
E36レストア手引き書(原題:「BMW 3 Series E36 Restoration Tips & Techniques」・Greg Hudock著・2012年Brooklands Books刊)の非公式和訳です。
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第5章 サスペンション・ステアリング
E36は前輪にマクファーソン・ストラット式の独立懸架を採用した。後輪は、限定モデルのZ1ロードスターで初お目見えした「Zアクスル」と称するマルチリンク式独立懸架をコンパクト系以外のモデルで採用した。コンパクト系については、先代のE30型3シリーズから受けついだセミトレーリングアーム式とされた。
卓越した乗り心地と操縦性を味わわせてくれるE36とてサスペンション構成部品の経年劣化は免れないし、当然ながら大径ホイールと扁平タイヤに換えたり頻繁にサーキットを走ったりすれば尚更だ。本章では、本来の走り味を取りもどすために比較的劣化しやすいところとその直し方についてご紹介しよう。
(項目一覧)
1. ダンパー
2. ハブベアリング
3. ブッシュ類
4. 前コントロールアーム・ボールジョイント
5. 後ショックマウント・マウント取り付け部
6. 後サブフレーム
7. ステアリング
8. 要約
ダンパー
乗り心地が落ち着かなくなるか本体からのオイル漏れを見つけたら、ダンパーの替え時だ。純正同等品への交換も大いに結構だが、E36にいちばんお勧めなのはビルシュタイン製だ。乗り心地も操縦性も、その向上ぶりには目を見張ることだろう。
前輪ストラットユニットの交換はさほど難しくはない。まずブレーキキャリパーの固定ボルトを外して脇へよけ、バンジーコードのような紐で吊っておく。ABSセンサーと配線、そしてパッド摩耗センサーも外す。M3ではスタビライザーがストラットに付くので、その固定ボルトも外す。続いてハブナックルを下からジャッキなどで支えてからストラット下部の固定ボルトを外す。最後にエンジンルームからストラット上部の固定ボルト3本を外せばストラットを取り外せる。新品の取り付けはこの逆手順となる。締めつけ規定トルクはブレーキキャリパー固定ボルトが110Nm、ハブナックル固定ボルトが107Nm、ストラット上部のボルトが24Nm、スタビライザーのボルト(M3のみ)が59Nmである。
後輪ダンパーの脱着も前輪と同様だが、こちらは上部のボルトを先に外す。まず作業する側のハブをジャッキで支え、トランク内でダンパー上部を覆う内張りをめくって固定ボルトを外し、続いて下部のボルトを外す。こちらも取り付けはこの逆の手順である。上部のガスケットとダストカバーは古い物を流用すればよい。下部のボルトの締めつけトルクは77Nm、上部は24Nmである。
両者とも、取り付けの際は新品のセルフロックナットを使い、「ロックタイト270」などの高品質の緩み防止剤を塗っておく。また、作業後には信頼ある整備工場でホイールアライメントを調整してもらおう。
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ハブベアリング
ハブベアリングの交換は前後ともなかなか大変だが、DIYも可能といえば可能だ。何よりも辛抱強さが美徳となる類の作業ではあるが。
前側はまずホイールを外し、中心のダストカバーを外して中のハブカラーナットの回り止めを叩いて戻す。続いて一旦ホイールを取り付け、助手にブレーキをかけてもらった状態でナットを外れない程度に緩める。再びホイールを取り外し、ABSセンサーとブレーキローターを外し、ブレーキキャリパーも外してよけておく。ここでハブカラーナットを取り外し、ハブ(と内部のベアリング)をプーラーで引き抜く。新しいハブとベアリングはプレスで圧入する。ハブカラーナットを手回しで取り付け、ローター・キャリパー・ABSセンサーを取り付ける。ホイールを取り付けたら助手にブレーキをかけてもらい、ハブカラーナットを290Nmで本締めする。再度ホイールを外し、ナットの縁を曲げて回り止めをしてホイールを取り付けたら完了だ。
後側はさらに難度が高くなる。ドライブシャフト・ブレーキローターを外し、キャリパーは脇によけて吊っておき、ABSセンサーを外す。次にプーラーでドライブフランジを引き抜き、ベアリングを固定するCクリップを外し、再度プーラーでベアリングを抜く。抜いた後のハウジングを清掃し、新しいベアリングを圧入したら新品のCクリップを取り付ける。以後の取り付け手順は取り外しの逆である。
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ブッシュ類
古めのBMW車全てに当てはまる話かもしれないが、ほとんどのサスペンションアームやリンクの両端に付いているブッシュの寿命は短い。一見小さなゴムの塊にすぎないのだが、これが距離を走ると弾力を失うので交換することになる。E36では前輪のコントロールアームと後輪のトレーリングアームのブッシュが特に劣化しやすいが、他もいずれそうなることに変わりはない。ゴム製はあまりにも劣化が早いので、交換するならポリウレタン製のような強化品を選ぼう。クルマの動きが鈍くあいまいになったから交換しようと思い立ったとしても、すべてのブッシュを交換するとなるとなかなかの大仕事で時間もかかる。
E36のサスペンションには数多くのブッシュが使われている。ブッシュ交換は、基本的にはアームを外して古いブッシュを打ち抜き、装着面を滑りやすくして新品を圧入するという手順だ。だがこれはまさに「言うは易く行うは難し」という言い習わしそのもので、どうしても時間はかかるし心も折れそうになる。自宅でできないとは言わないが、自信がなければ腕に定評のある整備工場かBMW専門店に預けたほうがよい。
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前コントロールアーム・ボールジョイント
前輪の偏摩耗や前サスペンションからのコツコツという異音がみられたら、ボールジョイントを新品に交換した方がよいだろう。これまた、サスペンションの中では劣化しやすいところだ。愛好家の中では、基本的に互換性があってE36用よりも耐久性が高いことが知られているE30(特にM3)用のボールジョイントとコントロールアームへの交換もよく行われている。
コントロールアームの取り外しも特に難しいところはない。M3以外のモデルでは、まずスタビライザー(M3はストラットに付く)を取り外す。タイロッドのボールジョイントを留めるナットをゆるめ、タイロッドエンドプーラーなどの器具でジョイントを取り外す。このジョイントやコントロールアームブッシュを交換するだけなら、それぞれプーラーで引き抜いて新品を圧入する。それでも大いに構わないのだが、ボールジョイントとブッシュがあらかじめ付いている社外品の強化コントロールアームに取り替えてしまうことをお勧めする。高価だが、それだけのことはある。
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後ショックマウント・マウント取り付け部
後からコツコツと音がする場合、原因として一番考えられるのはショックマウントだ。単にマウントが劣化しただけならよいが、マウント取り付け部のパネルが割れていたら最悪だ。いずれにしてもマウントはより強化されたE46用に交換し、取り付け部にはZ3用の補強プレートをかませて固めておくのが一番の対応策だ。
重症例ではマウントが機能を失うどころか、ダンパー取り付け部のパネルまで裂けることがある。これは頻繁とまでは言わないが、思ったよりも起こりやすい。不幸にして見舞われてしまったら破損部分のパネルを切断して新しい部品を溶接し、Z3用の補強プレートを付けておこう。
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後サブフレーム
ハイグリップタイヤを履かせてサーキットを存分に走り回るつもりなら、後のサブフレームも強化する必要がある。取り付け部のボディパネルに溶接する補強プレートのキットも多く市販されている。
ただ、日常の用にしか使っていないのにサブフレームの亀裂でコツコツ音が出たとなれば進むべき道は2つ、サブフレームを溶接し直すかクルマを解体屋送りにするかだ。手間もお金もたくさんかけてきたクルマなら直して乗り続けることだろうが、過走行でどこもかしこもヨレヨレなら普通は解体屋行きだろう。
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ステアリング
E36のパワーアシスト付きラック&ピニオン式ステアリングには、基本的に大きな問題はない。確かにフルードは漏れるが、機構そのものの不具合は稀だ。フルードが減る原因としては、パワステホースの疑いが濃厚だ。距離を重ねたクルマでステアリングの反応が鈍くなった場合、下回りに赤いパワステフルードが漏れて付いていれば確定となる。ちなみに整備を怠ったクルマの場合、フルードの色は本来の鮮やかな赤ではなく汚ならしい茶色や黒色を帯びる。
フルード交換作業はとても単純だ。タンク周辺に手を入れるために、先にエアフィルターハウジングを外す必要があるかもしれない。フルードはタンクからポンプで吸い上げて抜きとるか、パワステポンプ底部のバンジョーボルトを外して排出する。後者の場合は、フルードの流出が止まったらキーを回してステアリングロックを解除し(エンジンは始動しない)ステアリングホイールを何度か左右いっぱいまで切って回路内に残った分も出し切る。全て抜けたらドレーンプラグを戻し、新しいATFをタンクの満タン近くまで注ぐ。ステアリングを何度か左右いっぱいまで切り液面が下がったら注ぎ足す作業を満タンになるまで繰り返す。
最後に、奇妙に思われる話をしておこう。初期型のE36はステアリングコラムの下部がひどく錆びることがある。これはメーカーも新車保証期間中に把握していたにもかかわらず対策がなされなかったため、依然としてステアリング系統で気をつけるべき箇所となっている。
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要約
ボールジョイントやブッシュ類がいちばん劣化しやすく、その次にダンパーやハブベアリングが来る。後のダンパー取り付け部の損傷は頻繁にサーキット走行を行った場合に起こりがちだが、どのクルマでも安全に走るためには注意するべき箇所である。
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Posted at 2022/05/16 17:11:07 | |
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