
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第2章 間違いのない中古E36選び
E36は中古車選びからして大きな楽しみだが、ハズレをつかんでしまうとせっかくの楽しみもそこでついえてしまう。本章では売り物をどこで見つけるか、そして試乗時に注意するべきはどこかなど、間違いのない1台を選び抜くためのポイントについて説明しよう。
(項目一覧)
1. 良い個体選びの第一歩
2. どこで探すか
3. 購入前のチェックポイント - ボディ
4. 購入前のチェックポイント - エンジン
5. 購入前のチェックポイント - トランスミッション
6. 購入前のチェックポイント - 駆動系
7. 購入前のチェックポイント - サスペンション・ステアリング
8. 購入前のチェックポイント - 電装品
9. 購入前のチェックポイント - M3を買うなら
10. VINコードの読み方
11. E36の弱点一覧・要約
良い個体選びの第一歩
まずはモデル選びだが、選択肢は第1章で述べたとおり幅広い。318のセダンを日常の足とするにせよ、328コンバーチブルでオープンエアを満喫するにせよ、はたまたM3でレースに打って出るにせよ、それぞれに選びがいがある。膨大な数が造られタマ数の多いE36の場合、基本的には厳しい目で選んでいいだろう。めでたくお目当てのモデルの売り物が見つかったとして、実車を見に行かれるときには必ず肝に銘じていただきたいことがある。
何よりもまず、整備記録の有無を確認することだ。きちんと揃っているのはしっかりメンテナンスを受けてきた証というだけでなく、今後必要となる整備の内容と時期を予測する助けにもなる。車両は目・鼻・耳・手を総動員し、隅から隅までしっかり確かめよう。クルマを買うというだけで舞い上がって感激と勢いで突っ走ったり、あるいは売主の押しに屈したりすることなく、何があろうと一歩引いて客観的な目で見るようにしたい。
整備記録がない場合は要注意だ。不具合を起こしやすいポイントは本章でよくおわかり頂けることと思うが、確実にくまなくチェックするならBMWのディーラーあるいは信頼ある専門店に点検してもらうに越したことはない。第三者による点検にお金を出すくらいなら自分で確認したほうが節約になるじゃないかと思われるかもしれないが、ボンネットの中や下回りなど素人目につかないところに病魔が潜んでいる可能性を考えれば、保険としては決して高くないのではないだろうか。
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どこで探すか
分類広告・オークション
インターネットから当たってみるのが順当なところだろう。クルマの売買に特化した「Auto Trader」や無数のクルマの中から選べる分類広告サイト「Gumtree」「Craigslist」など、優れたウェブサイトも数多い。もっと的をしぼって探すなら、「BMW Car Club」のようなマニア向けサイトの分類広告も当たってみたい。在庫数は一般の中古車検索サイトや分類広告サイトが優るが、数は少なくともマニア向けサイトの方が愛好家に手厚く扱われた程度の良い個体を見つけやすいはずだ。
ネットオークションという手もある。例えばebayはE36の部品ならまず何でも見つかるサイトだが、クルマそのものも多く出品されている。ただ、利用にあたっては商品説明を鵜呑みにせずに個体を自分の目で確かめることをお勧めする。住まいからあまりに遠い場合は、目当ての個体に近いBMWディーラーか専門店にお願いして購入前のチェックを代行してもらうのも一法だ。どんな場合でも専門家による購入前診断はお勧めだが、特に遠方の売主から買う場合は必須といってもいい。事前に問題点を洗い出すことで、後々の悩みの種は大きく減るのだから。
BMW専門誌・中古車情報誌・新聞
今や自動車売買の中心はインターネットだが、それでも専門誌の巻末や中古車情報誌、そして新聞の分類広告欄はいまだ価値ある情報源だ。専門誌の広告欄へ売りに出るのはたいてい希少モデルなので、M3の特別版や数少ないチューナーモデルが目当てなら見ておく価値は大きい。中古車情報誌に載るクルマはだいたいネットと似た顔ぶれだが、これも見ておいて損はないだろう。もはや分類広告の雄ではなくなった新聞も、ときに思いがけない掘り出し物が出たりするので見逃せない。
オーナーミーティング・オートオークション・サーキットイベント
ネットや紙媒体でめぼしいクルマが見つからなくても、BMWのオーナーミーティングやライブのオートオークション、それにBMWのサーキットイベントに出かける手がある。ネットほど効率的ではないが、いずれもさまざまな種類のクルマが一堂に会する場である。
オーナーミーティングにやって来るのは、だいたいが手塩にかけられたクルマだろう。気になる1台が見つかったら、まず売る気があるか尋ねてみよう。オーナーにあいにくその気がなくても、もしお心変わりされたらよろしくと連絡先を伝えておけばよい。幸運にも売る気ありとなれば、あとは交渉次第だ。オートオークションには、大きく分けて卸売りオークションとコレクションカーオークションの2種類がある。前者は参加許可が要る場合もままあるが、とにもかくにもまずは近所で開催されるオークションをネットで探すところから始めよう。ただしE36のように年数の経ったクルマは、今後流通は減っていくだろう。同じように古くなったモデルでも、コレクションカーオークションはM3やチューナーモデルのような希少車を見つけるにはいいだろう。もしM3 GTが欲しくてたまらないなら、その手のモデル専門のオークションの動向にはしっかり目を光らせておこう。
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購入前のチェックポイント
ボディ
E36型3シリーズはそれこそ何百台と見てきたが、生産時にボディ鋼板の66%にわたって電気亜鉛めっきを施されていることもあって錆が深刻な問題となることは皆無と言っていい。それでも例外がないわけではないのだが、手の施しようがないほど錆びた例は凍結防止剤に晒されたままじめついた車庫にこもりきりでろくに手入れも受けなかったようなものが多かった。
このクルマが当時の新技術だった水性塗料の実験台だったことは疑いのないところだろう。当初は品質に問題があったとみえ、1994年以前の生産車は錆に弱い傾向がある。主な弱点はホイールアーチの内部や周囲、フロントフェンダーの後下端、そしてトランクリッドとバンパー間のパネルあたりだが、トランクの床面もカーペットをめくってチェックするべきだ。とにかく、腐食に関しては徹底的に調べよう。ボディの修復に踏みだすかどうか逡巡するのは、どんなクルマであっても頭の痛いものだ。ドアミラー・バンパー・フェンダーのようなボルト留めの部品なら交換の抵抗感もさほどではないが、大がかりな切断溶接が必要なくらいに錆や損傷がひどいとたいていの場合は直す決断にかなりの思い切りが必要となる。
こういう言い方もできる。目の前にあるボロボロのE36が例えばM3 GTのような数少ないモデルだったなら、その揺るぎない希少価値を鑑みて直す意味はあるかもしれない。しかしそれが316iあたりだったら、時間とお金をつぎ込んで再生するよりも錆も凹みもない小ぎれいな個体を探す方が賢明ではないだろうか。自分のものでもないクルマに解体屋行きの引導を渡すのはまことに心苦しいが、その後のクルマの価値と直す費用が見あわないなら修復に手を出す意味は薄いだろう。やはり、初めから錆も損傷もないクルマを選ぶに越したことはない。
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エンジン
E36型3シリーズ最大の弱点といえば間違いなく冷却系で、1990-1995年の初期モデルが特に厄介だ。ウォーターポンプ内部のインペラーは1997年前半までアルミでなくプラスチック製が用いられており、これが劣化により破損すると冷却水の流れが止まってしまうのはもちろん、プラスチックの破片が冷却系に散らばってしまう。1997年半ば以降は金属製インペラーに変更されたが、これもベアリングが劣化しやすい。
E36全モデルに関わる冷却系の弱点としては、サーモスタットとそのハウジング、ラジエーターのホース接続部、冷却ファンクラッチなどもある。サーモスタットが開いたまま固着するとエンジンの過冷却や空調の温風が出ないなどの症状を生じ、逆に閉じっぱなしはオーバーヒートを招く。純正サーモスタットのプラスチック製ハウジングもまた壊れやすいので、交換の機会があれば純正よりもアルミニウム製の社外品に交換するのがよいだろう。4気筒エンジン(特にM42型)はヘッドガスケットの交換が頭痛の種だ。とはいえ、実際に問題となるのはたいていシリンダーヘッドの前方にあるプロファイルガスケットの方である。
純正ラジエーターはアルミニウム製だが、両端のプラスチック部分が経年でもろくなる。それを嫌というほど実感するのが、ラジエーターホースを交換しようとして接続部をポッキリ折ってしまった瞬間だ。そんな時は総アルミ製の社外ラジエーターが強い味方だし、もちろん予防的に交換しておけばなお良い。
冷却系以外の不具合は、多くの場合日々の点検を怠ったことが原因だ。ディップスティックに付いたオイルの状態はもちろん、エンジンオイル給油口のフタの裏側に変質してねばついたオイルがこびりついたりしていないか確認しよう。過走行でオーバーホール歴のないエンジンの場合、圧縮抜けがないかの確認も重要だ。E36はヘッドガスケットの不具合もままあるが、その原因は冷却系の故障によるオーバーヒート以外にも低オクタン価ガソリンの長期使用など様々だ。
E36ではほとんどのエンジンで調整不要の油圧式バルブリフターを採用しているが、これも距離を重ねると異音が出ることがある。固めのエンジンオイルを入れて症状を和らげる手もあるが、最終的には交換を余儀なくされるだろう。バルブカバーガスケットからのオイル漏れは、交換してしまえば問題ない。エンジン前端にある可変バルブ機構(VANOS)も、不調になるとガラガラと音が出る。普通はユニットごと交換だが、時には内部のシールガスケットの交換で解決することもある。あとは、E30型と同じ鋳鉄製の排気マニホールドもひび割れに注意が必要だ。
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トランスミッション
運転を楽しめる上に比較的壊れにくいマニュアル・トランスミッション(MT)は、私も好みだ。これについては、シフトリンケージを支えるブッシュが経年でへたるとシフト感が曖昧になる。MT本体はタイプにかかわらず堅牢だが、変速時にガリガリ音が出る段が1つでもあるようならアセンブリ交換を考えたい。トランスミッションマウントは経年で軟化するため、シフトがカチッと決まらない感じになってきたら交換するのがよいだろう。
オートマチック・トランスミッション(AT)は、大多数の北米仕様に付く4段も欧州仕様に付く5段も信頼性はかなり高く、大事に至ることは皆無だ。AT仕様は元々MTよりもなまくらに感じられるものだが、それでも変速のタイミングがおかしいとか変速動作にやたら時間がかかるような場合は、まずフルードを交換してみよう。それでも改善がみられなければ、アセンブリ交換を考慮したい。
欧州仕様のM3には、数は少ないがSMG(シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス)装備車が存在した。E46では高評価を受けたSMGもまだ発展途上の段階だったE36では問題山積で、あまりの信頼性の低さに耐えかねて通常の6段MTに載せかえられた個体が多い。
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駆動系
いちばんの弱点は、やはりトランスミッションとプロペラシャフトをつなぐゴム製ジョイントディスク(英語圏では通称「guibo」とよばれる)だ。車両中央下あたりから振動や異音がするようなら、交換時期と考えてよいだろう。
車体後部にあるディファレンシャルは、E36ではよほど酷使や放置でもしない限り大きな問題とはならない。分解整備が必要なほどくたびれた場合、コツコツと異音が出ることがある。後からの引っかくあるいはこすれるような音はデフが原因と思われがちだが、実際はたいていハブベアリングだ。
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サスペンション・ステアリング
駆動系と同様、これらも使われ方次第で状態は千差万別だ。過走行あるいはサーキット走行の機会が多いのに何の手当ても受けた様子のない個体では、おびただしい病魔の群れが巣くっていてもおかしくはない。逆にもっぱら日常の足だったクルマなら深刻な問題を抱える可能性は低いと考えられるが、いずれにしてもトラブルと無縁とは限らない。
どのE36でも、サスペンションのブッシュやダンパーの劣化は避けて通れない。思ったほど動きが機敏でない場合はブッシュの劣化が疑われるが、これは50,000マイル(80,000km)ごとに定期交換しても決して短すぎることはないくらいだ。サスペンションのダンパーがオイル漏れを起こすほど劣化すると乗り心地に落ち着きがなくなるし、後ダンパーのマウントは劣化するとコツコツと音を立てるようになる。
タイロッドの端にあるボールジョイントも問題となるところで、ここが疲労してガタが出ると制動時にステアリングが振動することがある。ブレーキローターの反りと思われやすい症状だが、ローターが正常ならこちらを疑ってかかろう。他にも、ステアリングの不正確さや前方からのコツコツ音、また前輪の片減りという症状が出ることもある。
特にハードな使われ方をされたクルマではサブフレームの異音や後ダンパー取り付け部のひび割れなど、より深刻な問題が起こりうる。後からはっきりコツコツ音が出るときにまず疑うのは前述の後ダンパーマウント劣化だが、マウント交換でも消えないとなるとサブフレームがひび割れ間近なほど疲労してしまっている疑いがある。不幸にも疑いが的中した場合は、よほどでもなければその個体は諦めた方がよいだろう。ダンパー取り付け部のボディパネルは繰り返しマウントからの力を受け続けることで割れることがある。これはトランクの内張をめくれば目視確認できるが、損傷が見られるようなら他の個体を探しにかかるのが吉だ。
ステアリング機構については、不具合を起こす箇所はずっと少ない。E36はパワーステアリングフルードが漏れやすいのだが、フルード量が適正なのに操舵感が悪いとなるとステアリングラックかボールジョイントの損耗が考えられる。不具合を起こす一番の原因は、フルード不足とボールジョイント損耗だ。
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電装品
ボタンやダイアルはとにかく全て操作し、正常に機能するか確かめるのが肝心だ。パワーウインドウやサンルーフもモーターやスイッチが故障の種となるので、チェックは欠かせない。空調システム(HVAC)も不調を起こす場合があるが、風が出ない症状はたいていファイナルステージ(ブロアレジスター)の故障が原因で、幸い交換にさほど費用はかからない。エアコンから冷風が出ない場合は冷媒の補充で済むこともあるが、最悪の場合はコンプレッサー交換となる。
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M3を買うなら
E36固有の弱点については基準モデルと共通だが、M3の場合は事故車の確率も高いと考えられる。過去に大きな事故に遭った個体であれば、然るべき修復がなされているかの確認は忘れないようにしたい。こういう場合も専門家に購入前診断を受ければ心配の種は減るには違いないが、そもそも大事故に遭ったような個体は敬遠するに越したことはない。
E36型M3も時の流れで希少価値が出るのではと思うかもしれないが、先代のE30(17,920台)よりもはるかに多く(71,241台)生産されたことを考えれば、皮算用しながらガレージにしまい込んでおくよりは大いに乗って楽しむべきクルマといえるだろう。希少価値が付くとすれば一番手はM3 GTやM3-Rのような特別仕様車、それにアルピナやACシュニッツァーのようなチューナーモデルだろう。
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VINコードの読み方
E36は全車、「WBABG1326VEX12345」のような17文字の車台番号(VINコード)が付いている。
最初の2文字は生産国を表し、WB・WAならドイツ、4U・5Uならアメリカである。3文字目は用途を表し、E36は乗用車を示すAもしくはSとなる。4~7番目の4文字は車種・世代・ボディ形式・仕様を含んでいる。8文字目は安全装置の種類で0は手動シートベルト、1は手動ベルトと運転席エアバッグ、2・3は手動ベルトと運転席・助手席エアバッグ、4は手動ベルトと運転席・助手席ならびにサイドエアバッグを装備することを示す。9文字目は内部生成コード(訳注:チェックディジット)である。
10文字目はモデルイヤー、11番目は生産工場を表す。
※訳注: 8・10文字目については北米仕様のみに当てはまるようです。
(10文字目)
L=1990, M=1991, N=1992, P=1993,R=1994, S=1995, T=1996, V=1997, W=1998, X=1999, Y=2000
(11文字目)
A,F,K = ミュンヘン工場(ドイツ)
B,C,D,G = ディンゴルフィング工場(ドイツ)
E,J,P = レーゲンスブルグ工場(ドイツ)
L = グリア工場(アメリカ・サウスカロライナ州)
N = プレトリア工場(南アフリカ)
12~17番目は車両固有の通し番号である。
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E36の弱点一覧
ここでは、E36で不具合の起こりやすい箇所についてまとめる。それぞれの詳細については、後の章をご覧いただきたい。
外装 |
---|
| 前後の窓ガラス縁のゴム製モールが劣化する |
フロントガラス基部のプラスチック製カウルパネルが割れる |
外側ドアハンドル周囲のゴムパッキンがひび割れる |
ホイールアーチ周辺が錆びる(放置車に多い) |
プラスチック製ヘッドライトユニットの表面がくすむ(北米仕様のみ) |
ボディ前面に飛び石傷が付きやすい |
|
内装 |
---|
| ドア内張の接着が剥がれてガタつく |
シートのサイドサポート部表皮がすり切れる |
ファイナルステージ(ブロアレジスター)の故障で空調の風が出なくなる |
ラジオ・オートエアコン・オンボードコンピューターの表示が暗くなり、ついには消える |
シフトノブがひび割れ、レバー本体から外れる |
グローブボックス脱着を重ねるとフタが垂れ下がる |
可倒式リアシートの背もたれ上部にあるゴムモールが溶けてねばつく |
パワーシート(装備車)のモーターが焼けつくかギアが壊れて動かなくなる |
|
走行機構 |
---|
| ボールジョイントやサスペンションのブッシュが損耗によりタイヤが異常に摩耗する |
ラジエーター両端部のプラスチック部品が割れる |
サーモスタットが固着する |
ウォーターポンプが壊れやすい |
4気筒車のヘッドガスケット・プロファイルガスケットが漏れやすい |
後ダンパーのマウントが歪む・割れる |
O2センサーが故障しやすい |
要約
特に中古車を買うときは、品定めはできるだけ厳しく。値段交渉はクルマの問題点を洗い出してからの話。状態をしっかり把握してから買えば、その後のクルマ生活もはるかに楽しく充実するはずだ。
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E36レストア本和訳 | クルマ
Posted at
2022/05/06 17:27:05