
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第3章 E36を長持ちさせよう
どんなクルマも機械である以上、所期の性能を保つにはきちんと整備するべきポイントとなる箇所がある。本章では、BMWがE36というクルマに込めた本来の走り・信頼性・丈夫さを長持ちさせるための基本中の基本について説明しよう。
(項目一覧)
1. ボディ
2. エンジンオイル・オイルフィルター交換
3. スパークプラグ交換
4. 冷却系
5. トランスミッション・ディファレンシャルのオイル交換
6. タイヤ・ブレーキ
7. サスペンション・ステアリング
8. フィルター類(燃料・エンジン吸気・室内気)
9. 要約
ボディ
現状で錆がないのであれば、それを保つのは当然といえば当然だ。とはいってもそう難しいことではなく、保管場所は乾燥したところを選び、折に触れ洗車しワックスをかけ、錆に弱いところには効果の確かな錆防止剤を塗っておくなど、昔からの一般的な方法で十分だ。既にボディに錆や損傷があるという場合は、第4章をご覧いただきたい。
洗車は高圧洗浄を避け、バケツとスポンジと品質の確かなカーシャンプーを使った手洗いをお勧めする。E36はフロントガラス下にあるカウルの排水に問題があり、ここに高圧の水流をかけると外気取入口からあふれて車内へ浸水してしまう恐れがあるからだ。そうなると前席の足元が濡れるくらいならまだしも、最悪だとDME(エンジンECU)が壊れることもある。これに対しては、BMWから1994年7月以前の生産車を対象に排水管を増設するよう整備指示が出されている(第4章を参照)。
この問題はそれら初期のモデルだけと思われがちだが、1998年式のクルマですらDMEが浸水でやられてしまった例を1つならず知っている。排水管の詰まりがよほどひどいクルマでなければ雨水が侵入する可能性は低く、たいていは高圧洗浄が原因なので、年式にかかわらずカウル周辺に落ち葉や汚れなどを溜めないよう、また高圧の水がかからないよう心がけたい。
塗装面そのものを侵す汚れは、ざっと洗車した後に専用の粘土で取り除くとよいだろう。ワックスは、カルナバロウか化学合成の製品が最適だ。私は素早く作業できるスプレーワックスを愛用している。液体・固形いずれのワックスを使うにしろ、安価で簡単に手に入り仕上がりも良くなる電動バフは強い味方になってくれる。
E36自体はさほど錆びやすいクルマではない。ただ、ホイールアーチ周辺・フロントフェンダーやドアの下部・トランクリッドとバンパーの間のパネルなど比較的弱いところには、「ワックスオイル」のような錆防止剤をスプレーしておくのがよいだろう。
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エンジンオイル・オイルフィルター交換
エンジンの長持ちにはオイル交換が欠かせないのは言うまでもないが、ありがたいことにE36はこの作業がきわめて簡単だ。使用可能な走行距離は化学合成油なら6,000マイル(約10,000km)、鉱物油なら3,000マイル(約5,000km)くらいだ。いずれの場合でもオイルフィルターは6,000マイル(約10,000km)で交換しよう。化学合成油は性能に優れるが、その分高価でもある。
鉱物油が標準の318iをおとなしく乗るような場合はあえて化学合成油をおごる必要はないが、M3など化学合成油が標準のモデルまたはサーキット走行をするような場合は必ず化学合成油を使うべきだ。
オイルの粘度はモデルと使用環境、そして積算距離を考慮して選ぼう。E36では、10℃/50℉を下回ることがある寒冷環境下では5W-30、それ以上の温暖な環境では15W-40が推奨されている。銘柄は多くのレーサーが愛用するモービル1か、工場充填オイルのカストロールあたりがお勧めだ。
オイル交換を行うにはエンジンの下に潜りこむ必要があるので、前部を持ちあげるジャッキおよびリジッドラックあるいはカースロープ、そして輪止めを準備する。カースロープは傾斜の緩いものでないとバンパー下端がぶつかる可能性があるので、注意が必要だ。
他に必要なものを列挙する。
・17/19mmのメガネまたはソケットレンチ(オイルパンのドレーンプラグ用)
・13mm(後期モデルは36mm)のメガネまたはソケットレンチ(オイルフィルターハウジングキャップ用)
・廃油受け容器(7.5-8.5L程度)
・新品のオイルフィルター、ハウジングキャップ用Oリング
・新品のドレーンプラグワッシャー
・新しいエンジンオイル(5-6.5L)
・オイル注入用じょうご
・作業用手袋(熱い廃油から手を守る)
・古毛布・新聞紙など(床面保護・掃除用)
オイルは温まると粘度が下がり抜けやすくなるので、あらかじめ20-30kmほど走るとよい。エンジンが十分温まったら地面が水平で固いところにクルマを停め、ボンネットを開け、バルブカバー上のフィラーキャップを外す。次に、リジッドラックやカースロープに車両前部を乗せて固定する。クルマが不安定でないことを確認したら、エンジンの下へ潜り込んでドレーンプラグを確認し、下に廃油受けを準備してプラグを外し古いオイルを排出する(熱いオイルが体にかからないよう注意)。オイルが抜けきるのを待つ間に外したプラグを掃除し、ワッシャーを新品に交換する。オイルが十分に抜けたらプラグを排出口にねじこみ、最後に25Nm(17mmプラグ)または60Nm(19mmプラグ)のトルクで締め込む。
オイルフィルターも交換するならこの段階で行うのがよいだろう。フィルターはエンジン型式にかかわらず前部のハウジングに収まっている。頂部にある13mm(後期モデルでは36mm)ボルトをゆるめてキャップを外し、フィルターを取り出す。キャップ内側の溝にはまっている古いOリングを取り外し、新しいオイルをなじませた新品を代わりに取り付ける。フィルターも元のところに新品を挿入し、キャップを戻したら25Nmのトルクで締めつけて完了だ。
さて、残るは新しいオイルだ。注入口にじょうごを差し込み、オイルを注ごう。規定量は4気筒モデルが5.0L、6気筒モデルの多くは6.5Lだ。注ぎ終わったらフィラーキャップを閉め、エンジンを始動する。エンジンが回った状態で下回りを覗いて、オイルが漏れてこないことを確かめよう。2~3分動かしたらエンジンを止め、ディップスティックを抜いて油量を確認する。適正範囲を下回っていたら少し注ぎ足し、再度確認しよう。
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スパークプラグ交換
E36はスパークプラグの交換作業もとても簡単だ。ほとんどのモデルでは純正装着のプラグはNGKのBKR6EKかボッシュのF7LDCRだ。例外としては、323iと328iがボッシュF8LDCR、北米仕様M3のS52型エンジンがボッシュのFGR8KQC、欧州仕様M3がNGKのPKR7Aとなっている。これらは将来廃番となるかもしれないが、その際は他社製品ではなくこの両メーカーの互換品をお勧めする。白金プラグは特に問題なく使われていることも多いのだが、点火不良や性能低下を招く恐れもあるので私は基本的にE36には使わないようにしている。100,000マイル(約160,000km)交換不要を謳う製品もあるが、所期の性能を保つには60,000から70,000マイル(約100,000km)ごとに交換するのがよいだろう。
4気筒モデル
エンジンが熱いまま作業するとアルミ製シリンダーヘッドのねじ山を傷める恐れがあるので、あらかじめ手で触れるほどの温度まで冷めていることを確かめてから作業を始めよう。まず、バッテリーのマイナス端子を外す。次にエンジンのバルブカバーの中央を縦に走るプラグカバーを外す。留め具2つをマイナスドライバーで回して緩め、カバーを持ちあげて外せばプラグコードが見えてくる。
カバーの裏側後部に、プラグコード取り外しに使う青色の器具が収まっているはずだ。これをまずコードのブーツ部分にはめこみ、頭部に開いた穴にドライバーか車載工具のプラグソケットハンドルピン(金属棒)を差し込み、これを把手として引っぱり上げればブーツが外れる。プラグを外したときに燃焼室に異物が落下しないよう、この段階でプラグホールに圧縮空気を吹き込んで清掃しておくのが無難だろう(オイルの付着がみられたら、バルブカバーガスケット交換を考えよう)。プラグ周囲に異物がないことを確認したら、トランクリッド裏の車載工具入れにあるはずのプラグソケットにハンドルピンを取り付け、プラグを緩めて外す。
E36用スパークプラグの多くは接地電極が2つ以上ある。ギャップは調整済みなので、ねじ山の固着防止にカッパーグリスを少量付けてからねじ込み、最後に25Nmのトルクで締め込むだけでよい。プラグコードを元通り取り付け、コード取り外し器を元の位置に収め、プラグカバーを戻してバッテリーを接続し直せば完了だ。
6気筒モデル
まずエンジンが手で触れるほどに冷えていることを確認し、バッテリーのマイナス端子を外す。次はエンジン上部のカバーだが、これはまずキャップ(オイル注入口の左に2箇所・右に1箇所)をこじって外すと現れる固定ねじを緩めて外す。
エンジンカバーを外すと、ヘッドカバーの中央に6個のイグニッションコイルが見える。プラグはその下にあるので、まずは金属クリップをマイナスドライバーでそっとこじって配線コネクターをコイルから外し、その後に固定ねじを緩めてコイルを抜く。ちなみに私はコイルを再び取り付けるときはそれぞれ元のシリンダーに戻すが、特にそういう決まりはない。もしエンジンに失火の症状が出ているなら、この時点でコイルも新品に取り替えておこう。初期のM50型エンジンでは特にコイルの故障が多い。
コイルが外れたら、ようやくプラグとご対面だ。コイルの列の下には2本のアース線があるが、これは最後に配線とコイルを元の順序通りにつなぐときの基準となるので、ちゃんと確認しておこう。燃焼室に異物が落ちこまないように、プラグホールを圧縮空気で清掃する。もしオイルで汚れている場合は、バルブカバーガスケットを新品に交換しよう。あとは4気筒の項と同じく、車載工具のプラグソケットとハンドルピンでプラグを緩めて抜き、新しいプラグのねじ山に固着防止のカッパーグリスを付けて25Nmのトルクで締め込む。再度コイルを取り付けて配線を接続し、エンジンカバーを戻してバッテリーの配線をつなぎ直せば完了だ。
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冷却系
エンジンの冷却水は、BMW純正冷却水の原液を蒸留水で2倍希釈したものを2年ごとに入れ替えるのがよいだろう。ゴム製ホースの耐久性は標準的だが、数千マイル(約5,000-10,000km)ごとにひび割れや水漏れがないか確かめておこう。そのような症状が出たら、シリコン製の製品に交換するのが良いだろう。
OBD1または初期のOBD2仕様車(訳注:1996年頃より前のモデル)に標準のウォーターポンプは、プラスチック製インペラーがだいたい30,000-75,000マイル(約50,000-120,000km)で壊れてしまう。おそらく現在までに一度は交換されていると思われるが、もしそれがまたもやプラスチックインペラーのポンプだったら問題だ。1996年式以前のモデルでアルミインペラーのポンプに交換された記録が見あたらない場合は、一度ポンプを外して確認する意味はあるだろう。こんな面倒を申し上げるのはまことに心苦しいが、オーバーヒートでポンプどころかエンジンまで壊してしまうよりははるかにマシだ。エンジンを長持ちさせるためには、ポンプはぜひともアルミ製インペラーのものにしたい。ちなみにプラスチック製の補機ベルトプーリーも割れることがあるので、ウォーターポンプと一緒に金属製のものに換えておくとよいだろう。
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トランスミッション・ディファレンシャルのオイル交換
これに関しては多少ややこしい。どんなクルマであれトランスミッションやディファレンシャルのオイルの指定交換時期をメーカーが明記するのが普通だと思われるが、BMWはE36においてはその必要性が低いとして特に定めていないのだ。1995年9月以降のAT車のフルードは「交換不要」とされており、M3を含む一部のMTモデルのオイルも同様の扱いとなっている。
しかし、いくら純正フルードの寿命が車両よりも長いとして整備の手間が減らせますよとBMWが謳ったところで、ATの変速に時間がかかったりぎこちなくなったりすれば結局は交換することになるのだ。BMWの言い分を真に受けて「丸ごとトランスミッション交換なのか」と恐れる一方で「フルード交換で安く簡単に直るのでは」という考えが頭をよぎる人も多いと思うが、だいたいは後者が正解だ。もっとも、フルード交換で症状が改善しなければアセンブリー交換にならざるを得ないので、お金も手間もかけずにATを長持ちさせるならフルードは変速動作に違和感が出るか30,000-40,000マイル(約50,000-60,000km)走るごとに交換することだ。
MT車のクラッチフルードは、クラッチの感触が悪くなってきたら交換が必要だ。トランスミッションフルードの交換については第7章をご参照いただきたい。
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タイヤ・ブレーキ
タイヤはだいたい5,000マイル(約8,000km)ごとにローテーションを行うのが習わしのようになっているが、BMWは前後のタイヤの減り方が大きく異なるという理由でE36ではローテーションをしないよう勧めている。ローテーションでタイヤの寿命こそ延びても、減り方が路面に合わなくなって全体的には性能が落ちてしまうということだ。それを承知の上でどうしてもローテーションしたいという方は、左右それぞれの前後を入れ替えるに止めておくのが良いだろう。
ブレーキフルードは使っているうちに水分を吸って劣化してくるので、2年ごとの交換を勧める。ブレーキ系統全体については第6章で説明する。
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サスペンション・ステアリング
パワーステアリングフルードにはATF(デキシロンIII)が使われており、約30,000マイル(約50,000km)ごとに交換が必要だ。E36では前後のダンパーおよびサスペンションのブッシュやボールジョイントも劣化しやすい。サスペンション・ステアリング機構については第5章で説明する。
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フィルター類(燃料・エンジン吸気・室内気)
エンジンが取りこむ空気ならびに燃料から異物を取り除くフィルターがちゃんと機能しないと、エンジンの調子を保つことはおぼつかない。エアコンフィルターも車内の空気を清浄に保つのに重要だ。燃料・エンジン吸気の各フィルターについては第10章で、エアコンフィルターについては第9章で説明する。
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要約
E36を長く健康体に保つには、オイル・フルード類を適切な間隔で交換し、メーカー指定の整備時期をしっかり守ること。ボディは汚れを放置せず、ワックスをかけて錆防止剤で処置しておこう。
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Posted at 2022/05/11 17:26:07 | |
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