前回のブログで私は、
「二度と登山なんかしない!」
と放言しましたが、その舌の根が乾かぬうちに、
今回はこんなところに来てしまいました。
* * * *
奈良県・天川村にある
『洞川(どろがわ)温泉』
その奥に『ごろごろ水』
という有名な湧き水の汲み場
があり、その有料駐車場。

湧き水を汲むひとは1時間500円、わたしのような登山客は1日分として1,000円を払うと、すこし離れたところに停めることができる。VIP待遇である。

ちょうど一ヶ月まえ、わたしは乗鞍岳で岩場にしがみついてました。
頂上付近のガレ場で、必死に岩にとりつきながら、
(これはあとでかならず悪い夢を見る)
と思いました。
せまくて高い岩場で足がすくんで下りられない、という悪夢をたまにみるからです。
ところがじっさいには、そんな悪夢はいっさい見ず、むしろ気分爽快な夢をみたような気がする・・・夢の話なので記憶があいまいでうまく説明できませんが、
・・・あのとき感じた山の険阻さ、足がすくむ「恐怖」が、帰ってみればその裏返しにあった「快感」をひしひしと思い出すようになり、またなんでもいいから登山したくなりました。
昨年の紅葉で訪れた『みたらい渓谷』。
それがここ奈良・天川村でして、
(そういえば登山客がたくさんいたな)
という記憶をもとに調べてみると、ここ大峰山(おおみねさん)は日帰り登山にうってつけということがわかりました。
地図にするとこんな感じです。
奈良県・南部。
紀伊半島、紀伊山地のほぼ真ん中あたり。

下調べは十分にやったつもりのですが、ルートや登山口がよくわかりません。
googleマップに出ないからです。
案内の看板を食い入るようにみます。
登山口は、「ごろごろ水」と「母公堂」のあいだか。

これがごろごろ水。
ただし採水は禁止されてます。
駐車場つき水汲み場がべつにあり、そこまでパイプで湧き水をひいてあるのです。
そのもようは最後にでも。

山野草の『ハガクレツリフネ』が群生するなか、湧き水がこんこんと湧出するさまは、なんとも私ごのみの風趣で、さながら箱庭、ちいさな庭園のよう。

登山口はここから母公堂のあいだ、とぶつくさ言いながら歩いていくと、
「ん?」

ありゃ?母公堂についてしまった!
なんで?登山口なんかなかったケド。

おもわず、そばにいた人にきいてみる。
お参りしていた50代の夫婦。
「登山口ってどこなんですか?」
いくら切羽詰まった状況といえ、そんなの知らない人にきいたってわかりませんよね。
ところが、旦那さんが、
「たしかこっち・・・」
というのでびっくりした。
「ご存知なんですか?」
「3年前に登ったから」
「登ったんですか」
「イナムラだよね」
「稲村ヶ岳です」
来た道をもどります。
ここ通ったんやケド、と思いつつついて行くと、
ありました。登山口。

もうね、もだえましたよ。
わたしは視野狭窄というか、ホント馬鹿ですわ。
これだから初心者は。先が思いやられる。
旦那サンには、手を合わせるようにして厚くお礼を申し述べました。
うわ、こういうとこ登って行くんかい・・・。
誰も登ってる人いないんですけど。
あってるよね?

で、今回なんですけど、ちゃんと装備を整えての登山なんですよね。
まず、登山用のストック買いました。

アマゾンで3000円くらいのやつ。
衝撃軽減のバネ内蔵で、手元がコルク素材。
これがめちゃくちゃイイ!
ストックってすごい!便利!
これあるのとないのとでは、ぜんぜんちがう!
前回の乗鞍岳のブログにコメント寄せていただいたなかで、
みん友さんでウラッドピットさんが、
・・・このウラッドピットさん、わたしが乗鞍岳にいたほぼ同時期に偶然おなじ北アルプスの白馬岳に登山されてたんですが、
ストックの有用性についてコメントいただきまして、それによると登山でストックはやはり必要。
「四足歩行してるのとおなじだから!」
だそうで、そうなんだ!?
するとこれがまったくおっしゃる通りで、まさに、
「四本足になった気分」
足元かなりヤバめなところでも体を支え、バランスをとり、安全・安心・確実に登ることができる。
すんごく助かる。
こんないいものだったなんて。
もっとはやくに持っとけば、今までの写真撮影で必要なシチュエーションなんて山ほどあったのに。
あともうひとつ。
トレッキングシューズも買いました。

これはネット通販ではなく、近所のイズミヤで。
5,000円くらいのを。
ストックは前々日に届き、これは前日に買いました。
なんか調子に乗ってますが。
まァ、初心者なのであえて安めなのをみつくろいました。
こういった装備で山のなか、奥深くへ。

今回むかうは、稲村ヶ岳の方向。

ちなみに大峰山という山はありません。
山上ヶ岳(1719m)、八経ヶ岳(1915m)などひっくるめて、大峰山というそうです。
アレですね。八ヶ岳といっしょですね。南アルプスの。八ヶ岳という山はない、みたいな。
それにしても、歩けども杉木立ばかり。
そりゃ有名な奈良・吉野杉の産地ですから、当然といえば当然。
で、いっこうに眺望がひらけそうにないですね。

第一チェックポイント、
「法力峠」に到着!

第一もなにも、チェックポイントはここしかない。

「時刻!午前11:00!」

登山開始が9時半だったから、ここまで1時間半登りっぱなしだったのである。
しかも有酸素運動で。
すこしは瘦せただろうか。
「標高!1,200m!」
え、そんなに?どうせくるってるのだろう。

・・・このあと、大失敗をやらかします。
スマホで「ハイドラ」を立ち上げてたんですが、
なにしろド素人もいいとこ初心者なのモンで、帰り道まちがえて遭難しないか不安で、まさかヘンデルとグレーテルみたいにパン屑まくわけにもいかず、こういうときは文明の利器、
googleマップのタイムラインを、とおもったのですが、いまいち使い方がわからない。
結局われらが味方、ハイドラを起動してたのですが、
法力峠から20分ほどあるいて、ハイドラを「休憩」から「再開」にするのを忘れてたとリュックをあけると、スマホがない!
さっき法力峠で休憩したとき、うっかり地面においたままおいてきたのだ。
うああああ。冗談だろ・・・。
来た道をもどるのか。
20分を捨てるのか。
くっそー。
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。
ほっとくわけにもいかないから、いったん下山。
法力峠につくと、自分が休憩した場所をみる。
が、スマホがない!
アレッ!?と思ってもう一度あらためてリュックのなかをさがすと、ありえない奥深さにスマホがあった。
うああああ!
ちょっと頼むから勘弁してくれ。
自分の馬鹿さ加減に、腹立ちを越えてめまいがする。
かなりヘコむ。
ふたたび行路に復帰するが、トータル30分のロスが両脚に重くひびく。

ときおり登山客とすれちがう。あるいは追い越される。
このとき、女性の登山客がいないことに気づく。
もしや女人禁制なのか?
と思ったら、あとで女性の姿はみました。
女人禁制なんて、昔のはなしです。
気温は30℃。
平地よりいくぶん気温は低いはずだが、残暑のせいか山地の湿気のせいか、汗が滝のようにながれる。首のタオルがあっという間に濡れそぼる。

水は念をいれて、1.5ℓを携行。
携行といえば、今回もまた懲りずに、
デジタル一眼レフカメラを携えてます。
それがわたしのブログ・ポリシーだからです。
余分にかさばるカメラ・レンズ1.2kgの重量を肩に食い込ませながら、
山野草を探しながら登ります。
これも登山の楽しみでしょう。
『アキチョウジ 』

おそろしくちいさい。
清楚なたたずまいで、足元に咲いててもなお気づく。
『シコクブシ 』

シコクブシのブシというのは附子、いわゆるトリカブトのこと。
水辺に咲いてた。
『シシウド 』

これも水辺に。
和名はダサいが、学名は「アンゼリカ」と可愛らしい、
さて、とちゅうこのような鉄の鎖が。
難所ごとに張られています。

さすが修験道の山です。
自分も行者(修験者)になった気分。

ちなみに行者とは、みなさまもなんとなくごぞんじだと思いますが。
映画のワンシーンから。

・・・山野をくまなく跋渉し、折にふれ真言を誦し祈禱する。
「ノウマクサンマンダーボダナン、
オンバザラキリク、ソワカ!」

こういう人たちって、なんでこんなことやってるだろうと昔から疑問でしたが、最近ようやくわかってきました。
おなじ映画のワンシーンから。
映画「剱岳 ~点の記~」(2009年)より。

(主演・浅野忠信、香川照之のこの映画。上の行者役も有名な俳優さんですが、よーくみたら誰だかわかりますよね)
上下とも立山のシーン。
そう、北アルプスの立山です。
こんなに行者であふれてたんだ!
これじゃまるでツアーじゃん。
修行じゃないよ。

今では「立山黒部アルペンルート」の観光地として私も行きましたが、すごい観光客が押し寄せてるのは、なにも交通手段が発達した近代だけの話ではなく、
まあ映画は明治時代が舞台ですが、きっと昔からこんな感じだったのでしょう。
つまり、登山に今も昔も変わりがないのです。
そうなのです。
行者というのは必ずしも「苦しい修行にはげんでいる」のではなく、
「楽しー。山登りメッチャ楽しー」
とウキウキ気分で、山野を駆け巡ってたのです。
え、めちゃくちゃ言うなって?
まあ、ちょっと考えてみてください。
たとえば、マラソンあるじゃないですか。スポーツの。
マラソン中継などみてたら、
(苦しそうに走ってるなー)
とふつうの人は思いますよね。
でもちがうんですよね。
マラソン走ってると、しだいに脳内にドーパミンが分泌されるから、ええ、脳内麻薬物質ですね。選手本人たちは、
「気持ちいいー。メッチャ気持ちいいー」
いいながら走っとるわけです。本当です。
でなけりゃ、42.195キロも走りませんよ。
・・・以上、つい余談が長くなりましたが。
さて、登れどもさっぱり眺望がひらけるようすがないこの登山。
なんか、思ってた登山とチガウ。
いっこうに変わりばえせぬ風景にだんだん飽いてきました。
とうとうすれ違った登山客の男性に、
「山小屋まであとDon't cryですか?」
ときいてしまいました。すると、
「あと少しですよ。崩れ落ちそうな橋からすぐです」
”崩れ落ちそうな橋”ってなんだ!?
なにその不吉なネーミング。
崩れ落ちそうなのは、わたしの人生だけでじゅうぶん。
まったく、縁起でもない!
気力をふりしぼって、10分ほど歩いたら
これかー。なるほどたしかにみごとに崩れ落ちそうだ。
自分の生きざまをみているようだ。

このあたりから突然、植生に変化がみられる。
杉からクマザサが生い茂る。
やがて、風景がひらける。
おっ!?

やった! 山小屋に到着した。

『稲村ケ岳山荘』
ちゃんと宿泊もできる、本格的な山小屋です。
「到着時刻!午後1時!」
行きになんと3時間かかった。
「現在地標高!1,487m!」
え、そんな高いの!?
・・・あとで調べたら、山小屋の標高は正しくは1,545m。狂い杉。
山小屋の入り口まえに、お茶のサービス。
ヤカンを持ち上げると、なかはすでにカラ。
みんな飲んじゃったみたい。

まあ、かまいません。
いま飲みたいのは、ちめたいスポーツ飲料。
なにしろ汗かきすぎてヤバイ。
山小屋でアクエリアスを買う。
これが1本500円。
高くないですよ?
仮にわたしがペットボトルをここまで持ってあがったとして他人に売るなら、やはり500円でうりますよ。高くないですよ?
それにしても、Nikonを買ってもうすぐ丸4年。
まさかアクエリアスをこんなに気合いれて撮る日がこようとは、夢にも思わなんだ。
まわりをみると、
バーナーをつかってカップ麺を用意したり、紅茶沸かしたりするひとがいて。
キャンプ用品で昼食を用意するひと半分、お弁当持参のひと半分といったかんじ。
わたしはというと、恥ずかしながら、
手作りの「もっさりした」おにぎりを
もっさり食ってる。
独り身の男が朝起きて、じぶんで梅干しおにぎりにぎって山登りするようになったら、人間オシマイ。
わびしい。
なにもかも。
乾いた瞳じゃ涙もでやしねえ。
この山小屋で引き返し、下山します。
この先、「稲村ヶ岳(1726m)」と「大日山(1,689m)」の登山口がちょっとわかりにくいですが、みえます。が、今回はやめときます。だって、1時間半かかるんですってよ、往復。
初心者なので、ムリはしません。
賢明な判断というより、根性がないだけです。
あー、とうとう眺望は山小屋からみえたこんだけかよ。
わびしいぜ。
下山はとりとめもなく、記録として時間だけ。
法力峠 14:15
母公堂 15:30
さて、帰りに「ごろごろ水」とやらを汲んで帰りましょう!駐車料金1,000円払ってるんだから。ここの湧き水はカルシウムが豊富なんですってよ!
駐車料金500円払ってまで湧き水くむひとおるんかいな、と思ったら、朝から夕まで駐車場は満杯でびっくり。
みると、みなさん多量のペットボトルやタンクを持参のよう。
そりゃそうだわな。
おどろいたのが、駐車場のまわりに湧き水を引いたパイプがぐるっと張りめぐらされてること。
こんな湧き水に汲み場、はじめて。

そう、順番をまつことなく他人に気兼ねせず、車の後部ハッチをひらいて自分の場所で思う存分水がくめる。
「ひとり焼き肉」ならぬ「ひとり湧き水」とでも言おうか。

さらにおどろくべきは、ここの水圧。
手元のコックをひねれば、水流ジェット噴射!
2ℓのペットボトルを満たすのにわずか3秒。
こんな水の勢いのはげしい湧き水は世界でもここだけにちがいない。
ギネスに申請した方がよい。

この下を渓流が流れる。
この川はやがて十津川に合流し、太平洋の海原にそそぐ。
今回はこんなところで。
ありがとうございました。
またお会いでればさいわいです。
Posted at 2019/09/21 20:04:09 | |
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