずれて3回目にしてようやく、
真昼間の富士山ではなく、このような夕景にチャレンジすることができた。
私にとってはささやかな飛躍である。
このあと、急速に陽が落ちる。
潮がひくように人がいなくなる。
(あっ、終わりなのか)
終了のタイミングが私にはわからない。
左をみると、まだ撮ってる人がいるので、のそのそ近づいて行ってみる。
「どうです?撮れました?」
この男を私はしっている。
さっき私の背後をうろちょろし、
「リフレクションでます?」
ときくので、
「でないよー。ぜんぜんでないよー」
と答えた相手である。
ところが、この男の写真をみせてもらうと、これがけっこう出ている。
SONYだからか。いやいや、ふつうに腕の差だろう。
それと、角度の問題もあるようだ。私は馬鹿みたいに湖の真正面に三脚をすえ、いい気になっていたが、どうやらわずかに角度をとったほうがいいらしい。
真似してその場で撮ってみた。チョットだけでたかも。
彼は、「スーパームーン」が富士山にかかる夜11時までがんばるらしい。
そのためにそこのホテルに部屋をとった。そう、私が交渉に失敗したホテルである。
うらやましい。朝になれば目の前で富士山が撮れるにちがいない。
私は多少のやっかみもあって、
「でもあそこのホテル、高くないスか?」
ときくと、彼はとつぜんキリリ引き締まった顔になり、
「高い!」
と斬るようにさけんだ。
「あのグレードで、アレは高い!」
ふたりで顔を見合わせて大笑いした。
* * * * *
というわけで、たいへん遅くなりましたが、ここで新春のお慶びを申し上げたいと存じます。
旧年中はたくさんのいいネ!をありがとうございました。
みなさまには感謝です。
今年もよろしくおねがいします。

みなさまの健康と往来安全を祈って。
* * * *
(肩の痛み・後日談)
6日(土)に整形外科にいき、レントゲンと撮ると関節にびっしりカルシュームがこびりついており、「老化現象です」と診断されました。炎症をやわらげる薬と、「胃薬」(いわゆるガスターテン。副次作用で関節の石灰を溶かす)と夜も眠れない激痛をみかねてロキソニンよりつよい痛み止め(いずれもジェネリック)を処方されると、すぐに痛みは和らぎ、生活も仕事も問題なくできるようになりました。
一時は、写真はおろか車のドライブ、はてはみんカラもやめざるをえないとまで思い詰めましたが、なんとかまだやっていけそうです。
* * * * *
次回ラスト、「小海線・大曲」。
哀しみを胸に
旅は終わりを告げる。
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Posted at
2018/01/13 11:04:13