初めて彼の演奏を聴いた時はもう衝撃的でした。確か「フェイシング・ユー」と言う表題のアルバムで、初期のものでしたが・・もう、ゴスペル調のゴリゴリの演奏でした。両手をこれでもかっ!と、駆使されたプレイには脱帽と言う感じで、この後にお話しするアルバムとは全く路線の違ったものでした。それと、彼の演奏中のアドリブ演奏する時の唸り声と言うか・・雄叫びは、時に初めて聴くものには・・物凄く耳障りなものとして感じてしまいますが(私も慣れるのに随分と時間がかかりましたが・・)、それも彼の演奏の一部として捉えれば何の違和感も無いのかもしれません。彼は、最も美しいメロディーの詰まったと言われるアルバム「ラ・スカラ」を発表後に「慢性疲労症候群」で一切の演奏活動を約2年間に渡って閉じられましたが・・その後に発表される「The Melody at night with you」で、見事な復活劇を果たします。このアルバムは、これまでのインプロヴィゼーションをする時の雄叫びは殆ど聴かれず、もう淡々と美しいメロディーを、実に丁寧に1音1音を確かめるかの様に弾かれるので、本当に Keithの演奏?と、耳を疑う様な出来栄えとなっています。恐らく、Keith の入門編としては優れているのかもしれません。この演奏が、本当にあの慢性疲労症候群の方のものなのか?と、思えるほどに胸の内の燃え上がる溢れんばかりの情熱を、抑えながらもついつい溢れてしまったかの様な美しすぎる旋律に・・耳のなんて休まる演奏なんだろう・・思わずため息の溢れてしまう、そんな演奏が聴かれます。もちろん、「ラ・スカラ」のも素晴らしいと思いますが、やはりその後に発症する慢性疲労症候群を想像させるものも感じます(今となってはですが・・)。特に1曲めの、もうあまりに美しすぎる旋律が最初の10分間程続きますが、後半になってくると息切れの様な同じ様なフレーズが出て来ます。キースの頭の中で湧き上がる音の粒の煌めきが薄れて来ているのでは・・?そんな感想を持たざるを得ない演奏に、やはりそうだったんだと。芸術家の方々が、スランプに陥る時にやってくる芸術性優れたフレーズの枯渇が・・彼にも同等になって来たのでしょう。いかに天才と言われる彼にも、あまりにもの脳の酷使がそうさせたのかもしれません。約2年間の充電を終えたその後の彼の演奏は、もう本当に素晴らしくて・・、この美しい音の洪水の中でその身を委ねたい!と、そう思えるものばかりです。今朝も、マセの中で彼の音の洪水を浴びながら通勤しましたが、その後の過酷な職務を全う出来たのも・・(心の浄化を)彼に依存する賜物なのかもしれません・・・。