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2020年08月14日 イイね!

はるかなる西穂高岳

はるかなる西穂高岳【前日の行程】
新穂高ロープウェイ
 ↓
西穂山荘

【本日の予定】
西穂山荘
 ↓
独 標
 ↓
(西穂高岳)

  *  *  *

翌朝、きれいに晴れ渡る。
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きのうの雨が嘘みたいに天気が回復する。
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やはりオレには、旅の女神が微笑んでくれている。
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日の出とともに、向かいの峰々が赤く染まりだす。
ああ、モルゲンロート!
しかも乗鞍岳じゃないか!
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おれの強運を寿ぐかのようなモルゲンロート。
こんな場所でのこんな絶景。
めったとお目にかかれない。

さあ、天候が回復したらこっちのもんだ!
いそがしくなってきたゾ!
朝食をいただきましょう。
ちなみに朝食の時間は5時半です。
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しかもなんかメッチャ凝ってる!
山小屋の朝メシなんて、ご飯に味噌汁にベーコンエッグ出しときゃいいのに!(←偏見)
あれですか。ホスピタリティとか気にするようになったんでしょうか。さいきんの山小屋は。

部屋にもどると、北アルプスにデジタル一眼レフカメラを持って上がってきた狂気の男が私以外にもう一人いたので、写真撮らせてもらう。
おっ、EOS Rですな!新型ミラーレスの。
やっぱ、ミラーレス売れてるんだなー。
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(↑オーナーの横顔でも一枚と思ったら、いきなり着替えだしたので、はからずもセクシーショットになってしまったが勘弁願いたい。ちなみにレンズはF4通し。F2.8通しが欲しいが、高いし重いし持って登れん!とは当人の弁。うんうん、わかるわかる!プロでもないのに山にF2.8通し持ってきたら狂気通り越してるわ!)

さて、もう6時だな!
そろそろおれも出発しないと。
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で、なんでこんなにグズグズしてるのかと言いますと、
トイレ待ってるんです。
順番のことではなく。
尾籠(びろう)な話で申し訳ないが。
出し切ってしまわないと、出発できないじゃないですか。
だって、山に公衆トイレなんてないですよね!?
ていうか、みなさんどうしてんだろ?
オムツでもしてんのかなあ。
宇宙飛行士やMS(モビルスーツ)乗りみたいに。
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いい加減、見切りをつけて出発しました!【6:17分】

ちょっと上がって、ふりかえる。【6:30】
ちょっと山小屋を離れただけなのに、なにこの寂寥感。
心細くてやばい。
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しかも行く手を阻むは、この鬼のような岩場。
北アルプス・穂高の容赦のない洗礼は、ここからはじまる。
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岩場を上がりきると、にわかに眺望がひらける。
ああ!あれが西穂高岳。そして独標。
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・・・この時点で正直言いますと、
(ああ、西穂はやめとこう。
 独標まで行って帰ろう)
と思いました。
直感で、おのれの力量を眼前に広がる山のスケールとで正しく差し引きしたつもりです。
根性だとか見栄だとか、そういうの一切勘定に入れずに。
いまのオレにはちょっとこれは・・・。

有名な丸山が見えてきました。
ここまでなら比較的ラクなんですよ。
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稜線の両側にハイマツが生い茂る。
話ではきいてましたが、本当にそうだ。
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朝のまばゆい光のなかで、稜線にそって
ただひとすじの登山道が浮かび上がる。
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登ってはふりかえる。
とうとうこんなところまで来てしまった。
本当にいいのだろうか?
おれはここに来ていいのだろうか?
ここに至ってそんな思いが、脳裏をよぎる。
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信じられないくらいの急斜面に
えんえんとつづくガレ場。
青天とはうらはらに、
初心者にたいする穂高のおもてなしは、
これほどにかと思うほど、情けも容赦もない。
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上高地を見下ろす。
昨年の夏にはあそこにオレはいたんだよな。
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夢にまでみた稜線歩きの絶景が広がる。
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仕事の憂さも
世間の煩わしさも
ネットの嘘も
テレビのノイズも

忘れることはできないが
消し去ることはできないが

ぜんぶまとめて
地平線の向こうまで放り投げたように
遠くまで。

いま厳乎としてあるのは、

”いま自分はここにいる”

という意識。

うすい大気のなかで自己を保ちうる
 
たったひとつだけの真実。
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(↑向かって左手には笠ヶ岳が雄大にそびえたつ)

独標が目の前で威容を誇る。
目の前と言っても初心者にとって、その道のりははてしなく遠い。
いくつかの難所が待ち受けているからだ。
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(↑目の前をゆく親子(母子)にご留意ねがいたい。後でふたたび出てきます)

このあとは写真はありません。
当然です。
写真撮ってるヨユーなんてないから、難所っていうんです。

でもそれだと面白くもないので、
上の写真の連続写真でちょっと説明。
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①足場がせまく、左手笠ヶ岳方向は奈落の底です。足を滑らせば一巻の終わり。こわい。

②ここからは見えませんが、岩場が行く手を塞ぎ、手で岩場をつかんで登り下りします。このとき、ゆきずりの上級者から、「登山用ポールはしまったほうがいいよ。あぶないから」とアドバイスをもらいます。ありがたいです。ポール使うことしか考えてなかったので。視野狭窄に陥ってて。ここでは使わないという発想ができなかった。

③最後の難所。かなり急な岩場です。両手で岩をつかみ、這いずるようにちょっとづつ片足で足場を保持しつつ上がっていく。はためから見たらきっとぶざまな姿にちがいない。ゆるいカーブをえがいてるため、気分的にはもしここで足を踏み外し滑落したら、はるか上高地までズルズルすべっていきそうで、マジこわいです。テレビの「イッテQ」でイモトアヤコが「だいじょうぶ、こわくない」とか自己暗示をかけて高所にいどむシーン(たしかシンガポール)が思い出されました。あんな感じです。下見たら恐怖で登れなくなりそうで、あまり下見てないです。本気でこわいです。

そしてようやく、独標に!
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『くぅ~ッ!母ちゃん、こわかったよ~!』
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ハッ!いかいかん。
ちゃんとした写真とらないと。
じゃ、ポーズ決めてもう一枚。(めずらしく人にたのんで撮ってもらった。前述のポールしまったほうがいいよの女性。アベック登山だった)
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(※帽子(キャップ)かぶってましたけど、風が強いのでとばされないようしまいました)

青空がスゴイ。宇宙まで届きそうな蒼穹がひろがる。
そこで、
~今回の旅の忘れ物~
②サングラス(行きが雨だったので車につい忘れてきた)
ということで、
③車にサンシェードするのも忘れてきた。いまごろ車内はアツアツだろうな。

こんなところにまで、デジタル一眼レフカメラを持ってきた男の狂気のさまを、みなさまとくとごらんいただきたい。
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(でも、けっこう一眼レフカメラ、持ってきてる人いました)

で、ここから先の西穂高岳はこんな風景。
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(↑しかもこのとき、目の前の岩峰を西穂と勘違いしてる。ちがい・・ますよね?)

ムリムリ、
ムリムリ!!


行けるわけないでしょー!!

根性なくていいです。
臆病者となじられてもかまわない。

コレ、絶対ヤバイから!
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サメの歯のような峻嶮な岩場の連続。
初心者が足を踏み入れていい場所じゃない。
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(↑左手にあるのをジャンダルムと思って撮っている。向こうの峰ですよね?)

登ってきた方向を一枚。
で、さっきから無性に不安なんだけど、
どうやって下りたらいいんだろ?
本気で下り方がわからん。
山ってどうやって下りるの?
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ここでさっきの親子が登場する。
行きが同じだった母子。
息子くんは中一くらい。お母さんは50代かあるいはおれとおなじくらい。
お母さんは山の上級者らしく、息子に、「右手でしっかりつかんで。そっちじゃない!コッチ!」と行きも英才教育だった。息子くんは反抗期なのかあまり聞いてなかったようだけど。むしろ他人のおれのほうが熱心にきいていた。この親子について行けば、無事帰れるかもしれない!

もう、見栄も体裁もありません。
生きて帰れば御の字なのです。
「帰り、あとをついていっていいですか?初心者なんで、勉強させてください!お願いします!」
(※マジでこう言いました)

すると、お母さん、
「お母さん、ちょっと先に下見してくるからハルオ、ちょっとそこにいなさい。また戻ってくるから」
といってスルスル下りていきました。
母強し。
息子のためにいったん下りてまだ戻るとか。
ていうか息子の名前、いい名前だな!
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で、このあとがまたすごいのだ。
山を下りながらお母さんは息子のハルオにみっちり英才教育をほどこす。
ハルオ君は反抗期なので、ちょっとうわの空。
それをすこし離れた場所でフムフムと熱心に聞いているオレ。

右手・左手で岩をしっかりつかむ。
片方の足で足場を確保。浮き石はないか確認する。
こうすればまず滑落することはない。
これを三点確保という。
ネットでしらべたときでてきた言葉だが、実際見ると聞くとでは大ちがい。まさに目からウロコ。なるほど!こうやるのかー!
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安全なところまで下りると、しぜんと親子と距離をあける。
あまりお母さんとしゃべりすぎると(けっこうしゃべってた)、
ハルオ君が、
(お母さんがよその男としゃべってる)
とイヤがるだろうから。
おれも変なところで気をまわす性分である。

つと、ふりかえる。
ああ、独標よ、そして西穂高岳!
さらばだ!
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(↑まだ西穂高岳と勘違いしている)

ふたたび上高地をながめる。
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昨年の今頃、あそこにオレいたんだよな。
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思い返してみれば、上高地から穂高連峰を見上げたとき、
(あんなところを歩くヤツいるのか!?)
と半信半疑だったが、
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(2019年8月 上高地にて 拙撮)

そう思ってたのが、いつしか、
(もしかしたら自分もあそこに行けるかもしれない)
と一歩踏み込んだ瞬間、
頭の中でなにかパアーッと幾筋もの光が射し込んだ感じがして、
(え、行くよ?行っちゃうよ!?)
という、自分のなかにある「無限の可能性(笑」ってヤツをほんの少しでも手のひらでナデナデできたような気がして、このときのえもいわれぬ快感、なんとも言えないような気持ちはちょっと言葉にできない。

あと、そもそも穂高というワードを知ったのが、さらにこれよりさかのぼること一年前。
『立山黒部アルペンルート』の立山駅で朝の4時にケーブルカーを待ってたとき。
このとき一緒にならんでいた登山に来た京都の男が、
穂高の稜線歩きは絶景
と、ずっと耳元でささやくんですよね(笑
これがキッカケだった。
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(2018年8月 立山駅にて、拙撮。黄色の服がそのひと。私は勝手に「ホダカ氏」と命名した)

オレほんとうにここに来たよ!ホダカ氏!
・・・ホダカ氏も、まさか自分の一言で旅の行きずりの男の運命をひそかに変えてるとは思うまい。

こうして山を下りつつある穂高ですが、
まァ、おれのやったことなんて、北アルプスあるいは穂高を大海原にたとえるなら、その波打ち際でチャプチャプ水遊びしている子どもがオレであり、まあそのていどなんですよね。今回の登山って。

Lonely Planet
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(↑中央が焼岳。上高地の風景でおなじみ。そのはるかむこう、乗鞍岳である)

山小屋に無事戻ってきました。
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このとき、天気がいいので今からの登山客が多く、いわゆる「登り渋滞」になってました。
 
うわっ、山小屋もにぎわってるなあ!
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ほんと、昨日まであんなに雨だったのに。このいい天気!
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さて、山小屋名物のラーメンでも食べてから帰るとしますか。
これが楽しみだった!
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しょうゆか味噌かで、今回思い切って味噌をえらんでみた。
味噌ラーメンなんて食べるの、「サッポロ一番 味噌ラーメン」以来じゃねえか?

西穂ラーメン
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なんか、ほんとに「サッポロ一番 味噌ラーメン」みたいだった(笑
まあ、それはそれとして、
生まれて初めて、
「気圧が低いので半生状態」
ってのを経験してちょっと感動。
(ん?コレ生やんけ!?)
と思わず、あたりをキョロキョロしてしまうが、
(あッ、そうか!)
とすぐに自分のいる場所を再確認した。
1泊二日も滞在してると、けっこう自分がどういった環境にいるか忘れがちになるんです。

山小屋から1時間半かけてまた登山道。
新穂高ロープウェイへ。

うおッ!きのうとぜんぜんちがうな!
たくさん人がいて、満員御礼!
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昨日は悪天候で絶景がおがめなかったので、きょうは腕によりをかけて一枚撮らせていただきますよ。

新穂高ロープウェイ ~盛夏~
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久しぶりに夏らしい一枚が撮れた!

写真を撮り終えたあと、なにげなくふりかえる。
展望台からの風景は有名だが、問題はその背後。
その光景に私は度肝を抜かれる。
エエッ!ここから穂高連峰が一望できるのかよ!
知らんかった!うわ、これはスゴイ!
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真ん中のコブみたいなのが独標で、
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西穂高岳。やっぱ遠いよな。独標からみえたのはただの岩峰だよね。
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オレはさっきまであそこにいたんだ!
ロープウェイから山小屋まで見えるのにはビックリ。
見えてたのか。
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あと、槍ヶ岳が見えたのにはちょっと感動。
(なんかちいさくとがってるヤツ)
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上級者はただ単に、「ヤリ」とよぶ。
(前回ブログの)石田純一氏も、「ああ、ヤリはやったよ。夏だけどね」と軽く言ってのけたあたりはちょっとカッコよかった。

こうしてロープウェイで山を下り、焦げるようにアツい下界に戻ります。
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岐阜・高山市のビジネスホテルに一夜の宿をもとめる。
高山市市街地から離れた郊外にあるのだが、
しかしまァ、へんてこな場所にホテル建てたもんだ!
ルートイン グランティア飛騨高山
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ここを選んだのは、夕食バイキングだったこと。
一泊2食、朝夕バイキングつきで10,500円。
はからずも山小屋とまったくおなじ宿泊料。
べつに安い高いはなく、どちらも満足。
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(↑ローストビーフが売りらしい。かといって食べ放題ではなく、ひとり一皿までときたもんだ。世知辛い。大井川鉄道のホテルを見習うがよかろう。焼きたてステーキ食べ放題だったんだぞ!)

地酒を現地にて味わうのが無類の楽しみ。
『天領』をチョイス。うまいわ。
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(↑カレーは別腹。毎回言ってるから今回からタグに付け加えた)

  *  *  *

翌朝。朝から露天風呂に入る。
ここの露天風呂は緑あざやかでちょっとヨカッタ。
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さて、朝食をいただいたら、今回の旅も終わりです。
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今年の夏も、いい旅ができました。
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ごらんなっていただいたみなさまには感謝。
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みなさまのお盆だより、たのしく拝見させていただきました。
みなさま、暑さにも負けずあちこち行かれたようですねー。

ありがとうございました。
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またお会いしましょう。

   *  *  *

【自分用メモ】
名神高速・伊吹SAからほんとうに伊吹山がみえる。
みえるが、誰も気に留めるようすもないので、自分用立ち寄りスポットに追加しとく。
Posted at 2020/08/22 19:04:12 | コメント(10) | トラックバック(0) | 日記
2020年08月13日 イイね!

【北アルプス】西穂山荘に泊まる【山小屋初体験記】

【北アルプス】西穂山荘に泊まる【山小屋初体験記】一年がかりの夢が

いま実現しようとしています。

北アルプス・穂高連峰

今回の旅はそう、

本格的な登山です。

  *  *  *

和歌山を午前3時に出発。
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途中、睡魔におそわれ第二京阪・京田辺パーキングで仮眠をとる。
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目をさますと夜が明けていた。
午前5時。
多少頭がスッキリしたところでふたたびハンドルを握る。

名神高速・多賀SAで朝食がわりにラーメンをいただく。プラス自分で持ってきたおにぎり(※写真はない)。
ラーメンはとんこつ醬油。
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朝もはよからラーメンかよ、と言われそうですが。
朝もはよからラーメンなのである。

東海北陸道。
岐阜の山中で雨に見舞われる。

岐阜・高山から奥飛騨温泉郷(平湯温泉)を結ぶ国道でしばしばこのような
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(↑何がスゴイって、ナンバーが札幌!)

片側交互通行になってて、大幅に足止めをくらう。
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九州中部をおそった豪雨の余波が、岐阜・長野にもおよんで被害が出たと聞いてはいたが、こういうことになってるとは。

おかげで大幅に到着が遅れると思ってた。
新穂高ロープウェイの鍋平駐車場にです。
ところがどうしたことか、思ったよりも早く11時には着きそうなあんばいに。
朝早くから出発した甲斐はあったみたい。

すると、駐車場の入り口に温泉をみつけ、
『ひがくの湯』
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ピットインするかのように思わずスラリと駐車してしまう。
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どうせこの後ロープウェイであがったって雨なんだし、
今夜は山小屋で泊まるからいまのうち温泉で汗を流してサッパリするのも悪くない。

それに昨年、ここからそう遠くない平湯温泉で露天風呂につかったのが忘れられない。
メチャメチャ気持ちよかった。
今回もできれば温泉に入りたい。
せっかく奥飛騨まで来てるんですし。

入湯料750円。
登山帰りだと700円と優遇されるらしい。
いまから登山するひとはどうなるんだ。
登山靴とかそれらしいギアをフロントに見せればいいらしいが、私はケチで貧乏性なクセして、こういうことは面倒くさがるタチなので750円はらう。

雑然とした温泉の入り口。
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そのすみに小部屋があり、
(なにがあるんだろう?)
と好奇心からのぞきこむと、
なぜかこんなところに本格的なNゲージがかざられていた。
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奥飛騨の温泉に、なにゆえ!?

で、かんじんの温泉は、
うおッ!バッチリ露天風呂だ~!
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ほかに誰もお客さんいないので、スマホでチョット撮らせてよ。

ウホッ!風情タップリ。
この心地よさ。格別だね。
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温泉には食堂が併設されており、
ただメニューは容赦のない飛騨牛尽くし。
奥飛騨来たんだから飛騨牛なんだろうけど、風呂上りにあまりコッテリしたメニューはどうもピンとこない。
もっとこう、サックリ食べてなおかつ長旅の疲れをいやすうま味がほしい。
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すると、ん? なんだこれ。
漬物ステーキサンド 』だと!?
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どうせアレでしょ。
こういうヘンテコなメニューにかぎって、へんにうまかったりするんでしょ。
最近多いよねー。
ふーん。
で、結局どういう味なんだろう。

たのんでみた。
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旅でいちばん大事なのは、チャレンジ精神である。
仕事ではチャレンジ精神などふだん出さないくせに。

ひとくち頬張ると、
(ん?)
と脳裏に一瞬うたがいが生じるが、味わうにしたがい、
「これはアリですよ、マチルダさん!」(←ガンダムのアムロの口調で)

炒り卵とマヨネーズが白菜漬けの塩っ気をマイルドに。
風味もなかなか悪くない。むしろちょっとうまいかも。
コレ、白菜漬けだと言われなければ気づかない。
ツナサンドだと思いそう。

え、なんでツナサンドなの?
味覚おかしいの?と言われそうですが、ちょっと待ってほしい。
手前右のサンドにうすい赤いものまじってるでしょう。
これおかかなんですよね。
パンにかつお節が混入してても、まったく違和感をおぼえない。
これをツナ味だと味覚が錯覚おこしたようなんですね。

飛騨牛乳はジョッキで、でてくる。
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生ビールじゃないんだから。
女店員に苦情を申し立てると、
「たくさんお召し上がりください」
とわけのわからない言葉でごまかされてしまう。

奥飛騨は温泉はふぜいはあるが、
牛乳に風情はない。

そこから5分。
鍋平・登山者用駐車場に車をとめる。
ご覧の通り、ガラガラ。
ここに来たのは間違いであったかのように、ほかに誰もいない。
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自慢のレインウェアに着替える。
ワークマンで5,000円で整えたものだが、登山もせずにすでに濡れてるようではあまりにみじめすぎて、トボトボ歩いていく。
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やがて、ロープウェイ乗り場が見えてくる。
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切符売り場もガラガラ。
いくら何でも、お盆休みですよ?
温泉入って、お漬物サンドイッチ食ってる間に人類滅亡でもしたのかよ。
いまここに係員がすっ飛んできて、
「たいへんです!新型ウイルスの蔓延でここにいる人以外人類は滅亡しました」
と言われたら、すんなり信じてしまいそう。
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くだらないこと言ってないで、こぎれいな待合室みつけので、ここで今回使用する登山用ザックをお見せしましょう。

mont-bellストライダー・パック 25
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これ、わたしが使うのにちょっとおかしいところがあるんですが、みなさまおわかりになりますかね?
わからないですよね?
よほどこういうのにくわしい人じゃないと、看破できないと思いますが。

何かが足りない、欠けてるとかじゃないです。
じつはこれ、レディース用なんです。
もちろんわかってて買いました。
アマゾンでデザイン気に入って、買う前にいちおう公式HP見たら、レディース用だって。
登山用ギアに男物女物があることにまずおどろきましたが。
でもそういうの、もうどうでもいいや。
だいたい、女性向けの軽自動車に堂々と男が乗る時代ですよ。
それに、さいきん思うんですけど、小学生のランドセル、昔は男が黒で女が赤でしたよね。今考えると変ですよね。なんで赤は女なんだ。誰が決めたんだって。ねえ。

とか言ってるあいだに、30分に一本のロープウェイがきました。
そろそろ改札です。
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(↑ならんでるのはわずかで、背後はもちろんガラガラ)

車内のようす。
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ロープウェイがうごきだす。
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あっという間にこの高度。
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西穂口駅につく。
湿度がすごいことになってる。
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湿度92%。
気温摂氏16度。
海抜2,156m。いまの時間は14時まえ。
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構内にはモンベルのお店がある。
そういや千畳敷カールのロープウェイ駅にもあったな。
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お待ちかね、展望台にでると、

なんも見えねえーッ!
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まさに五里霧中。
自分の人生のようだ。

で、ぱむっちょさんにきいたりネットでさんざん調べたりしてずっと疑問だったのが、この背後はどうなってるか。展望台の景色は有名で、画像は検索すればいくらでもでてくるが、かんじんの背後はどうなってるのか誰も説明しない。

こうなってた。
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これはぜんぜん意味がない。

いや、登山口ってどうなってるのかなーって。
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ここでぱむっちょさんのお名前が出てきたので、ちょうど説明させていただきますと、今回の登山計画にはみん友さんであるぱむっちょさんから多くの貴重なサジェスチョンをいただきました。ここであらためてお礼を申し上げたい。

そもそも今回の登山計画は、ぱむっちょさんの過去の登山記録をベースにしました。

ロープウェイから山小屋まで樹林帯がつづく。
1時間半かけて山小屋に着いたら、ここで一泊する。
翌朝、独標をめざす。私はあわよくば西穂高岳をめざしたい。
独標までは稜線歩き、すばらしい絶景が拝めるとのこと。
これだ!
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こういう、初心者がどういうコースを選択すればいいか、調べてもけっこう出てこないんですよね。
ぱむっちょさん、ありがたし!

で、ここでわたし、ぱむっちょさんに質問するんです。
すべてネット上でのやり取りですが。
「ロープウェイであがったその日に独標まで行って、もどってきて山小屋に泊まる。翌朝ロープウェイで下りるというのはダメなんですか?」

するとぱむっちょさん、
「それはダメです」
と即座に却下されます。

なぜだめなのか。
ここからが面白いんです。
ほんとうに山を知ってるひと。その生きた情報。活(い)きた知識。こういうのって、ネットでしらべても出てこない。
みなさん、おわかりになりますか?

答えは、
「山が天候がいちばん安定してるのは朝。絶景を拝むなら朝がよい。午後からガスが発生しやすくなり、景色が見られない」
なるほど!!

生まれてはじめて登山届というものを書き、箱に入れるといよいよ登山道へ。
なんか建物の裏口からこっそりみたいな感じで、登山出発の緊迫感に欠ける。
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誰もいないので、こっちで合ってるのか不安になる。
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あれが、登山口だ。
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こういう感じのところを登っていきます。
何の変哲もない、日本中どこにでもあるような登山道です。
本当にここ、穂高連峰の入り口でしょうか。
あと、Tシャツのうえにレインウェア着てますが、湿度が高いせいでサウナスーツ状態ですでに汗だくです。
ああ、せっかく温泉入ってきたのに。
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雨の登山でも、山野草をみつける楽しみは捨てません。
標高ならではの、めずらしい花が咲いてるにちがいない。
足元に注意を払って登っていると、
お、あった。

名前不明。
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ミヤマアキノキリンソウ
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これはけっこう咲いてた。

これも調べてもわからんかった。
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ふと気がつけば、しとしと降ってた雨はやみ、
明日の天気を占うかのような晴れ間がほんのわずかな時間、見えた。
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明日晴れるかな。それが心配。

1時間半ほど登ったり下ったりしてると、ようやく山小屋がみえてホッとする。
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玄関は向こうらしく、ぐるっと建物をまわる。
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山小屋のまわりは山野草の宝庫だった!
なんだ。いろいろたくさん咲いてるじゃん!
ハクサンフウロ
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ミヤマトリカブト
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あ、人がいるな!
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下がテント泊地になってる。
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 にしほさんそう
西穂山荘
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これがあこがれの山小屋かあ~。
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↑「標高!2,327m!」めずらしくだいたいあってる。
時刻は15:42。もう4時前ですな。

フロントで受け付け。
予約してきました。
この時期、宿泊は予約のみのようです。
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一泊2食つきで1万と500円。
山小屋ははじめてなので、安いのか高いのかわからん。
イヤ、どう考えても安いでしょう。

あと、説明によると、

登山靴の置き場がちゃんとあって、
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↑水は貴重品。
宿泊者のみ自由に利用できます。

スマホの充電もできます。
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あ、シマッタ!充電できるのわかってたのに、充電ケーブルを車に忘れてきた!
~今回の旅の忘れ物~
①スマホの充電ケーブル

2階にあがって、フロントを見下ろす。
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この廊下の先に、今夜私が泊まる部屋がある。
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部屋は「焼岳3」。
あ、どうも。こんにちはです。
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奥にいる60代の旦那と私だけ、この部屋の初心者。
あとはみなさん上級者。
あとで上級者から、
「明日はどこまで?」
と寄ってたかって訊かれる。
初心者のわたしとダンナは、
「いちおう、ニシホめざしたいと思います」
とかしこまってこたえる。
本当に西穂高岳まで自分は行けるんだろうか?
疑念がうずまく。
まあ、独標まで行ってそこから先は現場で考えよう。
ダンナもおなじ考えらしい。

となりの黄色の服のにいさんは、昭和43年生まれで私より4つ上。
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オクホには行かず、ジャンダルムで折り返して「天狗のコル」で上高地だという。
よくわからないが、かなり無茶なコースらしい。
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私は初心者バカなので、
「ジャンダルムって、どういう意味なんですか?」
としょうもないことばかり聞いてしまう。
質問が意外だったらしく、かなり面食らったようで、しばらく考えたのち、
「石の塔、っていう意味だったと思う」
へえ!石の塔か。

あと話しててわかったのですが、
独標って「ドッピョウ」って読むんですね。
「どくひょう」だと思ってて、ずっとそう言ってた。
恥ずかしい。初心者まるだしだ。

愛用のカメラはルミックスのGF3。
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山野草を撮るのが趣味で、じつはわたしが撮った山野草の名前もぜんぶ彼に教えてもらった。

そこへ、ひとりの男があらわれる。
黄色のにいさんが「師匠」と呼ぶ男。
山で知り合った山仲間でLINEで連絡を取り合い、べつの場所からここ山小屋で落ち合ったのだという。山の同行はしないらしい。

まあまあ、せっかくですし下でビールでもやりませんか?
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山小屋の別館が食堂になっており、お酒も各種取り揃えてある。
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生ビールがのめる。一杯千円。
山小屋でビールをのむのが夢だったから、いっこうにかまわない。
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わたしの夢はたいていしょうもない内容が多い。

左にいるのがその「師匠」。
59歳。俳優の田中要次にそっくりで、もうすこしで「俳優の田中要次さんですか?」と聞くところだった。
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職業はなんと、歯医者さん。
神奈川で開業しているという。
歯医者さんなんて、病院以外でみたのはじめてだ。

お酒を頼まないので、呑まないんですか?ときくと、いやのんでるといってアルコール消毒液とコップをだした。写真の左にみえる橙色のがそうである。
歯医者さんのあいだで通じるなにか冗談かと思ったが、ほんとうにアルコール消毒液をチビチビやりだしたので、わたしはかなりドン引きした。

話はもっぱら、LINEでつうじている山仲間の吉田さん(仮名)という女性についてだった。
歯医者さんならそこのところはモテ放題でしょうときくと、イヤイヤと首を振り、ナース、患者および元患者は家内にかならず露見するので鬼門なのだという。だから山仲間がいいのだという。

話はずっとその調子で、ストイックな山の話がきけると期待していた私は多少なりともガッカリした。

田中要次氏は黄色の服のひとのほうが山仲間のなかでモテるのがくやしいらしい。
言われてみれば、4つ上のにいさんはよく見ると、石田純一とサッカーの三浦カズを足して2で割ったような男前で、これはさぞかしもてるだろうと思われた。

石田純一氏は埼玉・所沢から。
あとでコッソリ職業をきいたら、税務署にお勤めなのだという。
しかも元国税庁職員。
マルサって映画以外ではじめてみた。

ていうか、なんだ。
なんでみんなエリートばかりなんだ。

  *  *  *

部屋をのぞいたときはじめにいたダンナは、
酒席の輪に入ることなく、独りロビーで山岳雑誌を読んでいた。
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人と話すのがキラいかといえばそうでもなく、
北海道を30のときに出て、千葉・四街道市に移り住んで30年。
仕事はプラント関係。
千葉になじんだいまは、もう北海道に戻ることはないというが、魂は故郷の空を忘れられないものらしい。
私にしきりに大雪山をすすめてくる。
でも北海道は遠いし、広いのでは?と私が尻込みすると、女満別や旭川に空港があるからこれを利用するとべんりだとおしえてくれた。
そうしてダンナは千葉のことなど一切語らず、ずっと北海道の話をしていた。

で、私が和歌山からきたというと、
「滋賀県の?」
と、とんちんかんなことを言われた。
「いえ、和歌山は和歌山県です」
と訂正すると、
「ああ!滋賀県のとなり!」
このひとは和歌山を日本のどこにあると思っているのだろう。

さて、夕食は2部制になっており、前にうつってるのは石田純一氏ですね。5時半に食べるみたいで、ならんでいます。べつにならばなくていいのですが。
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私は6時20分からの夕食で。
メニューは、ハンバーグとクリームコロッケ。
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すごい!山小屋でこんなご馳走を食べられるんだ!
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夕食のあとはみなさんサッサと就寝。
オクホをめざすひとは、午前3時出発なのだそうだ。
いびきがきこえてくる。
みんな寝つきいいなあ。
睡眠導入剤もってきたけど、おれ眠れるかな。
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こうして北アルプス・穂高の夜は更けていきます。
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さあ、とうとうここまでやってきました!
明日は晴れるか?
そしてどうなる、オレの登山。

つづきは週末にアップを予定。

ご期待ください。
Posted at 2020/08/16 19:04:09 | コメント(4) | トラックバック(0) | 日記
2020年07月23日 イイね!

【失敗譚】長部田海床路【成らず】

【失敗譚】長部田海床路【成らず】”the Failure story
      of
NAGABETA Seabed Road”
  *  *  *

そして僕らは
ほこり
埃にまみれた

服を払った



そして今日も私は旅に出る。
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【関西国際空港】7月23日

今回も飛行機に乗ります。

関西国際空港から阿蘇くまもと空港へ。

目的地は熊本。一泊二日の旅。

そして今回の旅の目的は、
 ながべたかいしょうろ
長部田海床路
(「大分むぎ焼酎 二階堂」のCMのアレ)
 おこしき
御輿来海岸の砂紋
(さいきん、読売新聞の日曜版で写真のってて行こうと思った)

あともうひとつは、
・アニメの聖地巡礼で芦北町へ。
なんの作品かは、前回の拙ブログで。
お手すきの方はごらんなってください。

地図にすると、こんな感じ。
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個人的に行きたい名所が3つかさなった。
これはもう、行くしかないですね。
一ヶ月まえに飛行機のチケットはおさえておきました。

阿蘇くまもと空港到着が15時。
そこからハイヤーで直行すれば夕方の海岸に間に合うはず!

JRに乗って関空へ。
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(↑前にうまく撮れたからまた同じ構図で、ということを映画監督もよくやるらしい)

第1ターミナルへ。
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そのままフードコートに直行する。
「とんかつのKYK(ケイワイケー)」のお店をみつけ、メニューをのぞく。
ちなみに関西でとんかつのKYKといえば、超がつくほど有名で、関東でいえば崎陽軒のシウマイ弁当にあたる。いやちがうな。
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ところが先に入店したお客さんに、店から「15分ほどお待ちいただいてます」との声がきこえたので、(混んでるのか)と思い、ほかも探してみる。

すると出発ロビーにもフードコートがあり、
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ウロウロしてみると、このようなお店をみつけた。
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一品料理をえらべる食堂みたいなスタイル。
こんなお店が関空にあったのか。
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これはもう目移りしてしまう。
とんかつが食べたいけど、鶏の唐揚げも捨てがたい。
サバの塩焼きで自分を見つめ直すのもわるくない。

いや、ちょっと待つがいい。
一品料理だからといって、なにもほんとうに一品だけたのむ必要はないんじゃないかな。
値段がお値打ちぶん、二品えらんでもいいんじゃないのか。

おのれの欲望に正直な定食
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とんかつ&からあげ、ご飯大盛り、ポテトサラダつけて1,200円。
ぜいたくをしてしまった。

高楊枝きぶんで、意気揚々とカウンターにノコノコあらわれる。
さあて、サクサクっとチェックイン済ませるかあ!と思ったら、
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エッ?
ウソだろ、おい・・・。
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うあああああああッーー!!

熊本便に遅延でとる!
13:50が17:50に。
4時間も遅れるのか!。
(のちにさらに事態は悪化して18:20になります)

おいおい、ちょっと待てよ。
頼むから、勘弁してくれよ。
この時点で旅のプランがガラガラと積み木のように崩れ去る。

ダメだ。もう撮れない。
シートにへたり込む。
その場で2時間ほど考え込む。
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どうする。
もう、キャンセルするか。
1ヶ月まえからの旅の計画をこの場でムザムザすてるのか。
そもそもキャンセルできるのか?
帰りの便だけキャンセルするか。
もう一泊して九州新幹線で新大阪行きさくらに乗って帰るか。
宿はもう一泊できるのか。
宇土市内のタクシーにも電話しないと。
なんて言う?
そもそもおれはどうしたい?

対局中の棋士のように頭のなかで目まぐるしく手筋を考えるが、そもそも考えて答えをでるようなことではない。

空港内を歩く。
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何度か関空にくるうちに、歩けることを知った。
ていうか、ウォーキングコースになってる。
歩き回っていいんだ。

ああ、前回はpeachで快適だったのに。
Jetstarめ・・・!
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ここまできたけど、ぐるっとまわってきたけど、おのれを信じて汗かいてきたけど、さして良い風景とはいえず。
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展望公園で優雅に飛行機撮ってるひとたちがいた。
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第2ターミナルまできて、バスでもどる。
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サイコロの目は、ふらなきゃ出ない。
もう、ふってみるしかないだろ。

チェックインをすませ、さっきの食堂にふたたび寄る。
もう、ビール飲んじゃえ!
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まーた唐揚げ食っとる!

いよいよ搭乗口へ。
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う、うらむぞ!Jetstarめ!
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飛行機の旅は、到着日はフリーにしておかねばならないのが鉄則のようです。

座席は19A。
有料で特等席を指定した。
が、天気の悪さもあいまって、いっこうに気分は盛り上がらない。
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トーイン・バック。タキシング開始。
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クリアフォー・ランウェイ。
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ランウェイは24L。南風だ。
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離陸。このときの腰のあたりがスーッとなる感じがたまらなく好きだ。このまま天国まで連れてってくれないかな。
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あれにみえるは、もしかして和歌山の紀ノ川かな。
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やはり、そうだ。和歌山市を上空から。
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紀淡海峡をぬけ、(友ヶ島?)
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ここ、どこだかわかります?
淡路島みたいですよ。
明石海峡上空。
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空はこんなに広いのに。
つまらぬことで悩んでるうちに、歳ばかり食ってしまうから。
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おれは歩き続けるしかないんだろう。

50分のフライトで、阿蘇くまもと空港がみえる。
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そのまま海にまで出て、旋回する。
東風なのだろうか?

街の灯りだ。
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九州自動車道をフライ・パス。
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無事、到着。
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空港ではもちろんコイツがお出迎え。
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小雨ふるなか、待っていたハイヤーに乗り込む。
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(有)西田タクシーの西田さん、よろしくお願いします。

みちみち、西田さんからさまざまな話をきく。
熊本のこの前のこととか、4年前の地震とか。
宇土市の産業も。
大阪製鋼の大きな製鉄所があるらしい。
だから宇土市にはビジネスホテルが数件あるし、大阪から出張にやってくる人を乗せるのだと。
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天草までの国道が、意外に整備されてて驚いた。
三角(みすみ)線、ローカル線ぞいの道なので失礼ながらもっと田舎道を想像していたらちがってた。

「もずくの工場があるんですよ」
全国のスーパーで売ってるもずくはここで加工されるという。
もずくはいいんですよ。もずくは。
もずく撮りにきたわけじゃないから。

立派なトイレのある駐車場に車を停める。
雨を吸った芝生に足元を濡らしながら暗闇をいく。
しまった。ライト持って来ればよかった。
ぜんぜん見えん。

やっと、ここまできた。
真っ暗だけど。
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三脚をたて、長秒で撮ってみる。

そう、三脚を持ってきたんです。
シグマの重い望遠レンズを置いていくかわりに、三脚をもってきたんです。

前夜に夢をみて、見知らぬ海を撮ってる夢で、「三脚がない!」と大弱りする夢をみて天啓だと思ったんです。

あと、2時間早ければ。日没時間にまにあったのに。
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車に戻ると、西田さんが、
「撮れました?」
と、熊本弁のイントネーションできく。「れ」にアクセントがくるのが九州の言葉だ。

「やれることはやった」
なんだかいっぱしの職人気取りみたいな言葉がポンとでた。

車が宿に向かって走りだしてから、
しまった。長秒で撮ったのはいいが、絞りをしぼって撮るんじゃないのかも、と思えてきた。
広島・呉で潜水艦夜景を思い出しながら撮ったんだけども。

もっと、ぼんやりボンボリ灯るように撮らなきゃいけないんじゃないか。

オレ、まちがえた?

そこからホテルはすぐそこ。
タクシー会社も近くにある。
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「ホテル ベンデナート」
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おぼえにくい名前だ。
おかげでホテル名をわすれ、西田さんに、「ベンなんとかにお願いします」と言ったらそれでもなお通じた。

部屋はこじんまり。でも悪くない。
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チェックインが9時をすぎてしまった。
いまから外に食べに行く気にはなれない。
目の前のセブンイレブンで買ってくる。
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コンビニ弁当たべるのも、10年単位のひさしぶり。

「土地の名物料理に舌鼓をうつ」
というのがブログ・ポリシーなのに。

こんなハメになるとは。なさけない。
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また唐揚げ食ってるし。

  *  *  *  *  *

翌朝。24日(金)
目が覚めると、朝からどしゃぶり。
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雷もドーン!と落ちた。

ダメだ。
旅の女神はほほえまない。

この時点で芦北町での聖地巡礼も断念した。

朝食をいただく。
卵はどうしますか、納豆は食べられますかとまかないのおばちゃんにきかれる。
しまった。目玉焼きにしてもらえばよかった。
この期に及んでつまらぬことで悩む癖、なんとかならんか。
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まわりは職人さんぽい男たちが慣れた感じでメシを食っている。
工場のお客がおおいという話はほんとうらしい。
すまんね、オレひとり観光で。観光できてないけど。

観光もなにも、聖地巡礼どころか
JR鹿児島本線が不通になってる。
熊本~八代のあいだで。
熊本発着の飛行機もバタバタ欠航になってる。
やばい。
和歌山に帰れないかもしれない。

ふたたび(有)西田タクシーをよぶ。
今日は西田さんじゃなくて、本田さん。
しかも風体がうりふたつ。
もしかしてドッキリカメラかと思ったが、それにしてはネタがうすあじすぎる。
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空港に行く前に、最後に一枚撮らせてとお願いして行ってもらう。
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トイレつき駐車場につく。
昨夜は暗闇でわからなかったけど、けっこう台数停められたんだな。

天よ、天。
頼むからこれ以上、この地に雨を降らさないでやってくれ。
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『雨の長部田海床路』
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傘をさしながら、静かにシャッターをきる。
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ここへ来てわかった。
こんなにまでしてここに魅かれる理由がである。
海中より半身をさらして物言わずたたずむ姿が、
人をして人の生きざまに似て、
どこか物哀しいからだ。

カラスが一羽、
なにか言いたげな風情で
雨に濡れていた。
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これにて撤収する。

   *  *  *  *

熊本市街から空港への幹線道路は、きれいな並木道で、バイカーに人気があるという。
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「そこがアノ、再春館製薬ですよ」といわれ、おもわずオッと反応してしまう。
イヤイヤ。いつから史跡・名所になった。
でもヘタな名所よりはよほど有名だからこまる。

空港についた。
だが信じがたい話だが、出発までゆうに6時間ある。

すっかり顔なじみになってしまった(お土産なに買って帰るか時間をかけて物色してたためである)土産物店の女性に、
「どうやって過ごされたんですか」
と出発まえ最後にきかれたけど、

「スマホで本読んでました」
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昼間からビールちびちびやりながら。
もうどうにもならないわー。

なに読んでたかといいますと、これ。
『夏への扉』 Kindole版
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ハインラインって有名だから、いちどどんなのか読んでみたかった。

「夏への扉」はなかでも名作中の名作らしい。

読んでておどろいたのが、いままで見てきた映画・アニメの元ネタがギッシリ詰まっていたこと。
えー、ぜんぶここからかよ!?と仰天した。

さて、最後にご当地ラーメンでもいただいて帰りますか。
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『熊本ラーメン』
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これが熊本ラーメンか!
マー油がこうばしく香ってたまらない。
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こんな感じで、今回は失敗の旅でした。

まあ、こういうときもあります。

ありがとうございました。
またお会いしましょう。

Posted at 2020/07/25 19:04:17 | コメント(9) | トラックバック(0) | 日記
2020年06月21日 イイね!

新しい翼

新しい翼せっかく海がちかい

和歌山に住んでるんだし、

休日には

釣りにいくのもわるくない。

ていうか、いま無性に

釣りがしたいです。


【1】 そうだ、釣りをやろう!
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ウチから10分とかからない、近所の漁港。
潮目は、満潮から潮が引きはじめのところ。
写真は広角めいいっぱいで撮ったからわかりづらいですが、朝早くにもかかわらず釣り人の姿がチラホラ。みなさん、釣れてます?

堤防で、おもむろに竿を引っ張り出します。
で、不慣れな手つきで仕掛けを用意します。
仕掛けはサビキです。
ちょっとわかりにくい写真ですが。
サビキは正義(ジャスティス)。
(※知らない方のために。サビキとは、針がいっぱいついてて、撒き餌をカゴごと海に放り込んだら小魚が寄ってきて、誰でもカンタンに釣れてしまうという超ラクチンな仕掛けのことです)
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竿もリールもアマゾンで。
初心者なのと、急な思いつきだったのとですごくテキトーに買ってしまいました。
このとき、竿をのばそうと竿先をつまんだらポックリ折れてしまいました。
ここであわてるのも初心者まるだしだと思い、なにごともなかったように平然を装ってますが、内心超あせってます。トップガイドとふたつめのガイドが欠落してるんですが、いいんでしょうか。こんなんで釣れるんでしょうか。
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・・・で、なんでこんなあわてて釣りなんかはじめたかと言いますと、
またこれが理由があるんですね。

じつは、コレなんですよ。
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放課後ていぼう日誌 』(2020年)
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もうね、これが、どハマりしましてね。

『ゆるキャン△』にどハマりして、聖地巡礼まで行ったのが昨年。
なにもかも夢のようだ・・・。
ここまでハマるアニメはもう金輪際ないだろうと思ってた。
そしたら、あるんですね。作られるんですね。

オレのパッションをほとばしらせる作品があらわれるんですね。
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私がこの作品を気に入っている点は次の二点。

実在の場所を舞台にしている。

熊本県芦北町が舞台です。
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こういう、「実在の場所」をモデルにされると、オレ弱いんだよなー。
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そもそも熊本県が舞台のアニメっていうのもめずらしい。
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そして第2に、
②熊本弁でしゃべる。

ざんねんなことに、このアニメの唯一の欠点は登場人物のキャラがありきたり、ステレオタイプなこと。
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紋切り型のキャラ造形で、どっかのアニメでみたようなキャラばかり。
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君のことじゃないよーん。

それを打破するかのように、ほかはちゃんと標準語なのに、なぜか先輩だけが熊本弁でしゃべる。
終始熊本弁。

いちばん笑ったのが、
ジグヘッドの説明で、このジグヘッドというものもアニメみてはじめて知ったんですが、疑似餌の一種でしょうか。

『こればー、ぎゃんして、ぎゃんして、こぎゃんすればー』
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「かんせー!」
「はあ?」
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ココ、何度も見返して、そのたび笑いました。
センパイ、なに言ってるのかわからんって!

でも、個人的にわたしは九州にルーツがあるので、しかも私自身北九州市に4年、宮崎県宮崎市に1年居住経験があるので、九州方言はニュアンスで伝わるんですよね。逆に東北や北海道の言葉はニュアンス的にぜんぜんわからないんです。

しかし、まあ、熊本弁がここまでフューチャーされた作品って、アニメでもそれ以外でもないんじゃないかな。
あ、まちがえた。
フューチャーじゃなくて、フィーチャーだ。
未来に行ってどうする。

あ、気に入った点もういっこ。
③第1話が、サビキ釣りからはじまるところ。
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だから私めが、さきほどからなんども申し上げてるでしょう。
やはりサビキはジャスティスなのだと。

あ、もう、ちょうどサビキの話だからアニメ本編で説明しましょう。
オレのヘタな写真はおいといて。
アミエビをカゴに入れて。
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ちなみにおれのは青色のカゴで重りを兼ねてるヤツ。

『人差し指で糸引っかけて。わっかをおこして。まだ糸をはなすなよー』
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で、ドボン!と海に放り込む。
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じゃあ、ここから私の釣りに話を戻しましょう。
「放課後」ならぬ、休日オレの「ていぼう日誌」です。
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サビキ投げたら、すぐにアタリ!
えっ、もう、つれたの!?
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おっしゃあーーッ!!
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・・・と、よろこんだのもつかの間、
小アジじゃなくて、小サバだよ!

このあと怒涛の入れ食い状態。
もう、無限に釣れます。
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小サバ釣っても、ぜんぜん自慢になりませんワ。

通りすがりのにいやんに、
いかにも地元のひとみたいな、色黒で釣り道具ももたない男に手元をのぞかれ、
「小サバけぇー!」
(※紀州弁。訳「小サバかよ」)
と、笑われる始末。
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(※もちろんこれは関西特有の『愛あるツッコミ』というヤツです。このツッコミがないと、私は小サバばっかり釣ってるただの馬鹿に成り下がってしまうからです)

いいかげんキリがないので、20尾釣ったところでやめ、
でもせっかく釣ったので持って帰って、
家人(※注 母ではない。前回のブログでチラッとお話した一緒に暮らしている父の内縁の妻)にさばいてもらい、
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庭でとれたしそ(大葉)で包んでカラッと揚げて
おいしくいただきました。
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・・・えー、さて。
ここまできてお気づきの方はおられるでしょうか。
冒頭の写真ですが。

車で行ったんじゃないんですよね。
アルファロメオがアミエビくさくなるのがイヤで、
いままでかたくなに釣りはしなかったんですが。

車じゃなきゃ、イイんですよ。
フッフッフッ・・・。そうですよ。
ミニバイク
買ったんスよ



【2】 新しい翼
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YAMAHA Vino
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もうね、私のことをいくらか存じていただいてるみん友さん数名さまから、
(とうとうやっちまったか・・・)
と、なかば呆れ顔でツッコミをいただけそうですが。

ええ、そうです。そうですとも。
私が大好きなアニメ、
『ゆるキャン△』の影響です。
リンちゃんが乗ってるからおんなじバイク買ったんです!
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ただし、色ちがい。
リンちゃんがライトブルー。
オレのがデニムブルー。
さすがに色はおなじにしなかった。
いやー、さすがに同じ色にできないでしょ。
したら、終わりだと思って。
次元の境界線から戻れなくなると思って。
(もうすでに終わってるというツッコミは、心にクリティカルに突き刺さるのでご無用にねがいます)

納車日は5月30日。
もちろんアニメだけが理由じゃありませんよ。
必要性が出てきたから購入に踏み切ったんです。
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引っ越ししたら、スーパーやコメリやらコンビニやらがやたら近くなって、田舎に越してきたのに。
生活圏がコンパクトになった。
半径1キロでおさまる範囲。
これじゃクルマで行くほどの距離じゃないです。

で、そのまえに今年の正月ですか。
沖縄・石垣島を旅したときです。
レンタルでミニバイク借りて、このときにバイクって便利!たのしー!!と思ったのがキッカケでして。
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(沖縄・石垣島にて)

バイクっていいなー。必要があったら買いたいなと思ったら必要性出てきまして、買うんだったら当然リンちゃんとおなじビーノにしようと思ったんです。
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写真もすべて気合い入ってマス!!

通勤もこれでいいや。
あ、アルファロメオ MiToはべつに手放しませんよ?
ちゃんとホラ。
仲良く一枚パチリ。
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べつに愛車に秋田わけじゃありませんよ?

でもね、『新しい翼』を手にいれると、心がうずきますよね。
ひさしく感じなかった、このパッション。
このバイクで今すぐ走りだしたい。
風になりたい。
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【3】 和歌山・由良(ゆら)海岸あんない
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さきほど釣りをしていた
有田郡広川町から日高郡由良町まで。

海岸線にそって片道20キロのツーリング。
(↑ツーリングって言ってみたかっただけ)

ただその道は、
私も走るのははじめて。

すると、これが自分でも想像だにしなかった
意外な風景が。

【小浦海岸】
小さなビーチが点在し、そのたびバイクを停車させ、カメラをかまえる。
小回りのききやすさが、フットワークの軽さをうみだし、
それが功を奏して・・・、
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『とってこーい!』
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功を奏したのか、なんなのか。
なんか’80年代のミノルタのカメラのCMみたいな写真が撮れたゾ。

『そーれ、もういっちょー!』
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ほんとうにカメラのCMみたいだ。
曲は森川美穂か野田幹子でおねがいシャス。

ちいさな山を越えるたびに新しい
海岸が顔をのぞかせる。
何とも言えない絶妙なツーリング。
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(↑手前広がるのは、ハス池なのかスイレン池なのかわからない沼。薄紫の花が咲き乱れ、でもハスでもスイレンでもないわな?なんだろう)

【湯浅キッチン】の前を通り過ぎる。
なんでも、最近有名な地元食材レストランだそうで、帰りにここでしらす丼でもと思ったら、閉まってる。ありゃ。
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夏を先取りしたかのような
碧い海が広がる。
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ああ、おれは間違っていた。
和歌山の海は愛媛、広島など瀬戸内に負けると
ずっと卑下していた。
みんカラのブログでもそう豪語していた。
おれはまちがってた。
和歌山の海も捨てたもんじゃない!
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そこから先。
海水浴場で有名な、
【広川ビーチ】につく。
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ビーチの向こうには、風力発電の風車が潮風を待っている。
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【唐尾(かろ)海岸】
突如として、エンジン音が鳴り響く。
なにごとだ!?
バイクを降りると、
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ジェットスキーか!
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夏を待ちきれないヤツらが、
この海には多すぎる。(笑

さらに山を越えると、
美しい海がみえた。
【衣奈漁港】
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思わず一枚パチリ。
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漁港を通り過ぎ、
海岸線をひたはしる。
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ウヒョヒョヒョ・・・!

気分はフルスロットル!
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トンネルをぬけると、
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白い橋があり、
ん?ここは海の上?
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そこからみえる光景に、
わたしは度肝をぬかれることになる。
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うはっ!箱庭みたいな海だ。
こんな海があったとは!
ここ本当に日本か!?
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【戸津井漁港】
おもわず橋をおりて、漁港に寄ってみる。
天気がいいから釣り客が多数。
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和歌山にこんな海があったなんて、知らなかった。
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んじゃ、一枚撮っとく?
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おほっ、いいじゃない。
 
和歌山の海の色に合うように、このデニムブルーを選んだんだけど、正解だったかもしれん。
この青を和歌山ブルーとよぶようにしよう!
(↑ぜったい流行らない)
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今回の最終目的地にむかってラストラン!
もっかい『気分はフルスロットル!』
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ウヒョー!

気持ちイイ!!
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休日の日課はしばらくコレで決まりだな!

みんカラでも有名な白崎海岸、
 【白崎海洋公園】につく。
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ちなみにここまでのルートを地図にすると、こんな感じ。
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じつは白崎海岸にきたの、はじめてなんです。
いままで行く機会がなかったので。
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道の駅 白崎海洋公園
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はじめてきたので詳しくは知らないんですが、2年前の台風で壊滅的被害にあって、この建物はそれから新しく建てたものですってよ。

なかで、
『しらす丼』をいただく。
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道の駅にあったよ、しらす丼。

生じゃなくて、釜揚げのしらす。
梅干しを裏ごししたペーストを添えて。
和歌山名物ふたつのせてます、みたいな。
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700円するんだから、お味噌汁とお新香くらいはつけてほしいな。

いちおう、展望台にでもあがってみますか。
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ま、こんな感じで。
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しらす丼が食べたかっただけっていう・・・。

今回はこんなところですかね。
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新しく買ったバイクの話でした。

ありがとうございました。
またお会いしましょう。
Posted at 2020/06/27 19:14:11 | コメント(7) | トラックバック(0) | 日記
2020年05月30日 イイね!

バラ色の人生

バラ色の人生今回はいつものように旅の話ではなく、

ちょっと個人的な話をします。

3月から4月にかけての2か月間、

私の身の上にちょっと重大なことがありました。

なにがあったか、今回包み隠さず
お話ししたいと思います。

じつは、会社辞めたんです。


【1】 会社辞めました

私は12年間旋盤工として働いた会社を、3月20日付けで退職しました。
これだけでおそらく皆様は、私の年齢を思い出そうとされたにちがいありません。
と同時に、私の向こう見ずな決断に対し、
(馬鹿なことを)
と、画面のむこうのことながら嘲笑されたことでしょう。
私もまったくその通りだと思います。

自分でも何度も自問自答しました。
ですが、一個の男が会社を辞める理由など、社会経験に長じた皆様にはおそらく察しがつくかもしれません。それほど全国共通、ある意味普遍的な内容であり、その一方で私の個人的な感情と判断が入り混じったある意味個別の事件なのです。
その事件とやらを、今回つぶさにかいてみたいと思います。
私の身になにがおこったか、私が何を考えどう行動したかを詳細につづっていきたいと思います。
ただ単に「会社やめました。おわり」だとみなさまの興がそがれて「つまらない」と言われそうですし、なにより私自身が今回のことを記録として文章でのこしておきたいのです。

和歌山には大きな製鉄所があります。
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(※写真はすべて拙撮です。画像の転載はいっさいありません)

私がいた会社は、その関連会社です。本社は30人くらいの人数で、製鉄所構内の保守・修繕を行ってます。これが本隊だとすると、その部品の供給、金属部品の精密機械加工の工場が別にあり、そこが私の職場でした。工場はわたしを含め3人という小所帯であり、まさに小隊でした。以前はもうすこしいましたが、私がいた12年間で新卒や中途をふくめ4人がはいっては辞めています。そういう会社なんです。今回私もそのやめるひとりになるということです。

辞めた理由は大きくふたつです。
まず第一に、仕事が大幅に減ったこと。
製鉄所が合併・再編したのち予算がカットされ、仕事が減ったというのがまずありますが、それよりも大事なことは、そういった逆境にたいし、会社の「上に立つひと」が何も策を講じなかった、という点にあります。そうです、理由の第二は、
会社にたいする不満なのです。

職場には、私より一回り年齢が上のベテラン技術者がいました。わたしの仕事の師にあたるひとです。もう一人、工場長がいました。50代の小太りなひとです。このひとの嫁が社長のむすめであり、要するに社長の娘婿です。ただその社長も高齢により勇退し、その息子が2代目社長に就任してます。つまり現社長の姉が工場長の嫁であり、ようするに、親族経営なのです。
高齢な元社長は、初代社長といっても創業者でなく、ただのみかん農家です。本当にみかん農家です。これには理由がありますが、ここでは話柄がそれるので書きません。息子の現社長は若いうちから同会社でふつうに働いていましたが、社長になってからは「社長業」としてはその資質にかけていたようです。本来なら本社に常駐し、本隊を指揮する立場のはずでしたが本社には別に有能な「所長」が社のすべてを仕切っており、社長は居場所がなくなってわたしのいる工場になぜか「出勤」してました。姻戚がいるから気が落ち着くのでしょう。ただ基本的に「何もしない」ので、毎日8時すぎに出勤しては喫煙をし、昼にカップ麺をたべ定時にかえります。

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私にとってそれが問題なのではなく、社長の姻戚関係にある工場長でした。
わるいひとではないのですが、無能でした。
愚痴になるので多くは書きませんが、入社したときからこの人は、
(工場長としての自覚はあるのか)
と疑問視してましたし、それが最終的には、
(このひと、会社潰したいんじゃないか?)
と思うようになってきました。

父に相談すると、どうやら本当にそうらしく、ほんとうに工場長は工場を畳みたいらしく、それをきいたときはわたしは慄然としました。なぜここで実父が登場するのかは後でのべます。そしてなぜ工場長が工場を畳みたいのかは、話が煩瑣になるのでさけます。
とにかく、工場長が無能だと、シワ寄せがくるのは下っ端の私です。(一緒にはたらいていたベテラン技術者も火の粉をかぶるどころか、煮え湯をのまされることが度々あったので、そのことについて師は工場長に対しかなり不満はあったようです)

工場長がなにか業務において失態を演じても、社長は身内をかばいます。責任の所在をうやむやにしてしまいます。ときにはそれが、矛先が私に向かう場合があります。社長もけっして悪い人間じゃないのですが、

「そこはRico君がうまく立ち回って仕事してくれないと」

と、なるわけです。むろん私にとってはたまったもんじゃありません。
彼らには愛想が尽き果てる思いでしたし、なによりこんな親族経営ではこの工場もいつかは立ち行かなくなっていくことでしょう。50代で転職するのはむずかしい。辞めるなら40代の今のうちではないのか。一年前から私は会社を辞めたいと思うようになってきました。

ちょうど去年のGWに愛媛・松山を旅したとき、現地の親しいみん友さんに会って話したとき、
「会社を辞めたい」
と、つい漏らしたのはこのころです。みん友さんに酒の席で漏らすほど、私は追い込まれていました。
私はなにも悪くない。辞める必要などどこにもない。でも辞めなければならない。
そして今年3月、勤続満12年を節目に私は退職しました。
もちろん私に妻子がいて、まもるべき家庭があればこんな決断はできなかったかもしれません。
ですが、幸か不幸か私は独り身。じぶん独りくらいなんとか食っていけるでしょう。
47歳にして私は無職になりました。
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【2】 引っ越ししました

アパートから実家に引っ越しました。
もともとアパートの部屋は、会社に近いから借りていたのでその会社を退職すればいる必要はありません。
したがって、みんカラのプロフィールも、

和歌山市 → 有田郡有田川町

に変更しました。
実家と言っても、父が母の療養に建てた新築で、母の没後わたしもそこに住む予定でしたが、なにぶん高速道路で通勤せねばならず、私は父とはなれてアパート暮らしをしていました。
つまり有田川町はわたしにとって新天地であり、その新天地での職探しとなります。
新しいことづくめ、というほどではないですが、道をおぼえることからはじめたのは新鮮でした。
有田川町は、かつて金屋・吉備という古い地名が合併した新しい町です。高速のインターが設置されると町の開発が爆発的にすすみ、かつて一面のみかん畑だった土地に大型量販店が立ち並び、人口も増加しました。
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(※近所の風景。南から北をのぞむ。奥の白い大きな建物は、いまの騒動ですっかり全国に知れ渡ったあの病院、済生会有田病院である。)

このことを、私はブログでむかしにチラッと書いたことがありますが、みなさんお忘れで当然ですが3年前にSLのD51が動態保存されてて走ってるのを撮ったときです。有田川町について書いたのは、じつは実家があったからなのです。
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(※近所のみかん畑から今度は東から西をのぞむ。ひだり奥はもう、海である)

(↓その海を大橋から。3枚とも本日撮影)
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実家で父と二人暮らし、ですがじつはふたりでありません。もうひとりいます。
じつは父に内縁の妻がいて、3人で暮らしています。
内縁の妻といっても、70歳です。いまドラマっぽい妄想を膨らませた方は、すみやかにその妄想を中止してください。正直、私と父とでは家事などままならず、生活に窮してたでしょう。まあ、本来なら私が結婚しててしかるべきなのでしょうが。

そのひとと、父はふたりで家の敷地内に別棟をたて、カラオケ喫茶を経営してます。看板もないような店で、一見さんおことわりで常連だけのお店です。父は大阪ナンバでコーヒーの淹れ方を修行したきたそうで、店のメニューは本格焙煎コーヒーだけでもてなすみたいです。
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店には最新式の「DAM」が設置され、売り上げのほとんどは「第一興商」に持っていかれるのでぜんぜん儲からず、収支はトントンだそうです。まあ、世すぎで店をやってるので、父の生きがいみたいなもんです。


【3】 地獄の求職活動

引っ越し後、私は近所のハローワークに行きました。
失業保険の給付と求職の手続きをするためです。
ハローワークは湯浅にあります。最近醬油ですっかり有名になった湯浅です。
車ですぐそこで、車で行くほどの距離ではないのですがアシが車しかないので車で行きます。
それにしても、無職がアルファロメオでハローワークに行っていいものでしょうか。
(バイクがいるな)
私はひそかに、アルファロメオを降りることを考えるようになりました。
みんカラもやめなければなりません。
私がみんカラに属しているアイデンティティは、アルファロメオに乗ってることだと私は思っています。
片方だけというのは、成立しません。

ハローワークの2階で給付の手続きをします。
書類の束をわたされ説明をうけますが、職員が何を言ってるのかさっぱり理解できません。
私の頭が悪いのでしょうか。
離職後7日間の待機期間という意味不明な設定プラス、3か月間の給付制限。
私が知りたいのはいつお金がもらえるかであり、しかし職員はいっさいお金の話はしてくません。
そもそも自己都合退職と懲戒免職がおなじ扱いというのも納得がいきません。
だいたい7日と3か月後も無職とは、考えただけでもぞっとします。
この国の「公共の福祉」というのは、どうしようもない人間にしか享受されず、これからがんばろうとするひとにはなにもしてくれません。
わたしもべつに、いますぐお金に困っているわけではありません。
ただ、いままで給料からしこたま失業保険料を天引きされ、いざ給付を受ける立場になったら1円もでない。
私は国から、「失業したんか。まあこれでエエもんでも食って、がんばりや」といってほしいだけなのです。
「7日と3か月後も無職やったら金やるわ。まあそんときはおまえの人生、終了やけどな」というのではあんまりです。
(なんだ。結局1円ももらえないのか)
わたしは職員の冗長な説明をききながら、呆然となりました。

みんカラのみなさまのなかで、ハローワークに通った経験のある方はおられるでしょうか。
経験のあるかたはご存知でしょうが、ハローワークは一回だけ行くものではありません。通うものです。
私は人生でこれで2度目です。なんの自慢にもなりません。
スーパーの文房具売り場で履歴書を買いました。
この年になってこんなものを書かなきゃならんのかと思うと、見栄も体裁もプライドもなにもかも1枚づつ剥がされて、むきだしになった精神をカンナで削りとられていく気分です。

無職はやばいです。
ドロップアウト人生はこたえます。
近所の犬がワンワン吠えるたび、「おまえは無職だ。人間のクズだ」と言われてる気がして、心身がもちそうにありません。
ちょっとまえのニュースで会社のパワハラで自殺したひとがいたでしょう。世間では、「自殺するまえにどうして会社を辞めない?」っていうんですよね。そういう人って、それこそハローワークに通ったことのない幸せな人生を送ってるひとだと思います。私にはわかるんです。気持ちが。会社やめたら、社会人じゃなくなるんです。会社やめるイコール社会人としての死なんです。この国では。
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季節はめぐり、春になりました。
花の季節です。私の精神状態に関係なく、花は咲きます。
ですが、花をめでてる気分じゃありありません。
どちらかというと、枝ぶりに目が行きます。
そんなとき、私の身にとんでもないことがおきます。
ひとを好きになったんです。


【4】 ひとを好きになった話

眼鏡を買いにいきました。
恥ずかしながら、老眼鏡です。
近所にある、全国チェーンの眼鏡屋さんにいきました。
サングラス以外のメガネを買ったことがないので、全国チェーンなら安心だろうと思ったんです。
店内に入ると、女性店員がみかん農家のオッチャンの接客をしています。
やがて終わったらしく、女性店員が、(どんなメガネがご入り用ですか?)みたいな感じできました。
そのひとをみて、わたしは
(おや)
と思いました。
全体的な雰囲気がすきなような感じがする。
そのあと、彼女と視力をはかる装置などで相対しました。映画「ブレードランナー」のあのシーンみたいな装置です。わかる人だけわかってもらえばいいです。
その間、ずっと彼女のことを観察してました。
やはりこのひとはオレの好きなタイプだ。
まず顔立ちが好みだ。マスクで顔半分わかんないけど。
なによりメガネがいい。わたしはメガネスキーなので、メガネかけてると魅力が2倍増しになる。2割じゃない。2倍である。
髪型も好きだ。吉岡里帆みたいな、あるいは河合奈保子が「スマイル・フォー・ミー」を歌ってたころの髪型に似ている。
そしてになにより、高すぎない声が好きだ。
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気が付けば、2万円のメガネを予約してました。いえ、はじめからそのつもりだったんです。既製品ではなく、視力をはかってちゃんとしたものを買うつもりだったんです。彼女の色香に迷ったわけじゃありません。
一週間後に来店する約束をして、店をでました。そしてすぐ近くのスーパーにいきました。家人からお使いを頼まれ、鶏肉を買うためです。
駐車場に車を停め、エンジンを切り、半時間ほど考え込みました。
どうやらおれはあのひとが好きらしい。

女(ひと)を好きになるって、何年ぶりだろう。
むかしタイ・チェンマイで二泊三日のトレッキングに参加したとき、同行した日本人男女8人のパーティーのなかのひとり、鶴田真由似の女性を好きになり、告白してフラれたとき以来だ。
あれが25歳のときだから、22年ぶりです。
もう長いこと、ひとを好きになるってなかった。
そもそもひとを好きになり方すら忘れていた。
久しぶりです。ああ、このひとだ。このひとなんだ!って真に思えるひとにとうとう出会えたような気がします。
ですが、彼女はそもそも既婚者かもしれません。
むろんその点ぬかりはないつもりです。視力をはかってもらいながら、彼女のそのすこし荒れた手を視界にひろい、結婚指輪のなしを確認していたのです。もちろん、結婚していながら指輪をはめていない可能性もあります。ですが、彼女には所帯じみた雰囲気がみじんも感じられなかったんです。こればかりはわかりませんが、もしかしたらと思いました。

私はどうしたいか。やはり告白したい。思いを告げなければならない。
恥もなにもありません。ふられたら、ブログに書けばいい。ブログのために告白するんじゃないです。そうして「逃げ場」をつくっとかないと、精神が崩壊しそうでたまらないんです。
私は確認せねばなりません。自分の気持ちを確認するのです。
ですが今度店にいくのは一週間後。私はあたまをこねくりまわし、理由をこじつけ店に行きました。店にいくまえに鶏肉は買いました。駐車場に車をとめ、店のガラス越しに彼女はいて、(おや?)ともせずふつうの表情でわたしをむかえました。自動ドアがあいて彼女をまえにしたとき、その華奢で抱きしめれば折れそうなくらいの細身のからだをまえにしたとき、
(ああ、おれはやはりこのひとが好きだ)
と思いました。
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翌日、べつの用件で眼鏡屋のまえをとおりました。
一週間後の告白にそなえ、わたしは彼女がその日に出勤するかどうか、彼女のシフトを想定しなければなりません。でもこれって、
(おれはストーカーでは?)
と思うようになりました。
でも、恋愛ってストーカーじゃないでしょうか。
映画「耳をすませば」の聖司君だって立派なストーカーです。
なにもしなければ、なにもできないんです。
それとも、いますぐ彼女に告白すべきでしょうか。
一週間を待たずに?段取りもなにも考えずに?
そんな無茶な勇気など持ち合わせてません。
彼女が勤める眼鏡屋は家から直線距離でわずか500m。
すぐそこ。ほんとうにすぐそこなのに、
彼女との距離は月よりも遠い。

一週間後、雨の中を車をとめ、店に入りました。
彼女の姿はなく、べつの女性店員がいました。
「どんなご用件で?」みたいにいわれたので、私は気もそぞろに、
「眼鏡を受け取りに」とこたえたあと、
(しまった)
と後悔しました。眼鏡を受け取ってしまえば終わりだ。
ところがさいわいにも、その店員はきこえなかったらしく、
「すみません、メガネをお探しですか?」
といわれたので、
そうだ、リセットすればいい。なにもバカ正直に言う必要はない。だれもおれが今日来た理由などしらないのだ。リセットすればいい。
そうおもうとにわかに思考がよみがえり、「すみません、また来ます」と踵を返し、店をでた。
さぞかし変な客だと思われただろう。

さらに一週間後、ふたたび眼鏡屋を訪れました。
ちなみにこの日が4月8日。最初の来店日が3月25日となります。
店内に入ると、ちょうど彼女のすがたが見えましたが、ふいっとカウンターの奥に引っ込んでしまいました。
(そんな)
殺生な。ここまできて、それは困る。べつの女性店員が用件をきいてきます。私はよれよれと椅子に腰かけながら、それでも頭を働かせ、
「このひとはおられますか」
と、最初の来店時に彼女がくれた名刺をさしだしました。
すると、その名刺をうやうやしく受け取ると、店員は奥に引っ込みました。
(よかった)
指名制とかアリなんだ。わたしは生き返る気持ちでした。

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やがて彼女は私のメガネを手にしてあらわれました。私のことをおぼえているのか、あるいは思い出そうとしてるのか、その表情からはうかがい知ることができません。
そのあと眼鏡について説明をうけましたが、さっぱりきいてませんでした。
その間、私は一計を案じました。
店内で彼女に思いを告げることは、人目もあることだし、さけたい。ていうか、できない。
なんとか彼女を店外に連れ出したい。
そこで、私はかぶっていた帽子をとなりの席のおくに押し込みました。退店後、聡明な彼女は忘れものに気づき、駐車場まで追いかけてくれることをねがいました。
説明が終わると、彼女は眼鏡をケースにいれ、さらに洋菓子屋がショートケーキでもいれそうな小さな紙袋にていねいにしまい、
「店のそとまでお持ちしますね」
とカウンターを立ちました。どうやらわたしの小細工は必要なかったようです。
店のそとにでました。晴れ渡った青空の下、紙袋を受け取ったあと私は通常のあいさつのかわりに大きなため息をつき、
「あのですね」
とはにかみながら、緊張したときのくせで頭に手をやりました。ここで店員と客、という関係性をすこし崩さねば、このあとが言えそうになかったからです。あるいは、いまから重大なことを云おうとしている自分におかしみを感じたせいかもしれません。
「いきなりとつぜんで、びっくりさせたらわるいんですけど」
わたしは一言ひとこと区切るようにしてそういい、

「プライベートで会ってもらえませんか」

するとさすがに驚いたようすで、彼女の瞳がわずかに揺れました。でもすぐに、

「あの、わたし、結婚してるんです」
(あっ)
やはりそうか。
「指輪してなかったので、てっきり」
ようやくそれだけを言いましたが、心が折れ崩れるのをけんめいにかばいながら、
「あなたの旦那さんはしあわせな人ですね」
「いえ、そんな」
彼女は目を伏せました。その顔を見ずに、わたしは最後のあいさつをして車にのりこみました。
キーをひねると、間髪いれずに走りだしました。
こんなとき、彼女に店員として見送られるのはいやだなと思い、左右の確認のさい店を見ましたが、彼女は私の気を察したのか、そこにはもういなかったように思います。

終わった。やはり神様なんていやしない。いるのは悪魔だけだ。私のなかでうごめくのは、ダニのように巣くう無数の悪魔だけだ。そしてそっと、耳元でささやくのだ。

『おまえはそうやって一生、地べたを這いずりながら、だれも愛し、愛されずに孤独にひとりで生きてろ』

そう、言われた気がした。


【5】 私の職業経歴書

私には、12年間の旋盤工のまえに、スーパーの精肉で11年間はたらいていたという異色の経歴があります。異業種で職種もちがう二つの経歴の持ち主です。
この異常といってもいい経歴には理由がありまして、もともと東京のスーパーではたらいてました。スライサーと包丁で毎日お肉切ってました。そのなかで転職の経験もあり、自分ではそれなりに腕におぼえがありましたが、ある日父から、
「和歌山にもどってこい」
といわれたので、せっかく身に着けた技術で惜しかったですが、捨てることにしました。虫のしらせもあったのかもしれません。和歌山にもどった2年後に母が病を得、さらに翌年に鬼籍にはいりました。わたしは母を看取るために仕事をやめ、和歌山にもどったようなものです。

転職先へは父のコネで入りました。
父は製鉄所の人でした。定年後、関連会社に民間だから天下りじゃないですが、顧問みたいなかたちで入り製鉄所と関連会社とのパイプ役をつとめました。
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その会社にわたしは転職しました。父と同じ会社に勤めるわけですが、本社と工場がべつだったので、さいわい顔を合わせずにすみました。ただ、入社後の安全教育でほか大勢と教室みたいなところで講習をうけたとき、壇上にたったのが父で、(ああ、こういうことってあるんだ)と思いました。むかしみたTBSのドラマ、「ママはアイドル!」で三田村邦彦が父で担任で、後藤久美子が娘で生徒というシーンをすごく思い出しました。当時は、こんなことあるかい!と思いましたが、似たような感じで起こりうるんだなと思ったものです。

私は35歳で旋盤の仕事をゼロからはじめました。
いままでお肉屋さんで包丁ふるってたのが、まったくちがう職種に就いたのです。
それこそ血のにじむ思いで仕事をおぼえました。
人間、死ぬ気でやればなんでもできるんです。年齢なんか関係ありません。
南紀白浜アドベンチャーワールドでイルカと曲芸やってこいといわれたら、できるんです。まあ、ちょっときびしいですが。
ただこのことは、私が求職するうえでの大いなる自信にもつながりました。

ここで、旋盤のしごとを簡単に説明してみましょう。
みなさまもごぞんじのようでごぞんじじゃないと思いますから。
旋盤とは、鉄のかたまりを、円筒形の鉄を「つめ」とよばれるねじや油圧によって固定し、モーターで回転させ工具で削りとる機械です。

Heavy Metal Breaker
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(※カタログ写真ぽいですが、拙撮です。三脚買ったら、撮りたかった一枚。しごとの合間に三脚立てて、機械操作しながらの一枚。2017年撮影。誰にも見せないつもりで撮ったが、まさかブログで公開する日が来ようとは思わなかった)

この削りとるイメージは、さながら大根のかつらむきやリンゴの皮むきを横倒しにしたのを想像されたらいいでしょう。

これを手動でやるのが「汎用旋盤」で、コンピューター制御におきかえたのが「NC旋盤」というものです。
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コンピューター制御といっても、これはみなさまよく誤解されるのですが、なにかセンサーがついてるわけじゃありません。加工する鉄じゃないところにたとえば機械の部品に工具が当たれば事故ですし、ドカンとすごい音がして機械や工具がぶっ壊れます。交通事故とおなじです。
でも、それをコンピューター制御で自動でチェックし、勝手によけてくれるわけではないのです。あくまでも人間がやるんです。削りとる部分、座標象限を指定し、精緻なプログラミングによって自在に機械をあやつり金属加工をおこなう。
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私はこの「汎用旋盤」と「NC旋盤」の両方に従事しました。

汎用旋盤をあやつるのが旋盤工。NC旋盤も旋盤工ですが、プログラミングが必要なこからこうした「工作機械」を操作する人をひっくるめて、「機械オペレーター」とよばれています。

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(※写真だとわかりにくいが、手のひらサイズ。手前よりもじつは、奥の品のほうが見どころ。わかる人にはわかるが、端面に球面仕上げが施されている。しかも、素材はハステロイ。航空宇宙用の難削材で、加工は困難をきわめる。何に使われるかは、ここでは書けない。
上の写真の品も同様。製鉄所構内向けの加工品ではない。そして言うまでもないことだが、加工者は私である)

以上の経歴から、私はハローワークに「スーパーの精肉」と「旋盤工」のふたつの求職を登録しました。
ただ、どちらかというとスーパーの仕事よりも旋盤工、あるいはおおざっぱに工業系の業種から優先して求職しました。
なぜなら、スーパーは労働時間が長く、しんどいというのが私の経験であったからです。いまはすこし改善されてるかもしれませんが。
私は、旋盤工として辞めた前の会社にはいって、はじめて正月休みというのを経験しました。スーパーでは正月に休んだことなどなかったからです。盆休みやGWもそうでした。それどころか、お昼休みにゆっくり昼飯がくえる、というのもはじめて経験しました。だからはじめのうちは、こんなにゆっくりメシなど食っていいいものか、不安になったものです。むかし金融で営業のしごともやっていたことがあるので、なおさらでした。営業のころは数字がでてないと昼飯など食わせてもらえませんでした。

【6】最終章 『SURVIVE

近所に大きな鉄工所があり、求人があったのでハローワークの紹介状とともに履歴書、職業経歴書をおくると面接に来いと言われたので行きました。
ちなみにこの紹介状というのは、ハローワークがだすただの何の役にもたたない紙切れです。
ハローワークの正式名称は公共職業安定所です。斡旋所じゃないんです。しごとをあっせんしてくれるわけじゃないんです。「安定したらええなあ」とほざいてるだけの本当に何の役にも立たない施設なんです。
私はまだ近所のことをしらないので、面接にいってはじめて知ったのですが、鉄工所といって大きな会社で従業員数は100人ちかくいるらしいです。
豪奢な応接室に通され、副工場長と面談しました。
面接の途中、副工場長は、「仕事にこだわりはありますか?」ときくんですね。
これは慎重に答えねば、と思いあえて反問してさぐりをいれると、これがトラップ、罠でしてこだわりがあるほうがダメでないほうがいい。私は「機械オペレーター」の求人をみて応募したのですが、会社はそれ以外にも多くの職種で募集をかけている。なんでもできる、あるいはしたいという人を求めてるらしいのです。
すると副工場長は、
「資材管理のしごとに興味はないですか?」
といいました。機械オペレーターの応募にかかわらず、私の経歴といまの面談のようすをみてそう判断したそうです。
わたしは人生でこれほどうれしかった瞬間はありません。あんたはこの仕事にも向いているなんて、はじめて言われたからです。
そのあと、私がGコード、Mコード(いずれも工作機械の制御系)を熟知していることを知った副工場長はかなりおどろいたらしく、資材管理と加工部門とどちらかで検討したいとたいへん色よい返事をもらいました。
私は天にも昇る気持ちでした。家に帰って家人に、ぜったい受かった。まちがいなく採用される、と話しました。

ところがこれが不採用になるんですね。
一週間たっても電話が来ない。
不採用なら郵便で履歴書が送り返されます。無職なので毎日家にいます。郵便のバイクの音がして、ポストに投函されると、いやな予感がします。自分あての社名入り封書をみつけ、心臓がバクバクいうんです。
(なぜなんだ?)
なぜ落とす。年齢なら書類で落とせばいいではないか。なにか面接でまずいことでも言ったか?それとも私の本質的な問題でも露見されたのか。
そしてなにより副工場長の言ったことはあれはすべてウソだったのか。
私は人間不信になりそうでした。

この時点で、私はかなりやばいことに気づきます。
年齢的にもそうですが、仕事は選ばなければたくさんありますが選ぶと、てんでない。
近所に工場がたくさんあります。大阪・東京に本社をもつ工場です。
そこで働けばいいや、とタカをくくってました。
再就職先などたくさんある、と楽観視してたんです。
ところがそこの求人情報を集めてみると、そういう工場には夜勤があるんですね。
わたしは知らなかったのですが、世の中の工場には2種類あり、日勤だけの工場と夜勤がある工場があることを、私はこの年になるまで知らなかったんです。
私はいままで夜勤で仕事した経験がありません。
父は製鉄所勤務のころ夜勤があったので、そのたいへんさはよく知っています。
わたしは夜勤業務にたえうる体力に自信がありません。
私がえらべる選択肢がじつはほとんどないことにきづき、焦り始めます。
ちょうどこのころ、くしくもみんカラのみん友さんが「SURVIVE」というタイトルでブログを上梓されました。
「生き残れ」
この言葉は私のこころに突き刺さりました。
おれは生き残れるのか?
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近所、というほどでもないですが、車で15分のところにある工場に面接に向かいました。
なんの製造かここでは書けませんが、従業員数は70人くらい。
俳優の笹田高史似の社長から面接をうけましたが、途中でわたしは、「ああこれも落ちたな」と思いました。
社長から肝心なことを聞かれません。志望動機とかなぜ前の会社を辞めたかなど。採用するつもりなど、はなからないようです。しかも決定的だったのは、加工部門のチームリーダーが40歳の若さということ。
社長が常識人なら、そこにわたしを入れるはずがありません。
落胆はなはだしく、帰って求人票をやぶって捨て次を考えました。
むろん連絡もなく、ところが一週間がすぎた夕方6時ごろ、みんカラをみていたスマホがにわかに鳴り、出てみると社長から、
「Ricoさんを採用したいと思います」
といわれ、私は躍り上がってよろこびました。「おっしゃあー、受かった!」とさけびながら家じゅうを走りました。

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・・・いま入社後一ヶ月がたち、その間私は年齢をひとつ重ねました。
入社後もさまざまなドラマがありましたが、それはまた別の機会に。

今回の話は以上で。こんなところです。みなさまありがとうございました。
本来ならいつもさいごに決まり文句を書き添えて終わるのですが、じつはそれには後日談といいますか、いまだから言える話がありまして、

いつもブログの最後は、
「またお会いしましょう」なのですが、この確信めいた文句のときは自信があるときで、
「お会いできればさいわいです」のときは、言い方がなんとなくネガティブといいますか、じっさい精神的にかなりやばく、もうみんカラもやめようかと思ってるときで、ブログの最後の一文でそのときの私の精神状態がわかるようになっています。
(そんなの知るかよ!)と言われそうですが、まあこの1年間、ずっとそういう感じだったんです。

まあ、そういうわけでして。ありがとうございました。
またお会いしましょう。
Posted at 2020/05/30 19:04:24 | コメント(10) | 日記

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Ricoというのは、「ガンスリンガー・ガール」(相田裕)という、今となってはちょっとふるい漫画に登場する男の子の名をつけられた少女のことです。 作中、ドラ...

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