手紙

後は兄貴の良心次第だと思う。

そう告げて、啜り泣くお袋との電話を終わらせた。


私には、年の離れた兄がいる。
血の繋がりはない。親父とお袋は、お互い子持ちで再婚したからだ。
兄と私は、互いに腹を割って話すような仲の良い兄弟ではない。

親父が狭心症で倒れた際に
『命に別状がなければ、俺は行かない。』
電話越しの言葉を、私は理解出来なかった。
それ以来、私は兄貴と連絡を取る事は無くなった。
そして、家族が揃う事が無くなった。
今では最後に会った記憶が思い起こせない程、疎遠な存在だ。


親父の入院生活は、もうすぐ3年を迎える。
先日、大きな病院で健康診断を受けた。
結果、心拍数が1分間に40回程しかない。
精密検査の結果、いわゆる老化との診断結果だった。
帰り際に担当医師から、
『心臓の終活が始まってます。』
と耳元に告げられた。

それから、私は親父と兄貴を会わせたいと思うようになった。
自分の息子に会いたくないと思う親なら、私の親父ではない。
そのことをお袋に伝えた。
『何度連絡しても、お兄ちゃんからは何も連絡がないの。残念だけどね。』
詳しく聞けば、毎年、兄貴の子供にお年玉・こどもの日・クリスマスと少しばかりの気持ちを贈って居たが、お礼の連絡は未だに一度も来ないらしい。
そして続けた。
『お父さん、あんたの前では強がるけど、病室でお兄ちゃんに手紙書いてるの。住所も知らないのに。出すこともないのにね。全くお馬鹿なお父さん。』

あの親父が手紙か。
消えない絵柄を纏った親父が。

兄貴は川崎の救急病院に 一度も見舞いに来なかった。集中治療室に居たことすら知る余地もない。そんな兄貴に親父は、自分なりに気持ちの整理をしたらしい。
『一度しか云わん。子供は始めからお前だけしか居なかった。俺はそう思うことにしている。すまん。』
そんな事は、強がりだって事は馬鹿譲りの私にも解る。


親父、約束だ。
私が何とかする。


その日以来、昼夜と連絡している。
親父の入院先と最近の画像もメールした。
未だに連絡はない。


兄貴の良心に響いただろうか。


無理なら、今度は…